会長にコーヒーを☕

シナモン

文字の大きさ
116 / 153
6話 甘い言葉にご用心

20

しおりを挟む
 連休前のディナーは、何度も連れてきてもらった、パークハイアットのアメリカンダイナー。大好きな場所。私は、出来るだけ余計なことは言わないように、いつにもまして配慮した。というのも、会長の問題発言、あれは私がいらないこと言っちゃったからだ。そんなことをしなければ、いつまでも頭に残ることもなかった。

 そもそも、会長に気に入ってもらえたのって、会長がマヤさんと別れて、帰国して家業を手伝って、秘書室と絶縁状態で、それで困って私みたいなカフェ店員やってた子に白羽の矢が立ったわけだから、マヤさんと出会い方が全然違う。

 とにかくマヤさんの話はしないでおこう…もししてしまったら傷つくのはこっちだ。もしかしたら最後になるかもしれないし…。

 会長は、マヤさんの話はしなかった。オーストラリアの出張、仕事の話なんて会長らしい。マヤさんだったらしないんだろうな…あらら、また比べてるわ。

「君も一緒に来れればいいんだがねえ」

「オーストラリアにですか」

「どこでも同じことだよ。また君に何かあったらと思うと不安になる。大した用事じゃないしな、君はホテルで休んでればいいんだ」

「でも飛行機…」確か12時間くらいかかるんだよね。絶対ムリだわ。

「人に聞いてみたんだが、睡眠導入剤で乗り切る例もあるんだな」

「ええ?」そこまでして海外にいきたくない。私、分かったの。海外版意識高い系、とことん私にあってないって。

「大袈裟ですよ、会長、食事のためにお供するんですか?」

「それだけというわけじゃないよ。だが、それの重要度が思いがけず大きいと気づいたんだ。今までになくね」

 さすがにちょっと嬉しい。今日はステーキじゃなく、アメリカ料理のアラカルトにした。

「君はどんな会議でも嫌な顔せず聞いてるし、それについての意見を求めても中々的確だし、同行するのに何ら問題はないよ。それに食事の好みが合うというのはそうそうないことだよ?」

 そうなんだ。変なとこ見てるなあ。私はオニオンステーキをアボカドディップに絡めた。会長はアメリカ育ちなせいか、和食よりはアメリカ料理の方がいける。あのマックでも。会長はまっだーるみたいな発音されるけど。NYに出張した折には食事に文句たらたらだったが、きっと相手が気を遣って和食攻めにでもされたのだろう。或いは生もの、半生の微妙に生臭さを感じる料理とか。よく考えると野菜と豆たっぷりなのよね、アメリカンキュイジーヌ。きっと、マヤさんともかぞえきれないくらい食べに行ったんだろうな。

「オーストラリアの料理も似た感じですか」

「ああ、どうだろう、シーフードが多いかな、君には危険だね」

 そっか、残念。エビがおいしそうだもんね。そのエビが食べられなくなってしまった私。

「私がついて行くと先日のスーパーのように原材料チェックばかりでつまんないですよ、きっと」けらけら笑った。でも会長はまじめなまんま。

「君はどうなんだ、弟と出かけるなんてやめてくれよ」

「え」ドキッとした。

「何をしようと自由なんだがね…なんだか君の世界と遠く離れてる気がして…何となく不安になる」

 それって、まさに私が感じたことなんですけど? わたしの知らない、マヤさんの恋人だった時の会長…。高広くんも語らなかった。グラスの中で氷が揺れる。アメリカのサラダは凝っていて、こぶサラダのように様々な具材が彩りよく混ざり合って、おいしいドレッシングがこれでもかとまとわりつく。まさに、こういうのが会長の味、

 ―― ザ・カフェめし。

 数あるレストラン、カフェの中で、たまたま、私の味が会長の舌にあっていただけ。

 会長、アメリカではハリウッド俳優みたいな振る舞いだったのかな(笑)、女性ファーストみたいな。喋らなければ、仕草だけなら、ばっちり身について、トム・クルーズやディカプリオだ。

 マヤさんの話をしてこの時間と空間を台無しにしてしまわないよう、言葉を選んだ。いつになくお酒の方が進み、ハイアットの二段式のエレベーターに乗る頃には、いい気分になっていた。わさわさ人が歩いて、タクシー乗り場へ行く通路の途中、腕をつかまれた。

「頼むから、注意してくれよ。君に何かあったら困るんだ。料理の話をしてるんじゃない、 何かあってもすぐにいけない距離だ、この前みたいなことにならないよう、高広には言っておいたが」

 その距離が、いつになく近かった。ハグ文化とかやっぱり私には無理なんだな、どきどきして、酔いが加算されそう。「 会長!」だからなのか知らないけど、やっぱり口に出してしまった。

「 私…ずっと気になっていました。会長がマヤさんのことをお話になった時の悲しそうな表情… とても愛してらっしゃるように見えます 。」じっと目を見上げた。

「 キミにはそう見えるんだね。 」ダメ、泣いてしまいそう…。「 気にしなくていいよ。そのときはそう見えたんだろう。 」

「 でも 」

「 余計なことを言うんじゃなかったな 。それだけじゃない、弟にしても…藤島も 。まさか君が高広と旅行に行く仲になるなんて思わないじゃないか。 」

 …そっち?「 えっ、いや、あの、そ、それはですね… 」

「 それが君の魅力でもあるのだろうが。 」

 私…言うつもりのないこと言っちゃった。もうなんて答えていいかわからなかった。ドクンドクン鼓動が結構響いて、いつものようにタクシーに乗せられ、ドアは無機質に閉まる。お勘定はいつものように会長がドライバーに渡し済み。言わない方がよかったかもしれないけど、だけどそれはずっと心の奥に引っ掛かっていたこと。いつか声になってもおかしくなかった。マヤさんの思い、何とかしてあげて、会長、会長こそ、ご無事で。相思相愛ならまだしも、会長、言い方がきついから話がこじれて刺されたりとかしないでくださいよ? 物騒な事件が続いて、そんなこと思ったりした。会長がいないと私のこの生活、成り立たないんだから…。




しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...