碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

31 スターライト連続誘拐事件ⅩⅠ

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side カイト

「もう諦めてくれよ、カナタ」

「……ぅう……俺は、まだ……っ!」

カナタ様が負けた。

きっと全力は出せていなかった。なにせ私もカナタ様も、心の折り合いなど、全く付けられていなかったのだから。

けれど、カナタ様に諦めるなんて選択肢はなかった。あの子を救うために、カナタ様は全力で立ち向かうことを、強制的に演じなければならなかったのだから。

「カナタ、様!」

倒れる寸前にカナタ様を抱き留める。自分自身も満身創痍ではあったけれど、勝手に身体が動いていた。

「もう十分です。ロイ騎士シュヴァリエよりも先に死ぬなど、私は決して許しません」

ただ必死に、暴走する友を止めようと言葉を吐き出していた。

「……は、なせ、カイト……俺が、やんなきゃなんねぇんだ……じゃねぇと、あいつは……!!」

「カナタ様……」

けれどカナタは、限界のはずの身体に鞭を打って、僕を振り解こうとする。

それほどにカナタは、クロエを大切に思っていたのだ。だけどそれは僕も同じ。だからこそ、今カナタが懸命に足掻こうとするその気持ちは、痛いほどに理解できる。

「この戦いにはもう、意味なんてありません。私もカナタ様も、もう限界です。私たちは精一杯、やったんですよ」

けれど、僕は……私は騎士シュヴァリエとしてロイの命はなんとしても守らねばならないのだ……!

「何が精一杯だ!まだなんも終わってねぇよ!もう後戻りなんて、できねぇんだよ!!」

「ぐっ……」

なんて、力、だ……。

「いい加減、離せやぁぁ!!」

剥がされる……!

「カナタ様!」

「っう"ぁ……!」

私の懐からカナタ様が離れた。カナタ様は片足を引きずりながらも、必死に前へ進もうとする。

標的の息の根を止めるために。
クロエを救うために。

「もうやめろって、カナタ!」

「…………」

標的……ノア様の制止に反応はしない。ただひたすら、前へ前へと、着実に足を踏み出していく。

「海、行くんだろ!カイトさんと……クロエって子とさ!!」

「なっ……?!」

あの子の名前に、カナタ様の足が止まった。

「あの時、言ってたじゃんか。あいつに……クロエに、海を見せてやりたいって!」

……あの手紙は、届いていた、のか……?

「……見抜かれてた、のかよ」

「バレバレだっつーの」

「そうかよ…………ハハ……」

確証はない。

「……すぅ……ふぅ……」

けれど……

「ひとつ、聞いてもいいか」

「ああ、もちろん」

もしかすれば……

「願いは、届かなかった……そういうことなんだよな……?」

「その答え、オレじゃ正確なことは出せない。だけどーーー」

あの子を……!

「俺になら完璧な解答を用意できるぜ?カナタ」

芯の通った力強い声に、私もカナタ様も視線を向けた。
その腕の中には確かに、私たちが求め続けた存在が眠っていた。

最初は認知できていなかったカナタ様も、クロエが目の前にいるとはっきりと理解した途端、足を引きずりながら走り始めた。
 
私も一歩出遅れつつも、カナタ様の後ろをついていく。その時の表情はたぶん、人様には見せられないほどにくしゃくしゃだったろう。

「カナタ、それにカイトも。お前らが必死に探してたお姫様を連れてきてやったぜ?」

駆けつけたカナタ様の腕にクロエがいる。あんなにも待ち望んだ存在が、私たちの側に戻ってきてくれた。

「クロエ……!」

カナタ様は涙ぐみながら膝から崩れ落ちた。けれど、クロエは決して離さまいと、力強く抱きしめていた。

「ごめんな……っ!」

クロエの背中に顔を埋め、涙で顔を濡らすカナタ様。その姿に私の目からもぼろぼろと勝手に雫がこぼれ落ちていく。

ああ、本当によかった……っ……!

私はただただ、掌で不様な泣き顔を覆いつつその場で立ち尽くしてばかりだった。





私たちの故郷は百年前に起きた大戦争、俗に言う『死舞血海戦争』によって焦土と化した。当時我が祖国は、大帝国グランドベゼルと友好関係を結んでいた。

グランドベゼルには亜人国家レグルスが、軍事国家ファランクスには王貴国ラグジュアリがそれぞれ支援軍を送っており、戦況は拮抗していた。

そんな時、グランドベゼルの使者がカナタ様の父君、つまり先代のロイに救援要請を送った。これを承諾した先代のロイは、すぐに援軍の準備を進め、自ら戦場に赴いた。

私とカナタ様はといえば、戦いに赴く父親を見送ることしかできない、図体だけはでかい未熟な子ども。親に反対され大人しく国に引きこもり、仲間たちが無事に帰ってくることを願うばかりだった。

救援に応じた結果は大成功。あらぬ方向からの敵襲によって敵軍は動揺し、陣形が崩れた。ただそのまま押し込めたわけではなく、当時のファランクス軍事王の嵐の如き奮闘に、一時は戦況がひっくり返されかけたとのこと。

ですが結局はグランドベゼル軍の勝利でこの戦争は幕を閉じた。たしか一ヶ月に渡る激闘だったと記憶しています。

その後すぐ、我が国ではしのぎを削って戦った戦友たちを、盛大に祝いました。

あの時はただ、勝利をもぎ取ったことへの嬉しさやみなさんがワイワイと笑顔でおしゃべりする姿に、幸福感を覚えていたと思います。戦争後だとはとても思えないほどには。

ですがそんな安らかな時間は、すぐに終わりを迎えた。それはきっと、誰もが予想だにしていなかったこと。今にして思えばそれが敵の狙いだったのではないかと、勘繰ってしまうことがあります。

なぜなら、何の前触れもなく、祝杯をあげていた仲間たちが殺し合いを始めたのだから。

それだけでなく、茫然自失となった私は父上に助けを求めに行き、なぜか父上に剣で斬られた。あの時の父上の形相は、今でも私の心に刻み込まれています。

その後のことは……正直よく覚えてはいません。いつのまにか国を出ていて、目の前には私の手を引くカナタ様しかいませんでした。

こうして私たちの大好きだった故郷……神秘国ミステーロは世界から消えてしまったのです。

雄大な自然と優しき仲間たちに包まれた祖国から離れて約百年。私とカナタ様は、終わることのない旅を続けています。そして最近では冒険者という職に就き、とある目的のために力を蓄えています。

そんなある日……今からちょうど三年ほど前。ひとりの少女と出会った。

この年は、アンフェールという未曾有の大災害が起こった年。その余波で少女がいた村も魔物に襲われていた。

「これは……酷いですね」

「ああ。まさかちょいと立ち寄って休憩しようと思った村が、こんなことになってるとはな……」

旅の疲れを取ろうと立ち寄った村。そこは燃え盛る炎と悲鳴、なすすべもない村人を蹂躙する魔物たちで跋扈していた。

「キャアァァァァァァァァ!!!」
「誰かぁ!助け……ぐぶっ!」
「わぁぁぁぁぁん!」
「いやだいやだいやだいやだいやだ!」
「死にたく、ないっっっ!!!!」

「……どうやら師団員はいないようですね。おそらく、ここまで人員を回せていないんでしょう」

ここはアクロポリスから見てかなり距離があります。それにここは比較的魔物の脅威には晒されない、安全区域に分類されている地域。元々派遣されている師団員の数も少ないはず……。

「……助けるぞ」

「いいのですか」

俺らは冒険者だ。復讐者じゃない。EDENの冒険者は魔物と戦って報酬を得るんだろ?だったらこの状況は、金を生み出す湧き水みたいなもんだ」

まったく、カナタ様は素直ではない……。

「ふふ」

「な、なんだよ」

「いえ。では参りましょうか……金を稼ぎに」

「ああ……!」

互いに顔を見合わせてすぐ、それぞれに魔物を狩りに回っていく。

襲ってきた魔物は見た感じCランクからDランク程度。一、二体ほどBランクの個体がいたけれど、対処不能なものでもなかった。

この頃のイノセントはCランクパーティで、しかも二人だけ。本来なら同じCランク一体で五分といったところ。ですが、私たちからすれば、人間の物差しで判断された評価に収まりはしなかった。

『ズドンッ!』
『ウギャッ!』

一発の弾丸により、魔物が絶命した。

「ふぅ……これで全部、ですかね」

「おう、カイト。そっちも終わったか」

「はい。何体かは逃げてしまいましたが、村に残っている魔物はもういません」

「そうか。こっちもそんな感じだ。ビビりな奴が多かったみてぇだわ。魔物のくせに、本能はしっかりしてやがる」

カナタ様の言うとおり、強者から逃げる本能、生きる本能というのはどんな生き物にも備わった生存機能なのでしょう。

「……あまり長居はしたくありませんね」

なにせ赤が深く染み込んだこの光景は、あの時の悲劇を彷彿とさせるものなのだから。

「そりゃ俺も、なんだが……」

カナタ様は、無惨に横たわる村人の死体や炭のように黒焦げとなった家々を、悲しげに見つめていた。そして何を思ったのか、一軒一軒に足を止めては眺め、止めては眺めを繰り返した。

さらに道中で見かけた遺体の、見開かれた目を優しく閉じたり、しゃがんで手を合わせたりしていた。かくゆう私もその後に続き、亡くなられた方々を追悼した。

そんな時だった。

「ぅ……」

とある遺体の下から、今にも死にそうなか細い呻き声が聞こえたのは。

「まさか……!」

カナタ様はすぐさま駆け寄り、まるで誰かを守るようにうずくまって倒れる遺体をどかした。

そこには、全身を血で濡らした少女が横たわっていた。





「う……ぅぅ……」

村から離れたとある森の中。簡易的な休息地をつくり、私とカナタ様は少女の目が覚めるのを待っていた。

「目が覚めたかよ」

少女の瞼が開いた。そして痛む身体に悶えながらも、ゆっくりと上体を起こす。

「ここ、は……?」

「森だ森。見りゃわかんだろ、んなもん」

「カナタ様。言葉が強すぎますよ」

「っ!いや別にそんなつもりは……だぁーもう。ほら、ガキ。お前怪我してんだから、まだ横になってろ。それか後ろの木にでも寄りかかっとけ」

「…………」

結局変わってないじゃないですか……。

そんないつものカナタ様に苦笑する。

少女はといえば、カナタ様の言動に怯える様子はなく、痛む肩を抑えながら背後の木に身を預けていた。

「あの!わたしの村は、お母さん、は……」

「っ……」

そうですよね。気にならないわけがないですよね。

「よく聞け、ガキ。お前の村の奴らは、全員死んだ。お前以外はな」

オブラートに包むことなど考えず、カナタ様は直球でそう口にして、少女を指差した。

これがお前の現実だと言わんばかりに。

「……?!」

当然、少女は目を見開いていた。

「カナタ様!」

「あ?んだよ。何も間違ったこと言ってねぇだろ」

「それはそうですが、言い方ってものがあるでしょう?!そんなに直接的に伝えずとも、もっと優しい言葉、あるいは遠回しに、もしくは多少の嘘をついてでも……」

「は……?おい、カイト。お前はそんな嘘で塗り固められた現実を突きつけられて嬉しいのかよ」

一切の曇りない二つの眼が睨みつける。

「それは……ですが相手は子どもで……」

少しだけ、動揺してしまった。

「ガキかどうかなんざ関係ねぇ。どんな残酷な真実も、どんなに幸福な生活も、誰にだって降りかかってくるし、手に入れられる。それにわざわざ俺がガキに合わせる義理なんざねぇし、どんなことが起きても自力でどうにかする。それが生きるってことじゃねぇのかよ」

「……っ……」

なぜこの方はこんなにも強い信念を心に秘めているんだろう。

……私とは大違いだ。

「俺らだってそう生きてきたんだ。こいつにだって、真実を聞いてこれからどうすんのか、自力で選択して生きてく権利はあんだろ。その判断材料に異物が混じっちまったら、こいつが心から選び取るはずだった"生きる"って道が閉ざされちまう」

私を見つめていた目が少女へと向く。

「俺はただ、その邪魔はしたくねぇって思っただけさ」

「……なるほど。よく、わかりました」

だからこそ、あなたは我が国のロイなんでしょう。

「私はまだカナタ様の騎士シュヴァリエとして、未熟者だったようです。がっかりさせてしまい申し訳ないです」

「は?別に何にも思ってないが?」

「いえ、これは私の問題ですのでお構いなく」

「お、おう」

もっと精進を重ねて、あなたの隣に立つにふさわしい真の騎士シュヴァリエになって見せます。

「そっか……死んじゃったんだ……お母さん…………」

俯きながら、ぽつ、ぽつ、と言葉を漏らす。その小さな姿はとても痛ましかった。

「しょうがない、よね……そうだよね……お母さん」

先ほどよりも小さな声が、耳に届いた。それは大切な家族を亡くした現実を知った子どもが発するには、少々違和感を覚える言葉だった。

しょうがないって……そんな言葉で済ませられるような事態では……。

そう疑念を抱いた次の瞬間、私たちは思いもよらない少女の表情と言葉に絶句した。

「はー、そっかー。お母さんいなくなっちゃったんだー!そうだよね、人生いろいろあるもんね。あはは、あははははっ」

「は?」
「え……」

そのボロボロの少女はなぜか、笑っていた。それも、この状況が面白おかしいと言わんばかりに。

「お兄さんたちが助けてくれたんだよね。ありがとー!おかげまだ生きられそう!」

見たところまだ八つか九つほどの少女。ひとりで生きる力や術なんて何もないはずの子どもが、自身に起きた理不尽に泣き喚くことなく、笑顔を見せている。

これが異常と言わずしてなんと言うのか。

「何笑ってやがる」

「ん?」

「自分の母親が死んで、なんで笑えるんだって聞いてんだ、ガキ」

低い声で威圧される。それはきっと、カナタ様もあの少女と同じだから。

けれど少女はその気迫に反応せずに首を傾げた。

「え?だって、幸福に生きるにはいつも笑顔でいればいいって、お母さんが教えてくれたよ?どんな時でもスマイルスマイル!って」

そう元気に言いながら、口の両端を人差し指で上げる。

その笑顔に、私はまるで共感ができなかった。
それどころか、気味の悪さを感じたほどだった。

「は!んだよそれ。とんだイカれた教えじゃねぇか。あーいや、教えっつうより、呪いって言った方が正しいかもな」

カナタ様は馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに嘲笑った。

「……?なんで?だって悲しいって思うから悲しくなって、楽しいって思うから楽しいんでしょ?私、可哀想じゃないよ?だってこんなに笑顔だもん!」

確かに少女は笑っていた。涙だって流していなし声も震えてはない。だけれどなぜだか、その目から一筋の雫が流れ落ちているような、そんな幻覚が私には見えてしまった。

「まあなんだ?お前の言い分はこうだ。辛いって思うからそれが辛くなるし、幸せって思うからそれが幸せになる、と。だから例えば俺がお前は親を亡くして可哀想な奴だと言っても、お前が自分は可哀想でもないし悲しくも何ともない、むしろハッピーだ!って思ってるから何の問題もない、っつうわけだよな?」

「ぁ……う、うん!そ、そう!」

初めて、言い淀んだ。
表情も一瞬、険しくなった。

「ほーう?なるほどなぁ……」

カナタ様は立ち上がって少女に近づいていく。その間も少女は笑顔を絶やさなかった。

カナタ様が少女を見下ろす。そして膝を曲げ屈んだかと思うと……。

『パチンッ!』

少女の両頬を思い切り両手で挟み込んでいた。

「っ……?!?!」

訳がわからなそうに困惑する少女に、カナタ様は力強く言葉をかけ始めた。

「あのなぁ、誰が自分の大好きな母親が死んで喜べるんだ?誰が笑ってられるんだ?そんな作り笑いして、自分を誤魔化してんじゃねぇ!受け入れてんじゃねぇ!」

「っっ!!!」

少女の目が、一際大きく見開かれる。

「確かに笑顔は幸せを運ぶかもしれねぇ。そこは正しいんだろ。だがな、心から笑えてねぇんなら、それは幸せでも何でもねぇ。そんなもん、ただの地獄だ」

睨むような眼光が少女の瞳を射抜く。

「これだけは覚えとけ、ガキ……」

カナタ様の額が少女の額とぶつかる。

「自分に嘘をつくな。真っ正直に生きろ。それが誰でもない、お前自身にしかできない馬鹿カッケー人生になる」

カナタ様が手を離す。直後、少女の両目からまるで滝のようにドバドバと涙が溢れ出し、悲しみに満ちた悲痛な声が漏れ出した。

「……はは。それでいい」

カナタ様は子どもを優しく見守る親のような、そんな朗らかな表情をした。

「……あー、んでもっていつかそうなれた時はよ、サイッコーに幸せじゃね?な!」

カナタ様はニッと、子どものような無邪気な笑顔を見せた。あんなにも澄んだ笑顔は、ここ数年ぶりに見たような気がします。まだ今は復讐者ではなく、冒険者のカナタ様だからでしょうか……。

かといってあの笑顔が嘘というわけではないのですが、あの笑顔が頻繁に、それこそ日常的に見られる日は、果たしてやってくるのかどうか……。

嬉しいような、悲しいような……そんな複雑な感情が私の心に渦巻いた。

「っしょ……ガキ、お前の名前は?」

カナタ様は泣きじゃくる少女の隣にどかっと座った。

「ぐすっ……ぅぅ…………ク、クロエ……」

「クロエ、な。俺はカナタだ。お前を救った英雄だぞ?よく覚えとくこったなぁ……!」

いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、ぐしゃぐしゃと俯く少女の頭を乱暴に撫で回す。

これが少女……クロエと私たちの出会いでした。






遥か遠い昔……おそらくは百年前のあの日以来、涙を流す姿なんて一度も見せなかったカナタ様。けれど今、私の目の前で、愛しい子を抱きしめながら、うずくまって泣いている。

そしてそれは間違いなく、あの日のような悲しみに満ちたものではなかった。

「ぁ……」

ある程度時間が経ち心もかなり落ち着いた頃、抱き抱えたまま地面に座り込むカナタ様に話しかけようと、私は手を伸ばす。けれど途中でその手を引っ込めた。

いや……私が今すべきことは……。

視線をとある人物たちへ向ける。それはもちろん、私たちの大恩人だ。

満身創痍な身体に鞭を打ち、溢れんばかりの思いを抱えて歩いていく。それに気づいたらしく、二人ともこちらを向いた。

「あ、カイトさん。……その身体で歩いて大丈夫なのか?」

「おー、カイト。ちょうどお前と駄弁りたいと思ってたところだ」

秀様とノア様。二人は私たちと戦ったという確執があるにも関わらず、笑って受け入れてくれている。

ああ、なんて寛大な方々なのでしょうか。
自分たちを殺しにきた私たちに、あのような混じり気のない笑顔を向けられるとは……。

私は二人の前に立ち、深々とお辞儀した。

「ありがとう、ございました……!」

今出せる精一杯の声量で、感謝の気持ちを伝えた。もちろんこれは私個人としてだけでなく、Bランクパーティイノセントとしてのものだ。

「あなた方ノアズアークのお力添えがなければ、あの子は……クロエは、終わりのない地獄を味わっていたはずです……。本当に、ありがとうございます……!!」

誠心誠意のありがとうを込めつつ、さらに深く頭を下げた。

「良かったな、カイトさん。大事な仲間を取り戻せてさ。これはもう、オレに助けを求めたカイトさんたちの勝ちだ!」

「ははっ。そうだぜ~、カイト。俺らにクソ感謝しろよなぁ」

誰かがこちらに近づいてくる音がする。おそらくは、秀様だ。ノア様は座っていたけれど秀様はその隣に立っていたから。

「……!」

秀様に体重をかけられたと同時に、肩に腕を回された。

「そんな重く捉えんなよ。うちのリーダーが助けたいって思って、俺らもそれに乗っかって勝手に動いたってだけだからよ」

そんな囁き声が耳元で発せられた。

「そ、そんなわけには……」

「まあなんだ、気が済まねぇってんなら、そうだなぁ……後で飯とか奢ってくれりゃそれでいいからよ」

「なっ……」

「あ、俺はなんか高そうな酒瓶を一本頼むわ」

「いや、ですから……!」

「いやー、にしてもノアたちと互角に渡り合うとは、やっぱ見込み通りの男だったってわけだな!はははっ!」

その程度でこの恩を返せるわけない、と抗議しようと秀様に顔を向けようとした瞬間、突然身体が軽くなり、代わりにバシッ、バシッと背中に痛みを感じた。

疲弊し切った身体にはその衝撃は毒に等しく、思わず「うっ」と声を漏らしてしまう。

「ちょ……痛いですって、秀様」

「それだけお前らが頑張ったってこったろ?」

「……!」

頑張った、ですか……。
本当にそう言えるのでしょうか。

少なくとも私は、クロエのためにイノセントの一員としてできたことなんて皆無だ。

なにせクロエを助けるためとはいえ、長い間カナタ様に我慢を強いさせてしまった。これしか道は残されていないと、そう思い込ませた。

それにクロエは、私たちが想像だにしない痛みを受けてきたはず。それはあの痛々しい姿を見れば一目瞭然。

……リスクを取ってでも、お互いが助かる方法だってきっとあったはずなのに。

私はその可能性を真っ向から潰してしまった。

なんて愚かな騎士シュヴァリエなのか。
ロイを真に正しき未来に導く。それが騎士シュヴァリエのあるべき姿だというのに……!

双方が救われる未来だって、私たちならつかみ取れたのではないのか。たとえそれが万分の一、億分の一だとしても……!

後悔の念が次々に湧いてくる。その心に呼応するかのように、身体に力が入る。

握った手の爪が掌に食い込む。
唇が噛みちぎれると錯覚するくらいに歯が刺さり、血が滲み始める。

「……っ…………!」

「あーあーあーあー、そんなしょげんなって。こっち来て一旦座れよ。な」

「ぅわっ」

グイグイッと半ば強引に引っ張られ、ノア様の隣に座らせられる。いつのまにかノア様の後ろには、狼姿のリオン様が抱きついていた。そして私の隣に秀様がドカッと座った。

「んで?カイトは誰と戦ったんだ?」

「……シン様とリオン様、です」

ちらとリオン様へ視線が向く。それには「ガル!ガルルル!」と元気よく吠えていた。

「Bランク冒険者とは思えない強さだった……だそうだ」

「お、シ~ン。いつのまにか消えてたみたいだけど、何してたんだ?」

「ガル!」

「湊に捕まった。そのせいで兄さんとの時間が激減だ」

「はっ。ザマァねぇな」

「は?」

「お?なんだ、やんのか?俺は全く疲労してねぇから、お前を余裕でボコせるが?」

「半殺しのハンデにちょうどいいだろ」

「あ?」

邂逅した途端にガンを飛ばし合う二人。

……仲が悪いのでしょうか。

「あれ割といつものことだから無視していいよ、カイトさん」

「ノア様……あの、本当になんとお礼を申し上げればいいのか……」

「さっきも言ったけどさ、俺らに助けを求めた二人のおかげであの子はこっちに帰って来れたんだ。二人がどんなに自分の惨めさに幻滅しても、その勇気ある行動は賞賛すべきことだとオレは思うな」

まるでこちらの心を見透かすように、ノア様の瞳が私を捉えている。

「……そうだといいですね」

「消極的だなー、カイトさん。なんにせよ助かったんだからそれでいいと思うけどなー……。心の整理がつけられないってことなら、あとであの子にめいいっぱい謝って、めいいっぱい可愛がってあげればいいじゃん!な!」

ああ、なんと眩しい方なんでしょうか。

「……ふふ。あなたは太陽のような方ですね」

「た、太陽?そんなん初めて言われた」

ノア様は予想外の返答にきょとんとしていた。

「だからこそ、ノアズアークはノア様がリーダーなんですね」

その底抜けの明るさに惹かれて、たくさんの勇士たちが集まった。それがノアズアークというパーティなのでしょう。

「んん?いやー、リーダーになったのは成り行きで……」

「ガルガル!ガルル~!」

「のわぁ!お、重いってば、リオン……!」

押し潰してしまうかのような勢いでじゃれつく狼姿のリオン様。その言動はきっと、ノア様を心から信頼しているが故なのでしょう。 

「ふふ……」

思わず顔が緩む。勝手に張り詰めていると思っていた糸は、どうやら私の思い込み……いや、弱さだったようですね。

「……」

ふと愛しい二人に目線を向ける。

私とカナタ様とクロエ。それぞれが出会った日も過ごしてきた時間も生きてきた環境も、何もかもが違うけれど……それでも私たちイノセントにも、彼らノアズアークのような不壊不変の信頼を…………。

私は立ち上がり背筋を正す。そして右手を左胸に当て、深く礼をした。

「おかえりなさいませ、クロエ……カナタ様」




















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加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

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