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レグルス編
26 スターライト連続誘拐事件Ⅵ
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side ノア=オーガスト
「ははっ……絆されちまったからなんだろうな……」
なぜ、あんなクズに従っているのか。それが分からなくて、無様にも血を流して倒れ伏したまま聞いてみれば、困ったような笑いが返ってきた。
「お前を殺すことになるなんて、本当に残念だ。じゃあな、ノア」
そんな言葉をかけ、カナタは俺との関係を完全に断ち切ろうとした。
そんなのオレは望んでないってーの。それに……まだ終わってないぞ……!!
オレは倒れながらも懸命に練った氣を、身体中から一気に放出した。
「くぅっっ!」
突如発生した氣の風圧に、カナタは剣を振り下ろしたまま抗っている。そんな声が聞こえた。
こんな使い方、氣の浪費がハンパじゃないけど、この場を切り抜けられるならなんでもいい!これは殺し合いじゃないんだ。
オレは血を垂らしながらゆっくりと立ち上がり、状態を曲げたままで風圧に押されて震える剣を掴んだ。
掴んだ手に纏った氣とカナタの剣が纏う氣が反発し合う。ただ、さすがに互角とはいかず、オレの手のひらに傷が次々に増え、赤く染まっていく。
「……オレはまだ、カナタと友達らしいこと、なんもできてないぞ!!」
オレはガバッと顔を上げ、声を張り上げた。カナタは心底困惑しているようだった。
「はぁ?お前この状況で何言って……どわぁ!」
その隙を狙い、オレは空いた手で拳をつくり、腹目掛けて力いっぱい殴った。これにはカナタも十分な防御は取れず、後方の木々に音を立てて背中をぶつけた。
「いててっ!」
オレは思わず握っていたカナタの剣を離す。濃密な氣を放つその剣はなんなく地面に落ち、そしてその氣は跡形もなく霧散した。
手のひらを見れば、案の定見るに耐えない状態になっていた。切り傷もそうだが、まるで火傷でもしたかのように爛れてしまっている。
「こりゃ酷いなぁ……」
なんとなく、軽く指を曲げようとしてみる。
「……っ!!」
やっぱり声にならない痛みが走った。
神仙族がいくら強くても、痛みは感じる。それにオレはこの世界の人たちと比べて穏やかな世界で生きてきた。本当の命の奪い合いなんてしたことがない。まして、同じ人間同士だなんてなおさらだ。
「こんなの、何の意味があるんだよ……」
オレはカナタとこんなことはしたくない……!
オレは手を下ろし、必死に立ちあがろうとしているカナタに目を向けた。カナタもオレ同様、満身創痍に見えた。
「はぁはぁ、はぁ、はぁ……っ……」
カナタが片手を前に出した。
「カナタ、これ以上オレたちが争う意味なんてーーー」
「エアロ・サイクロン……!」
その言葉を皮切りに、竜巻のような旋風がオレを襲った。オレは痛みを訴える身体に鞭を打ち、なんとか横に走り出す。手をこっちに向けた時点で、攻撃が来るのは分かっていた。
とはいえ、このスピードじゃ避けきれない……!
「……くぅ!!」
オレは風の刃が当たる寸前、足に力を入れバネのようにして横にジャンプした。ごろごろと軽く地面を転がっていく。どうにかすぐに立ち上がり、元いた場所を見れば、無惨にも地面には切り裂かれた跡が幾重もあった。
このままじゃ、どっちかは確実に死ぬ……!
「カナタ!聞いてくれ!この戦い、オレの負けでいい。だからこんなことはもうーーー」
「なに、甘っちょろいこと言ってんだ!ノアぁ!!」
カナタはいつのまにか取り戻していたあの剣を構えて、オレに向かって走ってきた。それに対してオレは対抗手段がないため、振り下ろされる剣に合わせてかわしていくことしかできない。
幸いなことに、カナタもオレと同じく弱っているため、動きはかなり鈍い。これなら普通の人よりも身体的能力が高い神仙族に分がある。それにネームド武器相手でもなんとかなってる。
「なんで分かってくれないんだ!カナタ!」
「今更終われるわけねぇだろが。俺はあいつのためにやらなきゃなんねぇんだよ!!」
声を張り上げながら、剣が乱舞する。その悲痛な声と表情に、身体に走る痛み以上に胸が痛くなった。
「……!」
剣が頬を掠める。パックリと割れた傷口から血が流れ出す。そして、そんなことを気にする暇もなく剣撃の嵐は続いた。
……これ以上は埒があかない。
クソッ……!
「死ぬなよ!カナタ……!!」
オレは剣撃が降り注ぐ中、隙を見て右手を前に突き出した。
『アイシクル・ストリーム……!」
オレはこれが最後の一撃だと言わんばかりに、一度目と同等の威力で上級氣術を放った。
「……っっ!!!」
歪な氷の塊の群勢が渦状に回転し、剣を振るっていたカナタを襲った。ゴオォッとけたたましい音を立て、さらには地面をも削っている。そして進路上の障害物を、根こそぎズタズタにするかのように、氷の竜巻が突き進んでいった。
オレはさっきとは違ってこの惨状を気に止めることはせず、吹き飛んでいったカナタの後を追った。足場は最悪だが、氣を練り続けながらそれを身体中に巡らることで、いつも通りの動きに見せかけることに成功した。とはいえこの集中が切れたら、全く動けなくなりそうだ。
「……こんなに心が痛い戦いは、生まれて初めてだ」
オレはそう呟きながら、飛ばされた勢いのまま木にぶつかって落ちるカナタを見る。
オレの氣術で森が開けた。ここはもともと戦っていた最初の場所だった。屋敷の周りがあられもない姿になっているのは、きっとカイトさんとリオン、シンの二人が激闘を繰り広げた結果なんだろう。
そして開けた場所へと足を踏み入れれば、ふらついたカイトさんがカナタへ近づこうとする姿が目に映った。
みんな、ボロボロじゃんか……。
「もう諦めてくれよ、カナタ」
心から……心から、そう願った。
「……ぅう……俺は、まだ……っ!」
傷だらけ、血だらけのはずなのに、それでもカナタは起き上がろうとする。だが、力が入らなかったんだろう。足を踏み外したかのように、カナタの身体は前に倒れ込んだ。
「カナタ、様!」
だが地面に身体を打ちつけることはなく、カイトさんが全身で受け止めていた。
「もう、十分です。王が騎士よりも先に死ぬなど、私は決して許しません」
「……は、なせ、カイト……俺が、やんなきゃなんねぇんだ……じゃねぇと、あいつは……!!」
「カナタ様……」
カイトに寄りかかるのが精一杯のはずのカナタは、必死の形相でカイトさんの肩口から手を伸ばしていた。
「兄さん。平気か?」
「あ……シンか。まあ、なんとかな。……そっちはどうやら和解できたみたいだな」
なんとなく、怪我の具合がひどい右手を後ろに隠す。
「ガル!」
「がる……?」
なんだろう、動物の鳴き声が下の方から聞こえたような……?
オレは不思議に思い、視線を落とした。するとそこには美しい金模様の入った黒い狼がいた。
「え……?」
この狼は一体どこから湧いてきたんだ?
オレは混乱して視線を彷徨わせた。
「あれ……?リオンはどこにいったんだ?」
「ここだ、兄さん」
「ふぇ?」
ここだ、と言いながら黒い狼の頭をひと撫でしたシン。
んんんん?????
「この狼が、なんだって?」
「こいつがリオン。どうやら狼の亜人だというのは本当だったらしい」
「…………」
オレは静かに目をパチパチとさせた。
いや、そんな冷静に言われてもよ。
でもよく見れば、赤と紫のオッドアイをしている。子どもの頃と変わらないこのかっこいい目は、紛れもなくリオンのものだ。
「そっか……あ……」
オレは頑張ったリオンの頭を撫でようとして利き手を少し前に出したが、はっとしてすぐに左手に切り替えた。
「えと……よく頑張ったな、リオン。えらいなぁ」
しゃがんで目線を合わせ、リオンの頭をなでなでする。するとリオンは「ガルルルッ!」と嬉しそうに喉を鳴らした。
……にしても、全身が痛い。
「カナタ様!」
「っう"ぁ……!」
カイトさんの声が響いた。これにはこの場にいる全員が注目せざるを得ない。見ればカナタがカイトさんの制止を振り切って、オレの方へとゆっくりと近づいていた。
足を引きずりながら、それでも歩みを止めない。そしてその目は何かしらの強すぎる執念に満ちていた。
「もうやめろって、カナタ!」
「…………」
そう呼びかけても、カナタが止まることはない。
「海、行くんだろ!カイトさんと……クロエって子とさ!!」
「なっ……?!」
カナタが足を止めた。それはもう、目をまんまるにして。
「あの時、言ってたじゃんか。あいつに……クロエに海を見せてやりたいって!」
『もしその不自由が自由になったら、二人は何したいんだ?』
『『……!』』
オレが主催した慰労パーティー。その時こうオレが問いかけたら、二人ははっとした顔をしていた。
『……カナタ様は何かありますか?』
『あー、そうだなー…………久々に、海行きてぇなぁ』
『いいじゃん、それ。オレもまだ行ったことないんだよなー』
『いいですね、海……』
『だろ?あいつも見てみてぇって言ってたしよ』
『ん?あいつって?』
『あ、いや……』
そうカナタが言い淀んだ後に、カイトさんが『あいつ』についての説明を軽くしてくれたけど、どうも怪しかったのだ。
「……見抜かれてた、のかよ」
「バレバレだっつーの」
「そうかよ…………ハハ……」
どこか諦めたような、それでいてどこか憑き物が落ちたような、そんな弱々しい笑い声が聞こえた。そして同時に、執着で濁った目に光が宿った気がした。
「……すぅ……ふぅ……」
カナタは夜空を見上げながら軽く深呼吸をする。そしてオレに向き直った。
「ひとつ、聞いてもいいか」
「ああ、もちろん」
「願いは、届かなかった……そういうことなんだよな……?」
「その答え、オレじゃ正確なことは出せない。だけどーーー」
「俺になら完璧な解答を用意できるぜ?カナタ」
オレが言葉を言い切る前に、聞き馴染みのある声が背後から聞こえてきた。振り向く前にカナタと、そしてその横に並んだカイトさんの表情を見た。
最初は……驚き。その直後、涙を一粒流し、そして笑った。その涙の笑顔は、今まで見てきたどんな表情よりも晴れやかで心地いいものだった。
ああ、オレはずっと、これを待ってたんだよ。
side カナタ
「なんで止めたんだよ!カイト!」
俺はあの胸糞悪い屋敷から出ていつも寝泊まりする部屋に戻ってすぐ、カイトに不満をぶちまけ始めた。俺はベッドの端に座り、カイトは窓際に立って寄りかかっている。
もう我慢の限界だった。
「……先を見据えてのことです」
カイトは視線を落としながら、小さくそう答えた。
「先だと?ハハ……この地獄に終わりが来ると、お前は本気でそう思ってんのかよ」
「…………」
「チッ。だんまりかよ」
「……まずは落ち着きましょう。落ち着いてからまた今後の動きを考えてーーー」
「俺たちはいつまで、あのクズどもの言いなりにならなきゃいけねぇんだ!クソが!!」
『ドンッ!』
俺は近くにあった白い枕を正面の壁にぶん投げた。そして額に手を当て身体をまるめる。
もどかしく苦しい感情がどうしようもなく溢れ出てくる。
「……カナタ様の気持ちは痛いほどわかっています。私もこれ以上あの人たち従いたくはありません。ですが、まずはいつもの冷静なカナタ様に戻っていただかなければーーー」
「俺が落ち着こうが冷静になろうがもう関係ねぇだろ!俺たちは取り返しのつかねぇとこまで来ちまったんだ!!」
「それは……」
俺はガバッと顔を上げ、カイトを睨みつけた。カイトも俺と同じ被害者であり加害者だというのに。
「もう何人もの子どもを連れ去った!多くの家族を不幸にした!俺たちの我儘のせいでな!!」
「カナタ様……」
カイトの同情の眼差しが、やけに胸に刺さった。
「もう限界なんだよ、俺は……」
罪悪感と申し訳なさで心がどうにかなっちまう。
誰が好き好んで無垢な子どもたちを誘拐するんだ……!
「……もう終わらせるしかない」
「終わらせるとは一体何を……?」
「この地獄をだ。その元凶を俺たちの手で消し去るんだよ。俺たちが始めたこの絶望は、俺たち自身が終止符を打つしかない。……俺は何か間違ったことは言ってるか?カイト」
「……いえ。決して間違ってなどおりません、カナタ様。ですが、先ほど述べたように私たちの行動は常にやつら……ノートリアスに監視されています。妙な動きをすればあの子はーーー」
「わかってんだよ!んなことは!だがな、このままズルズルと流されてたら、この国の奴らもあいつも救われねぇ……!」
「……カナタ。ひとつ、僕の考えを述べてもいいかな」
カイトの真剣な眼差しが激昂する俺を射抜く。
「なんだ急に。昔の口調にして俺を説得しようとしても無駄だぞ」
「そうじゃない。僕は今、カナタの親友として話したいんだ。騎士としてだったら、今カナタがやろうとしていることを僕は全力で止めなければならない。どんな脅威からも王を守ることが騎士の務めだから」
「……何が言いたいんだ」
「ノアズアークに、助けを求めるのはどうかなと、なんとなくそう思ったんだ」
「ノアたちに……?」
『何かあったらオレたちノアズアークに気軽に声かけてくれよな!ここにいる間はいつでも力になるからさ!』
『お前ら俺らよりランク低いのにか?』
『ランクがどうとか関係ないっつーの。オレが二人ともっと仲良くしたいだけだから』
『んだよ、それ……。ま、気が向いたらな』
桃兎を捕まえるとかいう、訳のわからない依頼で一緒になったパーティ。それがノアズアークだった。
「……一理ある。あいつら、Cランクパーティにしては優秀だった」
「それに、信頼できる。一度ともにしたからこそ、僕はそう言えると思う。カナタは?」
実力は申し分ない。リーダーのノアは、仲間を大事にするタイプの奴で、かなりお人好しに見えた。別れ際にあんなことをほざく奴なんざ、今まで一度も会ったことがない。
「……ああ。むしろそれしかないとまで思えてきた」
「だけど問題は、どう伝えるか、だよね」
「ああ。言葉で伝えるのは論外。どこに監視の目があるかわからねぇからな」
この部屋だけは阻害系の結界が張られているため、会話内容が外に漏れることはまずない。だがこの部屋に誰かを連れてくれば、間違いなく怪しまれる。
「いかに怪しまれずに自然に伝えるかが問題になるね」
「……俺に考えがある」
「それは一体……?」
「悪いがお前にも方法は教えない。念には念を、だ」
「……分かった。王であり親友である君を信じるよ」
「ああ。ありがとな。ただちょっと小芝居はするかもしれねぇから、そん時はきっちり合わせてくれよ」
「ああ……!」
そう決意を固めてからほどなくして、なぜかEDENでパーティが開かれることになった。そしてそれに俺たちも参加することになった。なんのパーティかと思えば、連続誘拐事件に奔走した冒険者たちへの慰労が目的だった。
そこで俺たちは、指示役の無精髭の男が逮捕されることを知った。その前に何やらノアからクロエについて詮索されはしたが、明確に答えはしなかった。
いずれにせよ、俺はあのクソ野郎が捕まったことがたまらなく嬉しくなり、つい興奮してしまった。
「カイト。今ならあのことをーーー」
ノアに言ってもいいんじゃないか?
俺は無意識に、小芝居などではなく本気でそう口走りそうになった。
「いえダメです。あの時私が言ったことを忘れましたか」
「チッ……クソッタレが」
俺はカイトの諫言につい嫌気が差し、唇を噛んだ。これは本心からの言葉だったが、あの作戦を思い出し、俺は唐突に空の皿を持って立ち上がった。
「カナタ様?一体どちらに?」
「飯の追加だ。食ってねぇとやってらんねぇっつーの」
「それならオレがーーー」
「いい。料理人に直々に作ってもらう」
そうぶっきらぼうに言葉を投げつけて、俺は厨房へと向かった。
「なあシェフ。ちょっとここ借りてもいいか?」
入るや否や、俺はとりあえず料理長っぽい見た目の、髭を生やした中年の男に話しかけた。
「なんだ、突然。そもそも一般のやつはここには立ち入り禁止だぞ」
「まあまあ。毒を入れにきたってわけじゃねぇんだ。ちょっと厨房を貸してくれや。俺じゃなきゃ作れねぇ特製の料理があんだよ。それが今、食いたくなってな」
「……俺たちの料理じゃ満足できなかったと?」
そう低い声が耳に届けば、他の料理人たちも視線をこっちに向けてきた。料理の手は止まってはいないが、明らかに俺を気にしているのがわかる。
「まあ確かに、こんなこと言われちゃ、料理人のプライドってもんが許さねぇよな。けど別にあんたらの料理に嫌気が差したわけじゃねぇんだわ。……ちょっと故郷の味ってのを、無性に食べたくてな……」
「……好きにしな」
「いいんですか、料理長?!俺たちの領域をどこの馬の骨ともわからないやつに踏み荒らされて……」
「俺たちには絶対にこの男の心を満たせる味は出せない。俺たちは客を満足させるために、笑顔にするためにこの仕事をやってんだろ」
「……はい」
「こいつも客のひとりだ。なら、好きにさせてやるしかないだろ」
いい料理長だな。道理でここのフードサービスはうまいもんばっかり出る。
「無理言ってわるいな」
「いや……ただし作った後は隅々までピカピカにしろ。それが貸してやる条件だ」
んなもんお安いご用ってもんだ。
「了解だ」
「おい、そっち空けてやれ」
早速料理長の指示で空いたスペースに向かう。さっきまで使われていたはずの調理台は、新品同様に光を反射していた。
「さてと……」
俺は調理器具や食材をテキトーに取り出し、料理を始めた。
何作ればいいかひとつもわかんねぇけど、俺の目的はこれじゃねぇからな。ここにいる奴らには悪いが、ちょいと利用させてもらう。
材料をテキトーに切って鍋に入れ、テキトーに煮込む。味付けも目分量でやったが、まあ食えればなんでもいいだろ。
要は周りからは料理をしているように見えればいい。
鍋を煮込む間、俺は懐から紙とペンを取り出した。紙にはすでに俺たちが可能な限り集めた、ノートリアスの拠点と思われる大まかな場所について記載してある。その紙の余白に、軽くメッセージを残す。
これで良し。
こうして俺は準備を整えた後、調理台を綺麗にしてから会場へと戻った。テキトー料理を食ったり、食器類を片付けたりで遅くなった結果、戻った頃にはほとんどの奴がぐーすか寝ていた。
邪魔だなぁ。
床で寝こけているやつも多く、足場の悪い中さっきまで座っていたテーブルへと辿り着いた。
「ようやくお戻りになったのですね」
「悪いな。小芝居がすぎたわ」
視線をカイトから、テーブルに突っ伏しているノアに移す。
「頼むぞ、ノアズアーク。お前らは俺たちに残された最後の希望なんだ……」
俺はコースターの下に折った紙を忍ばせた。そしてぐっすりと眠るノアの肩を、ポンッと軽く叩く。
身勝手で情けないこの願い、こいつならきっと……。
「ははっ……絆されちまったからなんだろうな……」
なぜ、あんなクズに従っているのか。それが分からなくて、無様にも血を流して倒れ伏したまま聞いてみれば、困ったような笑いが返ってきた。
「お前を殺すことになるなんて、本当に残念だ。じゃあな、ノア」
そんな言葉をかけ、カナタは俺との関係を完全に断ち切ろうとした。
そんなのオレは望んでないってーの。それに……まだ終わってないぞ……!!
オレは倒れながらも懸命に練った氣を、身体中から一気に放出した。
「くぅっっ!」
突如発生した氣の風圧に、カナタは剣を振り下ろしたまま抗っている。そんな声が聞こえた。
こんな使い方、氣の浪費がハンパじゃないけど、この場を切り抜けられるならなんでもいい!これは殺し合いじゃないんだ。
オレは血を垂らしながらゆっくりと立ち上がり、状態を曲げたままで風圧に押されて震える剣を掴んだ。
掴んだ手に纏った氣とカナタの剣が纏う氣が反発し合う。ただ、さすがに互角とはいかず、オレの手のひらに傷が次々に増え、赤く染まっていく。
「……オレはまだ、カナタと友達らしいこと、なんもできてないぞ!!」
オレはガバッと顔を上げ、声を張り上げた。カナタは心底困惑しているようだった。
「はぁ?お前この状況で何言って……どわぁ!」
その隙を狙い、オレは空いた手で拳をつくり、腹目掛けて力いっぱい殴った。これにはカナタも十分な防御は取れず、後方の木々に音を立てて背中をぶつけた。
「いててっ!」
オレは思わず握っていたカナタの剣を離す。濃密な氣を放つその剣はなんなく地面に落ち、そしてその氣は跡形もなく霧散した。
手のひらを見れば、案の定見るに耐えない状態になっていた。切り傷もそうだが、まるで火傷でもしたかのように爛れてしまっている。
「こりゃ酷いなぁ……」
なんとなく、軽く指を曲げようとしてみる。
「……っ!!」
やっぱり声にならない痛みが走った。
神仙族がいくら強くても、痛みは感じる。それにオレはこの世界の人たちと比べて穏やかな世界で生きてきた。本当の命の奪い合いなんてしたことがない。まして、同じ人間同士だなんてなおさらだ。
「こんなの、何の意味があるんだよ……」
オレはカナタとこんなことはしたくない……!
オレは手を下ろし、必死に立ちあがろうとしているカナタに目を向けた。カナタもオレ同様、満身創痍に見えた。
「はぁはぁ、はぁ、はぁ……っ……」
カナタが片手を前に出した。
「カナタ、これ以上オレたちが争う意味なんてーーー」
「エアロ・サイクロン……!」
その言葉を皮切りに、竜巻のような旋風がオレを襲った。オレは痛みを訴える身体に鞭を打ち、なんとか横に走り出す。手をこっちに向けた時点で、攻撃が来るのは分かっていた。
とはいえ、このスピードじゃ避けきれない……!
「……くぅ!!」
オレは風の刃が当たる寸前、足に力を入れバネのようにして横にジャンプした。ごろごろと軽く地面を転がっていく。どうにかすぐに立ち上がり、元いた場所を見れば、無惨にも地面には切り裂かれた跡が幾重もあった。
このままじゃ、どっちかは確実に死ぬ……!
「カナタ!聞いてくれ!この戦い、オレの負けでいい。だからこんなことはもうーーー」
「なに、甘っちょろいこと言ってんだ!ノアぁ!!」
カナタはいつのまにか取り戻していたあの剣を構えて、オレに向かって走ってきた。それに対してオレは対抗手段がないため、振り下ろされる剣に合わせてかわしていくことしかできない。
幸いなことに、カナタもオレと同じく弱っているため、動きはかなり鈍い。これなら普通の人よりも身体的能力が高い神仙族に分がある。それにネームド武器相手でもなんとかなってる。
「なんで分かってくれないんだ!カナタ!」
「今更終われるわけねぇだろが。俺はあいつのためにやらなきゃなんねぇんだよ!!」
声を張り上げながら、剣が乱舞する。その悲痛な声と表情に、身体に走る痛み以上に胸が痛くなった。
「……!」
剣が頬を掠める。パックリと割れた傷口から血が流れ出す。そして、そんなことを気にする暇もなく剣撃の嵐は続いた。
……これ以上は埒があかない。
クソッ……!
「死ぬなよ!カナタ……!!」
オレは剣撃が降り注ぐ中、隙を見て右手を前に突き出した。
『アイシクル・ストリーム……!」
オレはこれが最後の一撃だと言わんばかりに、一度目と同等の威力で上級氣術を放った。
「……っっ!!!」
歪な氷の塊の群勢が渦状に回転し、剣を振るっていたカナタを襲った。ゴオォッとけたたましい音を立て、さらには地面をも削っている。そして進路上の障害物を、根こそぎズタズタにするかのように、氷の竜巻が突き進んでいった。
オレはさっきとは違ってこの惨状を気に止めることはせず、吹き飛んでいったカナタの後を追った。足場は最悪だが、氣を練り続けながらそれを身体中に巡らることで、いつも通りの動きに見せかけることに成功した。とはいえこの集中が切れたら、全く動けなくなりそうだ。
「……こんなに心が痛い戦いは、生まれて初めてだ」
オレはそう呟きながら、飛ばされた勢いのまま木にぶつかって落ちるカナタを見る。
オレの氣術で森が開けた。ここはもともと戦っていた最初の場所だった。屋敷の周りがあられもない姿になっているのは、きっとカイトさんとリオン、シンの二人が激闘を繰り広げた結果なんだろう。
そして開けた場所へと足を踏み入れれば、ふらついたカイトさんがカナタへ近づこうとする姿が目に映った。
みんな、ボロボロじゃんか……。
「もう諦めてくれよ、カナタ」
心から……心から、そう願った。
「……ぅう……俺は、まだ……っ!」
傷だらけ、血だらけのはずなのに、それでもカナタは起き上がろうとする。だが、力が入らなかったんだろう。足を踏み外したかのように、カナタの身体は前に倒れ込んだ。
「カナタ、様!」
だが地面に身体を打ちつけることはなく、カイトさんが全身で受け止めていた。
「もう、十分です。王が騎士よりも先に死ぬなど、私は決して許しません」
「……は、なせ、カイト……俺が、やんなきゃなんねぇんだ……じゃねぇと、あいつは……!!」
「カナタ様……」
カイトに寄りかかるのが精一杯のはずのカナタは、必死の形相でカイトさんの肩口から手を伸ばしていた。
「兄さん。平気か?」
「あ……シンか。まあ、なんとかな。……そっちはどうやら和解できたみたいだな」
なんとなく、怪我の具合がひどい右手を後ろに隠す。
「ガル!」
「がる……?」
なんだろう、動物の鳴き声が下の方から聞こえたような……?
オレは不思議に思い、視線を落とした。するとそこには美しい金模様の入った黒い狼がいた。
「え……?」
この狼は一体どこから湧いてきたんだ?
オレは混乱して視線を彷徨わせた。
「あれ……?リオンはどこにいったんだ?」
「ここだ、兄さん」
「ふぇ?」
ここだ、と言いながら黒い狼の頭をひと撫でしたシン。
んんんん?????
「この狼が、なんだって?」
「こいつがリオン。どうやら狼の亜人だというのは本当だったらしい」
「…………」
オレは静かに目をパチパチとさせた。
いや、そんな冷静に言われてもよ。
でもよく見れば、赤と紫のオッドアイをしている。子どもの頃と変わらないこのかっこいい目は、紛れもなくリオンのものだ。
「そっか……あ……」
オレは頑張ったリオンの頭を撫でようとして利き手を少し前に出したが、はっとしてすぐに左手に切り替えた。
「えと……よく頑張ったな、リオン。えらいなぁ」
しゃがんで目線を合わせ、リオンの頭をなでなでする。するとリオンは「ガルルルッ!」と嬉しそうに喉を鳴らした。
……にしても、全身が痛い。
「カナタ様!」
「っう"ぁ……!」
カイトさんの声が響いた。これにはこの場にいる全員が注目せざるを得ない。見ればカナタがカイトさんの制止を振り切って、オレの方へとゆっくりと近づいていた。
足を引きずりながら、それでも歩みを止めない。そしてその目は何かしらの強すぎる執念に満ちていた。
「もうやめろって、カナタ!」
「…………」
そう呼びかけても、カナタが止まることはない。
「海、行くんだろ!カイトさんと……クロエって子とさ!!」
「なっ……?!」
カナタが足を止めた。それはもう、目をまんまるにして。
「あの時、言ってたじゃんか。あいつに……クロエに海を見せてやりたいって!」
『もしその不自由が自由になったら、二人は何したいんだ?』
『『……!』』
オレが主催した慰労パーティー。その時こうオレが問いかけたら、二人ははっとした顔をしていた。
『……カナタ様は何かありますか?』
『あー、そうだなー…………久々に、海行きてぇなぁ』
『いいじゃん、それ。オレもまだ行ったことないんだよなー』
『いいですね、海……』
『だろ?あいつも見てみてぇって言ってたしよ』
『ん?あいつって?』
『あ、いや……』
そうカナタが言い淀んだ後に、カイトさんが『あいつ』についての説明を軽くしてくれたけど、どうも怪しかったのだ。
「……見抜かれてた、のかよ」
「バレバレだっつーの」
「そうかよ…………ハハ……」
どこか諦めたような、それでいてどこか憑き物が落ちたような、そんな弱々しい笑い声が聞こえた。そして同時に、執着で濁った目に光が宿った気がした。
「……すぅ……ふぅ……」
カナタは夜空を見上げながら軽く深呼吸をする。そしてオレに向き直った。
「ひとつ、聞いてもいいか」
「ああ、もちろん」
「願いは、届かなかった……そういうことなんだよな……?」
「その答え、オレじゃ正確なことは出せない。だけどーーー」
「俺になら完璧な解答を用意できるぜ?カナタ」
オレが言葉を言い切る前に、聞き馴染みのある声が背後から聞こえてきた。振り向く前にカナタと、そしてその横に並んだカイトさんの表情を見た。
最初は……驚き。その直後、涙を一粒流し、そして笑った。その涙の笑顔は、今まで見てきたどんな表情よりも晴れやかで心地いいものだった。
ああ、オレはずっと、これを待ってたんだよ。
side カナタ
「なんで止めたんだよ!カイト!」
俺はあの胸糞悪い屋敷から出ていつも寝泊まりする部屋に戻ってすぐ、カイトに不満をぶちまけ始めた。俺はベッドの端に座り、カイトは窓際に立って寄りかかっている。
もう我慢の限界だった。
「……先を見据えてのことです」
カイトは視線を落としながら、小さくそう答えた。
「先だと?ハハ……この地獄に終わりが来ると、お前は本気でそう思ってんのかよ」
「…………」
「チッ。だんまりかよ」
「……まずは落ち着きましょう。落ち着いてからまた今後の動きを考えてーーー」
「俺たちはいつまで、あのクズどもの言いなりにならなきゃいけねぇんだ!クソが!!」
『ドンッ!』
俺は近くにあった白い枕を正面の壁にぶん投げた。そして額に手を当て身体をまるめる。
もどかしく苦しい感情がどうしようもなく溢れ出てくる。
「……カナタ様の気持ちは痛いほどわかっています。私もこれ以上あの人たち従いたくはありません。ですが、まずはいつもの冷静なカナタ様に戻っていただかなければーーー」
「俺が落ち着こうが冷静になろうがもう関係ねぇだろ!俺たちは取り返しのつかねぇとこまで来ちまったんだ!!」
「それは……」
俺はガバッと顔を上げ、カイトを睨みつけた。カイトも俺と同じ被害者であり加害者だというのに。
「もう何人もの子どもを連れ去った!多くの家族を不幸にした!俺たちの我儘のせいでな!!」
「カナタ様……」
カイトの同情の眼差しが、やけに胸に刺さった。
「もう限界なんだよ、俺は……」
罪悪感と申し訳なさで心がどうにかなっちまう。
誰が好き好んで無垢な子どもたちを誘拐するんだ……!
「……もう終わらせるしかない」
「終わらせるとは一体何を……?」
「この地獄をだ。その元凶を俺たちの手で消し去るんだよ。俺たちが始めたこの絶望は、俺たち自身が終止符を打つしかない。……俺は何か間違ったことは言ってるか?カイト」
「……いえ。決して間違ってなどおりません、カナタ様。ですが、先ほど述べたように私たちの行動は常にやつら……ノートリアスに監視されています。妙な動きをすればあの子はーーー」
「わかってんだよ!んなことは!だがな、このままズルズルと流されてたら、この国の奴らもあいつも救われねぇ……!」
「……カナタ。ひとつ、僕の考えを述べてもいいかな」
カイトの真剣な眼差しが激昂する俺を射抜く。
「なんだ急に。昔の口調にして俺を説得しようとしても無駄だぞ」
「そうじゃない。僕は今、カナタの親友として話したいんだ。騎士としてだったら、今カナタがやろうとしていることを僕は全力で止めなければならない。どんな脅威からも王を守ることが騎士の務めだから」
「……何が言いたいんだ」
「ノアズアークに、助けを求めるのはどうかなと、なんとなくそう思ったんだ」
「ノアたちに……?」
『何かあったらオレたちノアズアークに気軽に声かけてくれよな!ここにいる間はいつでも力になるからさ!』
『お前ら俺らよりランク低いのにか?』
『ランクがどうとか関係ないっつーの。オレが二人ともっと仲良くしたいだけだから』
『んだよ、それ……。ま、気が向いたらな』
桃兎を捕まえるとかいう、訳のわからない依頼で一緒になったパーティ。それがノアズアークだった。
「……一理ある。あいつら、Cランクパーティにしては優秀だった」
「それに、信頼できる。一度ともにしたからこそ、僕はそう言えると思う。カナタは?」
実力は申し分ない。リーダーのノアは、仲間を大事にするタイプの奴で、かなりお人好しに見えた。別れ際にあんなことをほざく奴なんざ、今まで一度も会ったことがない。
「……ああ。むしろそれしかないとまで思えてきた」
「だけど問題は、どう伝えるか、だよね」
「ああ。言葉で伝えるのは論外。どこに監視の目があるかわからねぇからな」
この部屋だけは阻害系の結界が張られているため、会話内容が外に漏れることはまずない。だがこの部屋に誰かを連れてくれば、間違いなく怪しまれる。
「いかに怪しまれずに自然に伝えるかが問題になるね」
「……俺に考えがある」
「それは一体……?」
「悪いがお前にも方法は教えない。念には念を、だ」
「……分かった。王であり親友である君を信じるよ」
「ああ。ありがとな。ただちょっと小芝居はするかもしれねぇから、そん時はきっちり合わせてくれよ」
「ああ……!」
そう決意を固めてからほどなくして、なぜかEDENでパーティが開かれることになった。そしてそれに俺たちも参加することになった。なんのパーティかと思えば、連続誘拐事件に奔走した冒険者たちへの慰労が目的だった。
そこで俺たちは、指示役の無精髭の男が逮捕されることを知った。その前に何やらノアからクロエについて詮索されはしたが、明確に答えはしなかった。
いずれにせよ、俺はあのクソ野郎が捕まったことがたまらなく嬉しくなり、つい興奮してしまった。
「カイト。今ならあのことをーーー」
ノアに言ってもいいんじゃないか?
俺は無意識に、小芝居などではなく本気でそう口走りそうになった。
「いえダメです。あの時私が言ったことを忘れましたか」
「チッ……クソッタレが」
俺はカイトの諫言につい嫌気が差し、唇を噛んだ。これは本心からの言葉だったが、あの作戦を思い出し、俺は唐突に空の皿を持って立ち上がった。
「カナタ様?一体どちらに?」
「飯の追加だ。食ってねぇとやってらんねぇっつーの」
「それならオレがーーー」
「いい。料理人に直々に作ってもらう」
そうぶっきらぼうに言葉を投げつけて、俺は厨房へと向かった。
「なあシェフ。ちょっとここ借りてもいいか?」
入るや否や、俺はとりあえず料理長っぽい見た目の、髭を生やした中年の男に話しかけた。
「なんだ、突然。そもそも一般のやつはここには立ち入り禁止だぞ」
「まあまあ。毒を入れにきたってわけじゃねぇんだ。ちょっと厨房を貸してくれや。俺じゃなきゃ作れねぇ特製の料理があんだよ。それが今、食いたくなってな」
「……俺たちの料理じゃ満足できなかったと?」
そう低い声が耳に届けば、他の料理人たちも視線をこっちに向けてきた。料理の手は止まってはいないが、明らかに俺を気にしているのがわかる。
「まあ確かに、こんなこと言われちゃ、料理人のプライドってもんが許さねぇよな。けど別にあんたらの料理に嫌気が差したわけじゃねぇんだわ。……ちょっと故郷の味ってのを、無性に食べたくてな……」
「……好きにしな」
「いいんですか、料理長?!俺たちの領域をどこの馬の骨ともわからないやつに踏み荒らされて……」
「俺たちには絶対にこの男の心を満たせる味は出せない。俺たちは客を満足させるために、笑顔にするためにこの仕事をやってんだろ」
「……はい」
「こいつも客のひとりだ。なら、好きにさせてやるしかないだろ」
いい料理長だな。道理でここのフードサービスはうまいもんばっかり出る。
「無理言ってわるいな」
「いや……ただし作った後は隅々までピカピカにしろ。それが貸してやる条件だ」
んなもんお安いご用ってもんだ。
「了解だ」
「おい、そっち空けてやれ」
早速料理長の指示で空いたスペースに向かう。さっきまで使われていたはずの調理台は、新品同様に光を反射していた。
「さてと……」
俺は調理器具や食材をテキトーに取り出し、料理を始めた。
何作ればいいかひとつもわかんねぇけど、俺の目的はこれじゃねぇからな。ここにいる奴らには悪いが、ちょいと利用させてもらう。
材料をテキトーに切って鍋に入れ、テキトーに煮込む。味付けも目分量でやったが、まあ食えればなんでもいいだろ。
要は周りからは料理をしているように見えればいい。
鍋を煮込む間、俺は懐から紙とペンを取り出した。紙にはすでに俺たちが可能な限り集めた、ノートリアスの拠点と思われる大まかな場所について記載してある。その紙の余白に、軽くメッセージを残す。
これで良し。
こうして俺は準備を整えた後、調理台を綺麗にしてから会場へと戻った。テキトー料理を食ったり、食器類を片付けたりで遅くなった結果、戻った頃にはほとんどの奴がぐーすか寝ていた。
邪魔だなぁ。
床で寝こけているやつも多く、足場の悪い中さっきまで座っていたテーブルへと辿り着いた。
「ようやくお戻りになったのですね」
「悪いな。小芝居がすぎたわ」
視線をカイトから、テーブルに突っ伏しているノアに移す。
「頼むぞ、ノアズアーク。お前らは俺たちに残された最後の希望なんだ……」
俺はコースターの下に折った紙を忍ばせた。そしてぐっすりと眠るノアの肩を、ポンッと軽く叩く。
身勝手で情けないこの願い、こいつならきっと……。
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