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13 知ってしまった
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「やだ、似合う! 私天才」
自画自賛するソフィアは、ひとりで手を叩いて喜んでいる。それとは対照的に死んだ目をしている俺。なんでお子様のおもちゃにされなきゃいけないんだ。
ウキウキで寄ってきたソフィアは、俺を捕まえると首元になにやら布を巻きつけ始めた。俺の首にはすでにフロイドが用意した首輪がある。その上からソフィアがスカーフを巻いてきた。くそ。
青い布を外してやろうと必死に前足を動かして頑張るのだが、思うように外せない。ムシャクシャしてフロイドに体当たりしてやる。「いった!」と前につんのめったフロイドは、しかしすぐに俺へと向き直るとさっと抱き上げてしまう。
『不愉快。外せ』
「可愛い! ウィルすごく似合ってる!」
『聞けよ』
テンションの高いソフィアは、俺を抱っこするフロイドの周りをぐるぐると歩き回る。フロイドが若干困惑している。
「とにかく。元に戻るためには、好きな人とキスするしかないよ。頑張って」
雑な励ましをするソフィアは、「好きな人くらいいるでしょ?」と首を捻っている。
『カルロッタ嬢のこと好き』
「うわぁ。殿下かわいそう」
こんな犬に婚約者狙われて、と殿下に同情してみせるソフィア。俺をこんな犬に変えたのはおまえだろうが。
低く唸って威嚇してやるが、ソフィアは手を叩いて喜んでしまう。これだから子供は嫌いなんだ。
「でも別に両想いじゃなくていいんだから。ウィルが好きだと思っている人とキスすればいいだけで、相手の気持ちはどうでもいいんだよ」
こんな緩い条件にするなんて私優しい! と自画自賛する聖女に、フロイドが「本当ですか!?」と食いついた。
「本当だよ。相手側の気持ちは問いません」
「それならまだウィル様にもチャンスはありますね」
嬉々として俺を見下ろすフロイドから顔を背けておく。
『でもぉ。カルロッタ嬢とキスしちゃダメってみんな言うからぁ』
「殿下の婚約者ですよ。ダメに決まっています」
『ケチ』
そう何人も好きな人なんて見つけられるかよ。
すべてが面倒になって大きく欠伸をすれば、聞きたいことを聞いて満足したらしいフロイドが俺を抱えたまま聖女に深々と頭を下げた。
なにやらお礼を言っているが、俺をこんな姿にした張本人はそいつだぞ。お礼ではなく文句を言ってやれ。
「ウィル、頑張れ!」
『うるせぇ、チビ』
「今はウィルのほうがチビだから!」
うるさいソフィアの部屋から退出しようと、フロイドが扉まで足を進めた。すると扉横で待機していたロッドが無言で開けてくれる。
「あ、どうも」
小さくお礼を言ったフロイドは、その瞬間に「ん?」と固まる。やがて何かに気が付いたらしい。みるみると目を見開くフロイドは、無表情で佇むロッドを凝視した。
「……えっと、もしかして今の話聞きました?」
おそるおそる問いかけるフロイドは、俺を抱える腕に力を込めた。へらへらしながら様子を見守る俺をじっと眺めて、ロッドが「はい」とあっさり頷いた。
「ウィル様が聖女様の魔法で犬にされたって話ですよね。バッチリ聞きました」
「今すぐ忘れてください!」
『んな無茶なー』
わははと声を上げて笑えば、ソフィアが「しまった! 外部に漏らしてしまった!」と言いながら寄ってくる。その顔はニヤけていた。このトラブルを間違いなく楽しんでいた。
「そこの騎士くん!」
「あ、はい」
聖女を相手にしても物怖じしないロッドは、やる気のない顔でソフィアに向き直る。しかし聖女を敬おうという気持ちはあるらしく、背筋を伸ばしている。
「この件は他言無用で!」
「はい」
ソフィアの言葉に間髪入れずに頷いたロッドは、少し考えてから「先輩には言ってもいいですか」と問いかける。良いわけないだろ。話を聞けよ。
誰にも言うなと念を押すフロイドの顔は真っ青であった。「よりによってなんでこの人に……!」とロッドを睨みつけている。どうやらロッドのとぼけた性格を心配しているらしい。ロッドがうっかり口を割ってしまう未来を想像してはやくも頭を抱えている。
絶望するフロイドと、ニヤける聖女ソフィアを横目に、ロッドは俺へと手を伸ばしてくる。
「ウィル様。はじめまして。騎士のロッドといいます」
『俺に気安く触るんじゃない! 噛みついてやろうかぁ! 噛みついてやろうかぁ!?』
鬱憤を晴らそうと勢いよくロッドに向かって吠えれば、俺を抱えていたフロイドが「やめてくださいよ」と、慌ててロッドから距離を取る。
ふんふん鼻息を荒くする俺に、ロッドは緩く笑いかけてくる。
「僕、犬が好きなんですよ」
おまえの趣味なんて知らん。ふいと顔を背けてやるが、ロッドは気にする素振りをみせない。独特の緩さを持つロッドは、犬の正体が俺だと知ってもたいして驚かない。まぁ、魔法は聖女以外も使える人は多いからな。聖女になると神のご加護で並外れた力を手にすることができるけど。人を犬に変えるなんてそれこそ聖女ほどの力がないと無理だ。
懲りずに俺の頭を撫でようとしてくるロッドを威嚇する。少しは怯めよ、クソが。
自画自賛するソフィアは、ひとりで手を叩いて喜んでいる。それとは対照的に死んだ目をしている俺。なんでお子様のおもちゃにされなきゃいけないんだ。
ウキウキで寄ってきたソフィアは、俺を捕まえると首元になにやら布を巻きつけ始めた。俺の首にはすでにフロイドが用意した首輪がある。その上からソフィアがスカーフを巻いてきた。くそ。
青い布を外してやろうと必死に前足を動かして頑張るのだが、思うように外せない。ムシャクシャしてフロイドに体当たりしてやる。「いった!」と前につんのめったフロイドは、しかしすぐに俺へと向き直るとさっと抱き上げてしまう。
『不愉快。外せ』
「可愛い! ウィルすごく似合ってる!」
『聞けよ』
テンションの高いソフィアは、俺を抱っこするフロイドの周りをぐるぐると歩き回る。フロイドが若干困惑している。
「とにかく。元に戻るためには、好きな人とキスするしかないよ。頑張って」
雑な励ましをするソフィアは、「好きな人くらいいるでしょ?」と首を捻っている。
『カルロッタ嬢のこと好き』
「うわぁ。殿下かわいそう」
こんな犬に婚約者狙われて、と殿下に同情してみせるソフィア。俺をこんな犬に変えたのはおまえだろうが。
低く唸って威嚇してやるが、ソフィアは手を叩いて喜んでしまう。これだから子供は嫌いなんだ。
「でも別に両想いじゃなくていいんだから。ウィルが好きだと思っている人とキスすればいいだけで、相手の気持ちはどうでもいいんだよ」
こんな緩い条件にするなんて私優しい! と自画自賛する聖女に、フロイドが「本当ですか!?」と食いついた。
「本当だよ。相手側の気持ちは問いません」
「それならまだウィル様にもチャンスはありますね」
嬉々として俺を見下ろすフロイドから顔を背けておく。
『でもぉ。カルロッタ嬢とキスしちゃダメってみんな言うからぁ』
「殿下の婚約者ですよ。ダメに決まっています」
『ケチ』
そう何人も好きな人なんて見つけられるかよ。
すべてが面倒になって大きく欠伸をすれば、聞きたいことを聞いて満足したらしいフロイドが俺を抱えたまま聖女に深々と頭を下げた。
なにやらお礼を言っているが、俺をこんな姿にした張本人はそいつだぞ。お礼ではなく文句を言ってやれ。
「ウィル、頑張れ!」
『うるせぇ、チビ』
「今はウィルのほうがチビだから!」
うるさいソフィアの部屋から退出しようと、フロイドが扉まで足を進めた。すると扉横で待機していたロッドが無言で開けてくれる。
「あ、どうも」
小さくお礼を言ったフロイドは、その瞬間に「ん?」と固まる。やがて何かに気が付いたらしい。みるみると目を見開くフロイドは、無表情で佇むロッドを凝視した。
「……えっと、もしかして今の話聞きました?」
おそるおそる問いかけるフロイドは、俺を抱える腕に力を込めた。へらへらしながら様子を見守る俺をじっと眺めて、ロッドが「はい」とあっさり頷いた。
「ウィル様が聖女様の魔法で犬にされたって話ですよね。バッチリ聞きました」
「今すぐ忘れてください!」
『んな無茶なー』
わははと声を上げて笑えば、ソフィアが「しまった! 外部に漏らしてしまった!」と言いながら寄ってくる。その顔はニヤけていた。このトラブルを間違いなく楽しんでいた。
「そこの騎士くん!」
「あ、はい」
聖女を相手にしても物怖じしないロッドは、やる気のない顔でソフィアに向き直る。しかし聖女を敬おうという気持ちはあるらしく、背筋を伸ばしている。
「この件は他言無用で!」
「はい」
ソフィアの言葉に間髪入れずに頷いたロッドは、少し考えてから「先輩には言ってもいいですか」と問いかける。良いわけないだろ。話を聞けよ。
誰にも言うなと念を押すフロイドの顔は真っ青であった。「よりによってなんでこの人に……!」とロッドを睨みつけている。どうやらロッドのとぼけた性格を心配しているらしい。ロッドがうっかり口を割ってしまう未来を想像してはやくも頭を抱えている。
絶望するフロイドと、ニヤける聖女ソフィアを横目に、ロッドは俺へと手を伸ばしてくる。
「ウィル様。はじめまして。騎士のロッドといいます」
『俺に気安く触るんじゃない! 噛みついてやろうかぁ! 噛みついてやろうかぁ!?』
鬱憤を晴らそうと勢いよくロッドに向かって吠えれば、俺を抱えていたフロイドが「やめてくださいよ」と、慌ててロッドから距離を取る。
ふんふん鼻息を荒くする俺に、ロッドは緩く笑いかけてくる。
「僕、犬が好きなんですよ」
おまえの趣味なんて知らん。ふいと顔を背けてやるが、ロッドは気にする素振りをみせない。独特の緩さを持つロッドは、犬の正体が俺だと知ってもたいして驚かない。まぁ、魔法は聖女以外も使える人は多いからな。聖女になると神のご加護で並外れた力を手にすることができるけど。人を犬に変えるなんてそれこそ聖女ほどの力がないと無理だ。
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