帝国動乱記 若しくは 婚約破棄された皇女が女帝となるまで

みやび

文字の大きさ
6 / 10

6 新しい婚約者

しおりを挟む
エミールは、かつての私への求婚者の一人である。
顔はいいし、能力も前宰相マルコイ公が認めるほど高かったが、なんせ母が平民であり、血統的には兄のオリバーに劣っていた。
イストリア公の座を得るには、彼は血統的なディスアドバンテージを補う必要があり、その方法として私が選ばれ、かなり積極的な求婚が行われていた。

結局より帝都に近いランドルフ公家の方が優先され、私の婚約はそちらに向いたが……
その婚約がなくなった今、エミールがまた求婚をしてくるか、が問題であった。

「お久しぶり、エミール」
「お久しぶりです、姫様。この度は大変だったようで」
「お兄様にも、マルーン候にも困ったものだわ」

肩をすくめ、軽く言うが、その意味は重い。
マルーン候は自分の武力を示したかっただけだろうし、兄である皇帝は周りに流されただけというのを、私はわかっている。
だが、今回の件を周りがどうとらえるかは別の話だ。
マルーン候の策略で、私は無様に敗北し、前宰相マルコイ公は無様にその策略を見逃した無能である。そしてそのマルーン候の策略を裏で操っていたのは、決闘を認可した皇帝である。
こう捉えられるだろう。
つまり、どちらも敵に回り、私が幸せに生きるには、どちらも滅ぼさねばならなくなった。
兄のことは、嫌いではないどころか、どちらかといえば優しくて好ましく思っていた。そんな兄を殺し、その帝位を奪わなければならないのだから、多大な覚悟が必要であった。

「それで、エミールは何の御用かしら?」
「姫様に結婚の申し込みをしに来ました」
「本気で言ってる?」

イストリア公の椅子がほしいならば、現状私との結婚はエミールにとっては全くのマイナスだ。
私が負ければもちろん一蓮托生だが、勝っても彼はイストリア公にはなれない。
勝てば私が皇帝になり、彼が皇配という立ち位置になる以上、皇室の一員である。そうなれば、ヘタに反抗できる力を持たないように、お飾りの存在として、ぜいたくな鳥かごに囲うしかできない。
彼に手に入るのはせいぜい私と子を成す権利と、権力闘争に無関係な福祉的な政策について実行する権利ぐらいだろう。
イストリア公まで兼任するのは権力集中の問題から見ても許されない。
兄が皇帝で、私がその妹であったという立場の時とは違うのだ。

「エミールは、イストリア公の椅子が欲しいのでしょう? 私と結婚したら、アナタは籠の中の鳥よ」
「あなたの隣にいられるならば、それも構いません。私が欲しいのは公位ではなく、あなたなのですから」
「ずいぶん情熱的なことを言うわね」

エミールのことは憎からず思っている。
だが、何もできないという状況を今後の人生ずっと続けるのが、彼にとって許容できるかはわからなかった。
とはいえ、彼と結婚することはいくつもの問題を同時に解決する現状では最適解だというのもわかっている。

「お受けいただけませんか?」
「受けましょう。それが皇帝にとって、そして、臣民にとって一番良いでしょう」

私には恋というのはよくわからない。アルバートは愛人を何人も抱えていて、恋だの愛だのを叫んでいた。
だから、どうしても結婚というものにも理由を求めてしまう。
つまらない人間だな、と思うが、エミールがそれでもいいというならば、その辺りは彼に任せてしまおう。
近寄り、唇を落とすエミール。
初めてのキスの味は、大したこともなく、案外つまらないものだな、と思うぐらいしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男装して過ごしてたら、学園内でも札付きの悪で有名な男子に顔面殴られて、更に女だとバレて責任取るって土下座された話

一樹
ファンタジー
タイトル=あらすじ、です。 つまりはそういう内容です。

巷で噂の婚約破棄を見た!

F.conoe
ファンタジー
婚約破棄をみて「きたこれ!」ってなってるメイド視点。 元ネタはテンプレだけど、なんか色々違う! シナリオと監修が「妖精」なのでいろいろおかしいことになってるけど逆らえない人間たちのてんやわんやな話。 謎の明るい婚約破棄。ざまぁ感は薄い。 ノリで書いたのでツッコミどころは許して。

婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

・めぐめぐ・
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。 彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。 婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を―― ※終わりは読者の想像にお任せする形です ※頭からっぽで

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。 同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。 一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」 そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた! 果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。 聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...