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【第3章】 氷の公爵家の奇跡、そして永遠の春へ
第34話 災厄の皇子か、奇跡の御子か
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公爵邸の応接間は、外の寒波以上に凍てついた空気が張り詰めていた。
「――単刀直入に言おう。その赤子は『災厄』だ」
上座にふんぞり返る叔父のヴィルヘルムが、勝ち誇ったように宣告した。
その隣には、教会の高位神官服を纏(まと)った男が、厳しい表情で控えている。
「見ろ、窓の外を! 春の陽気が一転して真冬の吹雪だ! 農作物は全滅、市民は寒さに震え上がっている! これらは全て、お前の息子が産まれた瞬間から始まったことだ。違うとは言わせんぞ!」
ヴィルヘルムの弾劾(だんがい)に、ジークハルト様はギリリと奥歯を噛み締めた。
彼の膝の上では、拳が白くなるほど強く握られている。
「……否定はしない。この異常気象の原因が、息子の魔力にあることは事実だ」
「認めたな! ならば話は早い!」
ヴィルヘルムは身を乗り出し、食い気味に叫んだ。
「その子は人間ではない。強大すぎる魔力を持った『魔物』か、あるいは呪われた『忌み子』だ! 公爵家に置いておけば、いずれ国そのものを滅ぼしかねん!」
「貴様……ッ!」
ジークハルト様の全身から殺気が噴き出した。
室温が急激に下がり、ヴィルヘルムの眉毛に霜が降りる。
「私の息子を侮辱するか! レオンは魔物などではない! ただ、少し力が強すぎるだけの……」
「それを『危険』だと言っているのだ! 制御不能な力など、爆弾と同じだ!」
神官が静かに、しかし冷徹に口を開いた。
「公爵閣下。教会の見解もヴィルヘルム殿と同じです。……その御子(みこ)は、あまりに危険すぎます。民の不安を取り除くためにも、直ちに教会へ引き渡し、地下の『封魔牢』にて厳重に管理・浄化すべきかと」
「ふざけるな!!」
ジークハルト様が激昂し、テーブルを叩き割った。
「生まれたばかりの赤ん坊を牢屋に入れろだと!? そんなこと、親として認められるわけがないだろう!」
「ならば、公爵家ごと『異端』として断罪されることになりますぞ?」
ヴィルヘルムがニヤリと笑った。
彼らの狙いは明白だ。レオンを排除し、公爵家を追い落とすこと。
「……殺してやる」
ジークハルト様が立ち上がった。
その手には、氷の剣が形成されている。
彼は本気だ。愛する息子を奪われるくらいなら、国を敵に回してでも戦うつもりだ。
けれど、それをすればレオンは本当に「災厄の子」になってしまう。
「お待ちください」
私は、抱っこ紐に入れたレオンを胸に抱き、静かに部屋へ入った。
私の登場に、ヴィルヘルムが露骨に顔をしかめる。
「なんだ、男爵家の小娘か。女が口を出す場ではない」
「母として、我が子の将来に関わる話に口を出すのは当然の権利です」
私はジークハルト様の前に立ち、彼の手の剣をそっと握って溶かした。
そして、毅然とした態度でヴィルヘルムたちを見据えた。
「叔父様。そして神官様。……あなた方は、この子の力を『災厄』と仰いましたね?」
「事実だろう! 見てみろ、この雪を!」
「ええ、確かに雪は降っています。……ですが、この力は決して、人を傷つけるためのものではありません」
私は胸元のレオンをあやしながら、静かに言葉を紡いだ。
「この子の冷気は、確かに強力です。でも、それは穢(けが)れのない、純粋な『守る力』でもあります」
「守る力だと? 作物を枯らしておいて何が……」
「いいえ。……この冷気があれば、救える命があるのです」
私は懐から、一冊の古びたノートを取り出した。
祖父が遺した研究記録だ。
「ここには、私の祖父が生涯をかけて研究した『寒冷地の知恵』が記されています。……氷は、時間を止める力を持っています。夏場の食中毒から子供たちを守り、薬草の鮮度を保ち、遠くの飢えた人々に食料を届ける。……氷は、命を繋ぐための『恵み』にもなり得るのです」
私はレオンの小さな手を握り、テーブルの上の水差しに触れさせた。
カチン。
一瞬で、水が透き通った美しい氷に変わる。
不純物のない、宝石のような純氷だ。
「見てください。この子が作り出す氷は、こんなにも透き通っています。……これは災厄などではありません。正しく導けば、多くの人々を助ける『ギフト(天恵)』となるはずです」
神官の目が、わずかに動いた。
「天恵」という言葉に、宗教的な否定の難しさを感じたのだろう。
「詭弁だ! そんなものが何の役に立つ!」
「役に立つかどうかは、私たちが証明してみせます」
私はまっすぐに彼らを見据えて宣言した。
「一週間。一週間だけ時間をください。……今度の王宮謁見(えっけん)の儀にて、証明してみせます。このレオンが『災厄の皇子』ではなく、この国に祝福をもたらす『奇跡の御子』であることを」
「……証明だと?」
「はい。もし、この子の力が人々にとって『害』でしかないと判断されたなら……その時は、教会の指示に従いましょう」
隣でジークハルト様が「エリス!?」と息を呑むのが分かった。
けれど、私は彼の手をギュッと握り返して「信じて」と合図を送った。
ヴィルヘルムは少し考え込み、やがて歪んだ笑みを浮かべた。
「面白い。……よかろう。男爵家の娘ごときが、どこまで足掻けるか見ものだ。ただし、失敗すれば親子共々、破滅だと思え!」
彼らは捨て台詞を残して去っていった。
扉が閉まった瞬間、ジークハルト様が私の方へ向き直った。
「エリス! 無茶だ! 一週間で何ができると言うんだ! レオンの魔力は、私ですら制御しきれないのに!」
「大丈夫です。……私に考えがあります」
私は胸の中で「きゃっきゃ」と笑っているレオンの頬を突っついた。
「この子の力は、とても優しくて綺麗です。ただ、使い道を知らないだけ。……お祖父様のノートに、氷を使って大切なものを『保存』する魔法具のアイデアがありました」
私はレオンを愛おしそうに見つめた。
「レオン。あなたのその力は、誰かを怖がらせるためのものじゃないわ。……大切なものを守って、未来へ届けるための力なのよ」
「あうー!」
レオンが元気よく返事をした。
勝算はある。
かつて「捨てられ令嬢」として実家の経営を支えていた私の知識と、ジークハルト様の魔導技術。そして何より、この子への愛があれば。
「見ていなさい、あの古狸たち。……レオンを『化け物』と呼んだことを、後悔させてあげるわ」
母となった私は、もう誰にも止められない。
こうして、公爵家の威信と息子の未来を賭けた、一世一代の「証明」の準備が始まった。
「――単刀直入に言おう。その赤子は『災厄』だ」
上座にふんぞり返る叔父のヴィルヘルムが、勝ち誇ったように宣告した。
その隣には、教会の高位神官服を纏(まと)った男が、厳しい表情で控えている。
「見ろ、窓の外を! 春の陽気が一転して真冬の吹雪だ! 農作物は全滅、市民は寒さに震え上がっている! これらは全て、お前の息子が産まれた瞬間から始まったことだ。違うとは言わせんぞ!」
ヴィルヘルムの弾劾(だんがい)に、ジークハルト様はギリリと奥歯を噛み締めた。
彼の膝の上では、拳が白くなるほど強く握られている。
「……否定はしない。この異常気象の原因が、息子の魔力にあることは事実だ」
「認めたな! ならば話は早い!」
ヴィルヘルムは身を乗り出し、食い気味に叫んだ。
「その子は人間ではない。強大すぎる魔力を持った『魔物』か、あるいは呪われた『忌み子』だ! 公爵家に置いておけば、いずれ国そのものを滅ぼしかねん!」
「貴様……ッ!」
ジークハルト様の全身から殺気が噴き出した。
室温が急激に下がり、ヴィルヘルムの眉毛に霜が降りる。
「私の息子を侮辱するか! レオンは魔物などではない! ただ、少し力が強すぎるだけの……」
「それを『危険』だと言っているのだ! 制御不能な力など、爆弾と同じだ!」
神官が静かに、しかし冷徹に口を開いた。
「公爵閣下。教会の見解もヴィルヘルム殿と同じです。……その御子(みこ)は、あまりに危険すぎます。民の不安を取り除くためにも、直ちに教会へ引き渡し、地下の『封魔牢』にて厳重に管理・浄化すべきかと」
「ふざけるな!!」
ジークハルト様が激昂し、テーブルを叩き割った。
「生まれたばかりの赤ん坊を牢屋に入れろだと!? そんなこと、親として認められるわけがないだろう!」
「ならば、公爵家ごと『異端』として断罪されることになりますぞ?」
ヴィルヘルムがニヤリと笑った。
彼らの狙いは明白だ。レオンを排除し、公爵家を追い落とすこと。
「……殺してやる」
ジークハルト様が立ち上がった。
その手には、氷の剣が形成されている。
彼は本気だ。愛する息子を奪われるくらいなら、国を敵に回してでも戦うつもりだ。
けれど、それをすればレオンは本当に「災厄の子」になってしまう。
「お待ちください」
私は、抱っこ紐に入れたレオンを胸に抱き、静かに部屋へ入った。
私の登場に、ヴィルヘルムが露骨に顔をしかめる。
「なんだ、男爵家の小娘か。女が口を出す場ではない」
「母として、我が子の将来に関わる話に口を出すのは当然の権利です」
私はジークハルト様の前に立ち、彼の手の剣をそっと握って溶かした。
そして、毅然とした態度でヴィルヘルムたちを見据えた。
「叔父様。そして神官様。……あなた方は、この子の力を『災厄』と仰いましたね?」
「事実だろう! 見てみろ、この雪を!」
「ええ、確かに雪は降っています。……ですが、この力は決して、人を傷つけるためのものではありません」
私は胸元のレオンをあやしながら、静かに言葉を紡いだ。
「この子の冷気は、確かに強力です。でも、それは穢(けが)れのない、純粋な『守る力』でもあります」
「守る力だと? 作物を枯らしておいて何が……」
「いいえ。……この冷気があれば、救える命があるのです」
私は懐から、一冊の古びたノートを取り出した。
祖父が遺した研究記録だ。
「ここには、私の祖父が生涯をかけて研究した『寒冷地の知恵』が記されています。……氷は、時間を止める力を持っています。夏場の食中毒から子供たちを守り、薬草の鮮度を保ち、遠くの飢えた人々に食料を届ける。……氷は、命を繋ぐための『恵み』にもなり得るのです」
私はレオンの小さな手を握り、テーブルの上の水差しに触れさせた。
カチン。
一瞬で、水が透き通った美しい氷に変わる。
不純物のない、宝石のような純氷だ。
「見てください。この子が作り出す氷は、こんなにも透き通っています。……これは災厄などではありません。正しく導けば、多くの人々を助ける『ギフト(天恵)』となるはずです」
神官の目が、わずかに動いた。
「天恵」という言葉に、宗教的な否定の難しさを感じたのだろう。
「詭弁だ! そんなものが何の役に立つ!」
「役に立つかどうかは、私たちが証明してみせます」
私はまっすぐに彼らを見据えて宣言した。
「一週間。一週間だけ時間をください。……今度の王宮謁見(えっけん)の儀にて、証明してみせます。このレオンが『災厄の皇子』ではなく、この国に祝福をもたらす『奇跡の御子』であることを」
「……証明だと?」
「はい。もし、この子の力が人々にとって『害』でしかないと判断されたなら……その時は、教会の指示に従いましょう」
隣でジークハルト様が「エリス!?」と息を呑むのが分かった。
けれど、私は彼の手をギュッと握り返して「信じて」と合図を送った。
ヴィルヘルムは少し考え込み、やがて歪んだ笑みを浮かべた。
「面白い。……よかろう。男爵家の娘ごときが、どこまで足掻けるか見ものだ。ただし、失敗すれば親子共々、破滅だと思え!」
彼らは捨て台詞を残して去っていった。
扉が閉まった瞬間、ジークハルト様が私の方へ向き直った。
「エリス! 無茶だ! 一週間で何ができると言うんだ! レオンの魔力は、私ですら制御しきれないのに!」
「大丈夫です。……私に考えがあります」
私は胸の中で「きゃっきゃ」と笑っているレオンの頬を突っついた。
「この子の力は、とても優しくて綺麗です。ただ、使い道を知らないだけ。……お祖父様のノートに、氷を使って大切なものを『保存』する魔法具のアイデアがありました」
私はレオンを愛おしそうに見つめた。
「レオン。あなたのその力は、誰かを怖がらせるためのものじゃないわ。……大切なものを守って、未来へ届けるための力なのよ」
「あうー!」
レオンが元気よく返事をした。
勝算はある。
かつて「捨てられ令嬢」として実家の経営を支えていた私の知識と、ジークハルト様の魔導技術。そして何より、この子への愛があれば。
「見ていなさい、あの古狸たち。……レオンを『化け物』と呼んだことを、後悔させてあげるわ」
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