不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈

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「おい、オリビア。なんで寝てるんだ。起きろ」

 ゆさゆさと揺らされ、オリビアは身じろぎする。外は暗く、部屋もひんやりとしたまま、時計はもう深夜をさしている。

 起こされたオリビアは、無理やりこじ開けるように薄く目を開けて、声の方に向けた。

 そこには顔をしかめたローガンがいる。彼は不機嫌そうに続けた。

「先に寝るやつがあるか。なぜ起きていない」
「……もう夜中じゃない。今帰ってきたの?」
「ああ。どうだ? 当主の俺がいなくて困っただろう?」
「当主の……?」

 いまだ眠気が残る頭でぼんやり考える。ローガンは夜会の帰りに一人にされた仕返しをしているのだと気づいた。

 だが当主だけで担える仕事など、今はさほどない。オリビアは困っていないと答えようとしたが、そうすればまた騒ぎ立てるのが目に見えている。

 眠気が増した彼女は、「そうね」と返した。

「困ってしまったわ、とても。あなたがいないとダメね」
「! そうだろう! 次からは勝手なことをするんじゃないぞ」
「ええ、そうする。もう寝ていいかしら? あなたも早く休んだ方がいいわ」
「確かにそうだな。疲れたし、寝ることにしよう」

 そう言って満足そうなローガンがベッドから離れる。オリビアはパタンと閉まる扉の音を聞いてから、横になった。


*  *  *


 割った石の内部は黒く、だが中心がわずかに白く輝いている。オリビアはミシュアから受け取った石を返しながら感心したように言った。

「すごいわね。弱い光だけど、ずっと消えないのがいいわ。装飾品を作って階段上、裏口や庭園なんかに置いたらいいわね」
「そうでしょ? ただ、まだ扱える技師が少ないのよ。王都にいるのは一人だけ」
「一人? 出来るなら話を聞きたいのだけど、難しいわよね?」
「あら、それならちょうど良かった。今父と話してて、時間取れないか聞いてくるわ」

 ミシュアがそう言って立ち上がる。オリビアが「ありがとう」と返した。

 一人になって再び鉱石を眺める。ふとローガンを思い出した。

 今日、彼の予定を確認して、ミシュアとの約束を取り付けたというのにまた不機嫌になっていた。その理由がまさか、自分を見送る人がいないと拗ねているだけだったなんて、どうして分かるだろうか。

 結局、もう予定が入っているから、と伝えて、ついでに「バース侯爵にももう、ローガンが快く送り出してくれたって言ったのよ」と話した。

 さすがにミシュアの父の名を出したら、渋々引き下がったもののオリビアが出るときに顔を見せることはなかった。

「はあ……」

 知らずに溜め息が出る。

 子どもはまだ授かっていなかったが、子どものような夫にどこか不安な気持ちが出てくる気がした。
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