5 / 13
5
しおりを挟むミシュアの邸を訪れて数日後、サルコベリア邸の執務室でオリビアが書類に目を通していた。
近々視察に行く予定で、用意した行動表。それらを確認していく。
すると扉の向こうから物凄い足音がし始める。ドスドスと響くそれに、オリビアが顔を上げた。直後、勢いよく扉が開く。
「なんなんだアイツは!!」
突然の怒鳴り声にオリビアが驚き息を飲む。すぐに怪訝な顔をして「どうしたの?」と聞いた。
「リヴェルト侯爵の次男坊だよ! 俺のやることにいちいち反論して! 挙げ句に何て言ったと思う?!」
「……何て言ったの?」
「そんなやり方じゃ進められない、もう一度考えろ、だと!!」
「やり方……王城そばの橋の件かしら?」
「そうだ。まったく、次男のくせに当主の俺に歯向かうなんて不愉快だ」
正面のソファに身を投げるようにして座り、腕を組む。ブツブツ文句を言うローガンに小さく息を吐いて、オリビアが先を促すように聞いた。
「それでリヴェルト侯爵令息は、どの部分に反対だと言ったの?」
「費用と人員だと。安く雇った人間を多く集めるより、身元のしっかりした技術者に賃金を多く払って来てもらえとさ。それじゃあ割に合わないだろ!?」
「なるほど」
唐突な話をなんとか紐解いて、ローガンの不満の理由を探っていく。それがようやく繋がった。
少し前、王城のそばの橋が一部崩れてしまい、その修理をいくつかの貴族家に任された。そして今、協議が進めているところだ。予算はおおよそ見積もった額を国から割り当てられ、すでに各家に支払われている。
もし余ればそのまま収入になるが、予算を超える出費になれば、それはそのまま各家の損となる。ローガンは、そこが引っ掛かっているのだろう。
オリビアが「だけど」と続ける。
「その令息のいうことも一理あるわ。国から預かった大事な仕事だもの。信頼できる人に任せたいと思うじゃない」
「なんだ……お前はアイツの味方なのか」
「ローガン?」
不服そうな物言いに疑問を返す。だがそれ以降、ローガンは口をきかなくなった。
何を言っても無視され、話にならない。しばらくして執事が夕食の準備が出来たと呼びに来たが、変わらず会話はなかった。
さすがにこれではいけないと、食後に廊下でローガンを呼び止める。
「ローガン、待って。話をしましょう」
「……」
オリビアの声に彼はピクリと眉を動かすだけ。そのまま離れていきそうになるのを、慌てて袖口を掴み引き留める。
「話を聞いて。あなたのことを否定したつもりはないの。ただ、いろいろな考えがあるって言いたいだけで」
「……」
精一杯言葉を選んだつもりだったが、ローガンはムッとしたまま返事をしない。だが、一拍置いて彼がニヤリと笑った。
「なら次からの会議にはお前が参加すればいい」
「え?」
「お前ならあの次男坊と気が合うだろうさ。ふんっ、次の場所は執事に聞いておけ」
「ちょっと、ローガン!」
オリビアが掴んでいた腕を払って歩き出す。急な話に彼女は呆然としてしまった。シンと静まり返った廊下で、ただただ佇む。
窓から差し込むわずかな月明かりだけが、先を照らしていた。
84
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
そんな世界なら滅んでしまえ
キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは?
そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
コレが溺愛に見えますと?
真朱
恋愛
マリージュの婚約者・リュカは、熱狂的信者を抱える超絶美男子。
周囲の皆さんの目には、マリージュはリュカから溺愛されているように見えているらしいのだが、マリージュに言わせるなら、これはそういうのじゃないのだ…!
恋愛音痴のマリージュと、マリージュとの距離を詰めたい腹黒婚約者・リュカの、モダモダしてるようなしてないような?なお話です。
※以前公開していた同名タイトルのお話の改訂版です。
※差別的意図は決してございませんが「ハゲ」という言葉がだいぶ出てきます。不快に感じる方は閲覧をご遠慮ください。
だってわたくし、悪女ですもの
さくたろう
恋愛
妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。
しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる