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「ーー場所を変えようか」
「?」
彼女が怪訝そうな顔になる。
「ここで君が認めてくれたら、もう少し穏やかな方法も取れたんだが」
「!」
彼女が警戒態勢を取る前に体を拘束して転移魔法を発動させた。
♢♢♢
最初の広間に一瞬で降りたった。
ひと目見て、「あ、マズい」と舌打ちしたくなった。
カンナちゃんがまた病気になったらヤバいと思って一気にやりすぎた。
目の前にあの日と同じ光景がある。候補者たちが魔方陣の中に集められ、周りに神官をはじめこの城の者達が集まっている。
違うのは彼女達がいる魔方陣と自分の間は離されており、さらには兵士が立ち塞がるようにずらっと並んでいる事と、自分はクレイルに拘束されている事だ。
背後のクレイルが神官長に頷く。
何をする気だ。
神官長の足元にあるのは何だ?という疑問を口にする間もなく、白い覆いがかけられているそれがさっと取り払われ、籠の中の動物が放たれる。
「?!」
アライグマかレッサーパンダを真っ白に小さくしたようなその獣は何故か一目散に私の元へ駆けてきて、腕の中に飛び込んだ。
何だこれは。思わず抱きとめてしまったが、それは腕の中で落ち着いた。
すると背後の溜息と神官長の歓喜に満ちた声が同時にきこえた。
「おぉ…!やはり、聖女様…!!」
「ーーは?」
「その獣は冬告げの時に産まれ絶対に人の手に懐かない大変珍しい種なのです。伝説の獣でもあります。[冬告げの時に産まれし仔は聖女の元へ駆ける]という」
なんだそれは。そんなの知らない。
暖かくてふわふわの動物が、腕の中で急に重くなったような気がする。
背後のクレイルが説明を加えた。
「要するに、冬の始まりに産まれたその獣は春を運ぶ聖女の腕にしか抱かれない生物だって事だ」
「あやふやすぎませんか」
「聖女に関する情報は秘匿されているからな。普通は知らされない情報だ。だが確かに聖女認定方法の一つとして伝えられている」「この世界では、でしょう。私はこの世界の住人でありません。前にこの方法で認定された聖女様はこの世界の住人だったからでは?」
言いながら背後のクレイルに向き直る。
そう、聖女召喚は異世界に限らない。この世界の住人の場合もあるって事は知っているのだ。当てずっぽうだが相手は黙った。
クレイルの目に迷いが見える。が、拘束は解かれない。
私は帰りたい。
「出来れば、ここで認めて欲しかった」
諦めたような声と共に再び前を向かされ、クレイルが兵士に合図を送ると兵士の壁の隙間からカンナちゃんの姿が見える。彼女もこちらに来ようとしたが兵士に止められている。
「もう一つの証明は彼女だ。彼女が病にかかった時、君が看病していたろう?」
「付き添っていただけです」
「彼女はあの時命を落としていた筈だ。大人ならともかく子供である彼女の体力は病の回復まで保たないというのが城の医師達の見立てだった。治癒魔法の使える魔導師の見立てもだ。だが彼女は回復した。何故かわかるか?」
ざっと鳥肌がたつ。死ぬ筈だった?死なせるつもりだった?まだ小学生のあの子を?自分達の勝手で連れてきて、こんな場所で不自由を強いて病気にした挙句ただの風邪だと偽って?
ーーなんて勝手な。吐き気がする。
「不思議に思った魔法使い達が調べた所魔法治癒されていた。当然誰がやったのか?という話になる。だがあの時城内にそこまでの回復魔法を使える者はいなかった。そこで思い出したのが君だ。君は彼女の手を握って歌っていたろう?」
違う。私は元気付ける為に手を握ってただけだ。
だって風邪だってきいてた。歌だってただ歌っただけだ。歌に魔力使った覚えなんかない。風邪がうつらないように防御はしてた。自分まで倒れるわけにいかないから。
「君が治したんだ。無意識にしろ、意識してやったにしろ。ーー彼女にそれを伝えるか?」
小声での会話は、あちらには届いてない。
「ーーやめて。」
ーーそんなつもりじゃなかった。
なんで?私はあの子達と一緒に戻される為にーーその為に”擬態”してたに過ぎないのに。
「君を、こんな風に引きずり出したくはなかったよ」
引きずりだしといて言うな、偽善者。
「ほっといてくれたら良かったのに」
「ほっとけなかったのは君だろう?」
ーー何もしなければ良かったって事か?私は単に自分の身を守ってただけだ、周りに敵を作らず、印象にも残らず。
そんな私に目を向ける人なんかいないと思ってたのに。クレイルは私が思ってたよりずっと鋭い人だったらしい。
私は笑い出しそうだった。この場の滑稽さに、召喚した相手の区別さえつかないこの世界に、何より自分の間抜けさに。
まあ、笑える現状じゃないんだけど。
「その役目とやらが済んだら、私も帰してもらえるんですか?」
「確約は出来ない。最大限努力はするが」
約束にすらなってねーよ。
「聖女様……」
それまで黙っていた神官長が口を開く。
「クレイル様に話をきいてもしや と思いましたがやはり、あなた様が」
涙ぐむのやめてマジで。重いから。
「貴女が元の世界に帰りたがってる事はわかります。ですが、どうか先にこの世界を救っていただきたい…!」
第一王子が頭を下げる。因みに国王夫妻は先日心労でぶっ倒れてこの場にいない。
「えー…と?他の世界の人間に丸投げって卑怯じゃないですか?」
「ツキナ様!!」
うん、何人かの声が混ざって特定不可能。
「貴方はこの世界に責任を持つ立場かもしれませんが、私はこの世界の住人じゃないんですよ?」
「……自分に力があればそうしています」
でしょうねわかってます。
それは私達の生きる世界だって一緒だ。
相手が魔物か天災かの差ってだけで、いつ壊されるかわからない世界。そこで皆不安を抱えて生きてるのだ。
私だって一度は絶望した。その時救いの手は来なかった。
なのに私に救い手をやれとか何の冗談だ。それなら向こうにも召喚の権利が発生しなきゃ変だ。
皆そんな奇跡に頼らず日々の小さな楽しみを糧に生きてるのだ、私の場合は本と、いや何でもない。
とにかくここの連中は召喚しといて相手が誰かわからないと言ってるのだ、だったら知らん顔して返却されるのを待とうと思った。
あちらからこちらに落ちてくる間に頭の中に入り込んできた聖女の記憶とチカラとやらを無視して。
大丈夫、誰も私を聖女だなんて疑わない、そう思って。
「聖女様……私達に出来る事なら何でもします。どうか」
拝むな。
「ちゃんと元の世界に帰してくれるならやりますけど?」
周りがフリーズし、背後のクレイルが呆れた様に話をたたみ始めた。
まあ確かに交渉になってないけどね?
「まず、彼女達を帰す魔方陣の発動だが。あれは反対側に描かれた魔方陣に同じかそれ以上の重さの物を置いた時点でないと発動不可能だ。この意味はわかるか?」
天秤タイプの魔方陣て事はわかるがその先は考えたくない。
が、クレイルは容赦がない。
「分銅は君だ、聖女様。君が残らなければ彼女達は帰れない」
ーーああ。
「最初に言ってた聖女だって確定したら逃がさないってそういう意味ですか」
薄く笑う。こういった情報は全く私にはない。間抜けな術かと思ってたら存外良く出来た召喚術だ。
♦︎♦︎♦︎
笑った?
それに、淡々と現状を確認するさまに違和感を感じる。ショックを受けている筈なのに腕の中の彼女はあまり動揺している風には見えない。
「それで、どうする?」
「どうもしません」
ーーしようがないだろ、これ。
論破出来なかった上にここに引っ張りだされた時点で詰みだ。この建物ごと魔方陣を破壊するだけの度胸が私にあったらこんな捕まり方しなかったろうけど。
私はいつもこうだ。どっちにもなりきれず中途半端なまま。
その結果がこのざまなら流される以外ない、今は。
クレイルが合図すると、カンナちゃんがこちらに走ってくる。
「おねーさま!」
まだそう呼んでくれるのが嬉しいとか、情けなくて泣きそうだ。うるさい子供なんて嫌いだったのに。抱き締めた時の体温や心音が心地よいとものだと改めて思い知らされる。
「おねーさま、聖女だったんですね?」
「うん、そうみたい……ごめん」
カンナちゃんは首を横に振る。
「ううん。もしかしてそうかも って思ってた」
「え、どうして?」
「お姉さまが私のイメージする聖女様にいちばん近かったから」
「ーーそれは変だ」
私は苦笑するしかない。
普通もっと美人を想像するだろう、聖女っていったら。ここの連中だってそうだったんだしさ?
でも、”この子だけでも無事に帰したい”と思ってたのは本当だ。
私はカンナちゃんを抱き締めた。きっとこれが最後。
「もう会えないの?」
「会えるわ。会いに行く」
(ーー魂だけならカンナちゃんが生きてるうちに戻れるんじゃないかな?多分)とは希望的観測で、口には出来ないけど。
背後のクレイルが息を呑み、
「カンナ嬢はこちらに残ったらどうだ?ツキナ様と一緒が良いのだろう?」
といらんことを宣い、カンナちゃんが迷いと戸惑いが混じった顔で固まる。バカ言うな。
「カンナちゃん、家族に会いたいよね?友達にも」
「!」
余計な事吹き込むな。生贄増やすな。自分を許せなくなるだろうが。
「カンナちゃんは帰らなくちゃ。」
「でも、約束…!」
カンナちゃんが泣き出す。初めて泣き顔見た時より大人っぽくなってて驚く。子供の成長って早い。
「約束の場所は向こうにしかないでしょ?だから下見しておいて?私は多分、遅くなっちゃうから」
「……約束ね?」
「約束だよ」
私は最後まで嘘つきだ。守れないってわかってるのに。
私は肩を抱いてた手を離した。カンナちゃんがあちらの魔方陣に戻される。
ーーさよなら、カンナちゃん
「もう良いのか?」
「ーーお好きなように」
感情なく告げられた言葉にああもう2度と自分にあの綻んだ顔は向けられないのだなと思う。
陣が発動し、候補達の姿が消えた。ツキナ嬢だけが腕の中に残る。あちらに走りだすかもしれないーーと警戒していたのだが。
腕の中の彼女は身動ぎ一つしなかった。
誰も言葉を発しない静寂の中、不機嫌そうな声がかかる。
「……一定数倒したら帰してくれる、とかないわけ?」
いきなり放たれた暴論に神官長が目を白黒させる。
「あ、生憎とそのような制度はっ…も、勿論聖女様のお望みでしたら「あーもういい、ないのはわかったから」
今から制定目指されてもどうにもならん。
「じゃ、行きますか」
クレイルは私を捕らえたままだがどうせ言っても離さない(逃亡を未だに警戒してる)だろうから放っておく。
まあ、見届け人も必要だしね?
「マップ!」
唱えるとこの世界の地図が目の前に浮かびあがる。これはこの世界の魔導師が普通に使う術だし周りの人にも見えてるはず。だから説明はしない。何か言ってる周りの声は敢えて無視。
「今一番ヤバい魔物のいる位置を点滅」
マップの右上がチカチカ光る。そこを指して、
「この場所に転移」
と私は無機質に唱えた。
「?」
彼女が怪訝そうな顔になる。
「ここで君が認めてくれたら、もう少し穏やかな方法も取れたんだが」
「!」
彼女が警戒態勢を取る前に体を拘束して転移魔法を発動させた。
♢♢♢
最初の広間に一瞬で降りたった。
ひと目見て、「あ、マズい」と舌打ちしたくなった。
カンナちゃんがまた病気になったらヤバいと思って一気にやりすぎた。
目の前にあの日と同じ光景がある。候補者たちが魔方陣の中に集められ、周りに神官をはじめこの城の者達が集まっている。
違うのは彼女達がいる魔方陣と自分の間は離されており、さらには兵士が立ち塞がるようにずらっと並んでいる事と、自分はクレイルに拘束されている事だ。
背後のクレイルが神官長に頷く。
何をする気だ。
神官長の足元にあるのは何だ?という疑問を口にする間もなく、白い覆いがかけられているそれがさっと取り払われ、籠の中の動物が放たれる。
「?!」
アライグマかレッサーパンダを真っ白に小さくしたようなその獣は何故か一目散に私の元へ駆けてきて、腕の中に飛び込んだ。
何だこれは。思わず抱きとめてしまったが、それは腕の中で落ち着いた。
すると背後の溜息と神官長の歓喜に満ちた声が同時にきこえた。
「おぉ…!やはり、聖女様…!!」
「ーーは?」
「その獣は冬告げの時に産まれ絶対に人の手に懐かない大変珍しい種なのです。伝説の獣でもあります。[冬告げの時に産まれし仔は聖女の元へ駆ける]という」
なんだそれは。そんなの知らない。
暖かくてふわふわの動物が、腕の中で急に重くなったような気がする。
背後のクレイルが説明を加えた。
「要するに、冬の始まりに産まれたその獣は春を運ぶ聖女の腕にしか抱かれない生物だって事だ」
「あやふやすぎませんか」
「聖女に関する情報は秘匿されているからな。普通は知らされない情報だ。だが確かに聖女認定方法の一つとして伝えられている」「この世界では、でしょう。私はこの世界の住人でありません。前にこの方法で認定された聖女様はこの世界の住人だったからでは?」
言いながら背後のクレイルに向き直る。
そう、聖女召喚は異世界に限らない。この世界の住人の場合もあるって事は知っているのだ。当てずっぽうだが相手は黙った。
クレイルの目に迷いが見える。が、拘束は解かれない。
私は帰りたい。
「出来れば、ここで認めて欲しかった」
諦めたような声と共に再び前を向かされ、クレイルが兵士に合図を送ると兵士の壁の隙間からカンナちゃんの姿が見える。彼女もこちらに来ようとしたが兵士に止められている。
「もう一つの証明は彼女だ。彼女が病にかかった時、君が看病していたろう?」
「付き添っていただけです」
「彼女はあの時命を落としていた筈だ。大人ならともかく子供である彼女の体力は病の回復まで保たないというのが城の医師達の見立てだった。治癒魔法の使える魔導師の見立てもだ。だが彼女は回復した。何故かわかるか?」
ざっと鳥肌がたつ。死ぬ筈だった?死なせるつもりだった?まだ小学生のあの子を?自分達の勝手で連れてきて、こんな場所で不自由を強いて病気にした挙句ただの風邪だと偽って?
ーーなんて勝手な。吐き気がする。
「不思議に思った魔法使い達が調べた所魔法治癒されていた。当然誰がやったのか?という話になる。だがあの時城内にそこまでの回復魔法を使える者はいなかった。そこで思い出したのが君だ。君は彼女の手を握って歌っていたろう?」
違う。私は元気付ける為に手を握ってただけだ。
だって風邪だってきいてた。歌だってただ歌っただけだ。歌に魔力使った覚えなんかない。風邪がうつらないように防御はしてた。自分まで倒れるわけにいかないから。
「君が治したんだ。無意識にしろ、意識してやったにしろ。ーー彼女にそれを伝えるか?」
小声での会話は、あちらには届いてない。
「ーーやめて。」
ーーそんなつもりじゃなかった。
なんで?私はあの子達と一緒に戻される為にーーその為に”擬態”してたに過ぎないのに。
「君を、こんな風に引きずり出したくはなかったよ」
引きずりだしといて言うな、偽善者。
「ほっといてくれたら良かったのに」
「ほっとけなかったのは君だろう?」
ーー何もしなければ良かったって事か?私は単に自分の身を守ってただけだ、周りに敵を作らず、印象にも残らず。
そんな私に目を向ける人なんかいないと思ってたのに。クレイルは私が思ってたよりずっと鋭い人だったらしい。
私は笑い出しそうだった。この場の滑稽さに、召喚した相手の区別さえつかないこの世界に、何より自分の間抜けさに。
まあ、笑える現状じゃないんだけど。
「その役目とやらが済んだら、私も帰してもらえるんですか?」
「確約は出来ない。最大限努力はするが」
約束にすらなってねーよ。
「聖女様……」
それまで黙っていた神官長が口を開く。
「クレイル様に話をきいてもしや と思いましたがやはり、あなた様が」
涙ぐむのやめてマジで。重いから。
「貴女が元の世界に帰りたがってる事はわかります。ですが、どうか先にこの世界を救っていただきたい…!」
第一王子が頭を下げる。因みに国王夫妻は先日心労でぶっ倒れてこの場にいない。
「えー…と?他の世界の人間に丸投げって卑怯じゃないですか?」
「ツキナ様!!」
うん、何人かの声が混ざって特定不可能。
「貴方はこの世界に責任を持つ立場かもしれませんが、私はこの世界の住人じゃないんですよ?」
「……自分に力があればそうしています」
でしょうねわかってます。
それは私達の生きる世界だって一緒だ。
相手が魔物か天災かの差ってだけで、いつ壊されるかわからない世界。そこで皆不安を抱えて生きてるのだ。
私だって一度は絶望した。その時救いの手は来なかった。
なのに私に救い手をやれとか何の冗談だ。それなら向こうにも召喚の権利が発生しなきゃ変だ。
皆そんな奇跡に頼らず日々の小さな楽しみを糧に生きてるのだ、私の場合は本と、いや何でもない。
とにかくここの連中は召喚しといて相手が誰かわからないと言ってるのだ、だったら知らん顔して返却されるのを待とうと思った。
あちらからこちらに落ちてくる間に頭の中に入り込んできた聖女の記憶とチカラとやらを無視して。
大丈夫、誰も私を聖女だなんて疑わない、そう思って。
「聖女様……私達に出来る事なら何でもします。どうか」
拝むな。
「ちゃんと元の世界に帰してくれるならやりますけど?」
周りがフリーズし、背後のクレイルが呆れた様に話をたたみ始めた。
まあ確かに交渉になってないけどね?
「まず、彼女達を帰す魔方陣の発動だが。あれは反対側に描かれた魔方陣に同じかそれ以上の重さの物を置いた時点でないと発動不可能だ。この意味はわかるか?」
天秤タイプの魔方陣て事はわかるがその先は考えたくない。
が、クレイルは容赦がない。
「分銅は君だ、聖女様。君が残らなければ彼女達は帰れない」
ーーああ。
「最初に言ってた聖女だって確定したら逃がさないってそういう意味ですか」
薄く笑う。こういった情報は全く私にはない。間抜けな術かと思ってたら存外良く出来た召喚術だ。
♦︎♦︎♦︎
笑った?
それに、淡々と現状を確認するさまに違和感を感じる。ショックを受けている筈なのに腕の中の彼女はあまり動揺している風には見えない。
「それで、どうする?」
「どうもしません」
ーーしようがないだろ、これ。
論破出来なかった上にここに引っ張りだされた時点で詰みだ。この建物ごと魔方陣を破壊するだけの度胸が私にあったらこんな捕まり方しなかったろうけど。
私はいつもこうだ。どっちにもなりきれず中途半端なまま。
その結果がこのざまなら流される以外ない、今は。
クレイルが合図すると、カンナちゃんがこちらに走ってくる。
「おねーさま!」
まだそう呼んでくれるのが嬉しいとか、情けなくて泣きそうだ。うるさい子供なんて嫌いだったのに。抱き締めた時の体温や心音が心地よいとものだと改めて思い知らされる。
「おねーさま、聖女だったんですね?」
「うん、そうみたい……ごめん」
カンナちゃんは首を横に振る。
「ううん。もしかしてそうかも って思ってた」
「え、どうして?」
「お姉さまが私のイメージする聖女様にいちばん近かったから」
「ーーそれは変だ」
私は苦笑するしかない。
普通もっと美人を想像するだろう、聖女っていったら。ここの連中だってそうだったんだしさ?
でも、”この子だけでも無事に帰したい”と思ってたのは本当だ。
私はカンナちゃんを抱き締めた。きっとこれが最後。
「もう会えないの?」
「会えるわ。会いに行く」
(ーー魂だけならカンナちゃんが生きてるうちに戻れるんじゃないかな?多分)とは希望的観測で、口には出来ないけど。
背後のクレイルが息を呑み、
「カンナ嬢はこちらに残ったらどうだ?ツキナ様と一緒が良いのだろう?」
といらんことを宣い、カンナちゃんが迷いと戸惑いが混じった顔で固まる。バカ言うな。
「カンナちゃん、家族に会いたいよね?友達にも」
「!」
余計な事吹き込むな。生贄増やすな。自分を許せなくなるだろうが。
「カンナちゃんは帰らなくちゃ。」
「でも、約束…!」
カンナちゃんが泣き出す。初めて泣き顔見た時より大人っぽくなってて驚く。子供の成長って早い。
「約束の場所は向こうにしかないでしょ?だから下見しておいて?私は多分、遅くなっちゃうから」
「……約束ね?」
「約束だよ」
私は最後まで嘘つきだ。守れないってわかってるのに。
私は肩を抱いてた手を離した。カンナちゃんがあちらの魔方陣に戻される。
ーーさよなら、カンナちゃん
「もう良いのか?」
「ーーお好きなように」
感情なく告げられた言葉にああもう2度と自分にあの綻んだ顔は向けられないのだなと思う。
陣が発動し、候補達の姿が消えた。ツキナ嬢だけが腕の中に残る。あちらに走りだすかもしれないーーと警戒していたのだが。
腕の中の彼女は身動ぎ一つしなかった。
誰も言葉を発しない静寂の中、不機嫌そうな声がかかる。
「……一定数倒したら帰してくれる、とかないわけ?」
いきなり放たれた暴論に神官長が目を白黒させる。
「あ、生憎とそのような制度はっ…も、勿論聖女様のお望みでしたら「あーもういい、ないのはわかったから」
今から制定目指されてもどうにもならん。
「じゃ、行きますか」
クレイルは私を捕らえたままだがどうせ言っても離さない(逃亡を未だに警戒してる)だろうから放っておく。
まあ、見届け人も必要だしね?
「マップ!」
唱えるとこの世界の地図が目の前に浮かびあがる。これはこの世界の魔導師が普通に使う術だし周りの人にも見えてるはず。だから説明はしない。何か言ってる周りの声は敢えて無視。
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