100 / 153
6話 甘い言葉にご用心
4
しおりを挟む
「なんだ?」
「あの…お客様が苦情があると…その、責任者を出せと言われまして。あいにく社長も副社長も出払っていて…」
室長は顔を曇らせ、明らかに困惑していた。
「あんたかい、最高責任者は!」
室長の体を押しのけ現れた男は荒々しく叫んだ。
中年から初老の男連中が10人以上、ぞろぞろ後に続いて現れた。いつもの品のいいスーツ姿の客人とは違って、半そでポロシャツにラフなパンツ、普段着の男たち。
皆怒り顔だ。
「そうだが」
会長はいたって冷静に答え、席を立った。
「これだよ、これ! おたくの社員だろ!」
突きつけられたのは朝話してた、まさにそれだった。
「白本君…法務部長を呼んできてくれ」会長は男越しに室長に言った。
「は、はい」
「例の件だと言えばわかる。社員もつれて来い」
室長は慌てて出て行った。
会長は黙って男が差し出したそれを受け取った。
T商事社員の名刺も一緒にクリップしてあった。
「あんたんとこの社員にそそのかされて、契約金の手付渡したんだが、それっきり連絡がつかねえんだよ!」
「どうしてくれるんだ、金だけもってとんずらしやがって!」
口々に叫び出した。
会長はじっとチラシを見つめて、最後に息を吐いて男に視線を向けた。
「確かにうちにいた社員だが、今はもう退職してる。電話番号は社員専用のもので退職と同時にもう使えない」
「何だと! だからって悪用していいってのか? 金返せよ!!」
うわ~~。
おじさんたち、ちょっとでも怪しいと思わなかったのかな。
ちゃんとした企業名も連絡先も書いてないじゃん、なんか右下にちっちゃい字でごちゃっとあるけど。
…読んでないだろうな。
会長は何も答えずジー―ッと男の人を睨んでる。
腕組みをして、聞き手に徹するようだ。
やっぱりそうだった。
セミナー詐欺、飲食店フランチャイズの勧誘みたいだが。
いかにも怪しいちらし…。
コンコン…。
ドアがノックされ、同時に威勢よく開いた。
「失礼します!」
連中は一斉に後ろを向いた。
屈強な戦士…じゃない、…女性一人を除いて、筋肉隆々の男性が横にずらっと並んだ。
「会長…ここからは私が」
一回りは大きい部長と思しき人がそう言うと、会長はゆっくり頷いた。
「私はT商事法務部部長をしております栗田と申します。私がかわりましょう、上司は私ですので」
「あんたかい、まあいいわ、どうしてくれるんだ、あんたの部下の言う通りに金払ったら連絡が取れなくなったぞ!これは詐欺じゃないか!?」
この暑さで仕方ないけどよく日に焼けた中背のおじさんだ。だから最初っから詐欺だっつーの。
「そうだ、そうだ、50万もだぞ、返してくれ!」
ひ弱そうなひょろっとした男が後に続いた。
「ほう、真鍋がですか。いつの話で」部長の声も落ち着いていた。
「この前の日曜日だよ! ○×ビルのセミナーでな」
「それでこの名刺を?」
「そうだよ、はっきり言ったぞ。会社を辞めてこの仕事をしてるって」
「勧誘ですかな」
「ああ、細かい説明もな。今どこにいるんだよ、その女。あわせてくれ」
「女、ですか」
「ああそうだよ、眼鏡かけて、髪はあんたより少し長いくらいか」
と、女性の社員さんを首で指した。
ミディアムボブ。彼女も眼鏡をかけてる。
「うちの真鍋は男性ですが…」
部長はこちら向きにとぼけた顔をした。
その言葉で勢いが変わった。
「へ?」
威勢のいい声が引っ込み、静まり返る。
最初っから詐欺でしょ、詐欺! 警察に行けっての。
やはり名刺は悪用されてるってことだ。
「真鍋望…女だったぞ確かに」
「まなべのぞむくんですな、半年前までここに勤めていました」
いっそうおかしな空気になる。
遠くのドアのそばでは白本室長が不安げに伺っていた。
「白本君、ドアをロックして」
「はい」
会長の指示で場内ざわめいた。
「私からもご説明いたします!」
女性が一歩前に出た。
「わたくし、審査を担当しております、池ノ上環(いけのうえたまき)と申します」
きりっとパンツスーツがりりしい女性は例のチラシを掲げる。
「こちらの内容ですが、お調べしましたところ、書面で紹介されております物件、すでに廃業していたり、架空の店舗であったり、何一つ実在しておりません。真鍋社員の番号もすでに消滅しており、明らかに詐欺を働かれてます、女性および主催の連絡先がわからないのでしたら、一刻も早く警察へ行かれることをお勧めします」
そしてさらにさらに屈強な戦士…のように筋肉隆々な男性がさっと横に並んだ。
「コンプライアンス、苦情処理担当、行藤篤紀(ゆきとうあつのり)です。すでに警察を呼んでおります。僭越ながら元自衛隊所属、刑事にも知り合いがおりますので、よろしければ私が話をつけましょう!!」
「えっ、警察…」
先ほどのひょろり男があとずさりをして、ぱっとドアに向かった。
「この部屋から出さないように!」
「はっ!」
会長の命令に従って法務部?の社員がドアの前に立ちはばかり、やせ男は今にも体を取り押さえられそうな格好になる。おろおろして、「お、俺は違う、違うんだー」情けなく叫びながらあっという間に組手をかけられた。
「全員の氏名と連絡先を控えて」
「はっ!」
ええっ、警察?
何だこの人たち。
武闘派!?
「あの…お客様が苦情があると…その、責任者を出せと言われまして。あいにく社長も副社長も出払っていて…」
室長は顔を曇らせ、明らかに困惑していた。
「あんたかい、最高責任者は!」
室長の体を押しのけ現れた男は荒々しく叫んだ。
中年から初老の男連中が10人以上、ぞろぞろ後に続いて現れた。いつもの品のいいスーツ姿の客人とは違って、半そでポロシャツにラフなパンツ、普段着の男たち。
皆怒り顔だ。
「そうだが」
会長はいたって冷静に答え、席を立った。
「これだよ、これ! おたくの社員だろ!」
突きつけられたのは朝話してた、まさにそれだった。
「白本君…法務部長を呼んできてくれ」会長は男越しに室長に言った。
「は、はい」
「例の件だと言えばわかる。社員もつれて来い」
室長は慌てて出て行った。
会長は黙って男が差し出したそれを受け取った。
T商事社員の名刺も一緒にクリップしてあった。
「あんたんとこの社員にそそのかされて、契約金の手付渡したんだが、それっきり連絡がつかねえんだよ!」
「どうしてくれるんだ、金だけもってとんずらしやがって!」
口々に叫び出した。
会長はじっとチラシを見つめて、最後に息を吐いて男に視線を向けた。
「確かにうちにいた社員だが、今はもう退職してる。電話番号は社員専用のもので退職と同時にもう使えない」
「何だと! だからって悪用していいってのか? 金返せよ!!」
うわ~~。
おじさんたち、ちょっとでも怪しいと思わなかったのかな。
ちゃんとした企業名も連絡先も書いてないじゃん、なんか右下にちっちゃい字でごちゃっとあるけど。
…読んでないだろうな。
会長は何も答えずジー―ッと男の人を睨んでる。
腕組みをして、聞き手に徹するようだ。
やっぱりそうだった。
セミナー詐欺、飲食店フランチャイズの勧誘みたいだが。
いかにも怪しいちらし…。
コンコン…。
ドアがノックされ、同時に威勢よく開いた。
「失礼します!」
連中は一斉に後ろを向いた。
屈強な戦士…じゃない、…女性一人を除いて、筋肉隆々の男性が横にずらっと並んだ。
「会長…ここからは私が」
一回りは大きい部長と思しき人がそう言うと、会長はゆっくり頷いた。
「私はT商事法務部部長をしております栗田と申します。私がかわりましょう、上司は私ですので」
「あんたかい、まあいいわ、どうしてくれるんだ、あんたの部下の言う通りに金払ったら連絡が取れなくなったぞ!これは詐欺じゃないか!?」
この暑さで仕方ないけどよく日に焼けた中背のおじさんだ。だから最初っから詐欺だっつーの。
「そうだ、そうだ、50万もだぞ、返してくれ!」
ひ弱そうなひょろっとした男が後に続いた。
「ほう、真鍋がですか。いつの話で」部長の声も落ち着いていた。
「この前の日曜日だよ! ○×ビルのセミナーでな」
「それでこの名刺を?」
「そうだよ、はっきり言ったぞ。会社を辞めてこの仕事をしてるって」
「勧誘ですかな」
「ああ、細かい説明もな。今どこにいるんだよ、その女。あわせてくれ」
「女、ですか」
「ああそうだよ、眼鏡かけて、髪はあんたより少し長いくらいか」
と、女性の社員さんを首で指した。
ミディアムボブ。彼女も眼鏡をかけてる。
「うちの真鍋は男性ですが…」
部長はこちら向きにとぼけた顔をした。
その言葉で勢いが変わった。
「へ?」
威勢のいい声が引っ込み、静まり返る。
最初っから詐欺でしょ、詐欺! 警察に行けっての。
やはり名刺は悪用されてるってことだ。
「真鍋望…女だったぞ確かに」
「まなべのぞむくんですな、半年前までここに勤めていました」
いっそうおかしな空気になる。
遠くのドアのそばでは白本室長が不安げに伺っていた。
「白本君、ドアをロックして」
「はい」
会長の指示で場内ざわめいた。
「私からもご説明いたします!」
女性が一歩前に出た。
「わたくし、審査を担当しております、池ノ上環(いけのうえたまき)と申します」
きりっとパンツスーツがりりしい女性は例のチラシを掲げる。
「こちらの内容ですが、お調べしましたところ、書面で紹介されております物件、すでに廃業していたり、架空の店舗であったり、何一つ実在しておりません。真鍋社員の番号もすでに消滅しており、明らかに詐欺を働かれてます、女性および主催の連絡先がわからないのでしたら、一刻も早く警察へ行かれることをお勧めします」
そしてさらにさらに屈強な戦士…のように筋肉隆々な男性がさっと横に並んだ。
「コンプライアンス、苦情処理担当、行藤篤紀(ゆきとうあつのり)です。すでに警察を呼んでおります。僭越ながら元自衛隊所属、刑事にも知り合いがおりますので、よろしければ私が話をつけましょう!!」
「えっ、警察…」
先ほどのひょろり男があとずさりをして、ぱっとドアに向かった。
「この部屋から出さないように!」
「はっ!」
会長の命令に従って法務部?の社員がドアの前に立ちはばかり、やせ男は今にも体を取り押さえられそうな格好になる。おろおろして、「お、俺は違う、違うんだー」情けなく叫びながらあっという間に組手をかけられた。
「全員の氏名と連絡先を控えて」
「はっ!」
ええっ、警察?
何だこの人たち。
武闘派!?
13
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる