<第一章完結>聖女は自分を呼んだ異世界を嘲笑う

詩海猫(8/29書籍発売)

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 冬の終わりが近づいた頃、俺は城の地下で気配を殺して待つ。

 微かに衣擦れの音が聞こえ、音の主が現れた。

 ーーやはり。
「君だったんだね?ツキナ」
 床の魔方陣に向かって手を翳していた人影が固まる。
「何か御用ですか、クレイル様」
 声音はいつもと変わらない。
「その結界に何をしようとしていた?」
「何も。珍しいので良く見ようとしてただけです。」
「こんな夜中に、人目を避けてこんな地下深くに?」
「夜に城内を歩きまわってはいけないなんて決まりはなかったと思いますけど?」
「ここへの入り口は隠されていた筈だ。ただ歩いててみつけられる場所じゃない」
「秘密の通路でしょう?私、この城のそういった通路片っ端から探してたんです。初めてここに来た時から」
「何故だ?」
「面白そうだったから。こういうお城、私達の国にはないけど、遺跡にはあるんですよ?そしてこういうお城には有事の際逃げる為の隠し通路が必ずあるっていうのは誰でも知ってますし探検ツアーが組まれるくらい人気ですから。昼と夜では同じ物でも違って見えますし」
 そんなものがあるのか。そしてこの状況でもいつもの調子が崩れない。こうなる事も想定済みか。

「ここの入り口は力ある魔導師しか通れない。偶然見る事も、もちろん不可能ーーだが君はあっさり通過してきた」
「このブレスのおかげですかね?」
「そのブレスを付けても結界の入り口は見えない。だがそのブレスを付けた者が通った道筋は辿れる。君ならわかるだろう、そのブレスを通して自分達の行動が追跡トレースされていたと。だからこそ昼間も城内を散策する振りをしていた。カンナ嬢が部屋に来るようになってからは1人で動きまわれる時間が減った。君のここ1ヶ月の動きを見てわかったよ。君が結界に近付いたのは夜中ばかりだったーー今夜みたいにね」
「何かおかしいですか?昼でも夜でもやってる事は一緒でしょう」
「言葉遊びは終わりだ、ツキナ嬢。ーーいや、聖女様?」
「違います」

 直ぐに切り返してきたが、声音にいつもの余裕がなくなりつつある。やはり、予想は正解だったのだ。

「何故聖女である事を隠す?ーー愚問だな。君はあちらに戻りたがっていた、聖女だと知れれば戻れなくなる」
「勝手に確定して進めるのやめてもらえます?魔力が多少あった所で聖女とは限「限るね。聖女でないならハルカのように魔力を見せれば良かった。何故何の魔力もないように装った?使えば強力な魔法使いだとバレるからだ。さらにいえば魔力を測る儀式の間魔法に関して何の知識もない筈の君が何で完全に魔力を抑え隠し通す事が出来た?自分で自分の力を知っていてコントロールする術まで知っていたからだ!」

 そうだ。始まりは小さな疑問だった。何故彼女はこんなにも落ち着いているのか。
 最初メイド達に話を聞いた時は微笑ましく思うだけだったがーー何かおかしい。
 召喚された聖女候補達との違い。
 初め、彼女達は戸惑いつつも自分が聖女かも知れない、と聞かされ頬を紅潮させたり責任の重さに青くなったりしていた。
だが、この時彼女は顔色ひとつ変えず無表情だった、何故だ。

  パーティーの時も出来るだけ目立たぬよう地味な服を着て、壁にはりついて誰とも話さない。
他の候補達は知り合いもいない場でブレスをつけた者で年齢の近い相手と遠慮がちに会話をしていた、カリン以外は。
 ツキナはそんな様を無感動に見つめていたのだ。カンナが懐く前は、いつも1人で。何故だ?

  皆、最初こそ好奇心と物珍らしさから明るかったが日を追うごとに慣れない生活にストレスを感じ始め、周りに当たり散らしたり我が儘になったりしたが、彼女にはそれが一切なかった。どころか周りを気遣う余裕さえあった。何故?

  カンナの時もハルカの時も、騒ぎには一切加わらず静観して分析する冷静さ。
  慣れない城を歩きまわり夜中に地下まで平然と降りてゆく豪胆さ。それは自分で自分を守れるだけの実力があると、わかっていたからではないのか?
  「君は目立たないようにとあらゆる努力をしてたみたいだけどーー失敗だったね。目立ちたくなかったのなら、他の候補のようにヒステリーの一つも起こすべきだった。君はどの場面でも冷静すぎたんだよ。後は魔術教師の話をきいて確信した。普通、魔力を測る時自分が聖女かもしれないって期待が僅かに目に見えるものなのに、君には全くそれがなかったってーー最初から。まだ聞きたい?」
 彼女は答えない。
「あれは毎日実施されるものだから回を追うごとにその期待値は下がるけど、最初から全くないのも”異常”なんだよ。さらにいえば魔法使いに憧れて必死の努力をして臨む子だっていた。ーーハルカなんかはその典型だよね。カリンもだけど。でも君は違った。授業は真剣に聞くし理解もしてる。なのにあの測定授業だけは冷めた表情で何の努力もしてない様に見受けられた。先生はまあ自分が聖女ではないと確信してしまってるからかもしれない、なんて言ってたけど俺は逆だと思った。確信出来るって事は誰が聖女か知ってるって事じゃないか、それはつまり」
「いい加減にして下さい!!」
 初めて聞いた、切羽詰まった怒鳴り声。
「この城は魔物の浸入を防ぐ為にあらゆる防護結界が張ってある。だが、魔物討伐に駆り出されて城に常駐する魔法使いが減った。このままでは城の防護結界は弱っていく一方で、いずれは壊れる。君はそれを見越していた。だから片っ端から強化して廻ってたんだろう?この城の中にいる者達が傷つかないように。ここが最後だった。ここの強化が終わればまだ暫くは持ち堪えられる。ーーそんな事で逃れられると思った?」
自分の立場から。そんな風に影から守るくらいなら、最初からやれば良かったのだ。
被害だってもっと少なくて済んだ筈だ。そう思うとつい強い口調になる。
あんなに俺の相談に乗ってくれて的確なアドバイスをくれた君が、この城の者たちに誰より暖かく接していた君が、この世界の終焉を望むのか?
「私は知りません、そんな事」
 ーーまだ落ちないか。

 どうすれば、この世界を救ってくれる?聖女どの。



*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*



第一印象で脳筋かと思ってたら意外と策略家だった件←主人公にめっちゃ嫌われるパターン
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