碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

42 獅子獣化

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side レン=アストラル

ふむ。剣筋がいい。

『キキンッ!』

剣と剣が凄まじいスピードで音を奏でる。金属のぶつかる高い音。この音は、昔から心地が良かった。

「私とは違うその剣技。お前の師は、世界に名を馳せるに相応しい剣豪か?」

「おう!オレなんかより断然強いし、ていうかオレの剣の師匠って実は三人もいるんだなー、これが!」

一撃一撃に力も体重もうまくかけられている。存外器用な男だ。

「そうか。ならばぜひ立ち会ってみたいものだ」

「ならオレを踏み台にしてくれないと困るぜ!!」

「っ!」

空いた片手で小さな氣弾を瞬時に作り、私の懐に放ってきた。私は攻撃ではなく回避に意識を向けることで、すんでのところでかわすことに成功した。同時に体勢を立て直すため一旦距離を取る。

あと一歩反応が遅れていれば、仮に直撃でなかったとしても、相当なダメージを負っていたことだろう。

「ま、そんな簡単にやられはしないけどな!」

ニッ、と純真無垢な笑顔をするノア。私の死んだ表情筋ではとても再現不可能そうだった。

「戦いは好きか?」

私は柄にもなく、興味本位で話しかけてみた。普段の私ならば言葉を発することなく戦闘を終わらせる。たいてい、一撃二撃で仕留めることが多いためだ。

仮にそうでなくとも、戦いの最中に言の葉を交わすのはあまり好みではない。互いに命を奪い奪われる熾烈な環境に身を置く中で、どうにもそのような真似は無粋ではないかと考えてしまう。

会話自体は相手の本質を知る上で単純かつ適切な手段ではあるから、得意不得意は別にして、それ自体に私は好きも嫌いもありはしない。

ただ、そんな私の信念を揺るがすほどに、目の前で笑う男の本性を今知らねばならないと、私の本能が訴えかけている。

「おう!なんかこう、ワクワクする感じがいいんだよ」

「ふっ、随分とアバウトな回答だな」

「あ、もちろん命の奪い合いが発生するようなやつは嫌だけどなー」

「……なるほどな」

まだ出会って数日。会話も事務的なものはあっても談笑はしたことがない。そんな私から見ても、この男の本質は大体掴めた。

純粋、素直、誠実、仁愛……こいつは内も外も裏表がない。言動のひとつひとつが真っ直ぐだ。だからこそ、多くの者がこいつに惹かれ一緒に歩みたいと願うのだろう。私の愛する弟がそうであるように。

『ドゴオォォォォォオォォオォォオッッ!!!』

突如、謎の爆音とともに自然にはあり得ないほどの熱風が襲う。目を細めてその正体を見れば、爆炎を纏った竜巻が天高く昇っていた。

「朱雀か……」

「うおっ、なんだあれ?!あっつ!!」

初めて目にしたのであろう。ノアは腕を前にして熱風に耐えつつ、驚いた様子で言葉を漏らした。だがそこに恐怖は一切なく、むしろ目を爛々と輝かせ嬉しそうな声音を発していた。

「すっげーな!この熱、たぶん白氣で練ったもんじゃないよなー……。あ!霊氣か?オレ霊氣は持ってないし、セツナが氣術使う時とちょっと似てる感じがするし!」

興奮冷めやまないといった様子のノア。まるで無邪気な子どもだ。目を瞑れば両手を広げて飛び回る幼子がありありと想像できそうだ。

「おお!炎の、鳥?あ、なんだっけ。確かグランドベゼルの精霊士長が……」

「火の最上位精霊朱雀。それが彼女の名だ」

炎の嵐が止み、朱雀がその美しい翼を広げて姿を現した。たいていは戦場でしか姿を見ることはできないのだが、それだけギルハルトも本気だということだろう。

「朱雀かー。なんかカッケーなー、名前も見た目もさ」

さて、雑談もそろそろ終わりにしようか。

獅子獣化ビーズテット・レーベ

「……!」

私を中心に眩しいほどの光が周囲を照らす。観戦する亜人たちはもちろんのこと、ノアも顔に手をかざして視界を確保しようとしている。

(この高揚感……久しいな)

堰き止められていた力の奔流が、一気に身体中を駆け巡る。身体の肉を食い破って暴れ出してしまうかのような野獣の本能。これが我々亜人の原点であり、本質。そしてその暴れ獅子を制してこそ、真の亜人となるのだ……!

「ふぅ……」

光が、止む。柄を握る太い手を軽く見やれば、鋭く黒い爪が伸びていた。顔を一度揺らせば、長く伸び切った金の髪が大きく揺れ動く。

「さあ、私をもっと楽しませてくれ……!」

血が沸るような感覚に、思わず口角が上がった。





side シン=オーガスト

レンという金目の男が言葉を発した途端、周囲から鼓膜が破れると錯覚するほどの歓声が上がった。若干イラついた俺は一瞬こいつらを燃やし尽くそうかと考えたが、その直後リオンに声をかけられた。そして多くの亜人たちとともに、兄さんたちの闘いを見ることとなった。

「シンはどっちが勝つと思う?」

「兄さんに勝てると思っていること自体が烏滸がましい」

「はは、即答か」

くすくすと隣で笑うリオン。何が面白いのかは理解し難いが、質問の意義が見出せなかった俺からすれば、愚問の一言で片付けられるものだった。

「早速始まるみたいだね」

「……」

兄さんと金目の男が剣を向け合う。そして数秒の後、双方が先手を打とうと走り出した。

「速いね、二人とも」

「……」

止まらない剣戟。力もスピードも五分五分のこの状況では、膠着状態に陥るのは必至。兄さんならばきっと……。

直後、俺の考え通り兄さんが剣戟の隙を縫って氣弾を放った。すんでのところで避けられはしたが、いい牽制にはなっただろう。

「氣弾?!制御のレベルが高難度すぎるあの氣術を、ノアはあんなに簡単にやってのけるのか……」

「ん?氣弾は初歩の氣術だ。これを使いこなせずに別の氣術に手を出すなど、ありえない」

「うっ……」

痛いところをつかれたような表情で胸を押さえるリオン。

「まさかお前、氣弾が使えないのか?」

「えっと……放つことはギリできるけど、コントロールは全然……だから実戦では一度も使ったことはないよ」

「……あの時の上級氣術。あれは上級氣術にしては威力が異常だった。あそこまでの力を出せるのならば、氣弾もある程度実戦に投入できそうなものだがな」

「ああ。それはこの武器のおかげさ」

リオンは腰に下げた剣に手を触れる。よく見れば剣の柄には、小さな七つの玉石が埋め込まれていた。そしてそれらは全て異なる色で構成されていた。

「ネームド武器にはそれぞれ特殊な能力が付与されているとは聞いていたが、その武器はどんな力を持っているんだ?」

七輝グランシャリオは自分が使う氣術の威力を高めてくれるんだ」

「……それだけか?」

ネームド武器には固有の力が宿る。氣術のように氣の緻密なコントロールを必要とせず、ただ武器に氣を流すだけでその力を意のままに操れるという。さらには決して折れることのない不壊の武器。故に誰もが欲する。

だがその力が氣術の威力を上げるのみだというなら、なんとも拍子抜けな話だ。そんなもの、氣を練れば再現可能。唯一挙げられる利点があるとすれば、氣を練る時間を短縮できるというところぐらいだろう。

「ははっ。まあ確かに、威力を高めるって言葉だけだと説明不足だったね。この武器の真の強みは、相手の氣術を吸収することだ」

「ほう?それは興味深いな」

どの程度吸収できるかは知らないが、結果としてカズハの絶対防御アブソリュート・ディフェンスと同じような効果をもたらすわけか。

「例えば風属性の氣術を一定量吸収すると、緑の宝石が光出す。そうなれば僕は風属性の氣術をいつも以上の力で放つことができる。例え適正属性でなくともね」

「……!」

適正属性でなくとも氣術を扱えるとはな。実質全属性適正持ちと言っても過言ではないということか。

「あ、今驚いてくれたね?」

「多少はな。流石にネームド武器なだけはある」

「だね。僕も七輝グランシャリオに選ばれた時は驚いたよ。国宝を常に身につけるなんて、幼かった僕には大きすぎる重圧だったからね」

「選ばれる?武器が使い手を選ぶものなのか?」

「そうだね。なんでも、伝説の鍛冶屋ブラックスミスによれば、どんな武具にも魂が宿っていてネームド武器は特に我が強いらしい。だから武器が認めない者が触れると、バチッと稲妻が走ったり吹き飛ばされたりするんだ」

俺が持つ『神代ダインスレイフ』や『炎帝レーヴァテイン』は、ネームド武器ではあるが俺以外の奴が触れても特に何も起こらなかった。

もしかすれば……。

「ちょっといいか?」

「ん?え、ちょーーー」

「やはりな」

俺は焦って止めようとするリオンを無視して、柄に触れた。が、特段何が起きるわけでもなかった。

「ど、どうして……?」

「まあ俺にも資格があるんだろう」

おそらく神仙族はそのルールの枠外の存在。そう考えるとやはり普通ではないな、俺たちは。

「そう、だね。あまり例がないとはいえ、武器が選ぶ使い手がひとりだけだなんて法則はないだろうから」

『ドゴオォォォォォオォォオォォオッッ!!!』

「「……!」」

意識外からの轟音に、自然と視線が注がれる。そこには炎の嵐が渦を巻いていた。

「ギルハルトのやつ、朱雀を呼んだのか。アグレッシブ・ガーディアンの称号は伊達じゃないってことだね」

「あれが火の最上位精霊の朱雀か。霊氣のことはよく知らないが、圧倒的な存在感のようなものは感じ取れるな。兄さんよりは弱いが」

「あはは。にしても羨ましいよ」

「羨ましい?」

この一連の状況のどこに羨ましがるポイントがあった?

「うん。だって僕はヘルトのことをまだ一度も顕現させたことがないから」

「ヘルト?誰だそれは」

気を落としたように話すリオン。相当仲のいい相手とみえる。

「ヘルトは僕の契約精霊だよ。雷の最上位精霊でね、最上位精霊っていうのは精霊界に足を運んでもう一度直接契約をしないと顕現できなくて……」

「ふ……」 

「え、今笑ったかい?」

「うちにも風の最上位精霊の契約者がいるんでな。世間一般では最上位精霊の契約者は珍しいというが、この場に三人もいるとなると大した存在でもないように感じる」

言われてみれば、セツナが青龍を召喚したことは一度もない。ただの能力不足だと思っていたが、そもそも土台無理な話だっただけということになるな。それはさておき、最上位精霊がどの程度のものか早めに把握しておきたかったから、あの朱雀ってやつが現れたのは幸運だ。ある程度は測れる。

既知と未知。これには雲泥の差がある。

戦いの要は情報。これに尽きる。だからこそ、知は力に強力なバフ効果を乗せて勝利をもたらす。そして勝利の全ては兄さんのために捧げられる。これこそが絶対不滅の真理だ。

「僕らの国に二人の最上位精霊との契約者がいるとわかった時は、奇跡だ奇跡だって、多くの国に騒がれたものだよ。ラグジュアリやファランクスから何度か戦を仕掛けられたこともあったしね」

「強すぎる力を排除しようと動くのはごく自然なことだな。その二国は同盟関係でもあるようだしな」

「うん。本当は精霊界に行って白虎……ヘルトと正式に契約を結んで顕現することができればもっと被害は抑えられたし、ちょっかいも減っていたと思う。ただそんな暇もなくここ数年はめっきり戦がなくなった。ちょっと不気味なくらいに、ね」

「戦争か。何がしたくて血を流すのかは知らんが、仮に兄さんを巻き込むようなことがあれば、誰であろうとその首を斬り落とすだけだ」

「あははっ。シンらしい答えだね。それに、僕も大切な人たちに血だらけの戦場に居てほしくはないな」

軽快に笑うリオンは、やはり出会った頃より感情豊かになった。少し、兄さんに似ている。

「お!」

視界の端から光が届く。先に気づいたリオンはそちらに顔を向けて、嬉しそうな声を出した。

「兄さんが獅子獣化ビーステット・レーベを使ったね。どうやら短期決戦に持ち込むみたいだ」

「お前が使った狼獣化ビーステット・ウルフと同じ能力か」

「そうだね。自分の中に眠る本能の獣の力を呼び覚ます術だ。僕は母方の血筋から狼の力を受け継いだけど、兄さんは父方……つまりは現王の血筋から獅子の力を受け継いでる。気高い金獅子の力を」

まばゆい光が止むと同時、視線の先には金獅子と呼ぶに相応しい背格好の男が立っていた。剛腕な腕の先には鋭く黒い爪が生え、肉体は明らかに先ほどよりもたくましくなっている。筋骨隆々と表現しても差し支えない。

そんな先ほどまでの流麗な姿とは打って変わった獅子風の男は、口角を上げながら長い金の髪を揺らした。

「まるで別人だな」

「まあね。見たことがない人だったら、あれが兄さんだって気づかないと思うよ。性格も多少好戦的になるし、普段より荒々しいかも」

「兄弟揃ってそっくりだな」

「あははは……。嬉しいような嬉しくないような……」

リオンは困ったように後ろ手に首を掻いた。

「さあ、私をもっと楽しませてくれ……!」

口上を叫んだ金髪が大剣を地面スレスレに持って走り出した。あの体格なら、確かに大剣を武器に戦うのは納得だ。切り札のひとつであろうあの姿に合わせて、普段も大剣で戦える状態にしているのだろう。ステータス的にバランスよく強くするのではなく、一点特化型の強さを求めた結果か。

「っ!おっも!!」

「これも止めるか……!」

横に振り抜くと見せかけて、すんでのところで上から下に大剣が振り抜かれたが、兄さんはつられはしたものの、驚異的な反射と身体能力でカバーした。

「兄さんのフェイントもものともしないか、ノアは。やっぱりすごいね」

「今まで一度も使わなかったフェイントをここで使い、しかもあの大きさの剣を自在に操る腕力を持つ……お前の兄もなかなかだな。当然兄さんに敵うはずもないが」

「ふふ。今更だけど、互いの兄が剣を交えているだなんて、なんだか不思議な気持ちだね」

「そうか?」

「うん。特に僕はどっちにも負けてほしくないから余計にね」

柔らかな笑みを浮かべるリオンだが、至って真剣に目の前の戦いを見守っている。

「いけー、レン様!」
「人間なんかに負けるなー!」
「ひ弱な人間ごとき引き裂いちまえー!」

「…………」

「殺せ殺せ!」
「そのまま死んじまえー!」

「でもシンはノアを応援するだろうから、やっぱり僕は兄さんを応援することに……」

別にこいつら愚物どもの声は兄さんが戦い始めてから聞こえていた。だが兄さんの頼みでこの愚物どもを無用に傷つけるなと言われてしまった。だからここまで耐え続けてきた。

だが……そろそろ限界が近い。

「シン?顔怖いけど、どうかしたかい?」
「リオン」
「うん」
「ここにいる愚物……亜人どもを殲滅しようかと思うんだが、お前はどうする?」
「いやいやいやいや、ダメに決まってるよ?!急にどうしたんだい?!!」

俺は冷たい目のまま、静かに愚物どもに視線をぶつけた。それに気づいたリオンは、「あ。なるほど……」と言葉を漏らす。

「もう少しの辛抱だから、我慢してくれないかな?お願いだ!この通り!!」

ちらと目線をやれば、リオンが両手を合わせて頭を軽く下げていた。何故この愚物どものためにリオンがここまでする必要があるのか、全く理解ができない。

「…………」

だが結局……兄さんが悲しむ姿は見たくない。それだけは耐えられない。

「はぁ。今回は見逃してやる」

「助かるよ、シン。ありがとう」

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」

野次馬どもの声が一際大きくなる。目線を戻せば、この数分の間で一気に兄さんが押されていた。

剛腕から放たれる大剣の波状攻撃。その一撃一撃を浴びせられるたび、兄さんを支える足が地面へと食い込んでいく。なんとか弾き返したり受け流したりしてはいるが、どう考えても劣勢だ。

金髪が金獅子の姿になった当初は互角だったというのに、この数分で一体何が起きたというんだ?

「兄さんが、押されている……?」

「きっと『栄光ラディアント』の能力を使ってるんだ。あの大剣も僕の剣と同じで国宝指定のネームド武器だから」

「ネームド武器……思ったより厄介だな」

「兄さんの大剣、栄光ラディアントは身体能力を底上げするっていう、本当にシンプルな力だ。特殊な点があるとするなら、時間が経てば経つほどにその力はどんどん強くなっていくってところかな?」

「ふん。いいのか、俺にそんな重要なことを教えて。その情報は戦略的価値が高いぞ」

「ふふ。シンを信じてるからね。僕の知ってることならなんでも答えてあげるよ」

柔らかな笑み。俺にはない、兄さんと似た優しさの溢れる笑み。

「……とんだお人好しだな」

「あはは。その言葉、たぶん僕には似合わないかなぁ」

「?」

「気にしないで。それより、兄さんたちの戦いを最後まで見届けよう」

「ああ」

兄さんが負けることなど、絶対にあり得ない。

「な、なんか、どんどん重く、なって、ない?!」

「それがこの武器の力。そしてこの大剣を最大限に活かせるこの体格……お前に俺を超えられるかな?」

「ははっ、すごく好戦的だな、レンさん。それに今の姿もめっちゃカッコイイ!」

「……お前、この状況でもそんな風に笑ってられるのか?図太いというべきか阿呆というべきか」

剣撃が止んだ。大剣が兄さんの剣を叩き斬ろうとしているが、兄さんもなんとか堪えている。

あの困惑した目をみるに、きっと兄さんが何か言ったんだろう。あの金髪に何故だかキラキラとした目を向けているし。

兄さんは良くも悪くも人懐っこい。だから有象無象どもが付き纏ってくる。その中には当然のように兄さんに悪意のある、生きている価値のない愚物も存在する。そしてそれを駆除することこそ、弟の俺の役目だ。

「いやー、あはは」

「まあいい。このまま力押しさせてもらう……!」

金髪の両腕の筋肉に筋が入り、よりいっそう盛り上がる。兄さんを支える足が一段と地面に食い込み、そこを中心にできていた円を描いたような陥没が音を立ててさらに大きくなった。

「ぐっ!」

兄さんの顔がひきつり、だんだんと大剣を凌いでいる両腕が兄さんの方へと押し込まれていく。単純なパワーだけでみれば、奴はすでに兄さんを超えている。客観的に分析すればそうなるが、感情的には不愉快極まりない。兄さんを下に見ようなどと烏滸がましいにもほどがある。この手で殺してやりたい。

だが兄さんならば、この冒涜を寛容に許した上で勝利してしまう。俺のちっぽけな思いなど気にも留めずに。

「ははっ!」

「ん?何がおかしい」

「やっぱ外の世界っておもれーなって思ってさ。ありがとな、レンさん」

「…………」

「そんじゃ、俺もレンさんに敬意を表して、ちょーっとばかし本気見せちゃおっかなー」

兄さんの目に鋭さが宿る。あの表情はきっと、約束を違えた故の本気そのものだ。こっちへ来てからは俺も兄さんもまともに使えていない、神仙族にしかない力。

『決して神氣を使ってはならない』

この約束をさせる理由は正直よく分かってはいない。ヴォルガや秀たちが半ば強制的に結ばせたもので、この世界だと珍しがられて余計な危険を増やす可能性があるだとか説明を受けはしたが、俺は納得してはいない。兄さんが追求しなかったため、俺も控えたというだけの話。

「っ!」

金色の淡い光が抵抗を見せる兄さんの全身を包む。瞬間、兄さんが爽やかな表情で剣を押し返した。金髪の大剣が腕ごと宙に浮き、大きな隙が生まれる。

「はあっ!」

軽く弾き返したその勢いのまま、兄さんの剣が横一線に振り抜かれた。

「「「っ!!」」」

形成逆転したこの状況。何が起こったのかわかるのは俺たち神仙族ぐらいの者だが、自分たちの代表が負けるかもしれないという不安と驚きがよぎった愚物たちは、目を見開き固唾を飲んでいた。

「……ありゃ?」

鋭い一撃が金髪の横腹にヒットし、状況が一転すると誰もが思った。だが、実際はそうはならなかった。

……やはりナマクラ武器だな。兄さんに相応しくない。

確かに金髪の横腹に一撃が入った。だが剣身は簡単に折れて宙を舞った。これには兄さんも驚きを隠せずにはいられなかったようだ。

「悪いな。この姿の俺にはそれ相応の攻撃しか通らない」

運良くクリティカルヒットを免れた金髪は、体勢を整えて兄さんと同じように大剣を横に振り抜こうとした……その時だ。

『ドォーンッ!!』

兄さんと金髪の間に、爆音とともに土煙が舞う。どうやら何者かが乱入してきたらしい。

「おいおい、俺を差し置いて楽しそうなことやってんじゃねぇよ。ちょいと混ぜろや」

薄茶色の幕が開かれる。そこに立っていたのは、黒髪に黄緑色の目をした、いかにも野生的な男だった。
























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