不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈

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 王国の中心、城下の街は賑やかだ。隣国から商業隊が続々と入ってくると、珍しい品が市に並び始める。近く開かれる王国主催の博覧会が開かれるのを待つことなく、街はお祭り騒ぎとなっていた。

 その市場にオリビアとウィリアムが歩いていた。

 新しい鉱石を使用したランプを作ったが、いまいち光量が足りない気がして、別の形にするべく市場調査を兼ねて現れた。

 ミシュアはギリギリになって用事が入ってしまい、念のためと誘ったローガンにはそんな暇はないと断られていた。おまけに市場に行くなら、侍女らは連れて行かせないとまで言われてしまった。

 それが出掛けようとする自分への嫌がらせだということは、最近になって分かってきたところだ。だが、今さらたいした問題にもならない。

 オリビアは隣のウィリアムに声をかける。

「すごい人ね」
「この時期は他国からも人が集まるからね。……おっと」

 通りに溢れんばかりの人々。すれ違う人にオリビアがぶつかり、ふらついてしまう。そこをすかさずウィリアムが支えた。咄嗟に抱きつくような形になって、慌てて離れる。

「ごめんなさい、つい」
「いや。これだけの人だからね」

 それにしても、と彼が続けた。

「先が見えないな」
「ここまで人が集まるなんて驚いたわ。三年前もこうだったかしら」
「うん。今よりは少なかったかもしれないけど」
「そうなのね」
「川辺の方は特に人が少なかったからね」
「私はいつも花の川流ししか参加してなかったの。だから知らなかったわ」

 オリビアの言葉に「それなら」とウィリアムが返す。

「今日は俺が案内してもいいかな。どうだろう?」
「そうしてくれると嬉しいわ」

 にこやかに返事をするオリビア。頷くウィリアムにそのまま先導されて人混みに入っていく。器用に人を避けて道を作る彼のおかげで、オリビアは直前よりも快適に市場を楽しめた。

 不思議な食べ物の売っている屋台、珍しい織物に煌めく装身具の店。見たことのあるものから、ないものまで、オリビアは目に留めていく。

 そのうち大広間までたどり着いて、休憩しようとウィリアムが言った。

「あのカフェのテラスならちょうどいいんじゃないかな」
「そうね。今なら……え」

 オリビアが視線を向けて、目を見張る。カフェの横の路地入り口に、ローガンの姿があった。彼は今日自領に行くと言っていたはず。

 それなのに、城下のど真ん中で会うとは夢にも思わなかった。

「夫人? 何が」

 オリビアの視線を辿ってウィリアムも動きを止める。ローガンは一人ではなかった。金髪の少女を抱いて唇を重ねている。見覚えのある顔に、思わず呟いた。

「あれは……ゴードン男爵令嬢? 何故……あ、オリビア!」

 隣で身を翻し、駆け出すオリビア。ウィリアムは咄嗟に彼女を追いかけた。

 
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