会長にコーヒーを☕

シナモン

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6話 甘い言葉にご用心

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「なんだ?」

「あの…お客様が苦情があると…その、責任者を出せと言われまして。あいにく社長も副社長も出払っていて…」

 室長は顔を曇らせ、明らかに困惑していた。

「あんたかい、最高責任者は!」

 室長の体を押しのけ現れた男は荒々しく叫んだ。

 中年から初老の男連中が10人以上、ぞろぞろ後に続いて現れた。いつもの品のいいスーツ姿の客人とは違って、半そでポロシャツにラフなパンツ、普段着の男たち。
 皆怒り顔だ。

「そうだが」

 会長はいたって冷静に答え、席を立った。
 
「これだよ、これ! おたくの社員だろ!」

 突きつけられたのは朝話してた、まさにそれだった。

「白本君…法務部長を呼んできてくれ」会長は男越しに室長に言った。

「は、はい」

「例の件だと言えばわかる。社員もつれて来い」

 室長は慌てて出て行った。

 会長は黙って男が差し出したそれを受け取った。
 T商事社員の名刺も一緒にクリップしてあった。

「あんたんとこの社員にそそのかされて、契約金の手付渡したんだが、それっきり連絡がつかねえんだよ!」
「どうしてくれるんだ、金だけもってとんずらしやがって!」

 口々に叫び出した。

 会長はじっとチラシを見つめて、最後に息を吐いて男に視線を向けた。

「確かにうちにいた社員だが、今はもう退職してる。電話番号は社員専用のもので退職と同時にもう使えない」
「何だと! だからって悪用していいってのか? 金返せよ!!」

 うわ~~。
 おじさんたち、ちょっとでも怪しいと思わなかったのかな。
 ちゃんとした企業名も連絡先も書いてないじゃん、なんか右下にちっちゃい字でごちゃっとあるけど。
 …読んでないだろうな。

 会長は何も答えずジー―ッと男の人を睨んでる。
 腕組みをして、聞き手に徹するようだ。

 
 やっぱりそうだった。
 セミナー詐欺、飲食店フランチャイズの勧誘みたいだが。
 いかにも怪しいちらし…。

 コンコン…。

 ドアがノックされ、同時に威勢よく開いた。

「失礼します!」

 連中は一斉に後ろを向いた。
 屈強な戦士…じゃない、…女性一人を除いて、筋肉隆々の男性が横にずらっと並んだ。
 
「会長…ここからは私が」

 一回りは大きい部長と思しき人がそう言うと、会長はゆっくり頷いた。

「私はT商事法務部部長をしております栗田と申します。私がかわりましょう、上司は私ですので」
「あんたかい、まあいいわ、どうしてくれるんだ、あんたの部下の言う通りに金払ったら連絡が取れなくなったぞ!これは詐欺じゃないか!?」
 この暑さで仕方ないけどよく日に焼けた中背のおじさんだ。だから最初っから詐欺だっつーの。
「そうだ、そうだ、50万もだぞ、返してくれ!」
 ひ弱そうなひょろっとした男が後に続いた。
「ほう、真鍋がですか。いつの話で」部長の声も落ち着いていた。
「この前の日曜日だよ! ○×ビルのセミナーでな」
「それでこの名刺を?」
「そうだよ、はっきり言ったぞ。会社を辞めてこの仕事をしてるって」
「勧誘ですかな」
「ああ、細かい説明もな。今どこにいるんだよ、その女。あわせてくれ」
「女、ですか」
「ああそうだよ、眼鏡かけて、髪はあんたより少し長いくらいか」

 と、女性の社員さんを首で指した。
 ミディアムボブ。彼女も眼鏡をかけてる。

「うちの真鍋は男性ですが…」

 部長はこちら向きにとぼけた顔をした。
 その言葉で勢いが変わった。

「へ?」

 威勢のいい声が引っ込み、静まり返る。

 最初っから詐欺でしょ、詐欺! 警察に行けっての。
 やはり名刺は悪用されてるってことだ。

「真鍋望…女だったぞ確かに」
くんですな、半年前までここに勤めていました」

 いっそうおかしな空気になる。
 遠くのドアのそばでは白本室長が不安げに伺っていた。

「白本君、ドアをロックして」
「はい」

 会長の指示で場内ざわめいた。

「私からもご説明いたします!」

 女性が一歩前に出た。


「わたくし、審査を担当しております、池ノ上環(いけのうえたまき)と申します」

 きりっとパンツスーツがりりしい女性は例のチラシを掲げる。

「こちらの内容ですが、お調べしましたところ、書面で紹介されております物件、すでに廃業していたり、架空の店舗であったり、何一つ実在しておりません。真鍋社員の番号もすでに消滅しており、明らかに詐欺を働かれてます、女性および主催の連絡先がわからないのでしたら、一刻も早く警察へ行かれることをお勧めします」

 そしてさらにさらに屈強な戦士…のように筋肉隆々な男性がさっと横に並んだ。

「コンプライアンス、苦情処理担当、行藤篤紀(ゆきとうあつのり)です。すでに警察を呼んでおります。僭越ながら元自衛隊所属、刑事にも知り合いがおりますので、よろしければ私が話をつけましょう!!」

「えっ、警察…」

 先ほどのひょろり男があとずさりをして、ぱっとドアに向かった。

「この部屋から出さないように!」
「はっ!」

 会長の命令に従って法務部?の社員がドアの前に立ちはばかり、やせ男は今にも体を取り押さえられそうな格好になる。おろおろして、「お、俺は違う、違うんだー」情けなく叫びながらあっという間に組手をかけられた。


「全員の氏名と連絡先を控えて」

「はっ!」

 ええっ、警察?

 何だこの人たち。

 武闘派!?

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