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ノアズアーク始動編
8 カズハとの共闘
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side ノア=オーガスト
「ーーーそれで、私がグラディウスとして活動し始めて二年経ったか経ってないかの頃かな……。あいつ……レックスに運悪く遭遇しちゃって、結果は私以外全滅で……。みんな、死んじゃった……。これが私があの時おかしかった理由だよ」
「……そっか。そりゃ、ああなるよな」
もしオレがカズハだったら、生きることに意味を感じられず絶望して死んでいたかもしれない。秀や湊……シンがいなくなるのは、正直耐えられる自信がない。
「……カズハは、さ……どうしてオレたちの仲間になってくれたんだ?」
仲間を失って絶望を感じたはずのカズハは、オレたちの仲間になってくれた。仲間、というのはカズハにとっては禁忌に触れるレベルのことのように思う。少なくともオレはカズハの過去からそう感じた。だからなぜカズハがオレたちの仲間になってくれたのかを知りたい。
カズハは自身の顎に手を添えて考え込んでいる様子だ。
「うーん……パーティで活動することの喜びを、ノアたちからもう一度学んだから、かなー……」
「……!」
喜び、か……。確かにオレも仲間とワイワイ冒険するのはすっごく楽しい。
「それに……ノアたち強いからさ。そう簡単には死ななそうでしょー?」
ニカッと晴れやかに笑うカズハ。過去を打ち明けてくれた時の悲しげな表情とは打って変わって、どこかスッキリとした笑顔を見せてくれた。
「ははっ。お褒めにあずかり光栄だ!カズハ、改めてこれからもよろしくな!!」
オレの差し出した手に温かな感触が伝わる。
「ふふっ。もちろんだよー!」
「グランガチが大量発生?」
帝都アクロポリスから見て東側には、水上交通としても用いられている巨大な河川が流れているらしい。すくすくと育った脂身のある川魚が取れたらしいが、その付近にグランガチというBランクの魔物が異常に出現してしまい、多くの魚が死んだだけでなく交通路さえも絶たれてしまったという。
その討伐依頼がでかでかとボードに貼られていた。
「へえー。あのワニもどきがたくさん出てきちゃったのかー。それはかなり厄介だねー。道理でこんなに目立つように貼られてるわけだー」
「Bランクってことはそこそこ強いよな、きっと」
あのレックスはAランクの魔物だったわけだけど、あいつめちゃくちゃ硬かったもんなー。それに馬鹿デカい身体してたし。
まあでもBランクとはいえ、人間からしたら理不尽なまでの力があるだろうから?警戒するに越したことはないよなー。
「いや、兄さんの足元にも及ばない雑魚にすぎない。兄さんが直接手を下さずとも、俺ひとりで事足りる」
「はい……?ったく、シンはいつもいつもオレを過大評価しすぎだって」
「ん?何が過大なんだ?」
至って真面目に話すシン。そんなオレたちを見てカズハはクスクスと笑った。
「……もうほんと、ノアたちって感覚バグッてるよねー。もう一回言うけど、Bランクの魔物一体が相手なら、同じBランクの冒険者は三人は最低でも欲しいんだからねー?そもそも魔物との戦いにソロで挑むのはどうかしてるしー!」
「え?でもカズハも数年はソロで活動してたんだろー?」
「うぅ……それはあんま触れないでよね……」
「あ、悪い」
無神経なことを聞いてしまった。つい先日、カズハの悲惨な過去を聞いたばかりだと言うのに、オレは何も考えずに傷口に塩を塗るような愚行をした。
「とにかく、大量のグランガチが河川を占拠しちゃったなら、なるべく早く依頼を達成しないと住民の生活にも関わるかもしれないよー」
カズハは依頼ボードに貼られた紙の端を摘んで、ひらひらと動かす。
「それはそうだろうけどさ……ちょっと疑問なんだけど、なんで誰もこの依頼を受けないんだ?」
そう、なぜかこの依頼に食いついているのはオレたちだけなのだ。他の冒険者たちはこれよりも難易度が低い依頼書を取ったり、一度目を通しても顔を引きつらせて手に取るのをやめてしまったりしている。
けどこの依頼、達成報酬が三十万エルツとバカみたいに破格なお値段だ。金を求める者も多い冒険者という立場なら、こぞって取り合ってもおかしくないと思ったんだけどなー。
「んなの簡単な話だろ。討伐対象にビビって手が出せないってだけだぜ。冒険者とあろうもんが、たかがBランクの魔物に怯えるなんざ、笑い話にもなんねぇけどなぁ」
「それが大半の冒険者の心情だろう。だが、冷徹かつ狡猾なやつであればわざと無視しているはずだ」
「無視……?なんで無視する必要があるんだ?」
オレは淡々と口にした湊の言葉に軽く噛みついた。
せっかくの大金ゲットのチャンスなのに、それをみすみす見逃す選択をとることあるのか?普通に考えてさー。
「それはこれが住民たちの生活に関わるような重要な依頼だからだ」
「……うん?」
さっぱりわからん。
「しゃあねぇなぁ。俺が捕捉してやんよ。今のクリア報酬は……三十万エルツか。まあ確かにいつもの依頼と比べりゃあ、ドデカい金額だ。だがよ、こんなに高ぇってことは当然、その分それ相応の危険が伴うわけだ。だったらもっと報酬の値段が釣り上がった時に受けた方が、こっちの懐が潤いまくるわけだ」
秀は依頼ボードの前に立った。
「そんでもって?報酬が一段と増える時ってのは、大抵住民の生活に大きな実害が出始めてからになんだろ」
そしてらコンコン、と依頼ボード叩いた。
「つまり、待てば待つほどクリア報酬はより大きくなる」
「……!なるほど、そっかそっか」
秀と湊の説明にオレはようやく納得がいった。
そういう冒険者も確かにいるだろうし、どんな選択を取るか、そんなのはもちろん人それぞれなんだろうけど……正直そういう奴はあんま好きになれない気がするなー。
まあ自分のためだけに生きること自体は別に間違ってはない、とは思うけどさー。
「秀も湊もすごいねー!冒険者のことよく理解してる。冒険者って無鉄砲なやつが多いイメージがあるかもしれないけど、自分の今の力や状況を見極めてしっかり依頼を選ぶ能力は絶対に必要なんだよねー。だって命あっての人生なんだからさー」
「ふむふむ、確かに!さすが先輩。言うことが頼りになるベテラン様って感じだなー」
「ちょ、もう、何言ってんのー、ノア!別にそんな良いこと行ってないよー?!てかそもそも、この言葉もサイラスたちからの受け売りっていうか……」
顔をゆでだこのように赤く染めたカズハは、両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「あーもう、そんな直球で褒められ慣れてないからむず痒いぃ……」
「よしよーし。カズハはとってもすごくていい奴だぞー」
オレはさらに追い討ちをかけるように、しゃがんだままのカズハの頭をなでなでした。
「っ!うぅ……めっちゃ恥ずいぃ……けど褒めてくれてありがとう……」
ちょっと揶揄う意味も込めてカズハの頭を撫でた結果、羞恥と感謝に板挟みにされたカズハ。
なんだか微笑ましく感じるなー……。
「んで?この依頼は受けるのか?ノア」
「そりゃ当然。こんなにお金がもらえるってのにやらない手はないだろ?それに狡いやり方でこの依頼を受けようとしてる奴らに、この報酬渡したくはないしなー」
「はっ。そりゃ同感だ」
「兄さん、これ」
「お、サンキュー、シン」
依頼ボードからグランガチ討伐の依頼書を剥ぎ取ったシンが、オレにそれを手渡してくれた。
「そんじゃま、早速討伐地点に向かうとするかー!」
『バシャャァァァッン!!』
尻尾を使ったグランガチの大ぶりな叩きつけに、河川を割るような二又の水飛沫が高く上がった。
「うお、意外と力あんじゃん。直撃したらさすがに腕一本くらいはおしゃかになりそうだなー。しかもこれが……っ」
『バシャャァァァッン!!』
『バシャャァァァッン!!』
『バシャャァァァッン!!』
グランガチの攻撃を避けるたびにまた別のグランガチの尻尾が頭の上から振り下ろされていった。それに対応してオレもひょいっとかわすけど、その先でまた別のグランガチに攻撃されかけた。
「こんだけ多いんじゃ、身体グッチャグチャになるってーの」
全ての攻撃を避け切り、オレは一旦グランガチたちと距離を取った。
オレは今、ニヤニヤと怪しく笑う四体のグランガチを相手取っている。水の上の戦いはそんなに経験はなかったけど、オレは氷系統の氣術が得意だから、足裏に氣術を施すことで河川に氷の足場を作り、普段通りのパフォーマンスを発揮できている。
というかそれくらいやらないと、水場での戦いに慣れきっているこいつらに遅れをとっちまうからなー。
『『『『ギビャビャッ』』』』
「なーにほくそ笑んでんだよ、ワニもどきども!」
オレは少し刃こぼれしている剣を構え、グランガチたちを見据えた。
刃こぼれしてるのはいつものこととして、さっき剣を当ててみた感じ、あんま効果がなさそうだった。皮膚はゴツゴツしてるから弾かれるし、唯一柔らかそうなお腹の部分にも攻撃してみたけど、薄く傷が入る程度で致命傷にはなりそうもなかった。ていうか、先にこっちの武器が壊れるのが目に見えてる。
こいつらの特徴を簡単に言えば、太った人型ワニだ。攻撃パターンは、両手の鋭い爪による攻撃かさっきの尻尾による叩きつけ攻撃あるいは振り払い攻撃だな。
ちなみに他のみんなはというと、オレと同じように複数のグランガチにからまれている。特にシンはさっきちら見したとき、五、六体は相手取っていた。まあシンのことだから、きっと余裕で全滅させるだろうけど。
「うわあ!」
「ん?……グエッ!」
悲鳴がした方へと顔を向ければ、勢いよくオレに誰かがぶつかってきた。オレは避ける間もなく、そいつと一緒に河岸にあった木の幹に体を打ちつけた。身体的なダメージはほぼなかったけど、ちょっぴり背中が痛い。
たぶんグランガチの振り払い攻撃でぶっ飛ばされたんだろうけど、まさかそれに巻き込まれるなんて……。
「あれ?思ったよりも痛くない?……って、ごめん、ノア!」
飛ばされた張本人であるカズハは、オレがクッション材になっていたことに気づきすぐにどいてくれた。
「いやいや、平気平気ー。ちょっと驚きはしたけど、なんの問題もないぞー!」
オレはさっと立ち上がり、右肩を軽く回した。
「よかったー。……油断したつもりはないんだけどさ、やっぱりBランクの魔物は強いよ」
そう溢したカズハの視線の先には、薄気味悪くニヤつくグランガチが六体も並んでいた。
「身体もオレたちより断然大きいし、やけに硬いし、力強いし、だもんな。やっぱ人間と魔物とじゃあ、生まれた時点で圧倒的な力の差があるってことか」
「そうだねー。でもさ、人間にしかできないこともあると思うんだよねー。例えば……成長とか努力とか、さ」
「ははっ。やっぱいいこと言うなー、カズハは」
「ちょ、今褒めるの禁止だから!集中力切れちゃうでしょー?!」
カズハは照れ混じりの焦った顔をした。
「ははは。オレ、やっぱカズハと仲間になれてよかったわ」
「だ、だから、今そんな小っ恥ずかしいことを言わないでってば!」
「はいはい、分かったってー」
「もうー……」
『ギビャビャッ!』
カズハを優しく揶揄っていると、痺れを切らしたグランガチたちが一斉にこちらに向かって氷上を走り出した。
「おしゃべりはここまでにして……やるよ、ノア!」
「おう!」
カズハは右手を前に突き出し、オレは右手に持った剣を構えた。
「ロックショット!」
カズハの手から尖った小粒の岩石が次々にグランガチたちへと放たれていく。狙いは足止めもしくは目眩しか。
「……っ」
オレはロックショットの直線的な軌道とともにグランガチの群れへと突っ込んでいく。グランガチたちは、オレより先行する小さな岩石たちを弾くのに手間取っているらしい。
「いい足止めだ、カズハ!」
オレはグランガチたちが立っている氷の床から、めいいっぱいの力を足に込めて飛び上がった。上空から下を見れば氷上に大きなひび割れが入ったのがわかる。
よし、これで終わりだ……!
オレは勝ちを確信しつつ、河岸に立つカズハに視線を向けた。
「カズハ!」
「分かってる!」
オレの呼びかけに応えたカズハは、地面に両手を当て氣術を放つ構えをした。そしてその直後……
『バキィン!』
氷の床が崩れる音がした。
突然足場がぐらつき、グランガチたちは咄嗟に対応を取ることもできず、ただただその現象に身を任せることしかできなかった。
「アイススピア……!」
「ロックスピア……!」
上空に三角錐型の氷柱が六本出現し、グランガチたちの身体目掛けて落下した。これにより、グランガチたちの身体が徐々に凍りつき動きがより制限された。
そしてそこに間髪入れず、三角錐型の岩石が六本、グランガチたちの身体を簡単に貫いた。まるであの硬い皮膚など最初からなかったかのように。
オレの垂直方向からのアイススピアとカズハの水平方向からのロックスピアをまともに食らったグランガチたちは、一様に後ろに倒れ込んだ。
「よっと……」
空中にいたオレは水面へと降り立った。もちろん、降り立った場所は軽く凍りつき、オレが歩くたびにその面積が広がっていった。
「どうー?!そいつら死んだー?」
河岸から大声を出すカズハ。オレは無惨な姿となったグランガチに近づき、その生死を確認する。
氷上は黒く濁った赤い血液で染め上げられていた。
「死んだっぽい!!」
「ナイスー!」
カズハが笑顔でグッチョブサインを出しているのが見える。
いやほんとナイス連携すぎたなー。相性バッチリじゃんか。
「カズハにどんな氣術を使うのか聞いといて正解だったなー。……さてと」
オレは懐からSBを取り出し、青色にしてあるのを確認してからグランガチ計六体を回収した。そしてすぐに河岸にいるカズハのもとへと向かった。
「ナーイス!」
「イェーイ!」
オレたちはハイタッチをしようと腕を掲げ斜め前に振り下ろしたのだが……
『パチッ』
「「ん?」」
オレが左手、カズハが右手を出した結果、オレの手の甲にカズハの右手の手のひらが当たるという、なんともおかしなハイタッチが出来上がってしまった。
「「…………」」
この謎の現象に、オレたちは目をパチパチとさせながら互いを見合わせた。そして……
「「ぷっ……あははははは!」」
お互いに吹き出すように笑い出した。
「な、なんでさっきの連携は完璧だったのに、こんなことで急に気が合わなくなるわけー?」
「はは……ほんとそれなー!」
笑い混じりに言い合うオレとカズハ。ついさっきまで寸分の狂いもない見事な連携だったのに、最後の最後でうまくいかないなんて、面白すぎる。
「私ノアから合図もらって、あ、これは勝ったなーって思ったし、かっこよく決まったー!って思ってたのに……ぷはは。ダメだー、アホすぎて笑えてくるー……!」
「なんでそんなツボに入ってんだよー、カズハ。オレまでつられちまうだろー?」
「……ちょっと待って、今精神統一するから……スゥー……ハァー……オッケー、いける」
大きく深呼吸をしたカズハは、ようやく普段通りに戻ってくれた。
「んんっ。締まりが悪いし、テイクツーやっときますか……」
「あ、それ賛成ー」
オレは剣を鞘にしまい、右手を掲げた。一方のカズハはさっきと同じく右手を掲げている。
「「ナーイス!!」」
『パァッン!』
大きくそれでいて軽やかな音が、何にも阻まれることなく高らかに周囲に鳴り響いた。
「ーーーそれで、私がグラディウスとして活動し始めて二年経ったか経ってないかの頃かな……。あいつ……レックスに運悪く遭遇しちゃって、結果は私以外全滅で……。みんな、死んじゃった……。これが私があの時おかしかった理由だよ」
「……そっか。そりゃ、ああなるよな」
もしオレがカズハだったら、生きることに意味を感じられず絶望して死んでいたかもしれない。秀や湊……シンがいなくなるのは、正直耐えられる自信がない。
「……カズハは、さ……どうしてオレたちの仲間になってくれたんだ?」
仲間を失って絶望を感じたはずのカズハは、オレたちの仲間になってくれた。仲間、というのはカズハにとっては禁忌に触れるレベルのことのように思う。少なくともオレはカズハの過去からそう感じた。だからなぜカズハがオレたちの仲間になってくれたのかを知りたい。
カズハは自身の顎に手を添えて考え込んでいる様子だ。
「うーん……パーティで活動することの喜びを、ノアたちからもう一度学んだから、かなー……」
「……!」
喜び、か……。確かにオレも仲間とワイワイ冒険するのはすっごく楽しい。
「それに……ノアたち強いからさ。そう簡単には死ななそうでしょー?」
ニカッと晴れやかに笑うカズハ。過去を打ち明けてくれた時の悲しげな表情とは打って変わって、どこかスッキリとした笑顔を見せてくれた。
「ははっ。お褒めにあずかり光栄だ!カズハ、改めてこれからもよろしくな!!」
オレの差し出した手に温かな感触が伝わる。
「ふふっ。もちろんだよー!」
「グランガチが大量発生?」
帝都アクロポリスから見て東側には、水上交通としても用いられている巨大な河川が流れているらしい。すくすくと育った脂身のある川魚が取れたらしいが、その付近にグランガチというBランクの魔物が異常に出現してしまい、多くの魚が死んだだけでなく交通路さえも絶たれてしまったという。
その討伐依頼がでかでかとボードに貼られていた。
「へえー。あのワニもどきがたくさん出てきちゃったのかー。それはかなり厄介だねー。道理でこんなに目立つように貼られてるわけだー」
「Bランクってことはそこそこ強いよな、きっと」
あのレックスはAランクの魔物だったわけだけど、あいつめちゃくちゃ硬かったもんなー。それに馬鹿デカい身体してたし。
まあでもBランクとはいえ、人間からしたら理不尽なまでの力があるだろうから?警戒するに越したことはないよなー。
「いや、兄さんの足元にも及ばない雑魚にすぎない。兄さんが直接手を下さずとも、俺ひとりで事足りる」
「はい……?ったく、シンはいつもいつもオレを過大評価しすぎだって」
「ん?何が過大なんだ?」
至って真面目に話すシン。そんなオレたちを見てカズハはクスクスと笑った。
「……もうほんと、ノアたちって感覚バグッてるよねー。もう一回言うけど、Bランクの魔物一体が相手なら、同じBランクの冒険者は三人は最低でも欲しいんだからねー?そもそも魔物との戦いにソロで挑むのはどうかしてるしー!」
「え?でもカズハも数年はソロで活動してたんだろー?」
「うぅ……それはあんま触れないでよね……」
「あ、悪い」
無神経なことを聞いてしまった。つい先日、カズハの悲惨な過去を聞いたばかりだと言うのに、オレは何も考えずに傷口に塩を塗るような愚行をした。
「とにかく、大量のグランガチが河川を占拠しちゃったなら、なるべく早く依頼を達成しないと住民の生活にも関わるかもしれないよー」
カズハは依頼ボードに貼られた紙の端を摘んで、ひらひらと動かす。
「それはそうだろうけどさ……ちょっと疑問なんだけど、なんで誰もこの依頼を受けないんだ?」
そう、なぜかこの依頼に食いついているのはオレたちだけなのだ。他の冒険者たちはこれよりも難易度が低い依頼書を取ったり、一度目を通しても顔を引きつらせて手に取るのをやめてしまったりしている。
けどこの依頼、達成報酬が三十万エルツとバカみたいに破格なお値段だ。金を求める者も多い冒険者という立場なら、こぞって取り合ってもおかしくないと思ったんだけどなー。
「んなの簡単な話だろ。討伐対象にビビって手が出せないってだけだぜ。冒険者とあろうもんが、たかがBランクの魔物に怯えるなんざ、笑い話にもなんねぇけどなぁ」
「それが大半の冒険者の心情だろう。だが、冷徹かつ狡猾なやつであればわざと無視しているはずだ」
「無視……?なんで無視する必要があるんだ?」
オレは淡々と口にした湊の言葉に軽く噛みついた。
せっかくの大金ゲットのチャンスなのに、それをみすみす見逃す選択をとることあるのか?普通に考えてさー。
「それはこれが住民たちの生活に関わるような重要な依頼だからだ」
「……うん?」
さっぱりわからん。
「しゃあねぇなぁ。俺が捕捉してやんよ。今のクリア報酬は……三十万エルツか。まあ確かにいつもの依頼と比べりゃあ、ドデカい金額だ。だがよ、こんなに高ぇってことは当然、その分それ相応の危険が伴うわけだ。だったらもっと報酬の値段が釣り上がった時に受けた方が、こっちの懐が潤いまくるわけだ」
秀は依頼ボードの前に立った。
「そんでもって?報酬が一段と増える時ってのは、大抵住民の生活に大きな実害が出始めてからになんだろ」
そしてらコンコン、と依頼ボード叩いた。
「つまり、待てば待つほどクリア報酬はより大きくなる」
「……!なるほど、そっかそっか」
秀と湊の説明にオレはようやく納得がいった。
そういう冒険者も確かにいるだろうし、どんな選択を取るか、そんなのはもちろん人それぞれなんだろうけど……正直そういう奴はあんま好きになれない気がするなー。
まあ自分のためだけに生きること自体は別に間違ってはない、とは思うけどさー。
「秀も湊もすごいねー!冒険者のことよく理解してる。冒険者って無鉄砲なやつが多いイメージがあるかもしれないけど、自分の今の力や状況を見極めてしっかり依頼を選ぶ能力は絶対に必要なんだよねー。だって命あっての人生なんだからさー」
「ふむふむ、確かに!さすが先輩。言うことが頼りになるベテラン様って感じだなー」
「ちょ、もう、何言ってんのー、ノア!別にそんな良いこと行ってないよー?!てかそもそも、この言葉もサイラスたちからの受け売りっていうか……」
顔をゆでだこのように赤く染めたカズハは、両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「あーもう、そんな直球で褒められ慣れてないからむず痒いぃ……」
「よしよーし。カズハはとってもすごくていい奴だぞー」
オレはさらに追い討ちをかけるように、しゃがんだままのカズハの頭をなでなでした。
「っ!うぅ……めっちゃ恥ずいぃ……けど褒めてくれてありがとう……」
ちょっと揶揄う意味も込めてカズハの頭を撫でた結果、羞恥と感謝に板挟みにされたカズハ。
なんだか微笑ましく感じるなー……。
「んで?この依頼は受けるのか?ノア」
「そりゃ当然。こんなにお金がもらえるってのにやらない手はないだろ?それに狡いやり方でこの依頼を受けようとしてる奴らに、この報酬渡したくはないしなー」
「はっ。そりゃ同感だ」
「兄さん、これ」
「お、サンキュー、シン」
依頼ボードからグランガチ討伐の依頼書を剥ぎ取ったシンが、オレにそれを手渡してくれた。
「そんじゃま、早速討伐地点に向かうとするかー!」
『バシャャァァァッン!!』
尻尾を使ったグランガチの大ぶりな叩きつけに、河川を割るような二又の水飛沫が高く上がった。
「うお、意外と力あんじゃん。直撃したらさすがに腕一本くらいはおしゃかになりそうだなー。しかもこれが……っ」
『バシャャァァァッン!!』
『バシャャァァァッン!!』
『バシャャァァァッン!!』
グランガチの攻撃を避けるたびにまた別のグランガチの尻尾が頭の上から振り下ろされていった。それに対応してオレもひょいっとかわすけど、その先でまた別のグランガチに攻撃されかけた。
「こんだけ多いんじゃ、身体グッチャグチャになるってーの」
全ての攻撃を避け切り、オレは一旦グランガチたちと距離を取った。
オレは今、ニヤニヤと怪しく笑う四体のグランガチを相手取っている。水の上の戦いはそんなに経験はなかったけど、オレは氷系統の氣術が得意だから、足裏に氣術を施すことで河川に氷の足場を作り、普段通りのパフォーマンスを発揮できている。
というかそれくらいやらないと、水場での戦いに慣れきっているこいつらに遅れをとっちまうからなー。
『『『『ギビャビャッ』』』』
「なーにほくそ笑んでんだよ、ワニもどきども!」
オレは少し刃こぼれしている剣を構え、グランガチたちを見据えた。
刃こぼれしてるのはいつものこととして、さっき剣を当ててみた感じ、あんま効果がなさそうだった。皮膚はゴツゴツしてるから弾かれるし、唯一柔らかそうなお腹の部分にも攻撃してみたけど、薄く傷が入る程度で致命傷にはなりそうもなかった。ていうか、先にこっちの武器が壊れるのが目に見えてる。
こいつらの特徴を簡単に言えば、太った人型ワニだ。攻撃パターンは、両手の鋭い爪による攻撃かさっきの尻尾による叩きつけ攻撃あるいは振り払い攻撃だな。
ちなみに他のみんなはというと、オレと同じように複数のグランガチにからまれている。特にシンはさっきちら見したとき、五、六体は相手取っていた。まあシンのことだから、きっと余裕で全滅させるだろうけど。
「うわあ!」
「ん?……グエッ!」
悲鳴がした方へと顔を向ければ、勢いよくオレに誰かがぶつかってきた。オレは避ける間もなく、そいつと一緒に河岸にあった木の幹に体を打ちつけた。身体的なダメージはほぼなかったけど、ちょっぴり背中が痛い。
たぶんグランガチの振り払い攻撃でぶっ飛ばされたんだろうけど、まさかそれに巻き込まれるなんて……。
「あれ?思ったよりも痛くない?……って、ごめん、ノア!」
飛ばされた張本人であるカズハは、オレがクッション材になっていたことに気づきすぐにどいてくれた。
「いやいや、平気平気ー。ちょっと驚きはしたけど、なんの問題もないぞー!」
オレはさっと立ち上がり、右肩を軽く回した。
「よかったー。……油断したつもりはないんだけどさ、やっぱりBランクの魔物は強いよ」
そう溢したカズハの視線の先には、薄気味悪くニヤつくグランガチが六体も並んでいた。
「身体もオレたちより断然大きいし、やけに硬いし、力強いし、だもんな。やっぱ人間と魔物とじゃあ、生まれた時点で圧倒的な力の差があるってことか」
「そうだねー。でもさ、人間にしかできないこともあると思うんだよねー。例えば……成長とか努力とか、さ」
「ははっ。やっぱいいこと言うなー、カズハは」
「ちょ、今褒めるの禁止だから!集中力切れちゃうでしょー?!」
カズハは照れ混じりの焦った顔をした。
「ははは。オレ、やっぱカズハと仲間になれてよかったわ」
「だ、だから、今そんな小っ恥ずかしいことを言わないでってば!」
「はいはい、分かったってー」
「もうー……」
『ギビャビャッ!』
カズハを優しく揶揄っていると、痺れを切らしたグランガチたちが一斉にこちらに向かって氷上を走り出した。
「おしゃべりはここまでにして……やるよ、ノア!」
「おう!」
カズハは右手を前に突き出し、オレは右手に持った剣を構えた。
「ロックショット!」
カズハの手から尖った小粒の岩石が次々にグランガチたちへと放たれていく。狙いは足止めもしくは目眩しか。
「……っ」
オレはロックショットの直線的な軌道とともにグランガチの群れへと突っ込んでいく。グランガチたちは、オレより先行する小さな岩石たちを弾くのに手間取っているらしい。
「いい足止めだ、カズハ!」
オレはグランガチたちが立っている氷の床から、めいいっぱいの力を足に込めて飛び上がった。上空から下を見れば氷上に大きなひび割れが入ったのがわかる。
よし、これで終わりだ……!
オレは勝ちを確信しつつ、河岸に立つカズハに視線を向けた。
「カズハ!」
「分かってる!」
オレの呼びかけに応えたカズハは、地面に両手を当て氣術を放つ構えをした。そしてその直後……
『バキィン!』
氷の床が崩れる音がした。
突然足場がぐらつき、グランガチたちは咄嗟に対応を取ることもできず、ただただその現象に身を任せることしかできなかった。
「アイススピア……!」
「ロックスピア……!」
上空に三角錐型の氷柱が六本出現し、グランガチたちの身体目掛けて落下した。これにより、グランガチたちの身体が徐々に凍りつき動きがより制限された。
そしてそこに間髪入れず、三角錐型の岩石が六本、グランガチたちの身体を簡単に貫いた。まるであの硬い皮膚など最初からなかったかのように。
オレの垂直方向からのアイススピアとカズハの水平方向からのロックスピアをまともに食らったグランガチたちは、一様に後ろに倒れ込んだ。
「よっと……」
空中にいたオレは水面へと降り立った。もちろん、降り立った場所は軽く凍りつき、オレが歩くたびにその面積が広がっていった。
「どうー?!そいつら死んだー?」
河岸から大声を出すカズハ。オレは無惨な姿となったグランガチに近づき、その生死を確認する。
氷上は黒く濁った赤い血液で染め上げられていた。
「死んだっぽい!!」
「ナイスー!」
カズハが笑顔でグッチョブサインを出しているのが見える。
いやほんとナイス連携すぎたなー。相性バッチリじゃんか。
「カズハにどんな氣術を使うのか聞いといて正解だったなー。……さてと」
オレは懐からSBを取り出し、青色にしてあるのを確認してからグランガチ計六体を回収した。そしてすぐに河岸にいるカズハのもとへと向かった。
「ナーイス!」
「イェーイ!」
オレたちはハイタッチをしようと腕を掲げ斜め前に振り下ろしたのだが……
『パチッ』
「「ん?」」
オレが左手、カズハが右手を出した結果、オレの手の甲にカズハの右手の手のひらが当たるという、なんともおかしなハイタッチが出来上がってしまった。
「「…………」」
この謎の現象に、オレたちは目をパチパチとさせながら互いを見合わせた。そして……
「「ぷっ……あははははは!」」
お互いに吹き出すように笑い出した。
「な、なんでさっきの連携は完璧だったのに、こんなことで急に気が合わなくなるわけー?」
「はは……ほんとそれなー!」
笑い混じりに言い合うオレとカズハ。ついさっきまで寸分の狂いもない見事な連携だったのに、最後の最後でうまくいかないなんて、面白すぎる。
「私ノアから合図もらって、あ、これは勝ったなーって思ったし、かっこよく決まったー!って思ってたのに……ぷはは。ダメだー、アホすぎて笑えてくるー……!」
「なんでそんなツボに入ってんだよー、カズハ。オレまでつられちまうだろー?」
「……ちょっと待って、今精神統一するから……スゥー……ハァー……オッケー、いける」
大きく深呼吸をしたカズハは、ようやく普段通りに戻ってくれた。
「んんっ。締まりが悪いし、テイクツーやっときますか……」
「あ、それ賛成ー」
オレは剣を鞘にしまい、右手を掲げた。一方のカズハはさっきと同じく右手を掲げている。
「「ナーイス!!」」
『パァッン!』
大きくそれでいて軽やかな音が、何にも阻まれることなく高らかに周囲に鳴り響いた。
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焔の幽閉者!自由を求めて最強への道を歩む!!
雷覇
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とある出来事で自身も所属する焔木一族から幽閉された男「焔木海人」。
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転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
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ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
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アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
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家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
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私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
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魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
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私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
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なぜ、私に関係あるのかしら?
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「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
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※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
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クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
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平凡な村人だと思われていた俺、実は神々が恐れる最強存在でした〜追放されたけど、無自覚チートで気づけば世界の頂点〜
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