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ノアズアーク始動編
7 カズハの過去
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side ノア=オーガスト
「兄さん、無事か?」
「おう。カズハのおかげで傷ひとつないぞ!」
ニカッと笑いながらグッドサインを突き出す。
「そうか。良かった」
オレの身を案じ、そして安堵しているシンの手元を見てみると、剣身のない、柄だけが残った剣が視界に入った。
「ははっ。シンも武器壊したのかよ」
オレと全く同じことをしていて思わず笑ってしまう。
双子ってこんなとこも似るもんなのかよ。
「ああ。このオンボロ、五秒も持たずに粉々になった」
どうりでオレの剣が予想より早く砕け散ったわけだよ。やっぱオレの見積もりが甘かったな。今度からは気をつけないと。
「なんだぁ?俺が加勢しなくてもレックスの討伐は完了しちまったか」
「あんな奴に遅れをとるほど俺たちは弱くはないからな」
「ま、そらそうだけどなぁ」
トロールを倒したのであろう秀とレックスを三枚に下ろした張本人のうちのひとりである湊が合流した。これで全員が揃った。
みんな無事で何よりだ!
「みんな聞いてくれ」
オレは早速、カズハの腕を軽く引っ張って上機嫌に紹介し始める。
「リーダー特権を使って今日から正式にノアズアークの一員に加わることになった、カズハだ」
もちろんそんな特権は存在しない。だかしかし、オレが仲間になってほしいから、ここは我を通させてもらおーっと。
「みんな、改めてよろしくねー」
軽く手を振りながら、ニコニコと元気に挨拶をするカズハ。
「あ、そうだ。カズハ、傷みせて。オレの氣術で治すから」
「あー、平気平気。ポーションで治せるから」
カズハは腰につけた小さな茶色のポーチから、「この程度、氣術を使うまでもないよー」と言いながら、鮮やかな緑色の液体が入った小瓶を取り出した。そしてコルク栓を外し、傷ができている部分へとサササッと適当にかけていく。
「ふぅー。このポーションちょっと苦いから好きじゃないんだけど、ストックして損はないから普段から携帯してるんだー。ま、いつもはポーチとは別の物に収納してるんだけど」
みるみるうちにカズハが負っていた傷は修復してしまった。
へぇー、氣術を使わずに治癒ってできるんだ。
「その、ポーションってどういうものなんだ?」
「え?ノアは使ったことないの?……あ、そういえば武器屋には行ったけど薬屋に行くのは忘れてた……」
やってしまった、という顔をしながらボソッと何かを呟いたカズハは、一度咳払いを挟みつつ説明し始める。
「コホン。えーと、ポーションっていうのは主に傷や病なんかを治す液体だね。緑色は上から三番目に効力があるんだー。効力が高いものほどその分必要な材料が貴重だから、かなり高価になるんだけど、下から青、緑、赤、金の順でその効能が変化していくんだよ」
ほうほう。さっきカズハが飲んでた緑色だけじゃなくて、他にもいろんな種類のポーションってやつがあるのかー。
感心しながら軽く頷いていると、カズハがごそごそと小さな茶色のポーチから複数の色違いの小瓶を取り出していく。
「青はちょっとした傷を治せはするけど、時間がある程度かかる。緑は今見せたように軽めの傷を瞬時に治す。赤は傷だけでなくある程度の毒や病も瞬時に治してくれるんだよ。
説明に合わせるように、青と緑、そして赤色のポーションを順々に見せてくれる。
「そして私は持ってないんだけど、最も効力があるとされる金色は、あらゆる傷と病を治すって言われてるみたい。ちなみに別名は『エリクサー』って言うらしいねー」
「え、普通にすごくね?」
あらゆる傷と病を治すって、そんなん最高じゃん。そのエリクサーってやつがいっぱいあれば、まさに不死身ってやつになれるんじゃないか?
「そうそう。それでそのエリクサーは、不治の病だって治せるって話なんだよねー。ただし、流石に切り離されてしまった部位はもとには戻らないし、新しく生えてもこないけどね」
あ、不死身は流石に言い過ぎだった。
まあでも、ポーションってのは治癒系の氣術を持っていない人には必要不可欠なアイテムってことか。
「なるほどな。じゃあ結構使ってる冒険者は多いんだろ?」
「そうだねー。治癒系の氣術って基本的に光属性の適性がないと使えないから、大抵の冒険者は所持してるはずだよ」
やっぱそうだよなー。けどオレにはいらないっちゃいらない代物ではあるんだよな。まあ持ってるに越したことはないんだろうから、暇見つけたら薬屋に寄ってみよっと。
「あー、カズハ。ちと聞きてぇことがあるんだが」
「ん?なになに?」
「トロールを灰にしちまったんだが、その場合でもこのSBに吸収できるのか?」
あー、秀の奴、治癒力が追いつかないほどに焼き尽くしたのか。ナイスな判断だけど、たしかに元の形がわからない灰の状態で大丈夫なのか?
「あ、それねー。全然問題ないよ。その灰はもともとトロールを構成していた物質だから、そこら辺はSBがきちんと反応してくれるよー」
マジでSBの性能が凄すぎるな。作った奴は世界トップレベルの技術者とみた。
「そうか。なら良かったわ」
「よし、腹も減ってきたことだし早く用を済ませてシャムロックに行くぞ!」
こうしてオレたちはシャムロックに行く前にEDEN本部に向かい、アリアさんにSBの査定を行ってもらった。今回はBランクとAランクの魔物を討伐したため、報酬額がかなり高い。今まで倒したCやDランクの魔物の合計額の十倍以上貰えたのだ。それだけ高ランクの魔物の討伐は困難だということだろう。
さらにはアリアさんに「え?!トロールだけでなくレックスも倒してしまったんですか?!」とひどく驚かれ、「Dランクパーティには到底討伐不可能なのに……」と言われてしまった。そんなことを言われても倒せてしまったのだから仕方ない。うん。
「カズハがいたから」と、とりあえず適当に答えて(あながち間違いでもないし)その場を凌ぎ、ノアズアークのメンバーにカズハを登録して欲しいとアリアさんに頼んだ。なぜかアリアさんは驚いた顔をしてカズハを見つめ、カズハが満足げな顔で頷くと、今度は嬉しそうにしてパーティ登録を進めてくれた。
辺りはすっかり暗くなってしまったが、ようやく目的地のシャムロックへ到着した。
「いらっしゃいませ……あ、ノアくん。また来てくれたんだ。もうすっかりうちの常連客だね」
朝にソルの弁当をもらいに来た時と合わせて今日で二度目の訪問。これをカズハと冒険を始めてからほぼ毎日実行していたため、常連といってもさほどおかしくはない。ただ今回はカズハが一緒に夕食をとってくれるという点が今までとは異なるのだ。
「じゃ、あちらの席へどうぞ」
キキさんに案内された円テーブルに五人で囲む形で座った。オレの右隣からシン、秀、湊、カズハという感じだ。
「このレストランのオススメはラルフシェフオリジナルのオムライスなんだ。昨日は別のを食べたから今日はそれにするつもりだけど、カズハはどうする?」
メニュー表をペラペラとめくり、じっくりと眺めているカズハは「うーん……」とかなり悩んでいる様子だ。
「……どれも美味しそうで決められない……!」
「ならオムライスにする?オレも初めてここに来た時注文したんだよ。で、それを食べてすっかり虜になっちゃってさ。今では立派な常連客だ」
「そっか……。じゃあオムライスにするねー」
「湊たちはどうする?」
「俺たちもそれで構わない」
湊の言葉にシンと秀も頷く。
「おいおいまた全員オムライスかよ。あの時と全く同じじゃん」
それだけここのオムライスがうまいって証拠なんだろうけどさ。
超人気メニューを注文し、少しの雑談をを挟んでオレたちはお待ちかねのオムライスをいただいた。相変わらずの美味しさでいつ来てもムラがない。
カズハも「こんなに美味しいものを今までスルーしてたなんて……」と感動していた。そして皆が料理を食べ終えた頃、唐突にカズハから話があると真剣な表情で告げられた。
「……レックスと対峙した時、最初私の様子がおかしかったのは覚えてる?」
「それは、まあ。カズハらしくはなかったし、なんか顔が強張ってたから」
いつもならパパッと魔物を討伐したりサポートしたりと相当頼りになっていたのに、あの時は心ここに在らずといった感じで、これはやばいって思ったんだよな。
「そっか。……実はね、あのレックスって魔物、言ってしまえば私にとって一番のトラウマだったんだ」
トラウマ、か。
「私がシンに問題を出したとき、先輩冒険者のことちょっとだけ話題に出したでしょ?」
カズハは目を瞑り、自身の思い出を懐かしむように暖かな声音で昔語りを始めた。
side カズハ
私は物心つく前に父さんを亡くしたらしい。母さんが言うには不治の病にかかってしまい、その数ヶ月後に帰らぬ人となったそうだ。私は父さんに関する記憶は皆無に等しかったため、母さんただひとりが私の唯一の家族だった。
そんな母さんも、私が七歳の頃だったと思う。女手ひとつで、しかも街に比べて色々と不便な山の中で私を育ててくれたために、心労がたたったのか体調を崩しがちになり、寝込むことが多くなってしまった。
私は母さんが少しでも休めるように、食事の準備をしたり火をつけるための小枝拾いをしたり、それから洗濯のために遠くの川まで重い服を運んだりと、自分にできることを懸命に頑張ってた。
「お母さん!今日たまたま道に迷って困ってるおじさんに会って、案内したらお礼にって果物をいっぱいもらえたよ!」
服の裾をめくってできた空間いっぱいに大小様々な果実を入れて、布団で横になっているお母さんに得意げに見せる。
「カズハ……帰ってきたのね。あらあら、こんなにたくさんの果物を持ってきてくれるなんて……お母さん嬉しいわ」
お母さんは少しほおのこけた顔で優しげな笑顔を向ける。でも、すぐにわたしを叱る顔になった。
「……カズハ、女の子がお腹を出しっぱにしてちゃダメでしょう。はしたないじゃない」
「はーい……」
裾を捲し上げたせいでお腹が見えていたのが気に障ったみたい。わたしはそんなの気にしないけど、お母さんに余計な気苦労をかけたくないから果物を近くのテーブルに山盛りに置いて、服装を整えた。
「ゴホッ、ゴホゴホッ……!」
苦しそうな咳が背後から聞こえ、慌てて駆け寄る。
「おかあさんっ!」
「ゴホッ……大丈夫よ……」
「全然大丈夫じゃないよ!あったかい飲み物作るから、待ってて!」
わたしは少し廃れた台所へと向かう。
「ごめんねカズハ。……こんなに頼りない母親で……」
このボソッと呟いたお母さんの弱々しい声は、わたしに届くことはなかった。
数日後わたしは再びあのおじさんに遭遇した。
「あ!果物おじさんだ!!」
「く、くだものおじさん?」
果物おじさんは自分のことを言っていると思わなかったのか、自身に指をさしつつ困惑していた。
「うん!わたしに果物いっぱいくれたでしょ?」
「ああ、君はあの時の女の子か……。あの時はありがとう。おや?君はそんな大荷物持ってどこへ行くんだ?」
果物おじさんはわたしが大量の服や食べ物を持っていることに興味を示した。
「うんとね、今日の仕事終わったから今家に帰るとこー」
「そうか……おじさんが手伝おうか?」
「え?いいの!?ありがと、果物おじさん!!」
果物おじさんは「果物おじさんは言われたことないな、ははは」っと小声で呟きつつ、わたしの荷物の大半を持ってくれた。
やっぱりこのおじさんはいい人だ!
「ねえねえ、果物おじさんは何してる人なの?」
家に向かう道中、わたしは果物おじさんととりとめもない会話していた。
「んー?僕はね、冒険者をしてるんだ」
「冒険者?」
知らないお仕事だなー。
「そう、冒険者。魔物を倒したり依頼をこなしたりして世界中を飛び回ってるんだよ。っていっても冒険者にはいろんな人がいるからね、今僕が言った生き方が全てじゃない。例えば、強さだけを追い求めて魔物を狩りまくる者や自分のランクを昇格させてトップに立ちたい者、お金をたくさん稼ぎたい者って感じで、冒険者たちは多種多様な目的を持ってるんだよ」
お金をたくさん、稼げる……?!
「あのさ、冒険者ってどのくらいお金もらえるの?!」
「え?そうだな……。高ランクの魔物を倒せる実力があれば、おそらく世界一レベルの大金持ちになれるだろうね」
大金持ち……!
お金があればおかあさんが安心して暮らせる家を建てられるし、美味しいご飯だって買える。それに、大きな街にだって住めるはず。
冒険者……冒険者、か……!
果物おじさんは「っていってもそんな強者はほんのひと握りだけど」と苦笑していたけど、わたしは考え事をしていたためにそんなことは全然聞こえてなかった。
「わたし、冒険者になる!」
「ど、どうしたんだ急に?!」
「だってお金いっぱいもらえるんでしょ?だったらやる!」
目を輝かせて言うわたしに果物おじさんは戸惑いの表情を浮かべる。
「それはそうなんだけど、それ以上に冒険者は危険がつきまとうとっても危ない職業なんだ。幼い君が耐え抜いていけるとは、正直とても思えない」
「じゃあ、わたしに魔物との戦い方を教えてよ!わたしどうしてもお金を稼がないといけないんだ!!」
「…….」
果物おじさんはしばらく考え込んでいたけど、仕方ないといった顔でわたしの顔を見据えた。
「わかった。僕が魔物の倒し方を教えよう」
「やった!ありがと、果物おじさん」
「その果物おじさんはやめてくれないか?なんだかむずがゆい……。僕の名前はミクリヤだ。よろしく」
荷物を落とさないように上手に持ちながら、果物おじさん……じゃなくてミクリヤおじさんはわたしに手を差し伸べてきた。
「わたしはカズハだよ!よろしくね、ミクリヤおじさん!!」
わたしは満面の笑みでミクリヤおじさんの手を取った。ミクリヤおじさんは「あー、おじさん呼びは継続なのか。僕はまだ二十歳になりたてなんだけどな」と苦笑いしていた。
そんなこんなで、ミクリヤおじさんに週に三回ほどのペースで魔物との戦い方を伝授してもらい、いつのまにか私は十二歳になっていた。ミクリヤおじさん……もといミクリヤは十二歳の私が冒険者になるのは時期尚早だと言ってたけど、私が何度もせがんだ結果、泣く泣く了承してくれた。
「じゃあお母さん。私行ってくるね」
「……ええ。気をつけて行くのよ」
「うん!」
体調が芳しくないお母さんのために、私はようやく冒険者になれるんだ!
「お待たせ、ミクリヤ」
ちょっとボロボロな木の扉を開けて、待たせていた人の名前を呼んだ。
「ああ。じゃ早速、冒険者ギルドEDENへ行こうか」
途中の小さな街まで二人で歩いて行き、そこから馬車に乗って数時間。この大帝国グランドベゼルで最も栄える街、帝都アクロポリスに到着した。
私は初めて見る豪壮な街の景色に圧倒されて、目を爛々と輝かせていた。
「さあ、ここがEDENだよ」
ミクリヤはEDENの扉を開け、私を中へと導いた。
「お、やっと来たかミクリヤ。その子が、例の?」
「ああ。カズハだよ」
「っ……!そうか……そうか……っ……俺はグレンだ。グレン=トワイライト。よろしくな、カズハ」
グレンと名乗ったその男はなぜだかわからないけど、暖かな笑みを浮かべて私の名を呼んだ。それに声が少し震えているし、ちょっと涙ぐんでいるようにも見えた。まるで会いたくて会いたくてたまらなかった想い人にようやく巡り会えたかのような、そんな感じが伝わってきた。
「カズハ。こいつは一応ここEDENのギルド長をやってるんだ。そして僕はその補佐役である副ギルド長を務めているってわけだ」
「へぇー、そうなんだ。……そんなことどうでもいいからさ、早く冒険者登録ってやつやってよ」
「それもそうだな。じゃ早速アリアにーーーー」
「いや待て。それは俺がやる」
グレンはミクリヤに手のひらを向けて制止させる動きを見せ、ミクリヤの言葉を遮った。
「は?なんでグレンが……あ、いや、そういうことか……アリア、悪いけどカードをグレンに渡してくれ」
「あ、わかりました」
こうして私は無事に冒険者になることができたのだった。
「サイラス、悪いがこの子をお前のパーティに入れてやってくれないか」
私が冒険者として活動を始めて一ヶ月が経った頃。グレンに突然呼び出されたかと思えば、目の前のおじさんのパーティメンバーになるように言われた。
この一ヶ月で私はそれなりに金を稼ぐことができていた。難しい依頼はよくわからないから、魔物の討伐や薬草採取みたいな簡単なものしかやってこなかったけど、それでも一日で最低でも千エルツ、多い時は三千エルツを稼げてた。こんなの、以前の私からしたら目ん玉飛び出すくらい驚いて、気絶して、床にドサッて倒れてた。
昔は自給自足が当たり前で、近くの村で畑の手伝いをして微量な賃金を稼いでた。その賃金で村に来た商人からいい野菜や肉を買うこともあった。それは決まって母さんの誕生日の時だけ。
私は料理が全然出来なかったから、病弱なお母さんに任せっきりになっちゃつたことはいつも悔いていた。そんな私を見てお母さんは「大丈夫よ、カズハ。これを食べたらお母さん、とーっても元気になれるもの」って優しく微笑んでくれた。
……今のままで十分にお金は稼げてる。なのに、なんでこんなおじさんのパーティに入らなきゃいけないんだ。ソロの方が絶対に効率がいいのに。
「あ?俺のパーティーにか?俺は別に構わないが……その嬢ちゃんはお気に召さないようだぞ」
私は不満タラタラの顔で、サイラスと呼ばれた白髪混じりのおじさんを見つめた。
「私はひとりでもやってけるから。仲間とか、いらない」
私はお遊びで冒険者をしてるわけじゃない。私には、やらなきゃならないことがあるんだから。
「そうは言ってもな……。カズハ、お前いつもどっか怪我して帰ってくるし、装備もボロボロになるしで心配なんだよ」
「心配って……別にグレンに心配される筋合いないんだけど」
なぜかグレンは会った時から何かと私のことを気にかけてくる。別に嫌ってわけじゃないけど、ちょっとめんどくさい。
「なあ嬢ちゃん。嬢ちゃんが俺らのパーティーに入りたくないのは何でだ?」
「別にあなたが嫌いだからとかじゃないよ。ただ、仲間と仲良く冒険なんて……そんなくだらない遊びにかまけてるほど私は暇じゃないってだけ」
サイラスは私の言葉にイラッとしたのか、強引に私の腕を引っ張った。
「いたっ」
「おい、サイラス何をーーー」
「グレン。このクソ生意気なガキは俺が預かるぞ。異論は認めない。いいな」
「こいつらが俺のパーティ、グラディウスの仲間だ、嬢ちゃん。今日から世話になるんだ。その生意気な態度はどうにかしろよ」
結局あのまま腕を引かれてEDEN本部の受付前にあるフリースペースに連れてかれた。目の前のテーブルには男が二人と女が二人座っていた。
「あ、リーダー。その子が今日からうちに入る新入りですかい?」
私を指差しながら茶髪の髪の男が口を開いた。
「ああ、そうだ」
「へぇー。話には聞いてたけどほんとにガキなんだね」
ピンクの髪の女が下から上までじっくりと私を観察した。
「……」
灰色の髪の男はこちらに目を向けただけで特に何かを言うことはなかった。
「えー!超かわいいじゃん!!こっち向いてよー」
黄色の髪の女は私を気に入ったらしくブンブンと手を私に振っていた。私は無視してこの女の方には向かなかった。
「私は……カズハ。別に無理して私に構わなくてもいいんで、ほっといてくれていい……です」
よく考えたら、パーティっていっても別に一緒に行動しなければソロでやるのとおんなじだ。気にせずいつも通りやってこう。
「「「「……」」」」
まだ名前も知らない彼らは、少し不快そうな顔をしてこちらを見てきた。
なんだこいつって思ってそうな顔だ。まあでもそう思ってくれてる方が構われなくて済むし、ひとりで行動しやすくなるから好都合ではあるけど。
「ハッハッハ。今分かったと思うが、この嬢ちゃんはとんでもなく生意気なんだ。だからこの嬢ちゃんに冒険者とはなんたるかを、これからきっちり教えてやんなきゃならない。お前らも先輩としてこの嬢ちゃんとは仲良くやってくれ」
私の頭にポンッと馴れ馴れしく手を乗せて、サイラスはパーティメンバーに言葉を投げかけた。
「カズハ!お前また勝手に突っ走りやがって……団体行動の基本ってもんがなってなさすぎるぞ」
私の後を追ってきたサイラスにもう何度目かわからない注意を受けた。私はパーティで動く気はないって何回も言ってるし、態度にも出してるっていうのに、グラディウスの面々は全く気にかけてない感じがする。
初めましての時は、不快感を示していたはずの四人も、活動を共にするようになってから一、二ヶ月も経った頃には、なぜか私をパーティーの一員としていたく気に入ってくれていた。ほんとになぜだかわかんないけど。
「だから何回も言ってるじゃん、私はひとりでもやっていけるって。それにこんなやつほっとけばいいじゃん」
振り返ってサイラスに不満をぶつけると、後ろからゾロゾロと他のメンバーも集まってきた。
「おいおいカズハ、そんなこと言わないでくれよ。その発言は結構悲しいぞ」
茶髪の男……ロイは首の後ろを掻いて、すぐに顔を上げた。そこからは物悲しそうな表情がみえた。
ロイは私がこういった内容の発言をすると、必ずといっていいほどに「悲しい」という単語を口にする。そんなに仲良くもないやつにそっけない言動をされたところで、悲しいとは普通思わない気がするのにね。
「カズハ……ひとりは危ない……。それに……みんなといる方が……楽しい」
灰色の髪の男……クルトはいつものように優しげな声で私を諭した。
「カズハちゃーん。た、体力があんまりない……私を置いて、どんどん……はぁはぁ……先へ行くのは……どうなのかしら、ねー」
ピンクの髪の女……リンナは走り疲れたのか、息をだいぶ切らしていた。
「カズハちゃーん、速すぎだよー。これは今後に期待大!だね!」
黄色の髪の女……ココナはグッドサインを突き出して、ニコッと笑った。
『『『キャキャ!』』』
突如としておそらく魔物のものと思われる鳴き声が周囲のあちこちから聞こえてきた。かなりの群れをなしているようだ。
「これは……囲まれてやがるな。お前ら、体制を整えろ!。ロイ、お前は俺と片っ端から魔物を狩るぞ」
「了解!」
「クルトは風系統の氣術で俺とロイの支援を頼むぞ」
「……うん」
「リンナはいつも通り身体強化の氣術や治癒の氣術なんかで俺らのサポートだ」
「オーケーよ」
「ココナはリンナを守りつつ敵を排除してくれ」
「りょーかい!」
「そしてカズハはーーー」
私はサイラスが指示を出す前に隠れている魔物へと攻撃を仕掛けに走り出した。
「あ、カズハ!またお前は勝手にーーー」
「リーダー。こうなったらもうしょうがない。オレらでカズハのサポートもすればいい話ですよ」
「……そうだな。よし!お前ら、気合い入れろよ!!」
「なんだ、ただのDランク魔物の『コボルト』の群れか」
私は声の正体が最低ランクの魔物であったことに拍子抜けした。数は二十体はいたから、D2ランク扱いかな。けどDランクじゃ、端金程度にしかならない。たぶん全部合わせても二千エルツいくかどうか……せめてCランクの魔物がいれば……。
『ギャァー!!』
突然私の死角から魔物の悲鳴が聞こえてきた。見ると私の足下には『ポイズンスネーク』と呼ばれるコボルトと同じくDランク指定の魔物が、毒々しい紫色の体液を飛び散らした状態で落ちていた。
……考え事してて全然気づかなかった。
「カズハ……Dランクでも……油断は禁物」
「……すいません」
今のは完全に私の不注意から生まれた落ち度だ。クルトの言葉に言い返せない。
「おーい、そろそろEDENに戻るってよ」
ロイは口元に手を添えて私とクルトへ大声で呼びかけた。
EDENへ戻りフリースペースで先程寄り道して購入したパンを夕食として、反省会を開いた。この反省会は私がひとりで行動した頻度が高い時に行われるのがほとんどだ。つまり、ほぼ毎日行われているというわけだ。
現在は反省会も終盤に差し掛かっており、いつもならそろそろお開きとなる頃だ。けどその前に私はこの人たちにどうしても聞きたいことがあった。
「あの、さ……なんで私に構うの?こんだけ勝手な行動してて態度も良くないんだから、こんな奴と仲良くしてもしょうがないと思うんだけど」
突然の私の質問にみんな一様に驚いた表情を浮かべていた。
そんなに驚くことでもないと思うんだけど……。
「カズハから俺たちに話しかけてくれるとは……これは驚いたな。で、俺たちが何故お前を嫌いにならないか、だったな。まあ確かにカズハは生意気だが……別に悪い奴ってわけじゃないから、だろうな」
サイラスは真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「どういう意味?」
生意気ってだけでもかなり心象を悪くしそうなもんだけど……。
「そうだな……それは他の奴らも同じだろうから、俺ではなくこいつらから話してもらうか。じゃあ、ロイから時計回りでいくか」
「えーと……以前俺が体調不良になって寝込んだ時があっただろ?そん時みんなはすぐ駆けつけてくれたけどカズハは来なかったんだ。だからてっきり嫌われてんかなって思ったんだけど、みんなが帰った日の夕方、だったかな。カゴいっぱいに果物入れて訪ねてきてくれたんだよ。それがすっごく嬉しくてさ。こんな小さなことだけど俺にとってはほんとにありがたかったんだ。だからさあん時、ああ、こいつはめっちゃいい奴なんだって心からそう感じたよ」
た、確かにそんなことしたけど、それはお母さんと重なって見えてしまったからで……。
それにたった一度しただけだし、いつもの言動見てたらそんなこと霞むぐらいに呆れてもおかしくないのに……。
「私は前に護衛依頼を受けた時にカズハが水をくれたのが嬉しかったからかねー。ほら、私って体力ないじゃん?あの時の護衛さ、魔物に遭遇する割合がいつも以上に高くて、最後の方はもうヘトヘトだったの。で、私が息切らしてるところにカズハが自分の水筒を突き出して『……はい』ってさ。その後もなんだかんだみんなのこと気遣ってくれてんのかなって思うとこあったし、私はカズハのこと結構気に入ってる」
……あれはたまたま私の水筒に水が残ったから渡しただけで……。
普段は滅多に言わないリンナの褒め言葉に少し心の奥がむず痒くなる。
他人から褒められたとこなんてほとんどなかった。そもそも冒険者になる前は、学校なんて行ったことなかったし母さんやミクリヤぐらいしか関わりがなかったから……。
もしかしたら私は、人との接し方というものがよくわからないのかもしれない。
「……僕は……カズハが……僕と話してても……怒ったり……嫌になったりせずに……最後まで……僕の話を……聞いてくれる、から……」
……それって、普通のことじゃないの?
私はクルトの言っている意味が分からず首を傾げた。
「……僕と話すと……イライラするって……言う人が……多いから……。ゆっくりだし…….ブツブツ……途切れるし……。けど……カズハは……僕と話してても……不快な表情は……しないし……むしろ……真剣に……聞いてくれる……から……嬉しい」
グラディウスと一緒に活動をし始めた頃のクルトは、そもそもあまり話す機会がなかったけど、私と話す時いつも私の顔を見ずに下を向いていたように思う。
でも、ここ最近は私の顔をしっかりと視界におさめて話してくれる。いま思えば、このちょっとの変化が私も少しだけ嬉しかったように思う。だからクルトも私がクルトと普通に会話を交わしたっていう、ほんの些細なことが嬉しかったのかもしれない。
「私はねー、カズハちゃーんの将来性の高さに期待してるからだよー。だってだって、最年少の十二歳で冒険者になって、しかもたった三ヶ月でBランクだよ?!凄くない?!この調子ならもしかしたらSランクも夢じゃないじゃん?そしたらさ、うちのパーティーに初のSランク冒険者誕生じゃん?!それって超すっごいことだよねー!!」
ココナは早口で、そして無邪気な子どものようにはしゃいだ声で喋り倒した。
そんなに捲し立てられたら、どう反応していいか困る……私以外のメンツも私と似たような表情をしてる。
「あー……まあそうだな。カズハは戦闘力だけでいえばベテラン冒険者の俺より高いからな!」
「えー?リーダー、自分で言うかい?それ。ベテラン冒険者、ってさ。恥ずかしくない?」
「確かに。それはあたしも同意」
「……僕も」
「んー、カズハちゃーんが強いのはもちろんその通りだけどー。ベテラン冒険者ってのはどうなのー?確かサイラスさんが冒険者になったのって五年くらい前じゃなかったでしたっけ?ほらあのー、軍事国家ファランクスと大帝国グランドベゼルが大戦争を引き起こした頃……たしか『寒雨赤嵐戦争』って言うんだっけ?そのせいで職がなくなってどうのこうのみたいなー」
「まあそうだな……っていやいや、五年って結構やってるだろう?」
「そんなこといったら私、もう二十年近くやってるけど?」
「俺は十四年ぐらいかな」
「……僕は……十一年」
「私は八年!グラディウスの中だけで見てもー、サイラスさんの冒険者歴はベテランと呼べるかは正直微妙じゃないー?」
「なっ?!……ちょっと待ってくれよお前ら。ここはリーダーたる俺をたてて、お前らは俺よりも少ない年数にするべきだろう」
「いやいや。なんでそんなことで嘘つかなきゃいけないんだよ」
「そうよ。ほら、私の方が先輩なんだからもっと敬いなさいよね」
「…………」
「アハハ。ねぇ見た?あのサイラスさんの慌てっぷり。おもしろくないー?」
途中から彼らの会話についていけず、ただ傍観していたのだが、ココナに同意を求められた。
……サイラスのあんなあたふたしてる姿初めて見た。いつもは厳格なリーダーみたいな雰囲気あるのに……。あれを見たらそのイメージが台無しじゃん。
「……ははっ」
「あーー!カズハが笑った!」
「お、マジか。やったなリーダー!」
「流石ね、リーダー」
「リーダー……すごい」
「ナイスねー、リーダー」
「ぬぅー。お前らなー。俺の威厳が完全に崩れちまったっていうのに……」
……こういうやりとりを間近に見て、最近ふと思うことがある。
……ああ、ここはあったかいなって。
ソロで活動してた頃は、お金を稼いでお母さんに楽してもらうんだって、それだけを目的として黙々と魔物を狩ってた。そこに、楽しい、なんて感情が入り込む余地なんて全くなかった。
だけど、この人たちに……グラディウスに出会って、私を取り囲む環境が一変した。最初は私も毛嫌いしてたけど、なんとなく彼らが気になって、気づいた時には自分から構うようなことを色々してた。無視するなり振り払ったりするなり、彼らに嫌われて離れる方法なんていくらでもあったのに、私はそれができなかった。
……もしかしたら彼らが楽しそうに冒険者をやっていることが羨ましかったのかもしれない。
必死に魔物を倒して、定期的に母さんの様子を見に行っての繰り返しの毎日。これが私のルーティンだった。私は気づいていなかったんだ。自分の心がどんどんすり減っていることに……。
もしあのままソロで活動していたら、たったひとりで母さんを救うんだっていう重圧に耐えられず、精神が壊れていたのかもしれない。でも、彼らはその窮地に至る前に私の前に現れた。だいぶ強引だったけど、それでも私はみんなに感謝しなきゃいけない。サイラス、ロイ、リンナ、クルト、ココナ……。
みんなは私なんかを救ってくれた恩人なんだ。
私はこの時ようやくいかに仲間の存在が大事なのかというとこを知った。
「……ありがと……」
ワイワイ話をしているみんなには聞こえないであろう小さな声で私は感謝の意を一方的に伝えた。そしてこの日を境に私は生意気な態度は控えるようになり、母さんやミクリヤと接する時と同じようにグラディウスの面々と接するようになった。
「兄さん、無事か?」
「おう。カズハのおかげで傷ひとつないぞ!」
ニカッと笑いながらグッドサインを突き出す。
「そうか。良かった」
オレの身を案じ、そして安堵しているシンの手元を見てみると、剣身のない、柄だけが残った剣が視界に入った。
「ははっ。シンも武器壊したのかよ」
オレと全く同じことをしていて思わず笑ってしまう。
双子ってこんなとこも似るもんなのかよ。
「ああ。このオンボロ、五秒も持たずに粉々になった」
どうりでオレの剣が予想より早く砕け散ったわけだよ。やっぱオレの見積もりが甘かったな。今度からは気をつけないと。
「なんだぁ?俺が加勢しなくてもレックスの討伐は完了しちまったか」
「あんな奴に遅れをとるほど俺たちは弱くはないからな」
「ま、そらそうだけどなぁ」
トロールを倒したのであろう秀とレックスを三枚に下ろした張本人のうちのひとりである湊が合流した。これで全員が揃った。
みんな無事で何よりだ!
「みんな聞いてくれ」
オレは早速、カズハの腕を軽く引っ張って上機嫌に紹介し始める。
「リーダー特権を使って今日から正式にノアズアークの一員に加わることになった、カズハだ」
もちろんそんな特権は存在しない。だかしかし、オレが仲間になってほしいから、ここは我を通させてもらおーっと。
「みんな、改めてよろしくねー」
軽く手を振りながら、ニコニコと元気に挨拶をするカズハ。
「あ、そうだ。カズハ、傷みせて。オレの氣術で治すから」
「あー、平気平気。ポーションで治せるから」
カズハは腰につけた小さな茶色のポーチから、「この程度、氣術を使うまでもないよー」と言いながら、鮮やかな緑色の液体が入った小瓶を取り出した。そしてコルク栓を外し、傷ができている部分へとサササッと適当にかけていく。
「ふぅー。このポーションちょっと苦いから好きじゃないんだけど、ストックして損はないから普段から携帯してるんだー。ま、いつもはポーチとは別の物に収納してるんだけど」
みるみるうちにカズハが負っていた傷は修復してしまった。
へぇー、氣術を使わずに治癒ってできるんだ。
「その、ポーションってどういうものなんだ?」
「え?ノアは使ったことないの?……あ、そういえば武器屋には行ったけど薬屋に行くのは忘れてた……」
やってしまった、という顔をしながらボソッと何かを呟いたカズハは、一度咳払いを挟みつつ説明し始める。
「コホン。えーと、ポーションっていうのは主に傷や病なんかを治す液体だね。緑色は上から三番目に効力があるんだー。効力が高いものほどその分必要な材料が貴重だから、かなり高価になるんだけど、下から青、緑、赤、金の順でその効能が変化していくんだよ」
ほうほう。さっきカズハが飲んでた緑色だけじゃなくて、他にもいろんな種類のポーションってやつがあるのかー。
感心しながら軽く頷いていると、カズハがごそごそと小さな茶色のポーチから複数の色違いの小瓶を取り出していく。
「青はちょっとした傷を治せはするけど、時間がある程度かかる。緑は今見せたように軽めの傷を瞬時に治す。赤は傷だけでなくある程度の毒や病も瞬時に治してくれるんだよ。
説明に合わせるように、青と緑、そして赤色のポーションを順々に見せてくれる。
「そして私は持ってないんだけど、最も効力があるとされる金色は、あらゆる傷と病を治すって言われてるみたい。ちなみに別名は『エリクサー』って言うらしいねー」
「え、普通にすごくね?」
あらゆる傷と病を治すって、そんなん最高じゃん。そのエリクサーってやつがいっぱいあれば、まさに不死身ってやつになれるんじゃないか?
「そうそう。それでそのエリクサーは、不治の病だって治せるって話なんだよねー。ただし、流石に切り離されてしまった部位はもとには戻らないし、新しく生えてもこないけどね」
あ、不死身は流石に言い過ぎだった。
まあでも、ポーションってのは治癒系の氣術を持っていない人には必要不可欠なアイテムってことか。
「なるほどな。じゃあ結構使ってる冒険者は多いんだろ?」
「そうだねー。治癒系の氣術って基本的に光属性の適性がないと使えないから、大抵の冒険者は所持してるはずだよ」
やっぱそうだよなー。けどオレにはいらないっちゃいらない代物ではあるんだよな。まあ持ってるに越したことはないんだろうから、暇見つけたら薬屋に寄ってみよっと。
「あー、カズハ。ちと聞きてぇことがあるんだが」
「ん?なになに?」
「トロールを灰にしちまったんだが、その場合でもこのSBに吸収できるのか?」
あー、秀の奴、治癒力が追いつかないほどに焼き尽くしたのか。ナイスな判断だけど、たしかに元の形がわからない灰の状態で大丈夫なのか?
「あ、それねー。全然問題ないよ。その灰はもともとトロールを構成していた物質だから、そこら辺はSBがきちんと反応してくれるよー」
マジでSBの性能が凄すぎるな。作った奴は世界トップレベルの技術者とみた。
「そうか。なら良かったわ」
「よし、腹も減ってきたことだし早く用を済ませてシャムロックに行くぞ!」
こうしてオレたちはシャムロックに行く前にEDEN本部に向かい、アリアさんにSBの査定を行ってもらった。今回はBランクとAランクの魔物を討伐したため、報酬額がかなり高い。今まで倒したCやDランクの魔物の合計額の十倍以上貰えたのだ。それだけ高ランクの魔物の討伐は困難だということだろう。
さらにはアリアさんに「え?!トロールだけでなくレックスも倒してしまったんですか?!」とひどく驚かれ、「Dランクパーティには到底討伐不可能なのに……」と言われてしまった。そんなことを言われても倒せてしまったのだから仕方ない。うん。
「カズハがいたから」と、とりあえず適当に答えて(あながち間違いでもないし)その場を凌ぎ、ノアズアークのメンバーにカズハを登録して欲しいとアリアさんに頼んだ。なぜかアリアさんは驚いた顔をしてカズハを見つめ、カズハが満足げな顔で頷くと、今度は嬉しそうにしてパーティ登録を進めてくれた。
辺りはすっかり暗くなってしまったが、ようやく目的地のシャムロックへ到着した。
「いらっしゃいませ……あ、ノアくん。また来てくれたんだ。もうすっかりうちの常連客だね」
朝にソルの弁当をもらいに来た時と合わせて今日で二度目の訪問。これをカズハと冒険を始めてからほぼ毎日実行していたため、常連といってもさほどおかしくはない。ただ今回はカズハが一緒に夕食をとってくれるという点が今までとは異なるのだ。
「じゃ、あちらの席へどうぞ」
キキさんに案内された円テーブルに五人で囲む形で座った。オレの右隣からシン、秀、湊、カズハという感じだ。
「このレストランのオススメはラルフシェフオリジナルのオムライスなんだ。昨日は別のを食べたから今日はそれにするつもりだけど、カズハはどうする?」
メニュー表をペラペラとめくり、じっくりと眺めているカズハは「うーん……」とかなり悩んでいる様子だ。
「……どれも美味しそうで決められない……!」
「ならオムライスにする?オレも初めてここに来た時注文したんだよ。で、それを食べてすっかり虜になっちゃってさ。今では立派な常連客だ」
「そっか……。じゃあオムライスにするねー」
「湊たちはどうする?」
「俺たちもそれで構わない」
湊の言葉にシンと秀も頷く。
「おいおいまた全員オムライスかよ。あの時と全く同じじゃん」
それだけここのオムライスがうまいって証拠なんだろうけどさ。
超人気メニューを注文し、少しの雑談をを挟んでオレたちはお待ちかねのオムライスをいただいた。相変わらずの美味しさでいつ来てもムラがない。
カズハも「こんなに美味しいものを今までスルーしてたなんて……」と感動していた。そして皆が料理を食べ終えた頃、唐突にカズハから話があると真剣な表情で告げられた。
「……レックスと対峙した時、最初私の様子がおかしかったのは覚えてる?」
「それは、まあ。カズハらしくはなかったし、なんか顔が強張ってたから」
いつもならパパッと魔物を討伐したりサポートしたりと相当頼りになっていたのに、あの時は心ここに在らずといった感じで、これはやばいって思ったんだよな。
「そっか。……実はね、あのレックスって魔物、言ってしまえば私にとって一番のトラウマだったんだ」
トラウマ、か。
「私がシンに問題を出したとき、先輩冒険者のことちょっとだけ話題に出したでしょ?」
カズハは目を瞑り、自身の思い出を懐かしむように暖かな声音で昔語りを始めた。
side カズハ
私は物心つく前に父さんを亡くしたらしい。母さんが言うには不治の病にかかってしまい、その数ヶ月後に帰らぬ人となったそうだ。私は父さんに関する記憶は皆無に等しかったため、母さんただひとりが私の唯一の家族だった。
そんな母さんも、私が七歳の頃だったと思う。女手ひとつで、しかも街に比べて色々と不便な山の中で私を育ててくれたために、心労がたたったのか体調を崩しがちになり、寝込むことが多くなってしまった。
私は母さんが少しでも休めるように、食事の準備をしたり火をつけるための小枝拾いをしたり、それから洗濯のために遠くの川まで重い服を運んだりと、自分にできることを懸命に頑張ってた。
「お母さん!今日たまたま道に迷って困ってるおじさんに会って、案内したらお礼にって果物をいっぱいもらえたよ!」
服の裾をめくってできた空間いっぱいに大小様々な果実を入れて、布団で横になっているお母さんに得意げに見せる。
「カズハ……帰ってきたのね。あらあら、こんなにたくさんの果物を持ってきてくれるなんて……お母さん嬉しいわ」
お母さんは少しほおのこけた顔で優しげな笑顔を向ける。でも、すぐにわたしを叱る顔になった。
「……カズハ、女の子がお腹を出しっぱにしてちゃダメでしょう。はしたないじゃない」
「はーい……」
裾を捲し上げたせいでお腹が見えていたのが気に障ったみたい。わたしはそんなの気にしないけど、お母さんに余計な気苦労をかけたくないから果物を近くのテーブルに山盛りに置いて、服装を整えた。
「ゴホッ、ゴホゴホッ……!」
苦しそうな咳が背後から聞こえ、慌てて駆け寄る。
「おかあさんっ!」
「ゴホッ……大丈夫よ……」
「全然大丈夫じゃないよ!あったかい飲み物作るから、待ってて!」
わたしは少し廃れた台所へと向かう。
「ごめんねカズハ。……こんなに頼りない母親で……」
このボソッと呟いたお母さんの弱々しい声は、わたしに届くことはなかった。
数日後わたしは再びあのおじさんに遭遇した。
「あ!果物おじさんだ!!」
「く、くだものおじさん?」
果物おじさんは自分のことを言っていると思わなかったのか、自身に指をさしつつ困惑していた。
「うん!わたしに果物いっぱいくれたでしょ?」
「ああ、君はあの時の女の子か……。あの時はありがとう。おや?君はそんな大荷物持ってどこへ行くんだ?」
果物おじさんはわたしが大量の服や食べ物を持っていることに興味を示した。
「うんとね、今日の仕事終わったから今家に帰るとこー」
「そうか……おじさんが手伝おうか?」
「え?いいの!?ありがと、果物おじさん!!」
果物おじさんは「果物おじさんは言われたことないな、ははは」っと小声で呟きつつ、わたしの荷物の大半を持ってくれた。
やっぱりこのおじさんはいい人だ!
「ねえねえ、果物おじさんは何してる人なの?」
家に向かう道中、わたしは果物おじさんととりとめもない会話していた。
「んー?僕はね、冒険者をしてるんだ」
「冒険者?」
知らないお仕事だなー。
「そう、冒険者。魔物を倒したり依頼をこなしたりして世界中を飛び回ってるんだよ。っていっても冒険者にはいろんな人がいるからね、今僕が言った生き方が全てじゃない。例えば、強さだけを追い求めて魔物を狩りまくる者や自分のランクを昇格させてトップに立ちたい者、お金をたくさん稼ぎたい者って感じで、冒険者たちは多種多様な目的を持ってるんだよ」
お金をたくさん、稼げる……?!
「あのさ、冒険者ってどのくらいお金もらえるの?!」
「え?そうだな……。高ランクの魔物を倒せる実力があれば、おそらく世界一レベルの大金持ちになれるだろうね」
大金持ち……!
お金があればおかあさんが安心して暮らせる家を建てられるし、美味しいご飯だって買える。それに、大きな街にだって住めるはず。
冒険者……冒険者、か……!
果物おじさんは「っていってもそんな強者はほんのひと握りだけど」と苦笑していたけど、わたしは考え事をしていたためにそんなことは全然聞こえてなかった。
「わたし、冒険者になる!」
「ど、どうしたんだ急に?!」
「だってお金いっぱいもらえるんでしょ?だったらやる!」
目を輝かせて言うわたしに果物おじさんは戸惑いの表情を浮かべる。
「それはそうなんだけど、それ以上に冒険者は危険がつきまとうとっても危ない職業なんだ。幼い君が耐え抜いていけるとは、正直とても思えない」
「じゃあ、わたしに魔物との戦い方を教えてよ!わたしどうしてもお金を稼がないといけないんだ!!」
「…….」
果物おじさんはしばらく考え込んでいたけど、仕方ないといった顔でわたしの顔を見据えた。
「わかった。僕が魔物の倒し方を教えよう」
「やった!ありがと、果物おじさん」
「その果物おじさんはやめてくれないか?なんだかむずがゆい……。僕の名前はミクリヤだ。よろしく」
荷物を落とさないように上手に持ちながら、果物おじさん……じゃなくてミクリヤおじさんはわたしに手を差し伸べてきた。
「わたしはカズハだよ!よろしくね、ミクリヤおじさん!!」
わたしは満面の笑みでミクリヤおじさんの手を取った。ミクリヤおじさんは「あー、おじさん呼びは継続なのか。僕はまだ二十歳になりたてなんだけどな」と苦笑いしていた。
そんなこんなで、ミクリヤおじさんに週に三回ほどのペースで魔物との戦い方を伝授してもらい、いつのまにか私は十二歳になっていた。ミクリヤおじさん……もといミクリヤは十二歳の私が冒険者になるのは時期尚早だと言ってたけど、私が何度もせがんだ結果、泣く泣く了承してくれた。
「じゃあお母さん。私行ってくるね」
「……ええ。気をつけて行くのよ」
「うん!」
体調が芳しくないお母さんのために、私はようやく冒険者になれるんだ!
「お待たせ、ミクリヤ」
ちょっとボロボロな木の扉を開けて、待たせていた人の名前を呼んだ。
「ああ。じゃ早速、冒険者ギルドEDENへ行こうか」
途中の小さな街まで二人で歩いて行き、そこから馬車に乗って数時間。この大帝国グランドベゼルで最も栄える街、帝都アクロポリスに到着した。
私は初めて見る豪壮な街の景色に圧倒されて、目を爛々と輝かせていた。
「さあ、ここがEDENだよ」
ミクリヤはEDENの扉を開け、私を中へと導いた。
「お、やっと来たかミクリヤ。その子が、例の?」
「ああ。カズハだよ」
「っ……!そうか……そうか……っ……俺はグレンだ。グレン=トワイライト。よろしくな、カズハ」
グレンと名乗ったその男はなぜだかわからないけど、暖かな笑みを浮かべて私の名を呼んだ。それに声が少し震えているし、ちょっと涙ぐんでいるようにも見えた。まるで会いたくて会いたくてたまらなかった想い人にようやく巡り会えたかのような、そんな感じが伝わってきた。
「カズハ。こいつは一応ここEDENのギルド長をやってるんだ。そして僕はその補佐役である副ギルド長を務めているってわけだ」
「へぇー、そうなんだ。……そんなことどうでもいいからさ、早く冒険者登録ってやつやってよ」
「それもそうだな。じゃ早速アリアにーーーー」
「いや待て。それは俺がやる」
グレンはミクリヤに手のひらを向けて制止させる動きを見せ、ミクリヤの言葉を遮った。
「は?なんでグレンが……あ、いや、そういうことか……アリア、悪いけどカードをグレンに渡してくれ」
「あ、わかりました」
こうして私は無事に冒険者になることができたのだった。
「サイラス、悪いがこの子をお前のパーティに入れてやってくれないか」
私が冒険者として活動を始めて一ヶ月が経った頃。グレンに突然呼び出されたかと思えば、目の前のおじさんのパーティメンバーになるように言われた。
この一ヶ月で私はそれなりに金を稼ぐことができていた。難しい依頼はよくわからないから、魔物の討伐や薬草採取みたいな簡単なものしかやってこなかったけど、それでも一日で最低でも千エルツ、多い時は三千エルツを稼げてた。こんなの、以前の私からしたら目ん玉飛び出すくらい驚いて、気絶して、床にドサッて倒れてた。
昔は自給自足が当たり前で、近くの村で畑の手伝いをして微量な賃金を稼いでた。その賃金で村に来た商人からいい野菜や肉を買うこともあった。それは決まって母さんの誕生日の時だけ。
私は料理が全然出来なかったから、病弱なお母さんに任せっきりになっちゃつたことはいつも悔いていた。そんな私を見てお母さんは「大丈夫よ、カズハ。これを食べたらお母さん、とーっても元気になれるもの」って優しく微笑んでくれた。
……今のままで十分にお金は稼げてる。なのに、なんでこんなおじさんのパーティに入らなきゃいけないんだ。ソロの方が絶対に効率がいいのに。
「あ?俺のパーティーにか?俺は別に構わないが……その嬢ちゃんはお気に召さないようだぞ」
私は不満タラタラの顔で、サイラスと呼ばれた白髪混じりのおじさんを見つめた。
「私はひとりでもやってけるから。仲間とか、いらない」
私はお遊びで冒険者をしてるわけじゃない。私には、やらなきゃならないことがあるんだから。
「そうは言ってもな……。カズハ、お前いつもどっか怪我して帰ってくるし、装備もボロボロになるしで心配なんだよ」
「心配って……別にグレンに心配される筋合いないんだけど」
なぜかグレンは会った時から何かと私のことを気にかけてくる。別に嫌ってわけじゃないけど、ちょっとめんどくさい。
「なあ嬢ちゃん。嬢ちゃんが俺らのパーティーに入りたくないのは何でだ?」
「別にあなたが嫌いだからとかじゃないよ。ただ、仲間と仲良く冒険なんて……そんなくだらない遊びにかまけてるほど私は暇じゃないってだけ」
サイラスは私の言葉にイラッとしたのか、強引に私の腕を引っ張った。
「いたっ」
「おい、サイラス何をーーー」
「グレン。このクソ生意気なガキは俺が預かるぞ。異論は認めない。いいな」
「こいつらが俺のパーティ、グラディウスの仲間だ、嬢ちゃん。今日から世話になるんだ。その生意気な態度はどうにかしろよ」
結局あのまま腕を引かれてEDEN本部の受付前にあるフリースペースに連れてかれた。目の前のテーブルには男が二人と女が二人座っていた。
「あ、リーダー。その子が今日からうちに入る新入りですかい?」
私を指差しながら茶髪の髪の男が口を開いた。
「ああ、そうだ」
「へぇー。話には聞いてたけどほんとにガキなんだね」
ピンクの髪の女が下から上までじっくりと私を観察した。
「……」
灰色の髪の男はこちらに目を向けただけで特に何かを言うことはなかった。
「えー!超かわいいじゃん!!こっち向いてよー」
黄色の髪の女は私を気に入ったらしくブンブンと手を私に振っていた。私は無視してこの女の方には向かなかった。
「私は……カズハ。別に無理して私に構わなくてもいいんで、ほっといてくれていい……です」
よく考えたら、パーティっていっても別に一緒に行動しなければソロでやるのとおんなじだ。気にせずいつも通りやってこう。
「「「「……」」」」
まだ名前も知らない彼らは、少し不快そうな顔をしてこちらを見てきた。
なんだこいつって思ってそうな顔だ。まあでもそう思ってくれてる方が構われなくて済むし、ひとりで行動しやすくなるから好都合ではあるけど。
「ハッハッハ。今分かったと思うが、この嬢ちゃんはとんでもなく生意気なんだ。だからこの嬢ちゃんに冒険者とはなんたるかを、これからきっちり教えてやんなきゃならない。お前らも先輩としてこの嬢ちゃんとは仲良くやってくれ」
私の頭にポンッと馴れ馴れしく手を乗せて、サイラスはパーティメンバーに言葉を投げかけた。
「カズハ!お前また勝手に突っ走りやがって……団体行動の基本ってもんがなってなさすぎるぞ」
私の後を追ってきたサイラスにもう何度目かわからない注意を受けた。私はパーティで動く気はないって何回も言ってるし、態度にも出してるっていうのに、グラディウスの面々は全く気にかけてない感じがする。
初めましての時は、不快感を示していたはずの四人も、活動を共にするようになってから一、二ヶ月も経った頃には、なぜか私をパーティーの一員としていたく気に入ってくれていた。ほんとになぜだかわかんないけど。
「だから何回も言ってるじゃん、私はひとりでもやっていけるって。それにこんなやつほっとけばいいじゃん」
振り返ってサイラスに不満をぶつけると、後ろからゾロゾロと他のメンバーも集まってきた。
「おいおいカズハ、そんなこと言わないでくれよ。その発言は結構悲しいぞ」
茶髪の男……ロイは首の後ろを掻いて、すぐに顔を上げた。そこからは物悲しそうな表情がみえた。
ロイは私がこういった内容の発言をすると、必ずといっていいほどに「悲しい」という単語を口にする。そんなに仲良くもないやつにそっけない言動をされたところで、悲しいとは普通思わない気がするのにね。
「カズハ……ひとりは危ない……。それに……みんなといる方が……楽しい」
灰色の髪の男……クルトはいつものように優しげな声で私を諭した。
「カズハちゃーん。た、体力があんまりない……私を置いて、どんどん……はぁはぁ……先へ行くのは……どうなのかしら、ねー」
ピンクの髪の女……リンナは走り疲れたのか、息をだいぶ切らしていた。
「カズハちゃーん、速すぎだよー。これは今後に期待大!だね!」
黄色の髪の女……ココナはグッドサインを突き出して、ニコッと笑った。
『『『キャキャ!』』』
突如としておそらく魔物のものと思われる鳴き声が周囲のあちこちから聞こえてきた。かなりの群れをなしているようだ。
「これは……囲まれてやがるな。お前ら、体制を整えろ!。ロイ、お前は俺と片っ端から魔物を狩るぞ」
「了解!」
「クルトは風系統の氣術で俺とロイの支援を頼むぞ」
「……うん」
「リンナはいつも通り身体強化の氣術や治癒の氣術なんかで俺らのサポートだ」
「オーケーよ」
「ココナはリンナを守りつつ敵を排除してくれ」
「りょーかい!」
「そしてカズハはーーー」
私はサイラスが指示を出す前に隠れている魔物へと攻撃を仕掛けに走り出した。
「あ、カズハ!またお前は勝手にーーー」
「リーダー。こうなったらもうしょうがない。オレらでカズハのサポートもすればいい話ですよ」
「……そうだな。よし!お前ら、気合い入れろよ!!」
「なんだ、ただのDランク魔物の『コボルト』の群れか」
私は声の正体が最低ランクの魔物であったことに拍子抜けした。数は二十体はいたから、D2ランク扱いかな。けどDランクじゃ、端金程度にしかならない。たぶん全部合わせても二千エルツいくかどうか……せめてCランクの魔物がいれば……。
『ギャァー!!』
突然私の死角から魔物の悲鳴が聞こえてきた。見ると私の足下には『ポイズンスネーク』と呼ばれるコボルトと同じくDランク指定の魔物が、毒々しい紫色の体液を飛び散らした状態で落ちていた。
……考え事してて全然気づかなかった。
「カズハ……Dランクでも……油断は禁物」
「……すいません」
今のは完全に私の不注意から生まれた落ち度だ。クルトの言葉に言い返せない。
「おーい、そろそろEDENに戻るってよ」
ロイは口元に手を添えて私とクルトへ大声で呼びかけた。
EDENへ戻りフリースペースで先程寄り道して購入したパンを夕食として、反省会を開いた。この反省会は私がひとりで行動した頻度が高い時に行われるのがほとんどだ。つまり、ほぼ毎日行われているというわけだ。
現在は反省会も終盤に差し掛かっており、いつもならそろそろお開きとなる頃だ。けどその前に私はこの人たちにどうしても聞きたいことがあった。
「あの、さ……なんで私に構うの?こんだけ勝手な行動してて態度も良くないんだから、こんな奴と仲良くしてもしょうがないと思うんだけど」
突然の私の質問にみんな一様に驚いた表情を浮かべていた。
そんなに驚くことでもないと思うんだけど……。
「カズハから俺たちに話しかけてくれるとは……これは驚いたな。で、俺たちが何故お前を嫌いにならないか、だったな。まあ確かにカズハは生意気だが……別に悪い奴ってわけじゃないから、だろうな」
サイラスは真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「どういう意味?」
生意気ってだけでもかなり心象を悪くしそうなもんだけど……。
「そうだな……それは他の奴らも同じだろうから、俺ではなくこいつらから話してもらうか。じゃあ、ロイから時計回りでいくか」
「えーと……以前俺が体調不良になって寝込んだ時があっただろ?そん時みんなはすぐ駆けつけてくれたけどカズハは来なかったんだ。だからてっきり嫌われてんかなって思ったんだけど、みんなが帰った日の夕方、だったかな。カゴいっぱいに果物入れて訪ねてきてくれたんだよ。それがすっごく嬉しくてさ。こんな小さなことだけど俺にとってはほんとにありがたかったんだ。だからさあん時、ああ、こいつはめっちゃいい奴なんだって心からそう感じたよ」
た、確かにそんなことしたけど、それはお母さんと重なって見えてしまったからで……。
それにたった一度しただけだし、いつもの言動見てたらそんなこと霞むぐらいに呆れてもおかしくないのに……。
「私は前に護衛依頼を受けた時にカズハが水をくれたのが嬉しかったからかねー。ほら、私って体力ないじゃん?あの時の護衛さ、魔物に遭遇する割合がいつも以上に高くて、最後の方はもうヘトヘトだったの。で、私が息切らしてるところにカズハが自分の水筒を突き出して『……はい』ってさ。その後もなんだかんだみんなのこと気遣ってくれてんのかなって思うとこあったし、私はカズハのこと結構気に入ってる」
……あれはたまたま私の水筒に水が残ったから渡しただけで……。
普段は滅多に言わないリンナの褒め言葉に少し心の奥がむず痒くなる。
他人から褒められたとこなんてほとんどなかった。そもそも冒険者になる前は、学校なんて行ったことなかったし母さんやミクリヤぐらいしか関わりがなかったから……。
もしかしたら私は、人との接し方というものがよくわからないのかもしれない。
「……僕は……カズハが……僕と話してても……怒ったり……嫌になったりせずに……最後まで……僕の話を……聞いてくれる、から……」
……それって、普通のことじゃないの?
私はクルトの言っている意味が分からず首を傾げた。
「……僕と話すと……イライラするって……言う人が……多いから……。ゆっくりだし…….ブツブツ……途切れるし……。けど……カズハは……僕と話してても……不快な表情は……しないし……むしろ……真剣に……聞いてくれる……から……嬉しい」
グラディウスと一緒に活動をし始めた頃のクルトは、そもそもあまり話す機会がなかったけど、私と話す時いつも私の顔を見ずに下を向いていたように思う。
でも、ここ最近は私の顔をしっかりと視界におさめて話してくれる。いま思えば、このちょっとの変化が私も少しだけ嬉しかったように思う。だからクルトも私がクルトと普通に会話を交わしたっていう、ほんの些細なことが嬉しかったのかもしれない。
「私はねー、カズハちゃーんの将来性の高さに期待してるからだよー。だってだって、最年少の十二歳で冒険者になって、しかもたった三ヶ月でBランクだよ?!凄くない?!この調子ならもしかしたらSランクも夢じゃないじゃん?そしたらさ、うちのパーティーに初のSランク冒険者誕生じゃん?!それって超すっごいことだよねー!!」
ココナは早口で、そして無邪気な子どものようにはしゃいだ声で喋り倒した。
そんなに捲し立てられたら、どう反応していいか困る……私以外のメンツも私と似たような表情をしてる。
「あー……まあそうだな。カズハは戦闘力だけでいえばベテラン冒険者の俺より高いからな!」
「えー?リーダー、自分で言うかい?それ。ベテラン冒険者、ってさ。恥ずかしくない?」
「確かに。それはあたしも同意」
「……僕も」
「んー、カズハちゃーんが強いのはもちろんその通りだけどー。ベテラン冒険者ってのはどうなのー?確かサイラスさんが冒険者になったのって五年くらい前じゃなかったでしたっけ?ほらあのー、軍事国家ファランクスと大帝国グランドベゼルが大戦争を引き起こした頃……たしか『寒雨赤嵐戦争』って言うんだっけ?そのせいで職がなくなってどうのこうのみたいなー」
「まあそうだな……っていやいや、五年って結構やってるだろう?」
「そんなこといったら私、もう二十年近くやってるけど?」
「俺は十四年ぐらいかな」
「……僕は……十一年」
「私は八年!グラディウスの中だけで見てもー、サイラスさんの冒険者歴はベテランと呼べるかは正直微妙じゃないー?」
「なっ?!……ちょっと待ってくれよお前ら。ここはリーダーたる俺をたてて、お前らは俺よりも少ない年数にするべきだろう」
「いやいや。なんでそんなことで嘘つかなきゃいけないんだよ」
「そうよ。ほら、私の方が先輩なんだからもっと敬いなさいよね」
「…………」
「アハハ。ねぇ見た?あのサイラスさんの慌てっぷり。おもしろくないー?」
途中から彼らの会話についていけず、ただ傍観していたのだが、ココナに同意を求められた。
……サイラスのあんなあたふたしてる姿初めて見た。いつもは厳格なリーダーみたいな雰囲気あるのに……。あれを見たらそのイメージが台無しじゃん。
「……ははっ」
「あーー!カズハが笑った!」
「お、マジか。やったなリーダー!」
「流石ね、リーダー」
「リーダー……すごい」
「ナイスねー、リーダー」
「ぬぅー。お前らなー。俺の威厳が完全に崩れちまったっていうのに……」
……こういうやりとりを間近に見て、最近ふと思うことがある。
……ああ、ここはあったかいなって。
ソロで活動してた頃は、お金を稼いでお母さんに楽してもらうんだって、それだけを目的として黙々と魔物を狩ってた。そこに、楽しい、なんて感情が入り込む余地なんて全くなかった。
だけど、この人たちに……グラディウスに出会って、私を取り囲む環境が一変した。最初は私も毛嫌いしてたけど、なんとなく彼らが気になって、気づいた時には自分から構うようなことを色々してた。無視するなり振り払ったりするなり、彼らに嫌われて離れる方法なんていくらでもあったのに、私はそれができなかった。
……もしかしたら彼らが楽しそうに冒険者をやっていることが羨ましかったのかもしれない。
必死に魔物を倒して、定期的に母さんの様子を見に行っての繰り返しの毎日。これが私のルーティンだった。私は気づいていなかったんだ。自分の心がどんどんすり減っていることに……。
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みんなは私なんかを救ってくれた恩人なんだ。
私はこの時ようやくいかに仲間の存在が大事なのかというとこを知った。
「……ありがと……」
ワイワイ話をしているみんなには聞こえないであろう小さな声で私は感謝の意を一方的に伝えた。そしてこの日を境に私は生意気な態度は控えるようになり、母さんやミクリヤと接する時と同じようにグラディウスの面々と接するようになった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
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アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
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真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
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持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
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そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
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都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
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私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
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辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
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