碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

40 大乱闘

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side ノア=オーガスト

「どういうことだ、レオン叡王!!」
「なぜ人間たちの味方をする?!」
「人間は殺せ!!」

酷い罵声が下方のあちこちから聞こえてくる。そんな国民の非難の嵐を、オレたちは少し上方の場所から受け止めていた。

なぜこんなことになっているのか。それはほんの数時間前まで遡る。




この国の王、叡王レオン=アストラルに正式に謁見して啖呵を切ったあの日から数日後、オレたちノアズアークは再び樹宮殿ファレストに来ていた。

衛兵の何人かには値踏みするような視線を送られたり、睨みつけられたり、さらには隠しもせずすれ違いざまに舌打ちをされたりもした。前回来た時は事件終結直後でこっちも忙しかったから周りを気にする余裕がなかったけど、今ならはっきりとあの感覚が襲ってくるのがわかる。

鋭利な剣のように尖った無数の嫌悪の感情が。

当然、こちらに興味がない者や仕事を忠実にこなす者、好意的に接してくれる者だっていないことはない。ただ、もし亜人たちと実際に接してみた感想を聞かれれば、間違いなく全員が居心地が悪かったと答えてしまう。

それほどにあの空間はピリピリとしていた。

もし怒りっぽい仲間がうちにいたら、亜人に出会うたびに喧嘩をしていたかもしれない。幸い、そんな気難しい性格の仲間はノアズアークにはいないから、スムーズにリオンが案内してくれた部屋へと入ることができた。

「今日の段取りについては僕から説明するから。さ、みんな座って」

リオンに促され、木製の長テーブルに置かれた椅子にそれぞれ座っていく。

「ふぁ……ん……」

慌てて手で口を押さえる。

あぶね、大欠伸かますとこだった……!

実はかなり早く呼び出されたこともあり、めちゃくちゃ眠い。神仙族は一日寝てないくらいじゃ戦闘能力に支障はでないのはそうだけど、眠いものは眠いんだから仕方ない。

「まさかこんな朝っぱらに呼び出されるたぁな。流石に予想外だったぜ」

「申し訳ない。国民のためにも一刻も早く報せたかったので」

ふぅ、なんとかバレずに済んだ。リーダーのオレが怠けた態度を取ってると知られたら、オレの面子が丸潰れだ。

あ、そういえば……。
ふとリオンを見る。

この前会った時は、なんだか悩んでいる顔していた。軽く話しかけてはみたけど、この後話し合いがまだあるからと、拒否されてしまった。もちろん仕事だから仕方がなかったといえばそうだけど、どちらかというと打ち明けたくない何かがあるように感じた。

次話せる機会があったらお悩み相談会でも開こうかと思ってたけど、今日は再開したての時みたいに晴れやかな表情をしてる。きっと、何か吹っ切れるいい出来事があったんだろう。

杞憂に終わって何よりだ。

「リオン、早く本題に入れ。兄さんを待たせるな」

急に自分のことを呼ばれ、思わず背筋を伸ばす。

「そうだね。シャーロット叡王妃からの言伝を口上するね。『ノアズアークには今から国民の前で軽く話をしてもらう。そこからどうなろうと、全てお前たちだけで対応してみせろ。こちらが満足いく形となれば、約束通り大罪人どもを解放しよう』だそうだ」



……てなわけで、現在オレたちは絶賛非難の雨あられをぶつけられ続けている。

レオン叡王から今回の連続誘拐事件の立役者としてオレたちノアズアークの名前が呼ばれ、国民が見える位置まで前に出てきてみれば、予想通りのあり様となった。

リオン曰く、今回は伝書鳩や新聞を使って大々的に宣伝したため、いつもより多くの人々がこの場に集まっているらしい。いつもを知らないから何とも言えないが、この罵声は近くにいる誰かが話していても聞き取れない程度にはうるさい。

レオン叡王たち叡王族がいるおかげで物を投げつけられることはないが、音の凶器は耳から心へと容赦なくその刃をつきつけている。精神が弱いやつなら、真っ先に耳を塞ぎたくなるだろう。

軽く視線を後ろにやる。そこにはこちらを試すように見つめるシャーロット叡王妃の姿がある。こうなることはあの人だけでなく、ここの全員がわかっていたこと。

だが、オレは絶対に引かない。この国でできた友のため、そしてその友の帰りを待つあの子のために……!

オレは前を向き、一歩踏み出す。そして手を前に出し、上空に大きな氷の塊を生成した。

「……?!」
「何だあれは!!」

困惑する国民をよそに、オレはこの騒音を鎮めるために続けて氣弾を飛ばした。強い衝撃を受けた氷の塊は、爆音とともに雪の結晶のように粉々になって国民のもとへ舞い落ちた。

「「「…………」」」

突然のことに国民の誰が言葉を失い、オレに様々な熱意のこもった視線を向けていた。

「はは……」

こんなに多くの視線に晒されるのは、生まれて初めてだな。

「すぅ……ふぅ……」

一度目を閉じて軽く深呼吸をする。そしてしっかりとその目を開いて、眼下を見据えた。

「初めまして、みなさん。オレは冒険者のノア。ここにいる仲間たち、ノアズアークのリーダーをやってる。本音を言えば、最初は仲間達を危険に晒すまいとこの件に積極的に関わるつもりはなかった。だけど今回、この国の平和を脅かしていた存在の排除に協力することができて嬉しく思ってる。活気がなくなるのは、あなたたちから見れば部外者のオレたちだとしても、いい気はしないから」

「「「…………」」」

……この反応を見るに、一応最後まで話を聞いてもらえるかもしれない。ありがたいことだ。

「それから大前提として、オレたちは何もあなたたちと争うためにこの国に来たわけじゃない。この国がどんなところなのか、どんな文化があってどんな暮らしをしてるのか……そういう、そこにしかない世界をこの目で見たくてやって来たんだ。決してあなたたちの世界を脅かしに来たわけじゃない」

「「「…………」」」

オレたちに敵意がないこと。せめてこのことだけも誠心誠意伝えておきたかった。最初に言っておかないと、きっと、言う暇もなくなりそうだから……。

「……んなの信じられるわけがねぇだろっ!!」

熱のこもった怒声によって、短い静寂が破られた。

「黙って聞いてりゃ、何が争いにきたわけじゃねぇだ。口から出まかせ言うのは人間の得意分野だろうがっっ!!!」
「そうだそうだ!」
「私たちは騙されないわよ!」
「人間なんざ、信じられるか!!」

やっぱこうなるよな……。

返ってきた言葉に何も変化はなかった。誠心誠意向き合えば相手も返してくれる。そう思ってたんだけど……。

『ひとつひとつの出会いってやつを大事にしろ。人との繋がりってのは、思った以上に大切なんだ。差別やら偏見やらが蠢くこの世界じゃあ、難しいところもあるかもしれないが、いろんなやつとの面白おかしいゆかりの輪ってもんをお前なりに作ってみろ。……その方が、断然面白い』

ふと、グレンさんのアドバイスが脳裏をよぎる。

ゆかりの輪、か。
ふふん。グレンさんが作ってきたものよりも大きくて面白い輪を、今からオレたちが作ってやる……!

「ふぅ……」

ここで向き合うのをやめるのはオレらしくもない。やりたいことに突っ走って、突っ走って、突っ走りまくる。これがいっちゃん気持ちがいい。それに……。

「ゴホンッ」

なんせオレって人間は、生まれた時から諦めが悪いんでね。

さらに一歩、眼前の柵に飛び乗るように軽くて跳躍した。行儀は最悪極まりない。だがこれでいい。

プランBに変更だ。

「はぁぁ。なんでわっかんないかなー」

首裏をカリカリと手でかきながら、気だるげに国民を見下ろした。

「レオン叡王の話聞いてた?人間が嫌いなのはわかるけど、この国にとって恩人であるオレたちをしっかり見ろって、そう言ってただろ?その脳みそはお飾りなのか?」

明らかな態度の豹変。これには国民も声を荒げるしかない。

「はっ、やっとその汚い本性を見せやがったな人間が!」
「ここから出ていけ!」
「人間なんざ視界に入れたくもねぇんだよっ!!」

「ったく、どいつもこいつも、さっきから同じ文言の繰り返し。よく飽きないな……まあいいや。ならこうしよう、レオン叡王に文句があるってことなら、あんたらがオレたちを倒してみろよ」

「は?」
「何言ってんだテメェ」
「調子こいてんじゃねぇぞ、人間が!」
「なんで俺らがわざわざ、お前らが雑魚だってことを教えてやらねぇと何ねぇんだ!!」

「へぇー、あー、そう……怖いんだ?オレたちに負けるの」

背中で腕を組みながら、相手を馬鹿にしたような態度で柵の上を適当に歩く。

「「はあ?!」」

「意気地なしな奴らだなー。拳で白黒つけるっていうシンプルな話だってのに。そんなに怖いってんなら、そうだなー……腕相撲とかにしといてやってもいいぞー」

「舐め腐ったこと抜かしてんじゃねぇぞ、ガキが!」
「俺らを怒らせたこと、死ぬほど後悔させてやる……!」

「いいね、そうこなくっちゃ」

オレは軽く後ろを振り向き、仲間たちを見る。どうやら程度の差はあれど、みんなオレの意図を汲み取ってくれていそうだ。

前を向き、再びガヤガヤと騒ぐ国民たちを見下ろす。横には仲間たちが欠けることなく並んでいた。

「さあ、大乱闘の始まりだ!」

これを合図に、オレたちは怒り心頭の群衆の海へと飛び降りた。






「このっ!……ぐはっ!」
「くそが!……がはっ!」

「なんだなんだ?この程度なのか!亜人の実力は!!」

罵声に負けじと高らかに叫べば、周囲の亜人たちの反感を一斉に買い、オレを取り囲むようにして飛びかかってきた。

「甘いな!」

足に力を入れ、大地をめいいっぱい踏みしめて直上に跳び上がる。それに驚いた亜人たちが上を見た直後、両手を突き出して、威力を最大限抑えた氣弾の雨を降らせた。

土煙が立ち上る中に降り立つ。数秒もすれば視界が晴れ、周囲には多くの亜人たちが倒れ伏していた。

「エル、リュウ、頼んだ」

「はい!」
「うん」
「ベアドルさん、次はここのヘルプお願いします!」
「おうよ!」

二人は安全な場所にせっせと意識を失った亜人たちを運んでいく。引きずらずなるべく背負って運んでいるのは、二人の性格の表れだな。

他のみんなも手が空いたら乱闘に巻き込まれない位置に移動させたり、自身が移動して乱闘場所をずらすことで安全地帯を作り出したりしていた。……シンとセツナ以外は。

そう、プランBとは強行手段……つまりは実力行使で認めさせるというものだ。一応、言葉だけじゃ伝わらなかった時ように考えておいた。ちなみにさっき考えついたから、当然みんなはこのことを知るわけもない。

オレの性格からして穏便に済ませそうだとは思ってくれてたろうけど、まさかこんな乱闘騒ぎを引き起こすなんて思ってもみなかったはずだ。だけど、それを呑み込んでオレのやりたいことについてきてくれたのは、すっごくありがたい。

たぶん、言葉だけで真正面から向き合うのは亜人たちには通用しない。亜人たちの文化というか流儀的には、強い奴を尊敬する、って感じだろうから、なんだかんだこれが正解なんじゃないかと思ってる。

ていうか、そうじゃなきゃ何もかもおしまいだ。オレたちはもう、諸刃の剣を抜いてしまったんだ。これで成功しなかったら、一生この国を訪れることができないと言っていい。

……あとでしっかりと謝んないとな。

「よーし、どんどんかかってこい!!」

そのためにはまず、ここを乗り越える!

「こ、こんのーっ!!」

大きく振りかぶって振り下ろされた腕。その尖った爪が頬のわずか数センチ横を切り裂く。

その隙を見逃さすことなく、オレは背後に回って首裏に手刀した。その一撃で亜人は地面に倒れた。

「さあ次はーーー」

「そこまでだっ!」

乱闘騒ぎをものともしない低い鶴の一声が、やけに大きく耳に届いた。

「レン王太子……!」
「ギルハルト叡団長……!」

亜人たちから名前を呼ばれたのは、リオンの兄とこの国の最強の守護者のひとりだった。たしかにこの乱闘の中、纏うオーラが別格な金髪金目の男と赤髪赤目の凛々しい男がいつのまにか立っていた。

「やっぱそうなるよなー」

誰もが眼を引くほどに、二人はいい意味で目立っていた。

なんとなくこうなる気はしてはいた。だからこそこれから起こることを考えると……不謹慎ながら実はちょっとワクワクしている。

だってこんなすごい人たちと戦えることなんて滅多にない。これを逃すバカはいないよな?

「久しぶりだな……あ、ですね、レン支部長……いや、レン王太子と言うべきかな、この場は」

とりあえず一番戦ってみたかった相手に声をかける。敬語はわけわかんなくなったけど、一応敬意をもって話してはいるから大丈夫だと思いたい。

「ああ。この国の王族として正式な挨拶をするのは初めてだったな。私がこの国の王太子、レン=アストラルだ」

レオン叡王と同じ金髪金目の獅子の亜人で、厳格な雰囲気を纏う美丈夫。ただ、その服装は普段着ではなく明らかに戦闘用の服だった。EDEN支部で会ったときともまた違う、レン王太子が冒険者として活動する時の正装なんだろう。

そしてその鋭い目とトーンの低さから、現状に不満を抱いているのが察せられる。

レン王太子もこうなることは予測できてたってわけね。にしたって用意周到なことで。

ま、その方が闘い甲斐があるってもんだけどな。

「ここに来たってことは、あなたもオレたちの前に立ちはだかるってことだ……ですよね?」

「そのギクシャクした話し方はよせ。普段通りでいい。……さて、私たちがここに来た理由。それは当然、お前たちが真に信頼すべき盟友となるか否かを確かめるためだ」

「はは。そんなことだろうと思った。いいぜ、受けてやる。……っとその前に、そっちの人はどっかで見たような……」

レン王太子の後ろ側に控える真っ赤な髪と目の男。その容姿や佇まいには、どこか懐かしさのようなものを覚えた。なんか、最近……そう、レオン叡王に謁見したときに……。

「久しいな、ノア。あの時は私のわがままとはいえ、リオン様の友となってくれてありがとう」

「あぁ……!」

思い出した。最近見かけたのもそうだけど、それよりもずっと前にオレはこの人と会ったことがある。

この人は、オレとシンが初めてこの世界にやってきた時に会った、リオンの護衛の人だ。この人だけ他の護衛たちみたいな何かしらの動物的特徴がなくて浮いてたし、特に優しく接してくれたからなんとなくだけど覚えてた。

謁見したあの時はカナタとカイトさんを助けることだけ考えてたから、そこまで気が回らなかったんだよな。

「あれー?ギルハルトじゃん。また会ったねー」

軽快な声とともに、オレの隣にカズハがやってきた。

「あ、ああ。そうだな」

ギルハルトさんは少し悲しげな、それでいて嬉しそうな顔をする。

「なになにー、その微妙な反応……って言いたいところだけど、流石にこの状況じゃ手放しに喜べない、よねー……」

気まずそうな顔で、「あはは……」とカズハは苦笑いをする。

「ん?カズハもギルハルトさんと知り合いだったのか」

「まあねー。これで話すのは三回目かなー?」

「兄さん」

「お、シン」

今度は弟がやってきた。きっと相手がいなくなって暇になったんだろう。その理由はたぶん、シンに恐怖して近寄らなくなったからな気はするけど。

「こいつらは?」

わぁお、めっちゃ態度悪い。

「コホン。そろそろおしゃべりはこの辺にしないか?二人と戦って負かした方が、たくさんの亜人たちに納得してもらえそうだし」

「ほう。面白いことを言う」

オレの挑発気味の言動に、レン王太子は口角を少し上げた。どうやらこの話に乗ってくれそうだ。

「ではひとつ、ルールを設けるのはどうだ?その方が誰の目にも分かりやすく映るのでな」

ルールか。常識的に考えて相手を殺すとか身体のどこかの部位を欠損させるとか、そういうことはしないと思うけど……まあでも、面白くなるなら全然アリだなー。

「どんなルールか聞いても?」

「一対一の勝負をする。ただこれに尽きる」

「ふむふむ、なるほどなー」

確かに、一対一の構図は観てる者にもどう戦っているかが明瞭だ。こっちはパーティだから多人数で二人を相手できるけど、それだと卑怯だなんだと後からいちゃもんをつけられかねない。

なるべく亜人たちの不平不満を減らして、オレたち人間チームを認めさせる。これが今オレたちがやらなきゃならない最優先目標だ。

それをクリアするためなら、レン王太子とギルハルトさん、それぞれと一対一で戦えるのは都合がいい。

……ほんっとに個人的な欲を言うなら、レン王太子とサシで勝負したかったからめっちゃありがたい。これぞまさに、一石二鳥ってやつだな。

「その提案、乗った!」

「それは僥倖だ。では、誰が私とギルハルトの相手を務めるのだ?」

「「はい!……ん?」」

同時に上がった手。その主を見れば、カズハもこちらに顔を向けていた。ちなみにシンはただ傍観しているだけで、あまり興味はなさそうだった。

「カズハもやりたいのか?」
「そっちこそー」
「ならせーのでどっちとやりたいか言おうぜ」
「オッケー」
「せーの……」

「レン王太子!」
「ギルハルト!」

「よっしゃ、被ってない!」
「いやー、よかったよかったー」

周りから見れば子どものように嬉しがってる少年少女にしか見えないだろう。こんなにも殺伐とした乱闘騒ぎが現在進行形で行われているというのに。

とはいえ、オレたちは互いなりの強い思いがあってこの戦いに挑もうとしていた。周りのことなんて気にする理由がない。

「よかったな、兄さん」

「まあな」

セーフ、危ない危ない。

正直、ギルハルトさんよりはリオンの兄ちゃんがどの程度の実力なのか、肌で感じたかったんだよなー。リオンが言うには、レン王太子はどんな角度から見ても非の打ち所がなく、こと戦闘面においてもこの国トップクラスらしい。

こんなの、手合わせのし甲斐がないわけがない。

「決まったようだな」

「おう!」

「なら……」

レン王太子が左手を天高く上げる。その直後、手のひらが白く眩い光に包まれていく。それは徐々に徐々にと、強く光り輝いた。

「シャイン・ブラスト……!」

その声の直後に周囲を眩く照らす強い光が上空目掛けて放たれた。その威力に見合った轟音とまばゆさに、この場にいた多くの人々が動きを止めた。

「な、なんだ!」
「まぶしいぃっっ!」
「前が見えねぇっ!!」

数秒後、その大きな人工光源は姿を消した。そして先ほどまでの喧騒が嘘のように、一時の静寂が訪れた。

「聞け……!お前たちが何度束になってかかろうと、この者たちに決して勝てはしない。なぜならお前たちが私たちより弱いからだ。我らは強者に敬意を払う種族。お前たちから認められている我々が、お前たちの無念を晴らしてやろう!!」

力強い演説と打ち上げられた拳。まさにこの国の統治者に相応しい威厳と自信に満ちた、王者の姿だ。

「「「「うおおおぉぉぉおぉぉぉおぉぉおおおぉぉ!!!!」」」」

再びあの騒音がこの場を支配した。いや、さっきまでのとは比べものにならないほどの熱気と叫びだ。思わず耳を塞いでしまう。

今更ながら確信した。
この人はやっぱりすごい……!!

「……やっべぇ…………」

いつにもなく身体中が強いわくわく感に呑まれる。早く戦ってみたいという叫びが、身体から食い破ってきそうだ。

「会場は盛り上がってきたようだ。さて、ノア……決闘の準備はもう済んだか?」

いつのまにかオレから少し距離をとっていたらしいレン王太子が、剣先をこちらに向けていた。それに合わせて、オレもエスパシオから剣を取り出して構える。

「当然!」

ニッと笑うオレに対し、レン王太子も若干ではあったが口角を上げた。そしてほぼ同時に、オレたちは駆け出した。

己が目的を果たすための戦いの火蓋が今、切って落とされたのであった。



























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