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25 誘えよ
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「朝から変なことしないでくださいよ。なんで私がこんな目に」
『……俺が作った穴』
「僕が掘りました」
ウィル様は見ていただけですと真面目に訂正するロッドは、フロイドに睨まれても涼しい顔だ。実に頼りになる男だ。そのまますべての罪を被ってくれ。
兄上に呼ばれて駆けつけたフロイドは、玄関先に掘られた穴を見て絶句していた。ロッドにはやく埋めるよう指示して、土だらけの俺を抱き上げるフロイドはお怒りだった。
「なんで土に突っ込んでいくんですか」
『犬だから』
「なんの理由にもなっていません」
ぴしゃりと言い放つフロイドは深くため息を吐く。とりあえず可愛く笑っておいてやる。舌を出してへらへらしていれば、フロイドが半眼になってしまう。こんなふわふわの犬を見ておいてなんだその顔は。普通に失礼だぞ。
朝からまた洗われてしまう俺は可哀想。
ふわふわの毛が潰れてしまう。許せない。
無言で穴を埋めるロッドを睨みつけて、フロイドは風呂場に向かう。そうしてさくっと俺を洗ったフロイドは疲れた顔をしていた。
『ふわふわじゃなくなった。許せん!』
「汚れるようなことしなきゃいいでしょ」
素っ気ないフロイドの周りをぐるぐるしてやる。濡れた体を震わせて盛大に水を飛ばしてやった。「ちょっと!」という非難めいた声は無視しておく。
『今すぐふわふわに戻せ!』
「無茶言わないでください」
大袈裟に嘆くフロイドは「いつになったら人間に戻ってくれるんですか」とため息を吐く。
『ふわふわの犬だぞ。こっちの方が楽しいだろ』
「私はなにも楽しくありません。むしろ苦労が増えました」
『ふうん?』
「なんですか、その他人事みたいな顔!」
ウィル様が妙なことばかりするからですよ! と朝から大声出すフロイドを無視して欠伸をしておく。とりあえず毛をふわふわに戻すべく窓辺の日当たりいい場所にぺたんと伏せておく。はやく乾け。俺の毛。
そうしてのんびり過ごしていれば、ロッドが戻ってきた。上着を脱いで、袖もまくった彼は疲れた顔で汗を拭っている。
「朝から疲れました」
「疲れるようなことをしなければいいだけでは?」
フロイドの真面目なツッコミに、ロッドはぱちぱちと目を瞬いて不思議そうな顔になる。
「でもウィル様にやれと言われたので」
「なんでもかんでも言うこときく必要はありません!」
ぴしゃりと言い放つフロイドは腰に手を当ててお怒りモードである。それにまったくビビらないロッドは、余裕のある態度で「でもウィル様が」と食い下がる。主人である俺の言うことは無視できないと言いたいらしい。実にいい子分である。へらへら笑いながら『いいぞ、ロッド!』と褒めておいてやる。
フロイドに睨まれたが構うものか。
俺のやりたいことを邪魔するばかりのフロイドよりも、ロッドのほうがよほど楽しい。
『おい、ロッド! 毛をふわふわに戻せ!』
「それは無理です」
『許せん!』
俺の大事な毛をなんだと思っている。
ふて寝してやる。
※※※
『おい、ロッド。ロッド!』
「いませんよ」
『なんだと!?』
ふて寝していたらガッツリ寝てしまった。ハッと目覚めた俺はとりあえずロッドを呼ぶ。毛もだいぶ乾いた。今の俺はふわふわのはず。
けれどもロッドは不在であった。部屋にいたフロイドが「忘れ物をしたと言って王宮に」と説明してくる。なんだと。思えばロッドのやつ、慌てて引っ越し準備をしていた。あんな雑な引っ越しである。忘れ物のひとつやふたつあっても不思議ではない。
『なんで俺を誘わない!』
勝手に出かけるなんて許せないとペシペシ前足で床を叩く俺に、フロイドが「え?」と怪訝な顔をする。
「なぜウィル様を誘う必要があるんですか」
『……それもそうだな』
たしかに。なんで単なる騎士の引っ越しに俺が付き合わなければならないのか。まったく俺には関係ない話である。ふと我に返って静かにすれば、フロイドが俺を抱き上げてソファの上に置いた。
『クッション!』
「はいはい」
お気に入りのクッションを要求して、顎をのせておく。フロイドの目を盗んでクッションをガジガジ噛んでおく。
『いつ戻るんだ』
「え?」
『ロッドはいつ戻るんだ』
あぁ、と緩く頷いたフロイドは「今日中には戻ってくるはずですよ」と告げる。
『ロッドがいないとつまらん。おい、フロイド。なんか面白いことやれ』
「やりません」
つれないフロイドは「おとなしくしててくださいね」と言い置いて部屋を出て行く。パタンと閉められた扉を眺めて、欠伸をする。
『ひーまー』
ガシガシとクッションを噛んで、ついでにソファの隅も齧っておく。ロッドがうちに来たのはつい最近なのに。いないと途端に暇になってしまう。俺、こういう時なにしてたっけ?
とりあえず昼寝にも飽きたので床におりてうろうろしておく。クッキー缶をなんとか入手できないかと戸棚をガシガシするが一向に手が届かない。ちくしょう。あんな高いところに置きやがって。フロイドめ。
『クッキー、クッキー』
なんかこういい感じにクッキー缶が落ちてこないかと棚に向かって体当たりしてやるもびくともしない。俺のクッキーがぁ。
『……俺が作った穴』
「僕が掘りました」
ウィル様は見ていただけですと真面目に訂正するロッドは、フロイドに睨まれても涼しい顔だ。実に頼りになる男だ。そのまますべての罪を被ってくれ。
兄上に呼ばれて駆けつけたフロイドは、玄関先に掘られた穴を見て絶句していた。ロッドにはやく埋めるよう指示して、土だらけの俺を抱き上げるフロイドはお怒りだった。
「なんで土に突っ込んでいくんですか」
『犬だから』
「なんの理由にもなっていません」
ぴしゃりと言い放つフロイドは深くため息を吐く。とりあえず可愛く笑っておいてやる。舌を出してへらへらしていれば、フロイドが半眼になってしまう。こんなふわふわの犬を見ておいてなんだその顔は。普通に失礼だぞ。
朝からまた洗われてしまう俺は可哀想。
ふわふわの毛が潰れてしまう。許せない。
無言で穴を埋めるロッドを睨みつけて、フロイドは風呂場に向かう。そうしてさくっと俺を洗ったフロイドは疲れた顔をしていた。
『ふわふわじゃなくなった。許せん!』
「汚れるようなことしなきゃいいでしょ」
素っ気ないフロイドの周りをぐるぐるしてやる。濡れた体を震わせて盛大に水を飛ばしてやった。「ちょっと!」という非難めいた声は無視しておく。
『今すぐふわふわに戻せ!』
「無茶言わないでください」
大袈裟に嘆くフロイドは「いつになったら人間に戻ってくれるんですか」とため息を吐く。
『ふわふわの犬だぞ。こっちの方が楽しいだろ』
「私はなにも楽しくありません。むしろ苦労が増えました」
『ふうん?』
「なんですか、その他人事みたいな顔!」
ウィル様が妙なことばかりするからですよ! と朝から大声出すフロイドを無視して欠伸をしておく。とりあえず毛をふわふわに戻すべく窓辺の日当たりいい場所にぺたんと伏せておく。はやく乾け。俺の毛。
そうしてのんびり過ごしていれば、ロッドが戻ってきた。上着を脱いで、袖もまくった彼は疲れた顔で汗を拭っている。
「朝から疲れました」
「疲れるようなことをしなければいいだけでは?」
フロイドの真面目なツッコミに、ロッドはぱちぱちと目を瞬いて不思議そうな顔になる。
「でもウィル様にやれと言われたので」
「なんでもかんでも言うこときく必要はありません!」
ぴしゃりと言い放つフロイドは腰に手を当ててお怒りモードである。それにまったくビビらないロッドは、余裕のある態度で「でもウィル様が」と食い下がる。主人である俺の言うことは無視できないと言いたいらしい。実にいい子分である。へらへら笑いながら『いいぞ、ロッド!』と褒めておいてやる。
フロイドに睨まれたが構うものか。
俺のやりたいことを邪魔するばかりのフロイドよりも、ロッドのほうがよほど楽しい。
『おい、ロッド! 毛をふわふわに戻せ!』
「それは無理です」
『許せん!』
俺の大事な毛をなんだと思っている。
ふて寝してやる。
※※※
『おい、ロッド。ロッド!』
「いませんよ」
『なんだと!?』
ふて寝していたらガッツリ寝てしまった。ハッと目覚めた俺はとりあえずロッドを呼ぶ。毛もだいぶ乾いた。今の俺はふわふわのはず。
けれどもロッドは不在であった。部屋にいたフロイドが「忘れ物をしたと言って王宮に」と説明してくる。なんだと。思えばロッドのやつ、慌てて引っ越し準備をしていた。あんな雑な引っ越しである。忘れ物のひとつやふたつあっても不思議ではない。
『なんで俺を誘わない!』
勝手に出かけるなんて許せないとペシペシ前足で床を叩く俺に、フロイドが「え?」と怪訝な顔をする。
「なぜウィル様を誘う必要があるんですか」
『……それもそうだな』
たしかに。なんで単なる騎士の引っ越しに俺が付き合わなければならないのか。まったく俺には関係ない話である。ふと我に返って静かにすれば、フロイドが俺を抱き上げてソファの上に置いた。
『クッション!』
「はいはい」
お気に入りのクッションを要求して、顎をのせておく。フロイドの目を盗んでクッションをガジガジ噛んでおく。
『いつ戻るんだ』
「え?」
『ロッドはいつ戻るんだ』
あぁ、と緩く頷いたフロイドは「今日中には戻ってくるはずですよ」と告げる。
『ロッドがいないとつまらん。おい、フロイド。なんか面白いことやれ』
「やりません」
つれないフロイドは「おとなしくしててくださいね」と言い置いて部屋を出て行く。パタンと閉められた扉を眺めて、欠伸をする。
『ひーまー』
ガシガシとクッションを噛んで、ついでにソファの隅も齧っておく。ロッドがうちに来たのはつい最近なのに。いないと途端に暇になってしまう。俺、こういう時なにしてたっけ?
とりあえず昼寝にも飽きたので床におりてうろうろしておく。クッキー缶をなんとか入手できないかと戸棚をガシガシするが一向に手が届かない。ちくしょう。あんな高いところに置きやがって。フロイドめ。
『クッキー、クッキー』
なんかこういい感じにクッキー缶が落ちてこないかと棚に向かって体当たりしてやるもびくともしない。俺のクッキーがぁ。
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