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しおりを挟む「ねえ、前から思ってたけど、どうしてオリビアは怒らないの?」
「え?」
突然言われたことに疑問符を浮かべる。ミシュアは「侯爵のこと」と続けた。
「さっきの話も変だけど、前々からおかしかったわよね。すぐ怒る気がするの」
「たまにあるのよ、よくわからないけど不機嫌になるのが」
「それ。こっちにまで分かるほど滲み出てるの。それだけじゃなくて、他にも使用人のように扱ってたり、そろそろオリビアの方が怒っていいんじゃない?」
「そうよね……でも他ではそうしてるって言われるのよ」
「他って?」
「他の侯爵家でも、妻は夫を立てるものだって」
その言葉にミシュアが眉間にシワを作る。
「そんな話、聞いたことないわ。夜会で見る夫妻はみんな互いに支え合っているもの。言葉を借りるなら、むしろ妻を立ててる方だけど」
「そう、よね……」
夜会で会う高位貴族たちは、皆妻をエスコートし、男性は決して前には出ない。それが夜会という舞台のマナーだからだ。
にもかかわらず、ローガンはオリビアを呼びつけ、飲み物を持ってこさせ、夫人たちと話していてもお構い無しで割り入ってしまう。
それが最近、悪い印象を与えていることをミシュアは言った。
「サルコベリア侯爵は傍若無人だ、なんて言われてるの。まだ高位貴族の中だけだけど、それが下位貴族まで伝わったら……付け入る隙を与えてしまうわ。気をつけて」
爵位は一定期間で、その地位に相応しいか国の評価が入る。少しでも不足があれば下がることは考えられる。だからこそ、高位貴族たちは常に社交界で互いの繋がりを守っていた。
オリビアは考えるように一拍置いて「そうね」と返す。
「ローガンと話してみるわ。今のままじゃいけないものね」
「ええ。そうした方がいいわ」
その言葉に小さく頷いた。
* * *
邸に着いて、ミシュアと軽く別れの挨拶を交わして馬車から降りる。
すぐさま邸に向かって行くと、ちょうど外にいた侍女の一人が足を止めた。
「オリビア様、おかえりなさい。侯爵様はご一緒じゃないんですね」
「そうなの。それより今、手が空いてるかしら? 執事長を呼んできてくれない? 私の私室に……いえ、執務室の方に来てと伝えて」
「わかりました。すぐに呼んできますね」
パタパタと駆けていく侍女の背を見送って、オリビアも中に入る。
正面の階段を上がって真っ直ぐ執務室を目指した。
廊下突き当たりの木製の扉。夫のローガンの執務室だが、結婚してからはオリビアも兼用で使用している。
彼女は入るなり、机の端に置いてある大きめの手帳を開いた。予定の欄はびっしりと埋まっている。だがやはり、この後重要なものはなかった。
ホッと胸を撫で下ろす。同じタイミングで、部屋の扉が叩かれた。オリビアが返事をすると、執事長が入ってくる。彼は「呼ばれましたか?」と聞いた。
「遅い時間にごめんなさいね。確認してもらいたいことがあったのよ」
「なんなりとお申し付けを」
「ありがとう。早速だけど、ローガンの予定を一週間分まとめてくれるかしら。大きなものから、細かいことまで全部」
「承知しました」
頭を下げて執事長がその場を後にする。オリビアは次に、とミシュアへ送る手紙の準備と、先ほど話した内容をまとめ始めた。
以前、ミシュアの領内で採掘された珍しい鉱石。それは微量ながら光を帯びているらしい。それをミシュアから聞いたオリビアは、きっと市場に出れば物珍しさから売れると踏んだ。それをいち早く聞いた上での依頼だった。
実物を見ることは叶わなかったものの、馬車で加工するに向いている品や、状態などを聞く。それらを思い出しながらメモを取る。
一通り書き終えると侍女が部屋へ訪れた。
夜会から戻ったままのオリビアを心配したようだ。彼女は着替えを提案し、オリビアも頷く。そのまま自室へと二人で向かった。
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