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【第1章】 捨てられ令嬢と氷の公爵
第9話 氷の薔薇と、永遠の誓い
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父からの不快な手紙が届いた翌日。
私は、執務室ではなく、屋敷の中庭に呼び出されていた。
「寒い中すまない。……少し、付き合ってくれ」
ジークハルト様はそう言うと、私の肩に分厚い毛皮のショールを巻き付け、中庭の奥へと歩き出した。
北国の冬は厳しい。吐く息は真っ白で、木々は雪化粧を纏(まと)っている。
けれど、彼の案内で足を踏み入れた場所――ガラス張りの温室の中に入った瞬間、世界が変わった。
「わあ……っ!」
そこは、花の楽園だった。
外は吹雪いているのに、ここだけ春が来たかのように、色とりどりの花が咲き乱れている。
可憐なスノードロップ、鮮やかなシクラメン、そして見たこともない青い花々。
「すごい……! 冬なのに、どうしてこんなに咲いているんですか?」
「私の魔力で、この温室内の温度を調整しているのだ。……破壊することしか能がないと言われる魔力だが、こういう使い方もできる」
彼は少し自嘲気味に呟きながら、花壇のふちに腰掛けた。
「昨日は、すまなかった」
「え?」
「お前の前で、取り乱した。……あんな怒りに任せた姿を見せれば、お前も私を『怪物』だと恐れただろう」
彼は視線を逸らし、手元の花を弄る。
ああ、この人は。
あの時、父の手紙を燃やした自分の姿が、私を怖がらせてしまったのではないかと、ずっと気に病んでいたのだ。
「そんなこと、ありません!」
私は慌てて彼の隣に座り、その大きな袖をギュッと掴んだ。
「怖くなんてありませんでした。むしろ、嬉しかったんです。あなたが私のために怒ってくれたことが。……あんなに誰かに守ってもらえたのは、初めてでしたから」
私の言葉に、彼は驚いたように目を見開いた。
サファイアの瞳が揺れる。
「……お前は、変わった女だな。私の氷を怖がらないとは」
「氷じゃありません。私にとっては、温かい魔法です」
私が微笑むと、彼は気恥ずかしそうに頬を掻き、懐から何かを取り出した。
「……これを、やろう」
「これは?」
差し出されたのは、一輪の「薔薇」だった。
けれど、それは生花ではない。
透き通るような青白い輝きを放つ、氷でできた薔薇だ。
「昨晩、作ったのだ。私の魔力を結晶化させた『氷の薔薇』だ」
「きれい……! まるで宝石みたい」
「ただの氷ではない。特殊な術式を組んで固定してある。……これは、決して溶けない」
彼はその氷の薔薇を、私の手にそっと乗せた。
不思議なことに、冷たくない。ほんのりと人肌のような温もりさえ感じる。
「決して溶けない、枯れない、砕けない。……私の、お前を守るという誓いと同じだ」
ジークハルト様は、真っ直ぐに私を見つめた。
「お前の実家がどう出ようと、王家が何を言ってこようと、関係ない。私がこの身に代えてもお前を守り抜く。この薔薇が溶けることがないように、私のこの想いも変わることはない」
それは、実質的なプロポーズのような言葉だった。
契約結婚だと言っていたのに。愛など期待するなと言っていたのに。
彼はもう、私に全てを与えてくれている。
「……っ、うぅ……」
父の手紙を見た時は恐怖で震えたけれど、今は違う。
胸がいっぱいで、涙が溢れて止まらない。
私は氷の薔薇を胸に抱きしめ、何度も何度もうなずいた。
「ありがとうございます……! 私、大切にします。一生、大切にします!」
「ああ。……だから、もう泣くな。お前には笑顔の方が似合う」
彼は大きな手で私の涙を拭うと、不器用に、けれど愛おしそうに私の髪に口づけを落とした。
ガラスの外では吹雪が吹き荒れている。
けれど、この温室の中と、私の心の中は、春の日差しのようにポカポカと温かかった。
◇
その日の午後。
私は頂いた「氷の薔薇」を、執務室の机の一番目立つ場所に飾った。
窓から差し込む光を受けてキラキラと輝くその青色は、仕事に疲れた私をいつでも励ましてくれる。
(よし、頑張ろう!)
ジークハルト様が守ってくれるなら、私は私の戦いをしなければ。
私は気合を入れ直し、再び書類に向かった。
現在、ハンスさんが手配した調査員によって、実家の不正の証拠が着々と集まりつつあるという。
反撃の準備は整いつつあった。
そして数日後。
ついに、王都から「決定的な知らせ」が届くことになる。
それは、私の実家である男爵家が、王宮主催の夜会で、とんでもない失態を演じるという自滅の報告だった。
私は、執務室ではなく、屋敷の中庭に呼び出されていた。
「寒い中すまない。……少し、付き合ってくれ」
ジークハルト様はそう言うと、私の肩に分厚い毛皮のショールを巻き付け、中庭の奥へと歩き出した。
北国の冬は厳しい。吐く息は真っ白で、木々は雪化粧を纏(まと)っている。
けれど、彼の案内で足を踏み入れた場所――ガラス張りの温室の中に入った瞬間、世界が変わった。
「わあ……っ!」
そこは、花の楽園だった。
外は吹雪いているのに、ここだけ春が来たかのように、色とりどりの花が咲き乱れている。
可憐なスノードロップ、鮮やかなシクラメン、そして見たこともない青い花々。
「すごい……! 冬なのに、どうしてこんなに咲いているんですか?」
「私の魔力で、この温室内の温度を調整しているのだ。……破壊することしか能がないと言われる魔力だが、こういう使い方もできる」
彼は少し自嘲気味に呟きながら、花壇のふちに腰掛けた。
「昨日は、すまなかった」
「え?」
「お前の前で、取り乱した。……あんな怒りに任せた姿を見せれば、お前も私を『怪物』だと恐れただろう」
彼は視線を逸らし、手元の花を弄る。
ああ、この人は。
あの時、父の手紙を燃やした自分の姿が、私を怖がらせてしまったのではないかと、ずっと気に病んでいたのだ。
「そんなこと、ありません!」
私は慌てて彼の隣に座り、その大きな袖をギュッと掴んだ。
「怖くなんてありませんでした。むしろ、嬉しかったんです。あなたが私のために怒ってくれたことが。……あんなに誰かに守ってもらえたのは、初めてでしたから」
私の言葉に、彼は驚いたように目を見開いた。
サファイアの瞳が揺れる。
「……お前は、変わった女だな。私の氷を怖がらないとは」
「氷じゃありません。私にとっては、温かい魔法です」
私が微笑むと、彼は気恥ずかしそうに頬を掻き、懐から何かを取り出した。
「……これを、やろう」
「これは?」
差し出されたのは、一輪の「薔薇」だった。
けれど、それは生花ではない。
透き通るような青白い輝きを放つ、氷でできた薔薇だ。
「昨晩、作ったのだ。私の魔力を結晶化させた『氷の薔薇』だ」
「きれい……! まるで宝石みたい」
「ただの氷ではない。特殊な術式を組んで固定してある。……これは、決して溶けない」
彼はその氷の薔薇を、私の手にそっと乗せた。
不思議なことに、冷たくない。ほんのりと人肌のような温もりさえ感じる。
「決して溶けない、枯れない、砕けない。……私の、お前を守るという誓いと同じだ」
ジークハルト様は、真っ直ぐに私を見つめた。
「お前の実家がどう出ようと、王家が何を言ってこようと、関係ない。私がこの身に代えてもお前を守り抜く。この薔薇が溶けることがないように、私のこの想いも変わることはない」
それは、実質的なプロポーズのような言葉だった。
契約結婚だと言っていたのに。愛など期待するなと言っていたのに。
彼はもう、私に全てを与えてくれている。
「……っ、うぅ……」
父の手紙を見た時は恐怖で震えたけれど、今は違う。
胸がいっぱいで、涙が溢れて止まらない。
私は氷の薔薇を胸に抱きしめ、何度も何度もうなずいた。
「ありがとうございます……! 私、大切にします。一生、大切にします!」
「ああ。……だから、もう泣くな。お前には笑顔の方が似合う」
彼は大きな手で私の涙を拭うと、不器用に、けれど愛おしそうに私の髪に口づけを落とした。
ガラスの外では吹雪が吹き荒れている。
けれど、この温室の中と、私の心の中は、春の日差しのようにポカポカと温かかった。
◇
その日の午後。
私は頂いた「氷の薔薇」を、執務室の机の一番目立つ場所に飾った。
窓から差し込む光を受けてキラキラと輝くその青色は、仕事に疲れた私をいつでも励ましてくれる。
(よし、頑張ろう!)
ジークハルト様が守ってくれるなら、私は私の戦いをしなければ。
私は気合を入れ直し、再び書類に向かった。
現在、ハンスさんが手配した調査員によって、実家の不正の証拠が着々と集まりつつあるという。
反撃の準備は整いつつあった。
そして数日後。
ついに、王都から「決定的な知らせ」が届くことになる。
それは、私の実家である男爵家が、王宮主催の夜会で、とんでもない失態を演じるという自滅の報告だった。
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