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6話 甘い言葉にご用心
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「全社員の名刺はとうに顔写真入りに切り替わっており、悪用の可能性は低くなっておりますが、電話等、フェイストゥフェイス以外の接触ではどうにも対処のしようがありません」
「他社を見習い広告を出すべきではないでしょうか。メディアに流すことで広く知れ渡ります」
「う…ん、そうだな。役所には言ったんだが、急いだほうがいいか」
「はい。社員に注意喚起も含めて」
会長は長ーい息をついていつものハイバックチェアにもたれた。
昨日の騒ぎはすでに警察の手に渡り、やせ型男は口を割らないものの、だます側の刺客だったらしい。被害者を煽り、さらに企業側から口止め料、迷惑料等を引き出す役目を担う、『煽り屋』ではないかという報告がされたとのこと。
すべて目の前のやり取りの受け入りなんですけどね…。
先日の法務部チームが会長室に勢ぞろいして、報告及び対策を話し合ってるところだ。
ということで、無難にキリマンジャロをお出しして、端っこに下がって耳を傾ける。
「……とにかく金になりそうなら何でもいいのだな。即現金を手に入れて逃げる。せめてセミナーを受けてる最中に怪しいと思わないのかね」
そうなんですよね。私でも一目でそう思うのに。スマホで調べるなりできたはず。
「よほど話術が上手かったんでしょうか。下世話な話ですが、そういう人種は一度捕まっても改心せずに次々と違う商材を開発して同様の詐欺を働くのでは」
「50万の手付金が10人分でも集まれば500万ですからねえ…。夜の商売と変わりませんよ」
ひときわ体の大きな部長は何と空手黒帯らしい。
あの男の人、技かけられなくてよかったね。
「秘書さんも驚かれたでしょう、はははは…」豪快な笑い声でこっちに振られた。
「い、いえ…」
とんでもないわ、こんな精鋭部隊がうちの会社にいたなんて。
全員弁護士資格持ち。+α、有資格者。頼もしいわ。
「実行者はバイトでしょうかねえ。うまく本丸につながればいいですが」
「ところで本物の真鍋君は捕まったのか」会長が訊くと部長は頷いた。
「はい。どうやらご両親と旅行に行ってた際に携帯の電源が切れてたそうで。詳細は伝えてませんが、もしかしたら警察から連絡が行くかもしれません」
「これ以上被害を被らなければいいのだがね」
「はい」
とりあえず一件落着よね?…やっぱ警察、弁護士様に泣きつくしかないよね。そもそも会長からして弁護士だったわ。
「あるいは被害者側にも煽り屋がいたりしてな」会長が言った。
「ああ、なるほど。中々巧妙ですな」
フランチャイズ詐欺…。
店の写真を載せて新規出店しませんかと募集かけるヤツ。
セミナーで50名弱来たうちで手付金をその場で支払った11名が昨日怒鳴り込んできたのだが、もしかしたらそのおじさんの中にも煽り屋…サクラがいたのかもしれない。
そこから先は警察の領域だ。
さすがにそろそろ警戒する人が多くなるだろうから、煽り屋を入れてさっさと金を出させようとした?
もう見境ないって感じ?
警察が出てきたし、会長ルートで官庁にも報告してるし、大丈夫よね?
会長室に警察が来ることは……もうないですよね?
昨日は覆面じゃない普通のパトカーが来て、下のフロアは結構な騒ぎだったらしい。
「驚いたわねえ、辞めた社員の名刺使って詐欺? どうしようもないじゃないの」
「あちこちで起こってそうですよね」
朝、秘書室でも話題になっていた。
重役会議も開かれ、今日中には方向が決まるんじゃないかとも。
「市川さんが倒れて以来かしら、こんな騒動」
う、ギク。
「あの時はあの時で緊迫してましたね」
「やっぱりね、いつも平和なわけないのよ」
「こわ、広義の名刺詐欺じゃないですか。気軽に配れませんよね」
「写真入りといってもね…」
「会社の知名度で信じちゃうのかなあ」
「でも他人に渡したものの管理なんてできませんよね」
名刺…私のもあるけど、一応正式名称らしい会長室専任社員という肩書がこっぱずかしい…。
⦅はあ?専任社員?何やってんの?秘書さんじゃないの⦆騙そうにもすぐにつっこまれそう。
実はただのお茶くみなんてね……。
⦅今どきお茶くみ要員なんて雇ってる会社あるの!?しかも女性って…ふっる~…⦆
まあこんな反応がふつうだろうか。
…それがあるんだなあ。資格も何もないけどこの部屋にいられる激レア職務。
詐欺師よ、悪用できるものならしてみろってんだ。
「マスコミにつかまらなくてよかったよね」
「そうよねえ、下手に報道して、模倣犯が出ないとも限らないし」
「犯人が芋づる式につかまって、大々的にアピールされればいいんですよ」
春日さんはいつも脇から目線でモノを言うなぁ。
「そんなうまくいくかねえ…」みんなの反応もいつものごとく。
「あ、そうそう、市川さん、来月の会長の出張期間、どうする? 有休とるかここで仕事してもらうか。どっちにする?」室長に訊かれた。
「……えーと」
そうだった…来月会長に出張の予定があったんだ。
珍しく海外。
オーストラリア3泊5日の旅…。じゃなくて出張。
「他社を見習い広告を出すべきではないでしょうか。メディアに流すことで広く知れ渡ります」
「う…ん、そうだな。役所には言ったんだが、急いだほうがいいか」
「はい。社員に注意喚起も含めて」
会長は長ーい息をついていつものハイバックチェアにもたれた。
昨日の騒ぎはすでに警察の手に渡り、やせ型男は口を割らないものの、だます側の刺客だったらしい。被害者を煽り、さらに企業側から口止め料、迷惑料等を引き出す役目を担う、『煽り屋』ではないかという報告がされたとのこと。
すべて目の前のやり取りの受け入りなんですけどね…。
先日の法務部チームが会長室に勢ぞろいして、報告及び対策を話し合ってるところだ。
ということで、無難にキリマンジャロをお出しして、端っこに下がって耳を傾ける。
「……とにかく金になりそうなら何でもいいのだな。即現金を手に入れて逃げる。せめてセミナーを受けてる最中に怪しいと思わないのかね」
そうなんですよね。私でも一目でそう思うのに。スマホで調べるなりできたはず。
「よほど話術が上手かったんでしょうか。下世話な話ですが、そういう人種は一度捕まっても改心せずに次々と違う商材を開発して同様の詐欺を働くのでは」
「50万の手付金が10人分でも集まれば500万ですからねえ…。夜の商売と変わりませんよ」
ひときわ体の大きな部長は何と空手黒帯らしい。
あの男の人、技かけられなくてよかったね。
「秘書さんも驚かれたでしょう、はははは…」豪快な笑い声でこっちに振られた。
「い、いえ…」
とんでもないわ、こんな精鋭部隊がうちの会社にいたなんて。
全員弁護士資格持ち。+α、有資格者。頼もしいわ。
「実行者はバイトでしょうかねえ。うまく本丸につながればいいですが」
「ところで本物の真鍋君は捕まったのか」会長が訊くと部長は頷いた。
「はい。どうやらご両親と旅行に行ってた際に携帯の電源が切れてたそうで。詳細は伝えてませんが、もしかしたら警察から連絡が行くかもしれません」
「これ以上被害を被らなければいいのだがね」
「はい」
とりあえず一件落着よね?…やっぱ警察、弁護士様に泣きつくしかないよね。そもそも会長からして弁護士だったわ。
「あるいは被害者側にも煽り屋がいたりしてな」会長が言った。
「ああ、なるほど。中々巧妙ですな」
フランチャイズ詐欺…。
店の写真を載せて新規出店しませんかと募集かけるヤツ。
セミナーで50名弱来たうちで手付金をその場で支払った11名が昨日怒鳴り込んできたのだが、もしかしたらそのおじさんの中にも煽り屋…サクラがいたのかもしれない。
そこから先は警察の領域だ。
さすがにそろそろ警戒する人が多くなるだろうから、煽り屋を入れてさっさと金を出させようとした?
もう見境ないって感じ?
警察が出てきたし、会長ルートで官庁にも報告してるし、大丈夫よね?
会長室に警察が来ることは……もうないですよね?
昨日は覆面じゃない普通のパトカーが来て、下のフロアは結構な騒ぎだったらしい。
「驚いたわねえ、辞めた社員の名刺使って詐欺? どうしようもないじゃないの」
「あちこちで起こってそうですよね」
朝、秘書室でも話題になっていた。
重役会議も開かれ、今日中には方向が決まるんじゃないかとも。
「市川さんが倒れて以来かしら、こんな騒動」
う、ギク。
「あの時はあの時で緊迫してましたね」
「やっぱりね、いつも平和なわけないのよ」
「こわ、広義の名刺詐欺じゃないですか。気軽に配れませんよね」
「写真入りといってもね…」
「会社の知名度で信じちゃうのかなあ」
「でも他人に渡したものの管理なんてできませんよね」
名刺…私のもあるけど、一応正式名称らしい会長室専任社員という肩書がこっぱずかしい…。
⦅はあ?専任社員?何やってんの?秘書さんじゃないの⦆騙そうにもすぐにつっこまれそう。
実はただのお茶くみなんてね……。
⦅今どきお茶くみ要員なんて雇ってる会社あるの!?しかも女性って…ふっる~…⦆
まあこんな反応がふつうだろうか。
…それがあるんだなあ。資格も何もないけどこの部屋にいられる激レア職務。
詐欺師よ、悪用できるものならしてみろってんだ。
「マスコミにつかまらなくてよかったよね」
「そうよねえ、下手に報道して、模倣犯が出ないとも限らないし」
「犯人が芋づる式につかまって、大々的にアピールされればいいんですよ」
春日さんはいつも脇から目線でモノを言うなぁ。
「そんなうまくいくかねえ…」みんなの反応もいつものごとく。
「あ、そうそう、市川さん、来月の会長の出張期間、どうする? 有休とるかここで仕事してもらうか。どっちにする?」室長に訊かれた。
「……えーと」
そうだった…来月会長に出張の予定があったんだ。
珍しく海外。
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