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【第2章】 華麗なる社交界デビューと、愚か者たちへの断罪
第16話 魔法の馬車と、甘い逃避行
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出発の朝。
北の空は、私たちの門出を祝福するかのように晴れ渡っていた。
「行ってらっしゃいませ、旦那様、奥様! 留守は我々にお任せを!」
「王都の貴族たちの度肝を抜いてやってください!」
ハンスをはじめ、使用人たちが総出で見送ってくれる。
数ヶ月前、たった一人でこの地にたどり着いた時は、こんな風に温かく送り出される日が来るなんて想像もしなかった。
私は胸がいっぱいになりながら、何度も手を振り返した。
「行くぞ、エリス」
「はい、ジークハルト様」
目の前に停まっているのは、王都行きの特注馬車だ。
漆黒の車体に、銀の装飾が施された重厚な作り。牽引するのは、通常の馬よりもひと回り大きく、青い鬣(たてがみ)を持つ「魔導馬」が四頭。
ジークハルト様のエスコートで足を踏み入れると、私は思わず声を上げた。
「すごい……! これが馬車の中ですか?」
車内は、ちょっとした応接室ほどに広かった。
床にはふかふかの絨毯が敷かれ、座席は長時間座っても疲れないよう、最高級のクッションが使われている。
さらに驚いたのは、その快適さだ。
馬車が動き出したのに、振動はおろか、外の車輪の音さえほとんど聞こえない。
「『振動吸収』と『防音』の魔術を付与してある。それに、空調も完備だ。……王都までの三日間、お前を疲れさせるわけにはいかないからな」
ジークハルト様は向かいの席……ではなく、当然のように私の隣に座り、腰を引き寄せた。
「あの、ジークハルト様。席はたくさん空いていますけど……」
「遠い」
「えっ?」
「向かいの席では遠すぎる。……それに、何かあった時にすぐ守れる距離でないとな」
彼は真顔でそう言い切ると、さらに私を自分の方へと引き寄せた。
結局、広い馬車の中で、私たちはくっつくように寄り添って座ることになった。
テーブルには、ハンスが用意してくれた紅茶とクッキー、そしてジークハルト様が仕事をするための書類が少し置かれている。
窓の外を、雪景色が飛ぶような速さで流れていく。
「……不思議ですね」
「何がだ?」
「ここに来た時は、絶望しかありませんでした。寒くて、寂しくて、これからどうやって死のうかと、そればかり考えていて……」
私がポツリと漏らすと、腰に回された腕に力がこもった。
「だが、今は違う」
「はい。今は、とても温かいです」
私は彼の肩に頭を預けた。
あの時は、ガタガタ揺れる乗り合い馬車で、着の身着のまま震えていた。
でも今は、魔法の馬車で、愛する人に守られている。
同じ「王都への道」なのに、世界がまるで違って見えた。
「王都に着いたら、まずは屋敷へ向かう。そこを拠点にして、夜会への準備を整えるぞ」
「準備、ですか?」
「ああ。王室御用達のデザイナーと宝石商を呼んである。……言っただろう? 最高に美しくしてやると」
彼は私の指先に口づけ、ニヤリと笑った。
「お前の実家の連中や、元婚約者のカイル……奴らは、お前を『地味で魅力のない女』だと言って捨てたそうだな」
「……はい。ミリアに比べて、華がないと」
「節穴め。……奴らの目が腐っていたことを、公衆の面前で証明してやる。お前は磨けば光る原石ではない。既に輝いている宝石だということをな」
その言葉は、どんな宝石よりも私を輝かせてくれる気がした。
王都へ近づくにつれ、不安がないと言えば嘘になる。
けれど、この人が隣にいてくれるなら。
私はきっと、顔を上げて歩ける。
「少し眠れ。着くまで私が膝枕をしてやろう」
「ええっ!? さ、さすがにそれは……!」
「遠慮するな。お前の寝顔を見ながら書類仕事をするのが、最近の私の趣味なのだ」
悪趣味なのか愛なのか分からないことを真面目な顔で言われ、私は顔を赤くして抗議したけれど、結局は彼の甘やかしに負けてしまった。
魔法の馬車は、愛と復讐の炎を乗せて、一路王都へと駆けていく。
私たちが王都の門をくぐる時、社交界に激震が走ることを、まだ誰も知らない。
北の空は、私たちの門出を祝福するかのように晴れ渡っていた。
「行ってらっしゃいませ、旦那様、奥様! 留守は我々にお任せを!」
「王都の貴族たちの度肝を抜いてやってください!」
ハンスをはじめ、使用人たちが総出で見送ってくれる。
数ヶ月前、たった一人でこの地にたどり着いた時は、こんな風に温かく送り出される日が来るなんて想像もしなかった。
私は胸がいっぱいになりながら、何度も手を振り返した。
「行くぞ、エリス」
「はい、ジークハルト様」
目の前に停まっているのは、王都行きの特注馬車だ。
漆黒の車体に、銀の装飾が施された重厚な作り。牽引するのは、通常の馬よりもひと回り大きく、青い鬣(たてがみ)を持つ「魔導馬」が四頭。
ジークハルト様のエスコートで足を踏み入れると、私は思わず声を上げた。
「すごい……! これが馬車の中ですか?」
車内は、ちょっとした応接室ほどに広かった。
床にはふかふかの絨毯が敷かれ、座席は長時間座っても疲れないよう、最高級のクッションが使われている。
さらに驚いたのは、その快適さだ。
馬車が動き出したのに、振動はおろか、外の車輪の音さえほとんど聞こえない。
「『振動吸収』と『防音』の魔術を付与してある。それに、空調も完備だ。……王都までの三日間、お前を疲れさせるわけにはいかないからな」
ジークハルト様は向かいの席……ではなく、当然のように私の隣に座り、腰を引き寄せた。
「あの、ジークハルト様。席はたくさん空いていますけど……」
「遠い」
「えっ?」
「向かいの席では遠すぎる。……それに、何かあった時にすぐ守れる距離でないとな」
彼は真顔でそう言い切ると、さらに私を自分の方へと引き寄せた。
結局、広い馬車の中で、私たちはくっつくように寄り添って座ることになった。
テーブルには、ハンスが用意してくれた紅茶とクッキー、そしてジークハルト様が仕事をするための書類が少し置かれている。
窓の外を、雪景色が飛ぶような速さで流れていく。
「……不思議ですね」
「何がだ?」
「ここに来た時は、絶望しかありませんでした。寒くて、寂しくて、これからどうやって死のうかと、そればかり考えていて……」
私がポツリと漏らすと、腰に回された腕に力がこもった。
「だが、今は違う」
「はい。今は、とても温かいです」
私は彼の肩に頭を預けた。
あの時は、ガタガタ揺れる乗り合い馬車で、着の身着のまま震えていた。
でも今は、魔法の馬車で、愛する人に守られている。
同じ「王都への道」なのに、世界がまるで違って見えた。
「王都に着いたら、まずは屋敷へ向かう。そこを拠点にして、夜会への準備を整えるぞ」
「準備、ですか?」
「ああ。王室御用達のデザイナーと宝石商を呼んである。……言っただろう? 最高に美しくしてやると」
彼は私の指先に口づけ、ニヤリと笑った。
「お前の実家の連中や、元婚約者のカイル……奴らは、お前を『地味で魅力のない女』だと言って捨てたそうだな」
「……はい。ミリアに比べて、華がないと」
「節穴め。……奴らの目が腐っていたことを、公衆の面前で証明してやる。お前は磨けば光る原石ではない。既に輝いている宝石だということをな」
その言葉は、どんな宝石よりも私を輝かせてくれる気がした。
王都へ近づくにつれ、不安がないと言えば嘘になる。
けれど、この人が隣にいてくれるなら。
私はきっと、顔を上げて歩ける。
「少し眠れ。着くまで私が膝枕をしてやろう」
「ええっ!? さ、さすがにそれは……!」
「遠慮するな。お前の寝顔を見ながら書類仕事をするのが、最近の私の趣味なのだ」
悪趣味なのか愛なのか分からないことを真面目な顔で言われ、私は顔を赤くして抗議したけれど、結局は彼の甘やかしに負けてしまった。
魔法の馬車は、愛と復讐の炎を乗せて、一路王都へと駆けていく。
私たちが王都の門をくぐる時、社交界に激震が走ることを、まだ誰も知らない。
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