迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

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家政婦…もとい、婚約者は見た!⑤

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 しばらくして階段を上がってくる足音に、顔を上げる。姿を現したセルトンが驚いたように目を丸くした。

「ああ! ルミ様そちらは俺がやりますから、触らないでください!」

 そう言いながら上ってきたばかりの彼は再び階下に戻っていった。

 先程の騒がしいお嬢様がいなくなったあと、私はしばらく魂が抜けていた。再び襲ってきた嵐が去って、一気に気が抜けてしまったらしい。

 ついついその場でしゃがみこんで動けなくなってしまっていた。けど、逆に静かだと先程の恐怖や不安がじわじわやってきて、気を紛らわせるように床に散らばるガラスペンの欠片を拾ってた。

 チマチマ……チマチマと……。

 セルトンの姿を見たあとも延々と続けていた。けどふいに、その手を止められる。顔を上げたら、戻ってきた青年に心配そうに覗き込まれていた。

「大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが」
「あ、ごめんなさい。ちょっと驚いてしまって……」

 なかなかに厳しい。笑おうにも表情筋はピクリとも動かなくなってしまった。

 沈黙の中、手を離したセルトンがゆっくりとその場に布を敷く。

 彼は、ガラス片を乗せていた私の手を掴むとその上に持っていった。そのまま欠片を別の布で丁寧に払い落としながら謝罪を口にする。

「申し訳ありません。もう少し早く気づけば良かったのですが……怖い思いをさせてしまいましたね」
「あ、謝らないでください! あの時は来てくれて本当に助かったんです。今はちょっとビックリしただけというか…ああいうのに慣れてなくて」

 慣れれば大丈夫ですと、伝えようとしたらガラス片を落としきった手をかるくギュッと握られた。

「?」
「慣れないのは当然です。慣れようとしないでください。俺たちも……」

 言いかけて口を閉じる。そういえばフェルがこの状態を招いたのは使用人への当たりが強かったからだっけ。

 彼は「とにかく無理はしないでください」と残して手を離す。そのまま他の欠片を小さなブラシで片付け始めた。

 しばらくしてポツリと言う。
 
「旦那様は……優し過ぎるんです」

 つい反応して繰り返す。

「優しい?」
「急に押し掛けるご令嬢が増えて」
「うん……」
「確かに始めは戸惑いもありました。辛い思いをした仲間だっていた。それに主人が胸を痛めて決断したことも知っています。実際、黙っていれば彼女たちは俺たちに見向きもしなくなりましたからね」

 吐き出すように続ける。よほど鬱憤が溜まっていたのか声は硬い。

「屋敷で好き勝手されて、そのせいで主人に迷惑がかかって、それで俺たちだけが守られたっていいわけがないんです」
「……そうだね」

 自分さえ我慢すれば丸く収まると思い込んでしまう人はいる。確かにその行動で助かることもあるんだろうけど、一方でやっぱり憤りを抱えてしまうのだろう。

 私も以前はそういう節があったかもしれない。思い返しながら同意したら、セルトンは一瞬驚いた顔をして、でもすぐに綻ばせた。

「けど昨日は……こう言ってはなんですが、嬉しかったんです。久方振りに主人のあんなハッキリとした指示をいただけて、昔の屋敷が戻ってきた気がしました」

 そこでハタと気づく。そういえば彼、昨日ガルシアさんと一緒に入ってきた使用人のひとりだったのね。

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