会長にコーヒーを☕

シナモン

文字の大きさ
101 / 153
6話 甘い言葉にご用心

しおりを挟む
「全社員の名刺はとうに顔写真入りに切り替わっており、悪用の可能性は低くなっておりますが、電話等、フェイストゥフェイス以外の接触ではどうにも対処のしようがありません」
「他社を見習い広告を出すべきではないでしょうか。メディアに流すことで広く知れ渡ります」
「う…ん、そうだな。役所には言ったんだが、急いだほうがいいか」
「はい。社員に注意喚起も含めて」
 会長は長ーい息をついていつものハイバックチェアにもたれた。
 昨日の騒ぎはすでに警察の手に渡り、やせ型男は口を割らないものの、だます側の刺客だったらしい。被害者を煽り、さらに企業側から口止め料、迷惑料等を引き出す役目を担う、『煽り屋』ではないかという報告がされたとのこと。

 すべて目の前のやり取りの受け入りなんですけどね…。
 先日の法務部チームが会長室に勢ぞろいして、報告及び対策を話し合ってるところだ。

 ということで、無難にキリマンジャロをお出しして、端っこに下がって耳を傾ける。

「……とにかく金になりそうなら何でもいいのだな。即現金を手に入れて逃げる。せめてセミナーを受けてる最中に怪しいと思わないのかね」
 そうなんですよね。私でも一目でそう思うのに。スマホで調べるなりできたはず。
「よほど話術が上手かったんでしょうか。下世話な話ですが、そういう人種は一度捕まっても改心せずに次々と違う商材を開発して同様の詐欺を働くのでは」
「50万の手付金が10人分でも集まれば500万ですからねえ…。夜の商売と変わりませんよ」

 ひときわ体の大きな部長は何と空手黒帯らしい。
 あの男の人、技かけられなくてよかったね。

「秘書さんも驚かれたでしょう、はははは…」豪快な笑い声でこっちに振られた。
「い、いえ…」

 とんでもないわ、こんな精鋭部隊がうちの会社にいたなんて。
 全員弁護士資格持ち。+α、有資格者。頼もしいわ。

「実行者はバイトでしょうかねえ。うまく本丸につながればいいですが」
「ところで本物の真鍋君は捕まったのか」会長が訊くと部長は頷いた。
「はい。どうやらご両親と旅行に行ってた際に携帯の電源が切れてたそうで。詳細は伝えてませんが、もしかしたら警察から連絡が行くかもしれません」
「これ以上被害を被らなければいいのだがね」
「はい」

 とりあえず一件落着よね?…やっぱ警察、弁護士様に泣きつくしかないよね。そもそも会長からして弁護士だったわ。

「あるいは被害者側にも煽り屋がいたりしてな」会長が言った。
「ああ、なるほど。中々巧妙ですな」


 フランチャイズ詐欺…。
 店の写真を載せて新規出店しませんかと募集かけるヤツ。
 セミナーで50名弱来たうちで手付金をその場で支払った11名が昨日怒鳴り込んできたのだが、もしかしたらそのおじさんの中にも煽り屋…サクラがいたのかもしれない。
 そこから先は警察の領域だ。

 さすがにそろそろ警戒する人が多くなるだろうから、煽り屋を入れてさっさと金を出させようとした?

 もう見境ないって感じ?
 警察が出てきたし、会長ルートで官庁にも報告してるし、大丈夫よね?

 会長室に警察が来ることは……もうないですよね?

 昨日は覆面じゃない普通のパトカーが来て、下のフロアは結構な騒ぎだったらしい。

「驚いたわねえ、辞めた社員の名刺使って詐欺? どうしようもないじゃないの」
「あちこちで起こってそうですよね」

 朝、秘書室でも話題になっていた。
 重役会議も開かれ、今日中には方向が決まるんじゃないかとも。

「市川さんが倒れて以来かしら、こんな騒動」

 う、ギク。

「あの時はあの時で緊迫してましたね」
「やっぱりね、いつも平和なわけないのよ」
「こわ、広義の名刺詐欺じゃないですか。気軽に配れませんよね」
「写真入りといってもね…」
「会社の知名度で信じちゃうのかなあ」
「でも他人に渡したものの管理なんてできませんよね」

 名刺…私のもあるけど、一応正式名称らしい会長室専任社員という肩書がこっぱずかしい…。

 ⦅はあ?専任社員?何やってんの?秘書さんじゃないの⦆騙そうにもすぐにつっこまれそう。

 実はただのお茶くみなんてね……。

 ⦅今どきお茶くみ要員なんて雇ってる会社あるの!?しかも女性って…ふっる~…⦆

 まあこんな反応がふつうだろうか。

 …それがあるんだなあ。資格も何もないけどこの部屋にいられる激レア職務。

 詐欺師よ、悪用できるものならしてみろってんだ。

「マスコミにつかまらなくてよかったよね」
「そうよねえ、下手に報道して、模倣犯が出ないとも限らないし」
「犯人が芋づる式につかまって、大々的にアピールされればいいんですよ」
 春日さんはいつも脇から目線でモノを言うなぁ。

「そんなうまくいくかねえ…」みんなの反応もいつものごとく。

「あ、そうそう、市川さん、来月の会長の出張期間、どうする? 有休とるかここで仕事してもらうか。どっちにする?」室長に訊かれた。
「……えーと」
 そうだった…来月会長に出張の予定があったんだ。
 珍しく海外。
 オーストラリア3泊5日の旅…。じゃなくて出張。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...