碧天のノアズアーク

世良シンア

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ノアズアーク始動編

5 パーティの楽しさと苦しさ

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side ノア=オーガスト

闇夜に包まれた街を月が煌々と輝き照らす中、花鳥風月へと戻ろうとしてEDENを出た矢先に秀と湊に咎められてしまった。

「ノア、を使ったな」

湊に図星をつかれ少し言葉に詰まる。

「うっ……つ、つい力んじゃってさ。けどわざとじゃないからな」

「あれはおおっぴらに使っていいもんじゃねぇって爺さんやクロードさんが言ってただろ?今度からは気をつけろよ」

「……わかった」

やっと冒険者になれてウキウキしていたのだが、一気に気分が下がってしまった。つってもオレが悪いんだけどさー。はぁ……。






翌日になり早速EDENへ向かおうとすると、背後から声をかけられた。

「あ、あの。……昨日はどうもありがとうございました!」

「ありがと!!」

振り返ると見覚えのある二人の少女がお辞儀をしていた。たしかアリスとベルだったかな。

「当然のことをしたまでだから気にしなくていいからなー。な、秀」

「そうだな。この宿は俺も気に入っててなぁ。これからもお邪魔させてもらうつもりだ。だから今後も頼むぜ、アリス、ベル」

秀は少し屈んでニ人の頭にポン、ポンと優しく手を乗せる。オレたちにもよくやるけど癖なのか?まあいつものことだし、別に悪い気はしないけどさ。

「「……っ……!」」

あらら。二人とも顔が真っ赤になってる。

「秀。その手を退けてやれ。二人ともゆでだこになるぞ」

「ん……?ああ、わりぃ。つい癖でな」

湊の助言でニ人の様子に気づき手を離す秀。やっぱ癖なのか、あれ。

「い、いえ、だだだだいじょうぶ、です」






「おっ来たね。ノアズアーク諸君」

EDEN本部の扉を開け中へ入ると、左手から聞き覚えのある声がした。

「じゃ早速魔物を討伐しに行こうか。習うより慣れろが私の教え方だからねー」

先輩冒険者カズハについていくとまずは武器屋に案内された。

「みんな自分の武器とか防具ってもってる?なければ今のうちに買っておくのをお勧めするよー」

武器か。一応ヴォル爺にもらった剣があるけど……

オレは背中にある剣の柄に軽く触れる。

これはまだ使えないしなー……

でも、クロードが善意でくれた剣、実はビックベアを倒したときにはもうボロボロだったみたいで、宿で剣を取り出したら見事に壊れちゃったんだよなー。あの時はマジでびっくりした。

……とりあえず何かしら持ってた方がいいよな。

「あれ?よく見たら武器持ってるじゃん、ノアたち」

「え?」

「ほら、背中にあるやつ。それ武器でしょ?」

「あーそうなんだけど、これはなんていうか……まだ使えなくて……」

この剣まったく抜けないから、鈍器として使うしかなくなるんだよなー。叩くより切る方がオレは好きだし、こいつもそんな使い方されたくないだろうから、まだ使いたくはない。

「ふーん。まあなんでもいいけどさー。それじゃ好きなの選びなよー」

「んー……どれがいいとかある?」

「そうだねー……。ノアはどの武器で戦うか決めてたりする?」

「剣かな」

「なるほど。……ならこれがいいかなー」

カズハは店の奥にあった剣を渡してきた。

「この剣なら初心者でも軽く振れて、素材もそれなりにいいから長持ちすると思うよー」

「そっか。じゃあこれにするよ。……シンはどうする?」

シンの剣はオレのように壊れてはいないから、必要ないかと思ったが、一応聞いてみた。けど興味なさげに店内を歩くあの姿を見る限り、完全にお気に召さない感じだな。

「必要ない」

「だと思った。じゃあこの剣だけで」

「りょーかい。二人はどうするー?」

秀は武器とかいらないし、湊は愛刀を腰に下げてるからいらないだろうな。

「俺たちは大丈夫だ」

「じゃ、私が会計してくるからみんなは店の外で待っててねー」

剣を手に店主の元へ向かうカズハ。 

「え?オレが払うんじゃ……」

「ああ、いいのいいの。気にしないで。私が先輩ヅラしたいだけだからさー」






武器屋で装備を揃えいよいよ冒険者になって初の魔物の討伐へ。どんな魔物がいるかは昨日の夜にギルドカードで一通り見てみたけど、実物が楽しみだ。

「今回は特に依頼を受注してはないから適当にその辺の魔物を狩っていこー。……お、早速魔物のお出ましだねー」

現在オレたちは帝都アクロポリスから西に少しずつ行ったところにある森の中にいる。森に入ってからまだ十分も経たずに魔物と遭遇した。

「あれはDランクの『ゴブリン』だねー。しかも団体さんだ。いち、にー、さん……ざっと十体以上二十体未満ってとこかな。ってことはこれらのゴブリンはDランクじゃなくてD1ランクに格上げされるわけだねー。まあとりあえず私は後方支援に回るから、みんなは前線で頑張るように!やばかったら私が助けにーーー」

『『『ッギャー』』』

カズハの説明の途中でゴブリンの群勢は一瞬にして葬られた。オレまだ何もしてないのに…

「……えーと、まだ私話してたんだけどー。それにさらっと全滅させちゃったのねー。んー、予想外……でもないか。みんな強いね。もしかして魔物と戦った経験あるー?」

「オレ以外は誰一人としてないよ。今のがみんな初。……オレも参加したかったのに」

「あっ、わりぃノア。敵だと思ったらつい体が反応しちまってなぁ」

「すまない」

「いやいいけどさ」

オレはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ落ち込んだ。

「……えーと、倒した魔物はEDEN特製のこの青いSBに吸収させるんだけど、やり方は簡単。このボックスで魔物をタッチするだけでオッケーだからー。これをしないとギルドカードに討伐数が書き込まれないので注意するように。今回はパーティで討伐だから青、個人で討伐したら赤のSBに変えること。SBにスイッチがあるでしょー?それを押せば色は変化するから」

カズハは意気揚々とよくわからない小さな四角い箱の説明をする。

「SBって何のこと?」

「あれ?もらってない?……あ、そういえばSBを渡すのは指導する冒険者からだったかも……んんっ。えっと、SBっていうのは、今私が持ってる正方形の小さな箱の名前ね。SB、正式名称はストレージボックス。長いからみんなSB、SBって呼んでるんだー。……じゃ、みんなにも渡すねー」

カズハの腰につけたポーチから、四つの箱が取り出され、それぞれ一つずつオレたちの手に渡った。

ストレージボックス……略名SBというらしい正方形の箱は、手のひらサイズで結構コンパクトな見た目だ。

早速青色にした状態のSBでゴブリンたちを吸収してみた。

「SBに入るのは死亡した魔物のみ。正確に言えば黒氣を体内にもつ死体なんだけど……」

カズハはオレたちがこの不思議な箱に気を取られて話を聞いてないことに気づき、SBに関する詳細な説明を省く。

「あー、全然聞いてない感じねー。……ま、それはいいとして、この調子でジャンジャン魔物討伐に励もう!」



 

カズハと共に魔物を討伐してついに五日目となった。その間、出会った魔物の特徴や弱点などを説明してくれたり、長期間街から離れて野宿する場合のノウハウなどを教えてくれたりした。これが最後となるわけだけど、それはそれで寂しくなるよなー。

今日は初日と同じく帝都アクロポリス西部の森で魔物の討伐をすることになった。数時間、いつも通り主にDランクの魔物を相手にし、たまに遭遇するCランクにも相対したが、苦戦することなく順調に倒していった。

今は小川付近で休憩も兼ねて昼食をとっているところだ。実は以前シャムロックのキキさんに昼食をダメもとで頼んでみたところ、ソルさんの料理練習にうってつけだということとなり、あっさりとオーケーをもらったのだった。ソルさんの料理もオーナーシェフのラルフさんに負けず劣らず美味しいのだ。大変ありがたい。

「今日はもう少し奥まで行ってみるー?みんな新人とは全く思えないぐらいに強いから大丈夫だと思うんだよねー」

「森の奥の方が強い魔物がいるのか?」

「基本的にはその通りだよー。ここ大帝国グランドベゼルや隣国の軍事国家ファランクスより北部に位置するドロモスっていう危険地帯にはそもそもDランクの魔物なんてほとんどいやしないし、高ランクの魔物が多いから新人の冒険者でなくても危ないんだー。で、ドロモスではないこの森なんかに出てくる強い魔物は、普通は奥深くで鳴りを潜めていることが多いんだよねー。なぜかっていうのは解明されてないらしいんだけど、冒険者の間では常識的な話だねー」

「へぇー。……そういえばBランクの魔物と遭遇したことないけど、この森の奥にはいるのか?」

Dランク、Cランクとは何度も戦っているのだが、正直物足りないと言わざるを得ないんだよな。

一応、D1ランクとかD3ランク扱いのやつらには出会ったけど、所詮は統率の取れていない雑魚の群れだったから相手にならなかったんだよなー。オレは別に戦いが大好きってわけじゃないけど、心がわくわくするような、熱いバトルはちょっとしてみたい気持ちはある。なにせオレ、男の子なもんで。

ちなみに、魔物のランクの後についている数字は、相手にする魔物の数が何体いるかでその数字が小さくなるらしい。最初にゴブリンを倒した時……まあオレは参加できんかったけど……あいつらは十体以上の群れをなしていた。だからD1ランクに昇格するとカズハは言っていた。そしてD2は二十体、D3は三十体以上らしい。

他のランクにも同様のランク基準が設けられているらしいけど、それを分ける数字はランクごとに異なるみたいだ。

「いるはずだよ。大抵の冒険者はドロモス以外の地域に生息する魔物を倒して徐々に力をつけてから、ドロモスに行くなり魔界ニライカナイに挑むなりするからねー。流石にAランクの魔物はこの辺りじゃ生息してないけど」

「ふーん。じゃあ今日は初のBランクの魔物を討伐したら終わりにして、シャムロックでお疲れ様会はどう?」

カズハは銀色に光るコップに入った川の清水を飲み干しつつ、笑顔で答えてくれた。

「っぷはぁー。いいねーそれ。楽しそうじゃん。そうと決まれば早速Bランク魔物の討伐へ向かいますかー」





オレたちは森のさらに西へ西へと進み、道中の魔物を淡々と倒していった。そんなこんなで数十分が経ち、オレたちは明らかに何かが潜んでいるであろう大きな洞穴を見つけた。

「きっとこの中に私らの獲物がいるねー。……ここでシンにしつもーん。こういう場合どう対処するのが正解?一、このまま突入。二、大きな音を鳴らすなりしておびき出す。三、ここから高威力の氣術を洞穴へ放つ。……さあ、どれでしょう」

「どう考えても二だ」

シンはカズハの急な質問に悩むこともなく即答した。

「ほー。じゃあその根拠は?」

「まず一は論外だ。洞穴なんて狭い場所でまともに戦えるはずがない。馬鹿のすることだ。三は一見問題ないように見えるが、敵の情報がわからない状態でむやみやたらと攻撃するのは危険だ。仮に敵が攻撃を吸収して強くなるようなタイプであれば、この行為は愚策としかいいようがない。となれば、二のようにこちらの陣地へおびき出し、相手の情報を得るのが妥当だ」

「お見事。完璧だね。私が新人だった頃にある先輩冒険者に同じ質問されたけど、私は三だって答えたんだよねー。不意をつけるし、それで倒すのが一番楽じゃんってね。でも、シンと似たようなこと言われたんだー。で、当時の私は攻撃を吸収するかどうかなんてやってみないとわからないじゃんって生意気にも反抗したんだよー。……今思えばかなりアホなこと言ったなって感じで恥ずかしいけどね」

……なんかカズハのまとう雰囲気が変わった。昔を懐かしんでいるだろうけど、時折どこか悲しげな表情が垣間見えるような……。

「……でさ、その先輩が苦笑しながら言ったんだー。『それは逆も同じだ。だからあらゆる可能性を考慮した上で最も効果的かつ効率的な選択をするんだ。でないと自分の大事なもんを失っちまうかもしれねぇぞ』ってね……」

カズハの瞳がかすかにゆれ、頬にツーっと雫が流れた。すぐに気づいた彼女は手で顔を拭った。

「……ってこんなことどうでもよかったねー。さ、とっととターゲットを倒してみんなでパーティーしに行こう!」






side カズハ

「どうだ?ノアズアークのやつらとは上手くやってるのか?」

ノアたちと共に行動して四日が経ち、明日を残すのみとなった。ノアたちとEDEN本部前で別れた後、再びグレンに呼び出され今に至る。

「まあねー。ノアたち強いから私が教えることほとんどないけど、一緒にいるのはなんか楽しい、かなー」

ノアは私によく話しかけて来てくれて可愛い弟ができたみたいだし、シンは無口だしノアにべったりだけどそれなりに私のことを気にかけてくれてるっぽいんだよねー。この前、私の死角から攻撃しようとしていた魔物をサラッと倒してくれて、「よそ見するな」って声かけてくれたし。秀と湊も最初はちょっと警戒してる感じだったけど今では私を受け入れてくれてる感あるんだよねー。……やっぱりいいな、パーティって。

「そうか……。なあカズハ」

私の返答に嬉しかったのか、グレンは口角を少し上げた。

「ん?何ー?」

「お前、やっぱりソロよりパーティの方が楽しいんだろ?」

「……!」

図星をつかれ私は唇を強く噛んだ。

「……もうあの日から五年だ。サイラスだってカズハにはもっと自由に楽しく生きてほしいと思ってるはずだ。だからーーー」

なんでそんなこと言うの?グレンだってそれは私の触れてほしくない一番のトラウマだって知ってるくせに!

「っうるさい!あんたに何がわかるの!私はもう二度と、仲間を失いたくはないの!!」

喉が張り裂けるぐらいに声を張り上げグレンに自分の荒ぶった感情をぶつけた。

「はぁ、はぁ、はぁ…………っとにかく、私は今でも十分幸せに生きてるんだから、グレンが口を出さないで」

私は浅く呼吸をしながら扉を開けギルド長室から足早に出ていった。







side グレン=トワイライト

「はぁ……余計なお世話だったか……」

カズハのためを思っての発言だったが、これは失敗だったな。あいつの心の傷は五年経った今でも全く癒えてはいないようだ。

『コンコンコン』

「ギルド長、入ってもいいか?」

「構わんよ」

「……さっきカズハがものものしい顔で出て来たんだが……何かあったのか?」

「まあな。……『グラディウス』ってパーティを覚えてるか?俺の友であるサイラスがリーダーを務めていたんだが……」

「ああ、覚えてるよ。Aランクパーティに昇格まであと一歩のところで、死……いや解散したんだよな」

「そうだ。Aランクの魔物を一体倒せば昇格のところまで来ていた。だが、そのAランクの魔物に返り討ちにあってしまい、生き残ったのは……」

「ああ、だからカズハはあんな表情で出ていったのか。その話を切り出すのはタブーじゃなかったっか?」

「それは分かっていたんだが……カズハが心から嬉しそうにしていたのを見たのは久々で、つい、な」

「へぇー。それはやっぱりノア君らの影響なんだろ?」

「ああ。あの子たちには感謝してるよ。もしかしたらカズハがもう一度心の底から幸せになれる時がようやく来たかもしれないんだ」

革製の椅子から立ち上がり、窓を開ける。満月が煌々と輝く夜空を眺めしみじみとした気持ちになる。

「お前もそう思うだろ。なぁ、サイラス」






side カズハ

家に戻り自分のベットに転がり込む。仰向けになって目を瞑ると、かなり疲れていたのかすぐに眠りについた。

「……ハ……。……ズハ…………。カズハ起きろ!」

聞き覚えのある懐かしい声が耳に入り目を覚ます。

「……ん……。……サイラス?」

目の前にいたのはBランクパーティ『グラディウス』のリーダー、サイラスだった。

「やっと目を覚ましたか。ったく、手がかかる子どもでいけねぇな」

「な?!私、子どもじゃないし。立派な冒険者だっての!!」

「ハッハッハ。俺からしたらお前はまだまだ半人前の冒険者だし可愛い娘みたいなもんさ」

「ああ!また私を馬鹿にしてるでしょ」

プンプンと頬を膨らませてサイラスを叩く私。それをサイラスは苦にすることなく、むしろ優しげな表情で眺めていた。

これは……昔の私?今よりかなり幼い。それにサイラスがいる……。

「よし、カズハも起きたことだし、お前ら今日はドロモスに行くぞ」

ドロモス?まさかこれはーーー

嫌な予感がした矢先、場面は唐突に切り替わった。周囲の木々は薙ぎ倒され、眼前にはグラディウスのみんなが血まみれになって倒れていた。

ロイ…リンナ…クルト…ココナ…

「…な…んで……なんで…こんなことに…」

呆然と立ち尽くす若い私は目の前で起きた状況を理解できずにいた。

「っカズハ!!」

私に襲いかかろうとしていた魔物の尻尾に気づいたサイラスが私を突き飛ばしてかばった。サイラスは勢いよく飛ばされ後方の木へと叩きつけられた。

「ガッ」

多量の血を口から吐き出したサイラス。足や手はあられもない方向に曲がっていた。

「サ、サイラス!!」

急いで駆け寄る私はその悲惨な姿にさらなる絶望を受けた。私が自分で避けていればこんなことにはならなかった……私がもっと上手く戦えていればみんなが死ぬこともサイラス先輩が苦しむこともなかったのに……どうして私は……

周囲の音が聞こえてこないほどに自分の心臓の音がドクンドクンと身体中に鳴り響き、浅く早い呼吸を何度も繰り返す。

「カ、カズハ…ゴボッ…」 

私の名前を口にした途端にサイラスはその口内から血を吐き出した。

「もう、もうしゃべらないで…サイラスも死んじゃう…やだよ……そんなのいやだ」

目にこぼれ落ちそうなくらいに涙を浮かべる。

「な、泣くんじゃねぇ……お前は、笑ってる顔が…ん一番なんだ、からなあ……はぁはぁ……カズハ、お前にはこの刀をやる。俺のダチからの……もらいもんだが、かなりの上物だ。お前の、誕生日にでも、渡そうと……思ってたん……だがな。ゴホッゴホッ……こ……んな形で……渡すことになる、とは思わ……なかったぞ……ハハ」

サイラス先輩が息が絶え絶えになりながら苦しそうに必死に私に伝える姿を見て私の胸はさらに締め付けられた。

「い、いらないよ、こんなの。それより早く街に戻って治療してもらわなきゃ」

私は血に濡れた刀を差し出すサイラスの手を拒んだ。

「もう助からねぇ……よ。見りゃわかる、だろう。俺たちは……ここで終わりなんだ。けどな、カズハ……お前には……生き延びて欲しい、んだ。俺たちがいなくたって……お前は……やっていける。なんたってお前はもう……立派な冒険者なん……だからな。……また新しいパーティを探して……ワイワイ楽しくやってくれや。それが俺たちグラディウスの……切なる願い、だ。俺たちはお前のことを……いつまでも見守ってる」

途切れ途切れになりながら、それでも私に生きて欲しいと心から願うサイラスの言葉にボロボロと涙を流した。

『ギャオー』

例の魔物が後ろから唸り声をあげながら迫ってくる。

「っぐぅ……くっ……ああああっ」

座り込んでいた木を支えにして、悲痛な呻き声を上げながら立ち上がるサイラス。今にも倒れそうなほどにボロボロだというのにその姿は何故だかいつも以上に大きく見えた。

「な、なにしてーーー」

「こいつは、俺が何とかする。だからお前は……逃げろ!」

サイラスは刀を私の胸に強く叩きつけた。

「さあ……早く行け!」

あの優しかったサイラスの、今まで一度たりとも見たことのない鬼のような形相に幼かった私は驚き、その場から逃げ出すようにサイラスに背を向けた。

「……っ……!」

サイラスが残した刀を抱き締めながら私は街に向かって走り出した。息を絶え絶えにしながらも、止まることなくただただがむしゃらに走り続けた。

私はサイラスたちを見捨てて逃げ出したんだ。家族同然だった仲間を置いて……

最低だ最低だ最低だ最低だ最低だーーー

足場が悪い森の中をただひたすら街に向かって走り抜ける。ボロボロになった服の隙間に木の枝による複数の切り傷ができていくことや、靴の中に入り込んだゴロゴロとした砂利で足裏が猛烈な痛みに襲われ血塗れになっていくことに構うことなく、ただただあの悪夢のような場所から離れたい一心で血だらけの足を出し続けた。

……もう仲間を失うなんて嫌だ。
……私はもう……一人で十分だ。






『チュンチュン』

とりのさえずりが耳に伝わり、ゆっくりと目を覚ます。ふと顔に手を当てると一粒の涙が指に乗った。そして枕元に置いていた刀に目をやり、撫でる。

「…………」

なんだか懐かしいような、それでいて悲しいような夢を見た気がする……。

私は寝巻きを着替え、服装を整える。その後洗面所で顔を洗い気持ちを引き締めた。

「さ、今日はノアたちと最後の冒険だ。張り切っていきますかねー」












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