不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈

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 花びら舞う城下に、王城から豪華な馬車が下る。オリビアたちがかかわった橋を渡る姿を見て、彼女はホッと胸を撫で下ろした。

 これから王族を乗せた馬車が街を巡り、博覧会の始まりを知らせる式典が開かれる。橋の修繕に携わった貴族家は特別に、式典後の夜会へ招待されていた。

 その前に、とローガンとオリビアは橋を訪れる。

 始めこそローガンは渋ったものの、夜会で話を振られたときに答えられないのは問題だとオリビアに言われ仕方なしについてきた。

 だがやはり、不満は残っていたようで、ローガンは細かい部分を見ようともせず、「行くぞ」と言って身を翻す。オリビアもワンテンポ遅れてついていった。


*  *  *

 
 シルバーの髪を編み込みにして結い上げ、髪止めをつける。侍女にイヤリングをいくつか差し出されて、適当に手を伸ばす。

 しかし、その手が止まる。

 オレンジの石が輝くイヤリングがあった。

 侍女がその横の青いイヤリングを取って、宝飾品入れを仕舞おうとする。それをすかさず引き留めた。

「隣のものでお願い」
「こちらですか? 承知しました」

 侍女は特に気にせず、イヤリングを取り替える。耳につけ終わるのを見て、オリビアは立ち上がった。清楚な薄い水色のドレス。銀糸で彩られた模様が煌めく。

 部屋の入り口にはもうローガンが待っていた。夜会に参加するには少し派手目な金を基調とした上下。濃い緑の刺繍がまだ色味を抑えているといった様子だ。

 そばに行くと、彼は何も言わないまま動き出す。オリビアはその後ろを静かについていくしかなかった。

「……」
「……」

 重苦しい空気の中、無言の時間が馬車に乗っても変わらず続く。仕方なしにオリビアが窓の外へ視線を向けた。

 結局、ウィリアムから聞いた紙の花を開くことは出来なかった。

 ローガンに想い人がいるのは、秘密裏に調べた結果で分かってきた。けれどそれでも、自分を妻にと望んでくれたローガンを信じたいと思っていた。

 流れる景色を見つめる。街はすっかり夜の賑やかさに変わっている。飾りが各家を彩り、様々な灯りが街を輝かせる。道行く人々は浮かれているのか、足取りが軽い。しばらくすると静かな通りに入る。

 今度はきらびやかな馬車が多く並ぶ城の前まで、辿り着く。

 馬車が止まると豪華な装いの男女が降りてくる。オリビアたちもその集団に加わった。

 王城の大ホールには、テーブル上に有名な料理家による食事。雰囲気を盛り上げるための楽団の音楽。そして博覧会で展示予定の絵画などが一部お披露目された。

 オリビアたちが会場入りすると、ちょうど正面にいたウィリアムと目が合う。けれどオリビアは、その視線を逸らした。

 胸がチクリと痛む。誤魔化すように夫へ声をかけた。

「それじゃあ、ローガン。行ってくるわね」

 そして、いつものように夫人たちの輪に入ろうとしたときだった。

 彼はオリビアの手を掴んで「待て」という。

 同じタイミングで近づいてくるゴードン男爵令嬢。彼女は艶やかに揺れる金色の髪を払って、鮮やかな赤い唇を上げるとオリビアを勝ち誇った顔で見る。

 直後、ローガンがその令嬢の腰を抱いた。
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