碧天のノアズアーク

世良シンア

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ノアズアーク始動編

6 悪夢、再び

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side ノア=オーガスト

洞穴に潜むBランクの魔物を誘き出すための策を練り、それを実行しようとした矢先、北方から唸り声が響いた。

『ギャオォォォ!』

おっと、結構近そうだ。

「こ、この声……」

それと同時に、さっきとは違い、カズハの様子が一変した。少し怯えているようにも見える。

「カズハどうしーーー」

オレたちの目の前に姿を見せたのは今までに見たものより明らかに巨大な魔物だった。

「ミナト、あれは『レックス』だ。Aランク指定の魔物だろう。油断はするなよ」

「ああ」

紫苑がそう言うってことは、眼の力でかなりの氣を内包していることがわかったんだろうな。

ちなみに紫苑の声はオレ、シン、秀、湊にしか聞こえてはいない。

「とりあえずいつも通りオレとシン、湊で敵の攻撃パターンなんかを測るぞ。カズハと秀は支援を頼む」

「……」
「ああ、任せろ」

カズハは黙りこくったままレックスに釘付けになっていた。浅く早い息を吐き、完全なる棒立ちの状態で立ちすくんでいる。

そしてこの隙を見計らったかのように、レックスは体を大きく旋回させその巨大な尻尾でカズハに重い一撃を浴びせようとしていた。

「カズハ!」

オレはカズハを押し飛ばした後、鞘から剣を抜き、レックスの尻尾を切り裂くように振り抜いた。だが、尻尾は切れることなく、逆に剣を折られてしまい、飛ばされてしまった。

「クッ……!」

マジか。白氣を剣に流しただけとはいえ、かすり傷ひとつ負わせられないのか。CやDランクならこれだけで簡単に倒せるってのに……。

あいつの皮膚、相当硬いな。

「兄さん!」

「大丈夫だ。どこも怪我してない。それより……」

茫然自失といった様子のカズハに目線を向ける。

やはりカズハの様子がどうもおかしい。オレが飛ばされる瞬間、表情が絶望に満ちたものになり、座り込んでしまったのだ。

「カズハ!無事かー!!」

大声でカズハに呼びかけるも全く応答がない。

「くそっ。あのままじゃカズハが危ない。シン、悪いけどカズハをここから遠ざけてくれ」

「わかった」

シンはすぐ様カズハのもとへ走り出し、カズハを担いでこの場を後にした。

よし。これでカズハの安全は保証されたな。

手にしていた剣をしっかりと握り、レックスの相手をしている秀と湊の加勢をしようとしたのだが……。

「あ、まずい。さっき折られたの忘れてた」

カズハの安全確保に夢中になって武器のことなどこれっぽっちも考えていなかった。これでは加勢どころの話ではない。

どうしようか困っていると、足元に一本の剣が落ちていることに気づいた。これは、シンの剣だ。

あいつ……オレの弟にしちゃ出来が良すぎるよ、まったく。

「Bランクの魔物を相手にするはずが、まさかの飛び級でAランクだなんてな。けどこんなの……やりがいしかないよな!」






side カズハ

あの声を聞いた瞬間、心臓がバクバクとありえないほどに鼓動し始め、私の身体は全く動かなくなってしまった。さらにはノアがサイラスと同じように飛ばされる姿を見て、身体の力が一気に抜け、指一本たりとも自分の意思で動かなかった。

またあの時と同じように、私は親しい人を……大切な仲間を失ってしまうの?

意気消沈し項垂れていると、シンが私を担いであの忌々しくも恐ろしいレックスから遠ざけてくれた。そして気づけばさっきまで昼食をとっていた小川付近まで戻っていた。

「ここなら大丈夫だろ」

「ご、ごめんね。足手まといになっちゃって……」

なんとかいつも通り振る舞おうと言葉を紡いでみたが、なんとも弱々しく震えた声を出してしまった。

「そうだな。おかげで兄さんがとばっちりを受けた」

「っ……」

シンの相変わらずの辛辣な言葉に、心を少しだけ抉られる。さらにそれが事実であるからこそ余計に……。

「……うん。ほんとにごめん」

「何があったかは知らないが、早く調子を取り戻せ。……特に兄さんはお前を必要としてるからな」

そう言い残すとシンはさっさと戦場へ戻ってしまった。

必要としてくれてる、か。私にはもったいない言葉だよ。

川の音や風で木々が揺れる音、そして激しい戦闘音を微かに感じながら、私は心を落ち着けようと目を瞑った。

『カズハ』

私の名を優しく呼ぶ懐かしい声が身体中に染み渡る。瞼を開けると、目の前にはかつて敬愛していた人物がいた。

『サイ、ラス……?』

『いつまでそんなところにいるつもりだ。早く戻ってやれ。お前の力が必要だぞ』

必要……必要、か。

でもね、サイラス。私は二度も戦線から離脱した弱虫なんだよ?私なんかいても何にも変わんないよ。

それに……。

『……大丈夫だよ。ノアたちは強いんだ。私がいなくったってなんの問題もーーー』

『お前忘れたのか?一流の冒険者ならあらゆる可能性を考慮して戦えってことを。どんなに強いやつだって一瞬の油断や隙なんかで簡単に死んじまうんだ。俺たちはそういう道を生きてるんだよ』

サイラスが口癖のように何度も話していた言葉。その言葉を再びサイラス自身の口から聞かされふと我に帰る。

……そうだ、そうだった。

ノアたちが強いかどうかなんて、私が必要とされてるかどうかなんて関係ない。死んでしまったらそれで終わりなんだ。

また仲間を失って後悔するのは……死んでも嫌だ!

『その顔はようやく決心がついたって感じか』

サイラスは私の覚悟を決めた様子に嬉しそうな表情を浮かべた。

『うん。ありがと、サイラス』

私が冒険者になってから初めて生意気な私を温かく迎えてくれた、私にとっては父親のような人だった。

そんなサイラスの意思を受け継いで、グラディウスの仲間たちとの思い出を胸に、私はこれから新しい仲間とともに生きていくんだ……!!

『ハッハッハ。……さあ、早く行け。お前の新しい仲間たちが待ってるぞ』

あの優し気なニカッとした笑顔を最後に、サイラスは霧のように姿を消した。その寸前、サイラスの背後に、グラディウスの仲間たちがぼんやりとだけど見えたような気がした。

みんなが私を、見守ってくれてるんだ。

そして私は現実へと引き戻され、瞼を開ける。

先ほどまでの体の重さや意気消沈といった心持ちが嘘であったかのように、自分でも驚くほどすんなりと立ち上がる。

はやく……はやくみんなのもとへ行かなくちゃーーー。





side ノア=オーガスト

「……大体は掴めてきたな」

オレ、秀、湊の三人での魔物を相手取りながらその特徴を炙り出していく。途中でシンも合流し、かなり敵の情報を捉えられてきた。

なぜ二体に増えたのかといえば、レックスと戦っていた音で洞穴に潜んでいたBランクの魔物である『トロール』が現れてしまったのだ。今はシンがトロール、オレと湊がレックス、秀は両方の支援という布陣で相手をしている。

そしてこの攻防の中で相手の情報はほぼ筒抜けになったと言えるだろう。

まず最初に交戦したAランクの魔物レックスは、攻撃手段としては強靭な牙が生え揃った口で噛み付く、もしくは身体を大きく旋回させて巨大な尻尾で叩き飛ばすというシンプルなものだ。そして身体はかなり硬い皮膚で覆われており、白氣を流しただけの武器では傷をつけることすら叶わない。

まあ、を使えば別だけど……。

一方でBランクの魔物トロールは、攻撃手段としては大きな丸太を振り回すのみ。丸太には黒氣が流れているらしく簡単には壊れないようだ。ただ、レックスの身体ほど硬いわけではないため、ある程度攻撃すれば破壊可能だ。

ただし、丸太などその辺にいくらでもあるため、壊してすぐに叩くのが得策と言えるだろう。

また、トロールは何度切ってもすぐに再生してしまうようだ。傷を負ってすぐに元に戻るところを見ると、かなりの治癒力を持っていることが窺える。

となれば、おそらくその治癒力は黒氣があるからこそできる氣術だと思われるため、黒氣そのものが尽きるのを待つか、または超高威力の氣術で再生する暇を与えることなく跡形もなく消し去るかの二つの選択肢があるだろう。

んー、カズハがいればもっと安全に倒せるんだろうけど……仕方ない。

「秀はトロールの相手を頼む。シンと湊はオレと一緒にレックスを仕留めにいくぞ」

「任せろ」
「わかった」
「了解」

秀ひとりでトロールの相手を任せたけど、おそらくはオレと似たような考えを思いついているだろうから問題ないはず。

どちらかと言えばレックスの方が厄介だろうな。今のところ外からの攻撃じゃ、小さい傷はつけられても致命傷は負わせられないんだよな。

ただ今のところ一番効いたのは、湊の氣術『無窮刃斬』だ。といっても片足に無数の切り傷を負わせただけで、レックスの動きがそこまで鈍るほどではなかったんだけどな。

その理由は三秒も持たずにレックスの邪魔がはいったために、まともに喰らわせることは叶わなかったからだ。もし確実に入っていればレックスの片足は確実に奪えていたと思う。

「よし、いい感じにこっち来てくれたな」

秀以外の三人でレックスに近づき、なるべく秀に近づけさせないように誘導した。秀にはトロールを確実に仕留めてもらわないと困るからな。

「シンと湊で可能な限りあいつを引きつけてくれ。その間にオレは隙をついてあいつの口内に攻撃をする」

外がダメなら内から叩く。これが一番楽な方法ではあるが、安全とは言い切れない。が、この状況を打破するにはやるしかない。

「その役は俺がやるべきだろう。ノアもシンも武器が心許ない」

それは……まあそうなんだけど……家族を危険には晒せない。

「ダメだ。オレがやる」

いつになく真剣な表情を見せるオレに屈したのか、湊は返答に間を開けたものの了承してくれた。

「……了解だ」

「兄さん、絶対に無理はするな」

「ああ、わかってるよ」






side 八神秀

トロールとレックスの両方に対して氣術を駆使し、後方から支援を行って数分。俺はノアから単独でのトロール討伐の命を受けた。

一応後方支援をしながら、トロールとレックスの両方と戦う場合と片方どちらかを相手取る場合のいずれの場合も想定した作戦は一通り考えていた。

トロールは治癒力が異常に高い。それなら、俺の氣術で燃やし尽くすまでだ。

俺は人差し指と中指の二本の指を立て、その間に白と黄金の光が入り混じった粒子を発生させ、ものの数秒で人型の白い紙を二枚生成する。

その中央の身体の部分には、縦に金色の不思議な文字が刻まれている。これは式の名前であり、招来の儀に最も重要なものである。

「式神招来『ゴウ』・『天』」

その二枚の紙人形を地面へと投げれば、強烈な光とともに、何かの影が二つ現れる。

俺の呼びかけに応じたのは、第五式神である毅と第九式神である天だ。毅は犬神という式神で土系統の氣術を操る。天は幻術や闇系統の氣術を操る。

「毅はあいつの持っている丸太の排除、天はそのサポートを頼むぞ」

「オッケー」
「了解です」

返事後すぐに二人はトロールへと突っ込んでいった。

「『失光』」

天は漆黒の翼を羽ばたかせ、トロールの頭上を通り過ぎる瞬間、術を発動させた。これは相手の視界を暗闇に染める単純な術ではあるが、サポートという面でかなり重宝できる。

「ナイス天。『岩硬拳』!」

毅は自身の両手に氣で作り上げたゴツゴツとした岩の塊のようなものを装着した。

「アァッッパァァァー!!」

毅の右の拳から繰り出された強力なアッパーカットがトロールの手ごと丸太を上空へと高々に吹っ飛ばした。

よし今だな。

「陰陽術、岩壁」

この術でトロールを完全に密室へと閉じ込める。岩の壁で全方位を塞ぎ正方形の箱が出来上がった。

「これで終いだ。陰陽術、火柱ひばしら

そして容赦など一切なく、正方形の頑丈な箱の下から炎の柱を発生させる。本来ならこの炎は空へと円柱状に伸びるのだが、今回は岩壁が阻んでいるために、あの箱の中に止まっている。

つまりトロールはあの箱から逃げる手段を講じない限り、一生火柱の炎で燃やされ続けることになる。

作戦通りに、任務完了だ。

「毅、天。お疲れ。ありがとな」

「いやいや。おれっちは秀様のためならいつでも駆けつけますぜ」

わたくしもでございます」

「ああ、また次も頼むわ」

毅と天を戻し、依然としてトロールを燃やし続ける強靭な箱をみる。

「そろそろ燃え尽きた頃合いか」

術を解除すると、そこにはトロールの姿はどこにもなく焦げた地面と灰が少し残っていた。

「あー……この場合はSBで吸収できるのか?あとでカズハに聞いてみるか」

『ギャオォォォォ!』

楽に戦いを終えた俺は、灰の小山となったこいつとは比にならないほどに強い敵の咆哮に、緩んだ気を引き締めた。

さて、あっちの加勢に向かうとするか。







side ノア=オーガスト

湊が前方からシンが後方から攻撃をし、レックスの注意が俺に向かないようにうまく立ち回ってくれている。

シンはあまり近づきすぎるとあの強力な尻尾で叩かれる可能性があって危険なため、白氣で練った氣弾を打ちながら戦っている。

とはいえ、それはオレがそう動くように指示したからで、シンならきっと死角からの攻撃でさえ華麗にかわすんだろう。そのビジョンは簡単に思い浮かぶ。

ただオレが兄としてちょっと過保護なだけだ。まあ?オレ的にはこれっぽちも過保護のつもりなんてないけどな。

一方で湊はちょこまかと動いてレックスの攻撃を分散させて撹乱している。

二人とも期待以上の働きをしてくれていてとてもありがたいのだが、いかんせんレックスは警戒心が強いのか隙のある動きを見せない。

これじゃ埒あかないよな。

近くの木陰から戦闘を見守りつつ、隙をうかがっていたオレだが、現状打破のため一か八かの勝負に出ることにした。

「『コキュートス』……」

術を発動させると、剣から青いオーラと白い冷気が漂っていた。この剣じゃ、十秒も持たずに壊れちゃうだろうから、とっととケリをつけないとな。

オレは一気に走り出し、レックスの口元目掛けて跳躍した。

「兄さん!」
「ノア!まだ早い!」

剣の方に思考を割きすぎたせいで、せっかく二人が引きつけてくれていたというのに、レックスの死角をつけるタイミングで飛び出せていなかった。

そんな馬鹿なオレの存在に気づいたレックスは、その自慢の牙が生えそろった口を大きく開き、オレを噛み砕こうとする。

ふん、舐めるなよ!
その前にこの剣でお前を……ハァ?!マジかよ!!!

握りしめた剣をチラッと見ると、コキュートスに耐えられなかったのか剣身が無くなっていたのだ。付け加えるのなら、十秒くらいは持ってくれるだろうというオレの浅はかな読みは見事に外れていたわけだ。

つまりオレはなんの武器も持たずほぼ無防備の状態でレックスに挑み、今まさに殺されそうになっている大馬鹿者ということだ。

どうするよ。体の表面に氣を流しているとはいえ、食らったらひとたまりもないぞ。

その辺のぶっとい木とか簡単に噛み砕いて粉砕してたし……。

……しゃあない、あれを使うしかーーー

レックスの牙がオレに突き刺ささる寸前、レックスはくぐもった声の後、悲痛な叫びをあげ、後方へよろめいた。

その様子に内心混乱しながらも、オレの身体は重力に流されるまま地面へと降り立った。

あれ?オレまだ術を発動させてないんだけど?

「ノアー!無事かあああ!!」

オレの後ろから、ほんの少しの間だがそれでも一緒に苦楽を分かち合った彼女の声が聞こえてきた。

オレは討伐対象かつ今さっき自身を殺そうとしてきたレックスの存在を忘れたかのように、彼女……カズハのもとへと走った。

「カズハ!来てくれたのか」

カズハは肩を上下に大きく動かし、荒く呼吸をする。そして、大きく深呼吸をした。

「はぁはぁ……はぁ……すぅー……ふぅー……仲間が命張って戦ってるのに……ひとりだけ逃げるなんて……そんなの、私にはできない。というより、したくない」

シンがカズハを置いた場所はさっきの小川付近だって言ってたから、かなりの距離を走ってきたはずだ。だからこんなに息絶え絶えになってるんだ。

髪もボサボサで顔には引っ掻き傷のようなものがいくつもある。

それだけ急いできてくれたってことだよな。それに、自分が本調子じゃなくてもオレたちのために駆けつけてきてくれるなんて…… 。

やっぱりカズハはいいやつだ。

これからもっともっと一緒に冒険してみたい!

「それより、レックスは……」

あ、忘れてた。

「そういえば全然襲ってこないな」

たしか二回立て続けにレックスの声が聞こえたような気はするけど。

「うわ?!あのレックスが三枚に下されてるんだけど……どういうこと?!」

カズハが驚くのも当然だ。あれだけ硬い皮膚を持っているレックスが、黒く濁った赤い血の湖の上で三つに分裂してるんだから。

オレも見た時は驚いたけど、なんとなく想像はついた。湊とシンがでやったんだろうな、うん。

「……カズハ」

「ん?どしたの?」

「ありがとな」

オレが急に礼を述べたのに困惑している様子のカズハ。それは表情からありありとうかがえる。

「オレがレックスに噛み砕かれそうになった瞬間に、『絶対防御アブソリュート・ディフェンス』をオレに使ってくれただろう?」

あのくぐもった声はオレを噛み砕こうとしたら硬い何かが間にあって弾かれたからで、その後に悲鳴をあげたのは湊とシンが術を行使したからだろう。

つまり、カズハがオレを守ってくれていなかったらよくて軽症、下手をすれば深傷を負っていたということだ。

「まあ、ね。間に合ってよかったよ。もしあのままノアが噛み砕かれていたらと考えると、今でも震えが止まらない。……だから、助けられてよかった。私の力で仲間を守れて、本当によかったよ」

そう安堵した顔をみせるカズハに、オレは右手を差し出した。

「なあカズハ。オレはまだまだカズハと一緒に冒険したい。だから今後ともよろしく頼むよ!」

少し……というかかなり強引な勧誘かもだけど、不思議とカズハは断らないんじゃないかなって思ってる自分がいる。

オレたちはまだ出会って一週間も経ってはいないけど、過ごした時間に関係なくカズハとは楽しくやっていけるって直感してるんだ。

オレの無理矢理な申し出に、カズハは苦笑を浮かべた後、思い切りオレの手を握り返してくれた。

「……はは……それはこっちのセリフだねー。むしろ私からお願いしようと思ってたもん」

「おし!やったぜ。じゃあ改めて、これからもよろしくな、カズハ」

「よろしくね、ノア!」

互いに笑い合うオレたちは、握りしめた手をめいいっぱい掲げた。そしてこの好事を祝福するかのように、空には雲ひとつない晴天が広がっていた。






side シン=オーガスト

レックスの尻尾による強力な攻撃をかわしつつ、白氣で練った氣弾を打ち込みながら奴の様子を観察した。

兄さんに言われてかなり消極的な動きにはなっているが、この方法はリスクを最小限に相手の情報をじっくり観察できるため、有効な手段のひとつと言える。

流石は兄さんだ。

そして俺から見た奴の透けてきた情報としては、攻撃のひとつひとつの威力は高いが単調なものしかないことだ。この程度避けるのは造作もない。

ただこのままの状態では何も進展しないのもまた事実。分析はこのくらいでいいだろうが、兄さんからは前に出過ぎるなと言われている。

兄さんの言葉と自分の考えの狭間で、俺がどうするか手をこまねいていると、兄さんも同じことを思っていたのか、突然木陰から飛び出し、奴へと突っ込んだ。

だが、タイミングが最悪だった。

「兄さん!」

そして奴の牙が兄さんに突き刺さろうとするのを見たその直後、一瞬にして頭に血が上り、使うことを制限されていた術を発動していた。

「……『インフェルノ』」

俺の剣から黒炎のオーラがゆらゆらと漂う。そして奴の足の付け根部分目掛けて剣を一気に振り下ろし、分断した。その切り口は黒炎に焼かれながらもドロドロに溶け出している。

「魔物如きが触れていい存在ではない。消えろ」

剣身の無くなった剣をその辺に投げ捨て、道端のごみと同等になったレックスに背を向け、兄さんのもとへと歩き出す。

俺の兄さんに危害を加える奴は、誰であろうと容赦はしない。






side 九条湊

「面倒だな」

レックスの注意を引きつけるために細かな動きをしているが、意外にも一向に隙を見せない。

攻撃は単調な割に守りは硬いようだ。

「伊達にAランク指定の魔物ではないということだろう。ん?……ミナト!ノアのやつが……」

ノアが身を隠していた木の方向を見ると、紫苑の言葉通りノアが予想外の動きを見せていた。

いや、この状況を打開するために動いたのだろうが、時期尚早だ。まずい!

「ノア!まだ早い!」

俺の必死な叫びは、虚しくも聞き入れられることはなく、案の定ノアはレックスの餌食になろうとしていた。……絶対にそうはさせない。

「紫苑」

「ああ」

「夜刀神の神力に従い、我が意思に応えよ。『天叢雲剣アメノムラクモノツルギ』」

左手に握りしめていた草薙剣に、紫苑が自身の体を液体状に変化させ、草薙剣と一体化する。その剣の柄から刀身の先にかけて、人差し指と中指を立ててなぞる。すると、刀は漆黒に変化し、水のオーラをほとばしらせた。

「『水刃』」

左足を前に出し下半身を少し曲げる。左手の刀を右腰に持っていき、左腕に右手を添えて構えを作る。そして一気に振り抜き、レックスの首を斬り裂き、落とした。

「解」

天叢雲剣と化していた刀は元の草薙剣に戻り、紫苑も定位置である俺の首へと巻きついた。

「助かった」

「ああ。またいつでも呼べ」

そう告げた紫苑は再び眠りについた。どうも最近は寝るのが好きらしく、起きている方が珍しいほどだ。

……少しファフニールに似てきたかもな。まあ話しかければすぐに応答するが。

三枚に下ろされたレックスに近づき、その頭を俺は虫けらを見るような目で上から眺める。足の付け根部分も一刀両断されているのはシンがやったからだろうな。

あの感じからして、約束は守れてはいないな。

とはいえ、かくいう俺もそれは同じだが。だからこそ、シンの気持ちはよくわかる。

俺の主に害をなそうとした奴に、存在する価値などないのだから。

「…………」

俺は未だ鞘に収めてはいなかった刀で、死に絶えた奴の片目を突き刺した。





side カズハ

「はぁはぁはぁはぁ……」

本当の父のように敬愛していたサイラス先輩に背中を押され、懸命にノアたちのもとへとなりふり構わず走り続けた。

もう誰も失いたくない!
これ以上自分に失望したくない!

走り続けろ!体が悲鳴をあげたって、たとえ足がちぎれたって……!!

走れ走れ走れーーーーーー

レックスが暴れたせいで木々が薙ぎ倒され大きく開かれた場所へとようやく着くと、ノアがレックスの口元へ跳躍していた。

このままじゃ、ノアが……!!

「『絶対防御アブソリュート・ディフェンス』!」

間に合えええぇぇぇぇっっ!!!!

私の切実な願いが届いたのか、術は無事にノアに発動し、レックスの攻撃がノアに襲いかかることはなかった。さらにレックスは何故か三枚に下ろされて地面に倒れていた。

そのことに疑問をもったものの、ノアが無事だったことに心の底から喜んでいた私にとっては、それを考えるほど心に余裕はなかった。

そしてノアにパーティメンバーになって欲しいと言われた。

これには正直言って、めっちゃ嬉しかった。

やっぱりひとりで冒険者として活動するより、仲間と冒険する方が私には性に合ってるみたいだし、何より楽しいって、心からそう思えるんだ。





  













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