迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

翠月 瑠々奈

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この先の予感④

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 リズミカルな蹄の音に、頬をかすめていく風。そんな中、振り落とされるまいと必死にフェルに抱きついていた。

 どれくらい走ったのだろう。少しだけ揺れに慣れてくる頃、彼はゆっくりと、でも確かな声で話し始める。

「この間はすまなかった」

 その言葉に顔を上げる。

「君はただ心配してくれただけなのに……」
「いえ、気にしないで…ください」

 きっとあの儀式の時の話だ、と気づく。一度は謝ってくれたのに、あれからどこか避けてしまっていたことに少しだけ気持ちが落ち着かない。

 だけど今も逃げたくなる気持ちは否めない。それを誤魔化すように、何か話さないと、と焦ってしまう。

「私こそごめんなさい。余所者なのに、余計なことばかりして……」
 
 言ってからハッとする。昼間の嫌みに引きずられたかもしれない。こんな言い方、突き放してるみたいじゃない。

 すぐに顔を上げたら、悲しげな表情を返された。深い藍色の瞳が揺れる。静かに伏せて、けどすぐ前を向く。

「たしかにそう言われても仕方がないと思う。だけど信じて欲しい、この間のことは君に対してじゃないんだ」
「私じゃない?」
「……ああ」

 彼は呟くように続ける。何かを想うように遠くを見つめた。

「寂しかったよ……君との距離が寂しかった」
「……」

 呟かれた素直な言葉に赤面してしまう。どういう意味だろう、とか、他意はないはず、と思考が忙しない。

 応えられずにいたらフェルが「でも」と言った。

「さっきは嬉しかったんだ。あれだけの人がいても、それでも私の傍へ来てくれたから」
「少し……勇気が入りましたけどね」

 つぶされる覚悟はしていたから。それを思い出してクスッと笑ってしまう。つられるようにフェルも微笑む。

「……もう、こうして話せないかと思っていた」
「そんなこと……恩人でもあるのに」
 
 あのお城でフェルに会えたからいま、快適に過ごしている。別の誰かだったら…なんて想像したくもない。それを思い出すと最近の態度は反省すべきかもしれない。

 彼は間を置いて「そうか」と返して、だけど急に片手で私の腰を強く抱く。直後「飛び越えるよ」と聞こえ、何を、と思う間もなく衝撃がくる。

「っ!!」

 かろうじて見えたのは馬が前方の短い柵を飛び越える瞬間。宙に浮かぶ感覚は一瞬で、すぐにザッと地面に降り立つ。すると次第に速度を緩めた。

「……?」

 落ち着いてから周囲を見渡すと、そこが広場だと気づいた。

 中央に噴水があって、馬車の通る街路もある。当然、人も多く行き交いフェルを見つけたお嬢さん方が集まり始めた。

 キャー、キャー言いながら。

 たぶん昼間紹介されたときにいなかった一般の方みたい。また同じことをするのかな、とフェルを見上げたら、彼は周りなど見えないかのように私を強く見つめてきていた。

「──…!」

 それはあまりに真剣で息を呑むほど。気づいてからは、吸い込まれるように見つめ返すことしか出来ない。すると静かにフェルが口を開く。

「……そういえば忘れてたよ。本来の私はこう・・だった」

 ゆっくり頬に添えられる手。互いに交わる視線。なにも言えないままフェルが耳元に顔を寄せる。

「この契約は……契約のままでいられないかもしれない」
「!」

 パッと顔を動かすと彼がフッと瞳を細めた。

「ほら、けどまだ契約のうちだから」

 そっと掬うように顎を持ち上げられ、唇が重なる。

「っ!」

 周囲では先程と違った叫びが上がった。けど私は、それを気にする余裕なんて欠片もなかった。

 ただ、顔を離したフェルの瞳が夕陽に当てられて強く煌めく。

 その眼光に知らずに固まる──まるで狙われた獲物が逃げられないと悟るかのように。
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