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ダスク・ブリガンド編
9 襲来
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side 白髪の少年
帝都アクロポリス西部の森。その入り口付近に聳える木々で横になるひとりの少年。昨日は月明かりの美しかった夜であったが、今日は雲に隠れてしまいその姿を拝むことはできない。そのため森林内部は一段と闇が満ち満ちている。
『カーッカーッ……!』
「……」
硬い木の上で目を閉じ横になっていた少年へ、一羽のカラスが近づいてきた。少年はゆっくりと身体を起こし両手を前に差し出す。するとカラスは迷わずその上に降り立った。その瞬間、カラスの身体から黒く光る粒子が放出され、ついさっきまでカラスであったそれは一通の黒い手紙へと変貌した。
少年は手紙の封を開け、中身を取り出した。そこには新たな指令が羅列されている。
少年は一文字ずつ丁寧に、時間をかけて読み込み、そして気づく。
「………!」
これは悪鬼の指令である、と。
な、なんで……なんでっ……!
少年はおぞましき手紙を強く握りしめた。手紙はくしゃくしゃとその形を変化させる。
「やりたく、ない……」
少年は初めて指令を下された時以上の拒絶の念を、この指令書に感じた。ようやく自身に課された指令が終わり、束の間の休みが入るはずだった矢先にこの追加指令。さらにはターゲットとなる人物が、少年の世界でに二人しか出会えていない、お日様のように暖かく優しい人間だったのだ。
少年は胸に手を当てローブをめいいっぱいの力で握りしめる。ローブには無数のシワができ、少年の腕や拳にはうっすらと筋が入る。
……胸が、苦しい…………。
少年のローブへとポツポツと雫が落ちる。少年は必死に目元を拭き、涙を止めようとする。だがなぜだか涙がとめどなく溢れ、止まらない。
「ふっ……うぅ……ぅ……っ…………」
数分後、少年はようやく心を落ち着かせられた。ローブは濡れてシワも残り、ボロボロ感がさらに増してしまった。だがそんな些細なことを少年は気にも留めない。というよりも、そんなことを気にする余裕などありはしないのだから。
少年は力が抜けたのか、手に握りしめていた手紙を放す。するとその手紙は再びカラスへと変貌した。ただしその形はかなり歪であった。
歪なカラスはどんよりとした雲目掛けて、身体をふらつかせながら飛んでいく。少年はそれを見ながら苦笑する。
「……は、ははっ…………」
みじめだね……きみも…………ぼくも……っ……。
sideノア=オーガスト
「ってわけなんで、トロイメライの予約キャンセルしてもいい?」
「これをキャンセルすると次回は来週以降になりますがそれでもよろしいですか?」
「ああ、それで大丈夫」
「かしこまりました」
リュウを助けると決めてから、オレはその準備に取り掛かった。みんなもできるだけダスクの情報を掴めないかと奮闘してくれている。
トロイメライは今日攻略予定だったけど、この救出作戦のためにキャンセルをした。やりたい気持ちもあるが、今はリュウを救いたいと思う気持ちの方が断然強い。
「あとやれることは……」
「お、いたいた」
「……?」
一階のフリスペースから声のする方へ目を向けると、二階から降りてくる副ギルド長の姿があった。
なんかオレに用事かな……?なんだろ。
「ノア君、それにシン君。久しぶりだな」
「どうも、ミクリヤさん」
「……」
「ちょうど君らを探していたところだ」
「何かあったの?」
「スザンヌさんから頼まれてるんだが……実はスザンヌさんが治療していた患者が数日前にどこかに消えてしまってな。もし見かけたら連れてきてほしいらしい」
患者が行方不明……それはスザンヌさんも心配してるだろうな。
「前から何人かの信頼できる冒険者に声はかけたんだが、誰も見かけた者はいなくてな。それでノアズアークにも頼んでおこうと思って探していたんだ」
「なるほど。そういうことならみんなにも伝えとくよ。その患者さんの特徴ってどんな感じ?」
「少しボロボロの黒いローブを着た小さな子どもだ。髪は珍しい白色だったな。綺麗な髪だったから結構印象に残ってる」
………………ん?
それってもしかしなくてもリュウのことじゃないのか……?!
「あの!その子、どうしてスザンヌさんのとこに?」
ようやく掴めそうなリュウの情報にオレは歓喜した。そもそもリュウはもちろんダスクの情報すらまともに手に入れられてないこの状態で、この話を聞けたのはかなり大きいかもしれない。
「えーっとだな、ある冒険者たちがその子どもが路地で倒れているのを見つけてな。それでスザンヌさんのもとに運んできたんだ」
オレたちがエリクサー探しでようやく辿り着いたあの薬屋ギンプティムを、その冒険者は難なく見つけたのか?あるいは予め知ってたか……。
いやいや、そんなことよりも今はリュウの情報が必要不可欠なことだ。他のことは後回しにしないと。
「スザンヌさんの話によれば、その子はまだ治りきってはいないらしい。もうしばらく安静が必要だというのに、部屋の窓から出て姿を消してしまったそうだ」
リュウは何かしらの持病を持っていて、それを発症したことにより路地裏で倒れてギンプティムまで運ばれた?持病でないなら誰かに襲われたとかか?
……そういえば、初めて会った時もどこかの路地だった気がするな。
「どうしてその子どもは倒れていたんだ?」
どうやらシンもリュウのことを気にしてくれてるみたいだ。シンが誰かに関心を持つなんてめったにないから、オレと同じようにリュウを心配してくれるのはなんだか嬉しいな。
「僕も詳しいことはわからないが、なんでも自身の目への氣の供給過多が原因らしい。こんな症状は初めて見たと、スザンヌさんが言ってたな」
「……!」
氣の供給過多……しかも目なのか……!
このままほっといたらリュウの命に関わる可能性が高い!早く見つけないと!!
オレはシンの手を引き出口の方へと走り出した。
「ありがとな、ミクリヤさん。見つけたらすぐ連絡するよ」
オレとシンはEDENを出てそのまますぐに帝都を出た。帝都内はみんなが回っているはずだから、念のため帝都周辺も探索してみることにした。
陽が落ちる頃までシンと手分けして探し回ってみたけど、結局はリュウを見つけ出すことはできなかった。
当てずっぽうで探してみたとはいえ、リュウを見つけられなかった悔しさを胸に、帝都に戻り宿に着く。宿にはすでにみんな戻っていたらしく、それぞれの成果を聞いてみたけど、有力な情報はミクリヤさんからのものだけだった。
一体どこにいるっていうんだ……リュウ……。
この日はみんな寝床に着くのが早かったように思う。一日中探し歩いたのだから当然のことかもしれない。オレは身体的疲労はなかったけど精神的疲労が蓄積したせいか、秀や湊、シンよりも眠りにつくのが早かった。
明かりが消失した部屋には月明かりが差し込み、暗闇に染まる部屋をうっすらと照らしていた。
side白髪の少年
屋根伝いに移動する影。その速さと機敏さはまるで忍者のようだ。月明かりの美しい雲ひとつない夜空に覆われた、帝都アクロポリス。
一際美しいこの夜景をバックにして、小さな影は目的の場所へと一直線に走り抜けていく。その影から発せられる音は皆無に等しく、誰もこの少年に気づく様子はない。大帝国師団員の目をいとも簡単に掻い潜るその能力には目を見張るものがあるだろう。
しかしながら、少年のその表情はとても今から暗殺を遂行するようなものとは言い難い。なぜならその顔は無表情でもやる気に満ちたものでもなく、ただただ悲しく苦しいといった面持ちなのだから。
少年が足を止めた。そこは中央に正方形の中庭があり、その四方が建物で囲われた宿『花鳥風月』である。少年は少しの間宿の様子を眺めた後、静かに中庭へと降り立った。この中庭は枯山水であり、その上には建物一階の四方をつなぐ渡り廊下が設置されている。
少年はぎっしりと敷かれた砂上を歩き、ターゲットの部屋へとゆっくりと歩を進める。流線が描かれた砂上は小さな足跡によって荒らされてしまっている。これでは誰かが侵入したことは明々白々であるが、今の少年がこのことに気づくことはないだろう。少年はそれほどに、あることで頭がいっぱいなのだから……。
少年は渡り廊下に飛び乗り宿内部へ入ろうとした。だが、ここで少年は冷静になる。この宿はやけに不用心ではないのか、なにか術が施されているのかもしれない、と。
少年は一瞬だけ自身の奥義を使うことにする。これにより、たとえ宿になんらかの術が施されていようとも少年の存在に気づくことはできなくなった。
そして少年は難なく中へと侵入した。少年が入り込んだのは東側の渡り廊下である。ここはターゲットの部屋に一番近い。すでに少年は下調べを済ませていたのだろう。
「……」
少年はそっと障子を開けた。するとそこには眠りにつく四人の姿があった。
いた……。
少年はターゲットに近づく。すぅすぅと穏やかに眠るターゲットの顔を見て、少年は再びズキリと胸が痛くなった。
……ごめん、なさい……!
少年は懐から黒いナイフを取り出し、ターゲットの心臓目掛けてその凶器を振り下ろした。その間少年は目を瞑っていた。
それが仇となったのか、はたまた少年の意識が周囲に向くほど余裕がなかったのか。そのナイフがターゲットの命を刈り取ることはなかった。
『キンッ……トン…』
ナイフを弾く音とそのナイフが畳に落ちた音がした。少年はナイフを飛ばされたためにのけぞる形となったが、すぐさま後方に跳び体勢を整える。少年の前には先ほどまで寝ていたはずの薄水色の髪をした男が立っていた。
「お前……何者だ?」
この問いかけに少年は畳に目線を逸らしたまま黙り込む。暗殺者が名乗るなど普通はありえないのだから当然のことではあるが。
さらにはこの物音でこの部屋にいた四人全員が起きてしまったらしい。
「……あくまで沈黙を貫くつもりか」
少年の目の前に立ち、ターゲットを背にする男は刀を抜き少年へと構えた。そして少年に斬りかかる。少年はひょいとかわしたものの、ギリギリであったためにローブには切り込みが入ってしまった。
「……ほう。ただの暗殺者ではなさそうだ」
少年は焦った。これではターゲットに近づくどころではなくなってしまったのだ。
逃げなきゃ……!
少年は大通り側の障子を破って外へ出ようとする。だがそれが叶うことはなかった。
「……『五芒星之陣』」
少年の足元と頭上に五芒星の図形が現れる。そして少年の周りは半透明の壁ができ、この結界内から出られなくなってしまった。
「わりぃな、クソガキ。俺らの主を殺ろうってんなら……ただじゃおかねぇ。ましてや、逃すわけねぇんだよ」
殺伐としたこの状況下。しかし少年に怯えた様子はない。少年は再び奥義を使った。すると結界内にいたはずの少年の姿は一瞬にして消えてしまった。
「「なっ……!」」
少年は二人が驚いている隙をついて一気にターゲットへと近づいた。逃げることも簡単ではあったが、仮に逃げることができたとしても次はより警護が困難になり、暗殺する機会がなくなってしまう。今、仕留めるしかないのだ。
「シン!落ち着け」
ターゲットの弟はこの場にいる誰よりも殺気を放ちターゲットを守ろうとする。だが、なぜかターゲットは冷静だ。
少年は殺気に怯むことなくナイフでターゲットの首元を切りつけようとする。だがその寸前に腕を掴まれた。少年は混乱のあまり、掴まれた腕を振り解こうとせず、挙句に動けなくなってしまった。
「悪いな。君と同じでオレも特殊な眼を持ってるんだ。オレには君の居場所が丸見えだよ……リュウ」
side ノア=オーガスト
オレは眼の力を解放してリュウを捉えることに成功した。
オレの特殊な眼『黎明之眼』は、全てを見通す。全て、というのをどこまで定義するかの説明はややこしいから飛ばすけど、とりあえずこの眼のおかげでリュウの姿を捉えることができた。
これを持っていないシン、秀、湊にとってはリュウのこの術は脅威だ。なにせリュウの氣や気配どころかその存在自体がなくなったように感じるんだからな。
「リュウ、だよな?」
「……」
リュウはようやくみんなにも見えるように姿を現した。と同時にその手に握っていたナイフを布団へと落とす。
「おいおい。お前だったのかよ。まさかそっちから来てくれるとはなぁ」
「秀、お前ノアを狙われて気が動転したのか」
「そりゃお前も同じだろうが。久々にあんなに殺気立ってるのみたぞ」
「……」
湊は刀を鞘に戻す。
「おい、無視すんなって」
秀も湊と同じで殺気を落ち着かせ、普段通りに戻った。
「シンも殺気を止めろよ。せっかくリュウが来てくれたんだ」
「……わかった」
シンもオレを狙ったのがリュウだとわかり、殺気を収めた。ただ……。
「リュウ。次オレの兄さんを殺そうとするなら、容赦はしない」
「シンの言う通りだ。今回はお前だったから不問ってことにはしとくが、次はねぇぞ」
「……仏の顔も三度までというらしいが、俺たちはそこまで寛容ではない。肝に銘じておけ」
三人ともリュウがオレを狙ったことは許せないらしい。オレは気にしてないってのに。てかむしろあれだけ探したリュウに会えたことが嬉しすぎて、正直そんなことどうでもいいわって感じだ。
「みんな落ち着けって。オレは無事だし何よりリュウに会えたんだからさ。そんなに責めることーーー」
「うぅっ……!」
突然リュウは苦しそうな声を上げながら身体を崩した。そしてオレに全体重をかけて寄りかかる。
「お、おい。リュウ……?リュウ!」
オレはすぐにリュウの体をオレの布団に寝かせた。リュウの呼吸は荒くなり、胸を抑え苦痛に苛まれているその表情はなんとも痛々しかった。
「しっかりしろ!リュウ!!」
帝都アクロポリス西部の森。その入り口付近に聳える木々で横になるひとりの少年。昨日は月明かりの美しかった夜であったが、今日は雲に隠れてしまいその姿を拝むことはできない。そのため森林内部は一段と闇が満ち満ちている。
『カーッカーッ……!』
「……」
硬い木の上で目を閉じ横になっていた少年へ、一羽のカラスが近づいてきた。少年はゆっくりと身体を起こし両手を前に差し出す。するとカラスは迷わずその上に降り立った。その瞬間、カラスの身体から黒く光る粒子が放出され、ついさっきまでカラスであったそれは一通の黒い手紙へと変貌した。
少年は手紙の封を開け、中身を取り出した。そこには新たな指令が羅列されている。
少年は一文字ずつ丁寧に、時間をかけて読み込み、そして気づく。
「………!」
これは悪鬼の指令である、と。
な、なんで……なんでっ……!
少年はおぞましき手紙を強く握りしめた。手紙はくしゃくしゃとその形を変化させる。
「やりたく、ない……」
少年は初めて指令を下された時以上の拒絶の念を、この指令書に感じた。ようやく自身に課された指令が終わり、束の間の休みが入るはずだった矢先にこの追加指令。さらにはターゲットとなる人物が、少年の世界でに二人しか出会えていない、お日様のように暖かく優しい人間だったのだ。
少年は胸に手を当てローブをめいいっぱいの力で握りしめる。ローブには無数のシワができ、少年の腕や拳にはうっすらと筋が入る。
……胸が、苦しい…………。
少年のローブへとポツポツと雫が落ちる。少年は必死に目元を拭き、涙を止めようとする。だがなぜだか涙がとめどなく溢れ、止まらない。
「ふっ……うぅ……ぅ……っ…………」
数分後、少年はようやく心を落ち着かせられた。ローブは濡れてシワも残り、ボロボロ感がさらに増してしまった。だがそんな些細なことを少年は気にも留めない。というよりも、そんなことを気にする余裕などありはしないのだから。
少年は力が抜けたのか、手に握りしめていた手紙を放す。するとその手紙は再びカラスへと変貌した。ただしその形はかなり歪であった。
歪なカラスはどんよりとした雲目掛けて、身体をふらつかせながら飛んでいく。少年はそれを見ながら苦笑する。
「……は、ははっ…………」
みじめだね……きみも…………ぼくも……っ……。
sideノア=オーガスト
「ってわけなんで、トロイメライの予約キャンセルしてもいい?」
「これをキャンセルすると次回は来週以降になりますがそれでもよろしいですか?」
「ああ、それで大丈夫」
「かしこまりました」
リュウを助けると決めてから、オレはその準備に取り掛かった。みんなもできるだけダスクの情報を掴めないかと奮闘してくれている。
トロイメライは今日攻略予定だったけど、この救出作戦のためにキャンセルをした。やりたい気持ちもあるが、今はリュウを救いたいと思う気持ちの方が断然強い。
「あとやれることは……」
「お、いたいた」
「……?」
一階のフリスペースから声のする方へ目を向けると、二階から降りてくる副ギルド長の姿があった。
なんかオレに用事かな……?なんだろ。
「ノア君、それにシン君。久しぶりだな」
「どうも、ミクリヤさん」
「……」
「ちょうど君らを探していたところだ」
「何かあったの?」
「スザンヌさんから頼まれてるんだが……実はスザンヌさんが治療していた患者が数日前にどこかに消えてしまってな。もし見かけたら連れてきてほしいらしい」
患者が行方不明……それはスザンヌさんも心配してるだろうな。
「前から何人かの信頼できる冒険者に声はかけたんだが、誰も見かけた者はいなくてな。それでノアズアークにも頼んでおこうと思って探していたんだ」
「なるほど。そういうことならみんなにも伝えとくよ。その患者さんの特徴ってどんな感じ?」
「少しボロボロの黒いローブを着た小さな子どもだ。髪は珍しい白色だったな。綺麗な髪だったから結構印象に残ってる」
………………ん?
それってもしかしなくてもリュウのことじゃないのか……?!
「あの!その子、どうしてスザンヌさんのとこに?」
ようやく掴めそうなリュウの情報にオレは歓喜した。そもそもリュウはもちろんダスクの情報すらまともに手に入れられてないこの状態で、この話を聞けたのはかなり大きいかもしれない。
「えーっとだな、ある冒険者たちがその子どもが路地で倒れているのを見つけてな。それでスザンヌさんのもとに運んできたんだ」
オレたちがエリクサー探しでようやく辿り着いたあの薬屋ギンプティムを、その冒険者は難なく見つけたのか?あるいは予め知ってたか……。
いやいや、そんなことよりも今はリュウの情報が必要不可欠なことだ。他のことは後回しにしないと。
「スザンヌさんの話によれば、その子はまだ治りきってはいないらしい。もうしばらく安静が必要だというのに、部屋の窓から出て姿を消してしまったそうだ」
リュウは何かしらの持病を持っていて、それを発症したことにより路地裏で倒れてギンプティムまで運ばれた?持病でないなら誰かに襲われたとかか?
……そういえば、初めて会った時もどこかの路地だった気がするな。
「どうしてその子どもは倒れていたんだ?」
どうやらシンもリュウのことを気にしてくれてるみたいだ。シンが誰かに関心を持つなんてめったにないから、オレと同じようにリュウを心配してくれるのはなんだか嬉しいな。
「僕も詳しいことはわからないが、なんでも自身の目への氣の供給過多が原因らしい。こんな症状は初めて見たと、スザンヌさんが言ってたな」
「……!」
氣の供給過多……しかも目なのか……!
このままほっといたらリュウの命に関わる可能性が高い!早く見つけないと!!
オレはシンの手を引き出口の方へと走り出した。
「ありがとな、ミクリヤさん。見つけたらすぐ連絡するよ」
オレとシンはEDENを出てそのまますぐに帝都を出た。帝都内はみんなが回っているはずだから、念のため帝都周辺も探索してみることにした。
陽が落ちる頃までシンと手分けして探し回ってみたけど、結局はリュウを見つけ出すことはできなかった。
当てずっぽうで探してみたとはいえ、リュウを見つけられなかった悔しさを胸に、帝都に戻り宿に着く。宿にはすでにみんな戻っていたらしく、それぞれの成果を聞いてみたけど、有力な情報はミクリヤさんからのものだけだった。
一体どこにいるっていうんだ……リュウ……。
この日はみんな寝床に着くのが早かったように思う。一日中探し歩いたのだから当然のことかもしれない。オレは身体的疲労はなかったけど精神的疲労が蓄積したせいか、秀や湊、シンよりも眠りにつくのが早かった。
明かりが消失した部屋には月明かりが差し込み、暗闇に染まる部屋をうっすらと照らしていた。
side白髪の少年
屋根伝いに移動する影。その速さと機敏さはまるで忍者のようだ。月明かりの美しい雲ひとつない夜空に覆われた、帝都アクロポリス。
一際美しいこの夜景をバックにして、小さな影は目的の場所へと一直線に走り抜けていく。その影から発せられる音は皆無に等しく、誰もこの少年に気づく様子はない。大帝国師団員の目をいとも簡単に掻い潜るその能力には目を見張るものがあるだろう。
しかしながら、少年のその表情はとても今から暗殺を遂行するようなものとは言い難い。なぜならその顔は無表情でもやる気に満ちたものでもなく、ただただ悲しく苦しいといった面持ちなのだから。
少年が足を止めた。そこは中央に正方形の中庭があり、その四方が建物で囲われた宿『花鳥風月』である。少年は少しの間宿の様子を眺めた後、静かに中庭へと降り立った。この中庭は枯山水であり、その上には建物一階の四方をつなぐ渡り廊下が設置されている。
少年はぎっしりと敷かれた砂上を歩き、ターゲットの部屋へとゆっくりと歩を進める。流線が描かれた砂上は小さな足跡によって荒らされてしまっている。これでは誰かが侵入したことは明々白々であるが、今の少年がこのことに気づくことはないだろう。少年はそれほどに、あることで頭がいっぱいなのだから……。
少年は渡り廊下に飛び乗り宿内部へ入ろうとした。だが、ここで少年は冷静になる。この宿はやけに不用心ではないのか、なにか術が施されているのかもしれない、と。
少年は一瞬だけ自身の奥義を使うことにする。これにより、たとえ宿になんらかの術が施されていようとも少年の存在に気づくことはできなくなった。
そして少年は難なく中へと侵入した。少年が入り込んだのは東側の渡り廊下である。ここはターゲットの部屋に一番近い。すでに少年は下調べを済ませていたのだろう。
「……」
少年はそっと障子を開けた。するとそこには眠りにつく四人の姿があった。
いた……。
少年はターゲットに近づく。すぅすぅと穏やかに眠るターゲットの顔を見て、少年は再びズキリと胸が痛くなった。
……ごめん、なさい……!
少年は懐から黒いナイフを取り出し、ターゲットの心臓目掛けてその凶器を振り下ろした。その間少年は目を瞑っていた。
それが仇となったのか、はたまた少年の意識が周囲に向くほど余裕がなかったのか。そのナイフがターゲットの命を刈り取ることはなかった。
『キンッ……トン…』
ナイフを弾く音とそのナイフが畳に落ちた音がした。少年はナイフを飛ばされたためにのけぞる形となったが、すぐさま後方に跳び体勢を整える。少年の前には先ほどまで寝ていたはずの薄水色の髪をした男が立っていた。
「お前……何者だ?」
この問いかけに少年は畳に目線を逸らしたまま黙り込む。暗殺者が名乗るなど普通はありえないのだから当然のことではあるが。
さらにはこの物音でこの部屋にいた四人全員が起きてしまったらしい。
「……あくまで沈黙を貫くつもりか」
少年の目の前に立ち、ターゲットを背にする男は刀を抜き少年へと構えた。そして少年に斬りかかる。少年はひょいとかわしたものの、ギリギリであったためにローブには切り込みが入ってしまった。
「……ほう。ただの暗殺者ではなさそうだ」
少年は焦った。これではターゲットに近づくどころではなくなってしまったのだ。
逃げなきゃ……!
少年は大通り側の障子を破って外へ出ようとする。だがそれが叶うことはなかった。
「……『五芒星之陣』」
少年の足元と頭上に五芒星の図形が現れる。そして少年の周りは半透明の壁ができ、この結界内から出られなくなってしまった。
「わりぃな、クソガキ。俺らの主を殺ろうってんなら……ただじゃおかねぇ。ましてや、逃すわけねぇんだよ」
殺伐としたこの状況下。しかし少年に怯えた様子はない。少年は再び奥義を使った。すると結界内にいたはずの少年の姿は一瞬にして消えてしまった。
「「なっ……!」」
少年は二人が驚いている隙をついて一気にターゲットへと近づいた。逃げることも簡単ではあったが、仮に逃げることができたとしても次はより警護が困難になり、暗殺する機会がなくなってしまう。今、仕留めるしかないのだ。
「シン!落ち着け」
ターゲットの弟はこの場にいる誰よりも殺気を放ちターゲットを守ろうとする。だが、なぜかターゲットは冷静だ。
少年は殺気に怯むことなくナイフでターゲットの首元を切りつけようとする。だがその寸前に腕を掴まれた。少年は混乱のあまり、掴まれた腕を振り解こうとせず、挙句に動けなくなってしまった。
「悪いな。君と同じでオレも特殊な眼を持ってるんだ。オレには君の居場所が丸見えだよ……リュウ」
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オレは眼の力を解放してリュウを捉えることに成功した。
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これを持っていないシン、秀、湊にとってはリュウのこの術は脅威だ。なにせリュウの氣や気配どころかその存在自体がなくなったように感じるんだからな。
「リュウ、だよな?」
「……」
リュウはようやくみんなにも見えるように姿を現した。と同時にその手に握っていたナイフを布団へと落とす。
「おいおい。お前だったのかよ。まさかそっちから来てくれるとはなぁ」
「秀、お前ノアを狙われて気が動転したのか」
「そりゃお前も同じだろうが。久々にあんなに殺気立ってるのみたぞ」
「……」
湊は刀を鞘に戻す。
「おい、無視すんなって」
秀も湊と同じで殺気を落ち着かせ、普段通りに戻った。
「シンも殺気を止めろよ。せっかくリュウが来てくれたんだ」
「……わかった」
シンもオレを狙ったのがリュウだとわかり、殺気を収めた。ただ……。
「リュウ。次オレの兄さんを殺そうとするなら、容赦はしない」
「シンの言う通りだ。今回はお前だったから不問ってことにはしとくが、次はねぇぞ」
「……仏の顔も三度までというらしいが、俺たちはそこまで寛容ではない。肝に銘じておけ」
三人ともリュウがオレを狙ったことは許せないらしい。オレは気にしてないってのに。てかむしろあれだけ探したリュウに会えたことが嬉しすぎて、正直そんなことどうでもいいわって感じだ。
「みんな落ち着けって。オレは無事だし何よりリュウに会えたんだからさ。そんなに責めることーーー」
「うぅっ……!」
突然リュウは苦しそうな声を上げながら身体を崩した。そしてオレに全体重をかけて寄りかかる。
「お、おい。リュウ……?リュウ!」
オレはすぐにリュウの体をオレの布団に寝かせた。リュウの呼吸は荒くなり、胸を抑え苦痛に苛まれているその表情はなんとも痛々しかった。
「しっかりしろ!リュウ!!」
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独身おじさんの異世界おひとりさまライフ〜金や評価は要りません。コーヒーとタバコ、そして本があれば最高です〜
旅する書斎(☆ほしい)
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ブラック企業で身も心もすり減らした相馬蓮司(42歳)。
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「……うまい珈琲と煙草があれば、それでいい」
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家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
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本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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