帝国動乱記 若しくは 婚約破棄された皇女が女帝となるまで

みやび

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4 決闘の行方

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決闘の最初は予想通りに推移した。
歩兵を前衛に、重騎兵を後衛にしたランドルフ公軍にたいし、私たちは歩兵の足下めがけて矢を放ったのだ。
ドスドスッと歩兵たちの目の前の地面に突き刺さる500の矢。
次はお前たちの顔面に突き刺す、というこちらの意図は、向こうにはわかったようだ。
この一斉射だけで歩兵たちは壊乱し、散り散りに逃げていった。
後ろで重騎士たちが督戦するために数人逃亡兵を切り捨てたが、それにより戦う歩兵が出ることはなく、歩兵たちは公営の重騎士を避けて逃げ出すだけであった。

「あっけないですね」
「こんなお貴族様の決闘騒ぎで誰も死にたいとは思わないでしょう」

これが自分たちの故郷を守る戦いとなれば、彼らの士気も違っただろう。
だが、地元でも人気のないアルバートの失策をどうにかするための戦いで、積極的に戦おうとする兵士はほとんどいなかった。
金で雇われただけの彼らは命が惜しくて逃げだしたのだ。

そうして歩兵があらかた逃げ切った後、後衛の重騎士たちはようやく突撃を開始した。
左右に大きく広がり突撃してくる姿はなるほど迫力がある。
だが、戦列はそろっておらず、馬上槍を持て余す騎士も見かけられるなど、練度は必ずしも高くないようだ。

「全員、構え…… 撃て!!!」

私の掛け声とともに、弓を斜め上に向けると、そのまま矢を放った。
突撃してくる重騎士に矢の雨を浴びせることにしたのだ。
放物線を描き、重力を味方にした矢が彼らに降り注ぐ。
鎧の装甲を貫くことは難しいが、隙間から騎士や馬に矢が刺さる、ということがそこかしこで発生する。
十数人が落馬し動けなくなる。

「後退!!! 100ヤードの距離を保て!!」

射ればすぐに私たちは後退を始める。
相手が50ヤード走る間にこちらは100ヤードは余裕で走れるのだ。
さらに、重騎兵は装備が重すぎて、全力で走れる時間はそう長くない。
引いて撃ち、撃っては引いてを繰り返せば、相手は追いつけずに少しずつ敵を漸減できる。
遊牧民たちが帝国騎兵に勝利し続けた必勝法がここにあった。

今回もそのまま勝てるだろうと思っていた私に予想外のことが起きたのはこの時だった。
後ろから槍歩兵の戦列が突如現れたのであった。



1000はくだらない槍歩兵が突如現れ、私たちは動揺した。
決闘という事で、普段の戦いなら行う周囲の偵察をおざなりにした結果がここに出てしまった。
相手の紋章は見えない。
だが、このタイミングまで後方とはいえ伏せ続けられる統制、そして一糸乱れず横に並ぶ槍の穂先から見える練度を考えれば、相手は容易に想像できた。

「マルーン候、ここまでやるか」

帝国の軍事のトップに立つ軍務卿、マルーン候の援軍であった。



遊牧民の弓軽騎兵に重騎兵が全く歯が立たないというのが明らかになった後、対弓軽騎兵の戦略はいくつか考えだされていた。
一つは練度の高い槍歩兵を並べることだ。
密度の高い長槍は矢をほとんど弾くし、騎兵突撃に対しても長槍は強力な防御力を有する。
だが、これでは防御はできても攻撃はできない。歩兵では騎兵に追いつけない。
なので、そこからさらに発展させたのが機動戦力として重騎兵を使う、槌と金床戦術で会った。
槍歩兵を金床と見立て、重騎兵を槌と見立てて挟み込むのだ。
重騎兵と軽騎兵が真正面からぶち当たれば重騎兵の方が圧倒的に強い。
軽騎兵の機動力は金床たる槍歩兵に殺される。
効果的な場面は多くないが、ハマまれば絶対的な効果がある対軽騎兵の必殺の手段であった。

この場面で、私たちができるのは尻尾を巻いて逃げるだけだ。
だが、それすら難しそうであった。後ろには槍歩兵が、前からは重騎士が迫っているのだ。完全に囲まれた状態であり、どこかを食い破る必要がある。
一瞬の硬直。私が考えを巡らせたそんな間に、団長であるルルはすでに動き出していた。

「先駆け御免!!」

彼女の率いる50騎が、隊列が乱れ一番練度が低そうなランドルフ公軍の左翼に突撃を開始した。
彼女らを止めたいという気持ちを押し殺し、全力で駆ける彼女らに私たちもついていく。
彼女らが捨て身で作る隙をついて逃げる。そうしなければ彼女らの献身が無駄になるのだ。
今は一瞬すら惜しかった。

走りながら弓を射り、一射後すぐに敵重騎兵と接敵する。
まだ80ぐらいは居そうな敵重騎兵は、穂先が揃っておらず練度があまり高くなさそうだ。
だが、あくまでそれは、騎士として相対的な練度に過ぎない。彼らもまた、馬を操り、馬上槍を振るうことができる歴然とした騎士なのだ。
そして、彼ら重騎士と私たちの軽装騎士は相性が悪すぎた。
なんせ相手は身長以上ある馬上槍、こちらは鞍に付けている腕の長さほどの長剣でしかないのだからリーチが違いすぎる。
真正面からぶつかって、何人もが槍に腹を貫かれる。
だが、貫かれた者はそのままの勢いで相手に組み付き、馬から一緒に落ちた。
確実に致命傷だが、その傷を超えて、彼らは相手を組み伏せ、剣を突き立てていた。

あまりの戦闘部隊の命知らずさに、重騎兵たちは恐れ、ヨレた。
隙間ができれば本体はそこから抜けていくだけである。
結局1割ほどの損害をだし、私たちは這う這うの体で東へ逃げていくことしかできなかった。
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