会長にコーヒーを☕

シナモン

文字の大きさ
99 / 153
6話 甘い言葉にご用心

しおりを挟む
「昨日の件だがね」

 コーヒーを飲み終えると会長はこちらを向いて話しかけられた。朝のコーヒータイム兼涼みタイムのことである。庶民には地獄のような通勤の蒸し暑さを忘れさせてくれる癒しのひと時だが、会長は隣のホテルから通いなのでそんな目にあわなくて済む。

「省庁の知り合いに会ってきたよ。近日中に返答があるだろう」

 おお、さすが、やっぱ早いな。高広くんの言う通りだ。
 

「キミはよく気が付くというか、勘が働くんだねえ。池袋のどこで拾ったんだい」

 ギクッ。

 ゆーっくり腕を組み、足を組み、上目遣いに鋭い視線を向けられた。
「駅の近くで…ひろ、落ちてたんです」
「手渡しされたわけじゃないんだな」
「はい。名刺も一緒に落ちてて」
「…チラシと関連がある可能性が高いと」
「はい。クリップも落ちてたし」
 …と、あやつは言っていた。
 冷や汗が出てきた。せっかく涼んでいたのにっ。やっぱり自分で言ってよ、高広くん。
「その前に。キミが池袋をうろつくようには見えないんだがねえ」
 ギクギク。そこかい! ええ、うろついたのはあなたの弟君ですけどね。
「何しに行ったんだ」
「い、池袋くらい行きますよ、行ってみたいお店があって」
「へえ? どんな店?」
「食料品のお店です!」
 ドキドキ…。そんなに問い詰める? 刑事かよ!?
「……キミに何かあったら困るから言ってるんだよ、危ない所に行くんじゃない」
 池袋が危険!? ええ? 新宿と大して変わらないじゃない?
「困るんだよねえ…」
 じ―と見つめられて心の中探られてるみたい。こわ…。
「…まあいい。この社員だが、半年前に辞めてるそうだ」と、一緒に落ちてた(らしい。高広くんによると)名刺を差し出された。
「えっ」
 ますます背中が嫌な感じに。汗がつーーっと流れる。
「…部長に言って連絡を取ってもらってるが、あいにく昨日の時点ではつかまらなかった」
 えええっ…。何やらホントにやばそう?
「でも退職なさってるのなら、か、関係ないですよね…」
 もう声も弱くなってるって…。
「そうだな。だが、いい気分はしないよな」姿勢を解いて机に肘を立て指を組む。
「は、はい」
 ひぃーー、変なものもらうんじゃなかった。やっぱあやつには強気に出なきゃ!
「辞めた理由は親の介護とのことだが…それは本当らしい。上司にも同僚にも話していたそうだ」
「そうですか」
 やだ、胸がバクバクしてきた。二時間ドラマの冒頭シーンみたいじゃん。
「本人と連絡が着けば話は早いんだがね。それとこのチラシはうちとは何の関係もない」
 ガーーン。いや、そりゃそうでしょ、何で私が衝撃を受けないといけないの。
「名刺は本物のようだがかなり古いな」
 こわ、もしかして…悪用されてるの?
「つ、つまり…」
「流用されたか、本人が関わっているかそれは不明だね。そもそも連絡先が此処になってる時点でおかしいよな」
「そ、それじゃ…」
 警察沙汰?? やめてよ~。
『実はそれ拾ったの高広くんです!!』
 言っちゃおうかなーー。
 私は頼まれただけなんですよね。
 警察とか行きたくない!
「実際、この社員あてに不審な電話がかかってきたそうだ。少しもめたらしい」
 えええっ。
「ど、どうしたら…」
「…ふっ、キミはここまででいいよ。あとは私がやる。とりあえず報告ありがとう」


 すっかり気分が⤵…。
 キッチンに戻り、長い時間ぼーっとしていた。

 …たかひろく~~ん。提出先が間違ってるわ。警察に行け。


 昼食の準備しなきゃ。と立ち上がる。
 今日のメニューは生春巻き。
 ここのところ、サンドイッチ、ピタパン、生春巻き、タコスのローテでまわしてる。
 やっぱり会長も今の時分、さっぱりしたものを食べたいよね…。
 まずライスペーパーを水にくぐらせて、ざるの上で戻す。
 
 冷蔵庫からトマト、ベビーリーフを出す。
 メインの具は定番のエビはダメなので、一つは生ハム、一つはゆでチキンね。
 熱湯にくぐらせた春雨と、パクチーの代わりにスープセロリ。
 
 ピーナッツをフードプロセッサーにかけて、ケチャップマニス、砂糖やライム唐辛子を合わせてガドガドソース。そしてもう一つはピリ辛甘酸っぱいタレ。ナンプラーの代わりに醤油をちょっと垂らす。
 彩り的にカニカマも使いたいところだが、『カニ』だからね…。
 別に会長は蟹okなのだが付き合ってくれてる。
 徹底的に排除して早く治した方がいいって。
 でもアレルギーって治るの…?

 にんにくはご法度なのでミョウガやショウガを代わりに盛り付けて涼しげな生春巻き完成。これだけでは足りないのでゆで卵を足す。美味しくな~れ♪

 間食は今日はいらないんだよなあ…。
 秘書さんたちに何か振舞おうかな…。エビカニはダメだけどスイーツ系はほぼいける。



 そういえば…。

 
 高広くん、変な食生活してたよなあ。
 オレオが朝食だって…。

 高広くんにも料理を作ってあげたらどうだろう、サンドイッチとかじゃなく。
 会長に内緒にして、ここで食べさせる?
 サプライズ的に。
 会長はそういう演出嫌いっぽいけど、このままだらだら知らんぷりするのもねえ…。
 やっぱり私が一肌脱ぐしかないのか。
 英語の件もね…あるしね…。

 あやつに習うのは癪に障るが。


 
 「どうぞ」

 召し上がれ。
 会長は「うむ」とだけ返事して、PC見ながら春巻きを取る。
 ながらの時は手づかみですよ。サンドイッチ感覚。
 それを見ているのもなかなか乙なのだが…。

 やっぱ何か仕込もうかな。

 残しておいた自分の分を食べた後、気分転換に。

 チラシの件が気になるけど、来客予定もなく午後から会長の外出もあり静かな一日…のはずだった。


「会長、今よろしいですか」
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...