帝国動乱記 若しくは 婚約破棄された皇女が女帝となるまで

みやび

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7 婚約者とのお茶会

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エミールが私の婚約者となった結果、イストリア公にはオリバーがつくことになった。
エミール支持層は私の配下になることで、イストリア公家内の不穏分子をこちらで引き取ることができ、イストリア公家内の紛争は完全に決着がつき恩を売ることができるとともに、教育された貴族たちを配下に加えることで、私の優秀な部下が増えるというウィンウィンの結果を達成することができ、イストリア公は完全に私の支持に回ることになった。

皇帝側は結局、イストリア公にもマルコイ公にもそっぽを向かれてしまい、宰相にはランドルフ公になったアルバートしか選択肢がなくなった。
マルーン候がフォローをするだろうが、アルバートでは傀儡にすらなれないほど阿呆だ。なんせ政略であった私との婚約すら破棄した男だ。余計なことをして邪魔ばかりするだろう。
そうして皇帝の手が止まるだろう状況で、こちらは手を進めていく。
イストリア公のさらに東部にある、私の領地から、さらに遊牧民の騎兵たちを呼び寄せる。総勢3000。帝国軍から見れば数は少ないが、練度は最高の弓軽騎兵だ。機動力を生かせばいくらでも使い道があった。
ひとまず帝都周りにあるランドルフ公の各領地の代官に、こちらにつくようにお手紙をばらまいた。
なんだかんだでランドルフ公の実務を回していたのは私だ。ほとんどは直系の上司であるランドルフ公につくだろうが、一人や二人、私につく者が出るかもしれない。
そして私につかないというならうちの軽騎兵たちが暴れまわるだろう。
略奪を繰り返し、敵領地を疲弊させ、こちらは儲けを得るのだ。
帝国臣民だからと甘く見ることはできない。私たちにとっては、彼らは逆賊であり、滅ぼさなければならないのだから。

そうして私が敵の経済を締め付けていく中、マルコイ公はこちらとの連絡を取りつつ、南部貴族たちの調略を始めた。
帝国の物流は、マルーン候が治めるマルーン領内を流れるマルーン大河と、西部から南部にかけての海が基本的に担っている。西部から南部は開運で、そこから内陸は川を使った水運が基本であり、マルーン候はその水運を握り富を得てきた。
一方豊かな領土を持ち、今まではマルーン大河を主に利用してきたマルコイ公は、今回のことで別の流通網を作ろうと画策していた。
南部には、小さな河川がいくつもある。
それらを複合的に利用して、マルコイ公は内陸部への流通網として利用しようと画策し、ついでに南部にも商品を売り込みつつ、取り込みを進めているのだろう。
戦闘は始まっていないが、私と、兄の、帝位をかけた内戦は既に始まっているのだ。
だが、そんな中、私は新しくなった婚約者殿とお茶を飲んでいた。
砦の中にある応接室という殺風景な部屋に連れ込まれたのだ。

「内戦が始まっているんだから、ここでゆっくりお茶を飲んでいる余裕はないと思うのですが」
「婚約者殿との親睦は大事でしょう」

しなければならないことは多い。
マルコイ公との連絡にお互いのすり合わせは必須だし、ランドルフ公の領地の襲撃計画に代官との折衝もある。
イストリア公や、その配下に、次の内戦でどれだけ援助をしてくれるか、その辺りだって交渉しないといけない。
だが、対マルコイ公についてはイストリア公が、ランドルフ公については腹心のルルが対応し、イストリア公や自らの領地である東方辺境はエミール派の陪臣たちが対応してくれていた。
そしてそれをエミールがまとめ、私にあげる。
自分が手を入れなくても事態が回り始めていることに、私は不気味さと違和感を覚えていた。

「そもそも、アンジェは自分で動きすぎなんです。皇帝になるんだからどっしり構えていないと」
「どっしりって、女性に使っていい言葉ではないと思うんですけど」

不満で頬を膨らませるぐらいしかできないが、その言葉は私の心に刺さるのだ。
胸も無駄に大きくなって邪魔だし、尻だってかなりデカいという自覚はある。
どれだけ動いても、こういうところの肉は減らないどころか余計増えた気がする。
男性陣の下世話な目線にさらされるし、動くには邪魔だし、私としてはマイナスな部分が非常に大きかった。

「あと、全部エミール経由だと、アナタが裏切った時に私はお飾りにしかなれないのよね」
「兄や引き取った陪臣は私のいうことを優先させる可能性がありますからね。アンジェも手ごまをもっとそろえた方がいいですよ」
「考えておくわ」

エミールが裏切る可能性だって当然ある。
その際情報遮断をされると二進も三進もいかなくなりかねない。
ルルは、ちょくちょく遊びにきて菓子をつまんで雑談なんかをしているから、そこの情報遮断は難しいだろう。
マルコイ公は、私が皇帝になったら再度宰相に復帰してもらう予定で話を進めているし、私から直接連絡もしているから、やはりこちらの情報も信用できる。
だが、イストリア公側は何かされてもどうしようもないだろうなと思う。どうにか陪臣らをこちらに取り込む必要があり、それには時間と手間がかかりそうだった。

「信用いただけませんか?」
「どうしてエミールが私についたかが分からないからね」
「単純に、アナタが好きだったんですよ。綺麗で、賢くて、いつも頑張るアンジェが欲しかったのです。帝位も、イストリア公位もいりませんし」
「告白としては落第点ね」
「あと、アンジェのどっしりとして重そうな尻も好きですよ」
「落第どころか0点じゃない」

誉め言葉に全く思えないが、まあ好きだからついたというのは理解できた。
その好意がいつ尽きるか、それだけで判断すればいいというのはまあ難しい話ではない。

エミールからのセクハラと残念な告白を聞きながらお茶を楽しむ。
エミールはひどく楽しそうであった。
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