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6 新しい婚約者
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エミールは、かつての私への求婚者の一人である。
顔はいいし、能力も前宰相マルコイ公が認めるほど高かったが、なんせ母が平民であり、血統的には兄のオリバーに劣っていた。
イストリア公の座を得るには、彼は血統的なディスアドバンテージを補う必要があり、その方法として私が選ばれ、かなり積極的な求婚が行われていた。
結局より帝都に近いランドルフ公家の方が優先され、私の婚約はそちらに向いたが……
その婚約がなくなった今、エミールがまた求婚をしてくるか、が問題であった。
「お久しぶり、エミール」
「お久しぶりです、姫様。この度は大変だったようで」
「お兄様にも、マルーン候にも困ったものだわ」
肩をすくめ、軽く言うが、その意味は重い。
マルーン候は自分の武力を示したかっただけだろうし、兄である皇帝は周りに流されただけというのを、私はわかっている。
だが、今回の件を周りがどうとらえるかは別の話だ。
マルーン候の策略で、私は無様に敗北し、前宰相マルコイ公は無様にその策略を見逃した無能である。そしてそのマルーン候の策略を裏で操っていたのは、決闘を認可した皇帝である。
こう捉えられるだろう。
つまり、どちらも敵に回り、私が幸せに生きるには、どちらも滅ぼさねばならなくなった。
兄のことは、嫌いではないどころか、どちらかといえば優しくて好ましく思っていた。そんな兄を殺し、その帝位を奪わなければならないのだから、多大な覚悟が必要であった。
「それで、エミールは何の御用かしら?」
「姫様に結婚の申し込みをしに来ました」
「本気で言ってる?」
イストリア公の椅子がほしいならば、現状私との結婚はエミールにとっては全くのマイナスだ。
私が負ければもちろん一蓮托生だが、勝っても彼はイストリア公にはなれない。
勝てば私が皇帝になり、彼が皇配という立ち位置になる以上、皇室の一員である。そうなれば、ヘタに反抗できる力を持たないように、お飾りの存在として、ぜいたくな鳥かごに囲うしかできない。
彼に手に入るのはせいぜい私と子を成す権利と、権力闘争に無関係な福祉的な政策について実行する権利ぐらいだろう。
イストリア公まで兼任するのは権力集中の問題から見ても許されない。
兄が皇帝で、私がその妹であったという立場の時とは違うのだ。
「エミールは、イストリア公の椅子が欲しいのでしょう? 私と結婚したら、アナタは籠の中の鳥よ」
「あなたの隣にいられるならば、それも構いません。私が欲しいのは公位ではなく、あなたなのですから」
「ずいぶん情熱的なことを言うわね」
エミールのことは憎からず思っている。
だが、何もできないという状況を今後の人生ずっと続けるのが、彼にとって許容できるかはわからなかった。
とはいえ、彼と結婚することはいくつもの問題を同時に解決する現状では最適解だというのもわかっている。
「お受けいただけませんか?」
「受けましょう。それが皇帝にとって、そして、臣民にとって一番良いでしょう」
私には恋というのはよくわからない。アルバートは愛人を何人も抱えていて、恋だの愛だのを叫んでいた。
だから、どうしても結婚というものにも理由を求めてしまう。
つまらない人間だな、と思うが、エミールがそれでもいいというならば、その辺りは彼に任せてしまおう。
近寄り、唇を落とすエミール。
初めてのキスの味は、大したこともなく、案外つまらないものだな、と思うぐらいしかなかった。
顔はいいし、能力も前宰相マルコイ公が認めるほど高かったが、なんせ母が平民であり、血統的には兄のオリバーに劣っていた。
イストリア公の座を得るには、彼は血統的なディスアドバンテージを補う必要があり、その方法として私が選ばれ、かなり積極的な求婚が行われていた。
結局より帝都に近いランドルフ公家の方が優先され、私の婚約はそちらに向いたが……
その婚約がなくなった今、エミールがまた求婚をしてくるか、が問題であった。
「お久しぶり、エミール」
「お久しぶりです、姫様。この度は大変だったようで」
「お兄様にも、マルーン候にも困ったものだわ」
肩をすくめ、軽く言うが、その意味は重い。
マルーン候は自分の武力を示したかっただけだろうし、兄である皇帝は周りに流されただけというのを、私はわかっている。
だが、今回の件を周りがどうとらえるかは別の話だ。
マルーン候の策略で、私は無様に敗北し、前宰相マルコイ公は無様にその策略を見逃した無能である。そしてそのマルーン候の策略を裏で操っていたのは、決闘を認可した皇帝である。
こう捉えられるだろう。
つまり、どちらも敵に回り、私が幸せに生きるには、どちらも滅ぼさねばならなくなった。
兄のことは、嫌いではないどころか、どちらかといえば優しくて好ましく思っていた。そんな兄を殺し、その帝位を奪わなければならないのだから、多大な覚悟が必要であった。
「それで、エミールは何の御用かしら?」
「姫様に結婚の申し込みをしに来ました」
「本気で言ってる?」
イストリア公の椅子がほしいならば、現状私との結婚はエミールにとっては全くのマイナスだ。
私が負ければもちろん一蓮托生だが、勝っても彼はイストリア公にはなれない。
勝てば私が皇帝になり、彼が皇配という立ち位置になる以上、皇室の一員である。そうなれば、ヘタに反抗できる力を持たないように、お飾りの存在として、ぜいたくな鳥かごに囲うしかできない。
彼に手に入るのはせいぜい私と子を成す権利と、権力闘争に無関係な福祉的な政策について実行する権利ぐらいだろう。
イストリア公まで兼任するのは権力集中の問題から見ても許されない。
兄が皇帝で、私がその妹であったという立場の時とは違うのだ。
「エミールは、イストリア公の椅子が欲しいのでしょう? 私と結婚したら、アナタは籠の中の鳥よ」
「あなたの隣にいられるならば、それも構いません。私が欲しいのは公位ではなく、あなたなのですから」
「ずいぶん情熱的なことを言うわね」
エミールのことは憎からず思っている。
だが、何もできないという状況を今後の人生ずっと続けるのが、彼にとって許容できるかはわからなかった。
とはいえ、彼と結婚することはいくつもの問題を同時に解決する現状では最適解だというのもわかっている。
「お受けいただけませんか?」
「受けましょう。それが皇帝にとって、そして、臣民にとって一番良いでしょう」
私には恋というのはよくわからない。アルバートは愛人を何人も抱えていて、恋だの愛だのを叫んでいた。
だから、どうしても結婚というものにも理由を求めてしまう。
つまらない人間だな、と思うが、エミールがそれでもいいというならば、その辺りは彼に任せてしまおう。
近寄り、唇を落とすエミール。
初めてのキスの味は、大したこともなく、案外つまらないものだな、と思うぐらいしかなかった。
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