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3 非常識な相手は無茶苦茶なことをしてくることが多い
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皇帝の裁可から1週間後、私とアルバートの決闘が、帝都郊外の平原で行われることとなった。
決闘は一対一のものと、集団で行うものがある。
今回行われるものは集団で行われるものであった。武器は戦争で使われるものをそのまま使うため、死者も普通に出る危険なものである。
お互い500名ずつ、という話であり、私は近衛騎士として皇帝に貸していた胸甲騎兵500名を率いてその場所に赴いたのだが……
「相手軍、1000ぐらいいそうですが」
「全く、数すら数えられませんか、アルバートは」
相対するランドルフ公軍の数は明らかに500より多い。
重騎兵300ぐらいに、歩兵が1000程度いそうだ。
そんな光景を見て、近衛騎士団長も兼務する女性騎士ルルは、あきれながらボヤき、私は皮肉をいうことしかできなかった。
数の上では相手は倍以上いるが、全く負ける気がしない。
まず、歩兵1000はほとんど戦力に数えられないだろう。
戦時のために賃金で雇われただろう補助兵力である歩兵の本業は、主人の召使か農民、せいぜいよくてその辺のごろつきレベルである。
戦いになれ、戦いのために訓練を受けた人員ではない。荷物運びや動物の世話といった、軍隊の能力を維持する兵站としての価値は高いが、直接戦闘能力はほとんどないと考えてよいだろう。
騎兵が突撃すれば、散り散りに逃げるのは容易に想像できるし、これは決闘だから逃げた兵を捕まえたり殺したりする必要もない。
帝都周辺にいくつも領地を持つため、すぐに補助兵力を集められたのはさすがランドルフ公、といったところだが、実態は障害物にすらならない兵力であった。
では重騎兵300が脅威かというと、まったく脅威ではない。
重騎兵は確かに直接の戦闘能力は非常に高い。
馬にまで鎧を着せて、重装した彼らの突撃は、一度始まると止める方法はほぼない。
手に持つ凶悪な馬上槍の一撃と、人馬一体に加えて鎧分の重さを加えた体当たりは、人間では止めるのは不可能だが。
だが、利点はそれだけである。
まず、重装ゆえに足が遅い。馬は通常人を乗せても人間の倍近い速さで走れるが、重装騎兵は人間が走るのと同じ程度の速さしか出せない。
こちらは軽装弓騎兵故、逃げて弓を打っていればいいだけだ。
そのような状況になってしまえば、突撃しようとも私たちには追いつけず、逃げようにもすぐに私たちは追いついてしまう。そうして延々と矢が相手に降り注ぐことになり、相手はすぐに戦場のど真ん中で相手は立ち往生することになるだろう。
ちなみに私たちはそういった補助兵力は連れてきていない。
帝都から歩いても1時間しかかからないここで、補給など考える必要もないし、私含め遊牧民族は軽装ゆえに自分の戦闘準備は自分でできる。
混じりっけなし100%の近衛騎士たちである。
練度も高く、負ける気がしなかった。
「では、今日の作戦を発表します!!」
「皆、姫様が今日の作戦を考えてくれたそうだぞ!」
私が皆に向かって声をあげると、ルルもそれに乗ってこちらに注目するように声をあげる。
相手の数が多いとか、弱そうとか、夕飯何にしようかとか、雑談していた騎士たちが皆こちらに注目した。
「今回の目標第一は、みんな怪我をしないで帰ることです! おうちに帰るまでが遠足だからね!!」
「姫様、遠足というには今回ちょっと物騒です!!」
「こんなの遠足ぐらいに考えた方がいいのよ!」
「わかりました!!」
ランドルフ公家の方を手伝うようになって、最近は少し疎遠になっていたがもともと私の子飼いである近衛騎士団とは非常に仲が良い。
私の発言に茶々を入れて、笑っても許される程度の信頼関係はあった。
「あとは、歩兵たちは散らすのをメインで。あんな素人さん倒しても名誉に全くならないからね!」
「弱い者いじめは良くないからな」
歩兵の皆は本業がある。彼らを殺してしまえば産業にも影響が出る可能性もあるし、できるだけ平和におかえりいただくよう、脅しだけで済ませるつもりだった。
「最後に!」
「最後に?」
「予想外のことが起きたら、一直線に東に逃げること」
「……姫様、それはどういうことで?」
「マルーン候の動きが読めないわ。ランドルフ公の軍を破って終わればいいけど、そうじゃない緊急事態が起きたときは下手に戦わずに逃げること。東のイストリア公領の砦を一つ使わせてもらえるように交渉は既に住んでいるから、そちらに逃げ込んで」
「私たちが負けるような事態が起きる可能性があると姫様はお思いで?」
騎士の一人が不満そうに鼻を鳴らす。
練度と相性の問題を考えれば、負けることはない相手だろう。
だが、予想外の何かが起こる事、そして負けることを考えるべきなのが将の役目だろう。
東の砦に逃げ込めば、そこから領地である東の遊牧民の地まで行くのはそう難しくない。ランドルフ公と同様跡目争いをしているイストリア公のところも、とどまり続けなければそう危ないことはないだろう。
「戦場に何が起きるかはわからない。だから、逃げる必要があるかもしれない。逃げるとしたらそこに向かうよう、みんな忘れないでね」
「姫様はいつも心配性だからな。だが、大丈夫だ」
古参の騎士がそう強く発言する。
彼がそういうことで、周りの騎士たちも心強く感じているだろう。
なんにしろ、戦いはすぐに始まろうとしていた。
決闘は一対一のものと、集団で行うものがある。
今回行われるものは集団で行われるものであった。武器は戦争で使われるものをそのまま使うため、死者も普通に出る危険なものである。
お互い500名ずつ、という話であり、私は近衛騎士として皇帝に貸していた胸甲騎兵500名を率いてその場所に赴いたのだが……
「相手軍、1000ぐらいいそうですが」
「全く、数すら数えられませんか、アルバートは」
相対するランドルフ公軍の数は明らかに500より多い。
重騎兵300ぐらいに、歩兵が1000程度いそうだ。
そんな光景を見て、近衛騎士団長も兼務する女性騎士ルルは、あきれながらボヤき、私は皮肉をいうことしかできなかった。
数の上では相手は倍以上いるが、全く負ける気がしない。
まず、歩兵1000はほとんど戦力に数えられないだろう。
戦時のために賃金で雇われただろう補助兵力である歩兵の本業は、主人の召使か農民、せいぜいよくてその辺のごろつきレベルである。
戦いになれ、戦いのために訓練を受けた人員ではない。荷物運びや動物の世話といった、軍隊の能力を維持する兵站としての価値は高いが、直接戦闘能力はほとんどないと考えてよいだろう。
騎兵が突撃すれば、散り散りに逃げるのは容易に想像できるし、これは決闘だから逃げた兵を捕まえたり殺したりする必要もない。
帝都周辺にいくつも領地を持つため、すぐに補助兵力を集められたのはさすがランドルフ公、といったところだが、実態は障害物にすらならない兵力であった。
では重騎兵300が脅威かというと、まったく脅威ではない。
重騎兵は確かに直接の戦闘能力は非常に高い。
馬にまで鎧を着せて、重装した彼らの突撃は、一度始まると止める方法はほぼない。
手に持つ凶悪な馬上槍の一撃と、人馬一体に加えて鎧分の重さを加えた体当たりは、人間では止めるのは不可能だが。
だが、利点はそれだけである。
まず、重装ゆえに足が遅い。馬は通常人を乗せても人間の倍近い速さで走れるが、重装騎兵は人間が走るのと同じ程度の速さしか出せない。
こちらは軽装弓騎兵故、逃げて弓を打っていればいいだけだ。
そのような状況になってしまえば、突撃しようとも私たちには追いつけず、逃げようにもすぐに私たちは追いついてしまう。そうして延々と矢が相手に降り注ぐことになり、相手はすぐに戦場のど真ん中で相手は立ち往生することになるだろう。
ちなみに私たちはそういった補助兵力は連れてきていない。
帝都から歩いても1時間しかかからないここで、補給など考える必要もないし、私含め遊牧民族は軽装ゆえに自分の戦闘準備は自分でできる。
混じりっけなし100%の近衛騎士たちである。
練度も高く、負ける気がしなかった。
「では、今日の作戦を発表します!!」
「皆、姫様が今日の作戦を考えてくれたそうだぞ!」
私が皆に向かって声をあげると、ルルもそれに乗ってこちらに注目するように声をあげる。
相手の数が多いとか、弱そうとか、夕飯何にしようかとか、雑談していた騎士たちが皆こちらに注目した。
「今回の目標第一は、みんな怪我をしないで帰ることです! おうちに帰るまでが遠足だからね!!」
「姫様、遠足というには今回ちょっと物騒です!!」
「こんなの遠足ぐらいに考えた方がいいのよ!」
「わかりました!!」
ランドルフ公家の方を手伝うようになって、最近は少し疎遠になっていたがもともと私の子飼いである近衛騎士団とは非常に仲が良い。
私の発言に茶々を入れて、笑っても許される程度の信頼関係はあった。
「あとは、歩兵たちは散らすのをメインで。あんな素人さん倒しても名誉に全くならないからね!」
「弱い者いじめは良くないからな」
歩兵の皆は本業がある。彼らを殺してしまえば産業にも影響が出る可能性もあるし、できるだけ平和におかえりいただくよう、脅しだけで済ませるつもりだった。
「最後に!」
「最後に?」
「予想外のことが起きたら、一直線に東に逃げること」
「……姫様、それはどういうことで?」
「マルーン候の動きが読めないわ。ランドルフ公の軍を破って終わればいいけど、そうじゃない緊急事態が起きたときは下手に戦わずに逃げること。東のイストリア公領の砦を一つ使わせてもらえるように交渉は既に住んでいるから、そちらに逃げ込んで」
「私たちが負けるような事態が起きる可能性があると姫様はお思いで?」
騎士の一人が不満そうに鼻を鳴らす。
練度と相性の問題を考えれば、負けることはない相手だろう。
だが、予想外の何かが起こる事、そして負けることを考えるべきなのが将の役目だろう。
東の砦に逃げ込めば、そこから領地である東の遊牧民の地まで行くのはそう難しくない。ランドルフ公と同様跡目争いをしているイストリア公のところも、とどまり続けなければそう危ないことはないだろう。
「戦場に何が起きるかはわからない。だから、逃げる必要があるかもしれない。逃げるとしたらそこに向かうよう、みんな忘れないでね」
「姫様はいつも心配性だからな。だが、大丈夫だ」
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