28 / 41
28 お願い
しおりを挟む
「なにしてるんですか!? また変なことして!」
『うるさいぞ』
俺の部屋に入ってくるなり大声を出すフロイドは相変わらず賑やかだ。こいつは普段から大声ばかり出してどういうつもりなのだろうか。もう少し静かに過ごせないのか。
くわぁと欠伸する俺は、緩く尻尾を振って抗議しておく。けれども俺の可愛さに見向きもしないフロイドは、「人の上にのらない!」と俺を持ち上げようとしてきた。なにすんだ、この野郎。邪魔をするんじゃない。俺がクッキー貰えなかったらどうしてくれる!
「なんでロッドの顔を踏んでるんですか! やめなさい!」
『俺が悪いみたいな言い方しやがる』
「どう見たってウィル様が悪いでしょうよ!」
頭の硬いフロイドは、目の前の光景だけを見て俺が悪いと決めつけている。そういう思い込みはよくないぞ。ペシペシと短い前足でロッドの頬を叩きながら『こいつに踏めと言われた』と真相を教えてやる。
俺は現在、部屋のど真ん中で仰向けに倒れるロッドの顔面に寝そべっていた。なんかロッドが踏んでほしいと言ってきたので。これは同意であって、俺が意地悪しているわけではない。そういうことを丁寧に説明するのだが、フロイドは疑いの目を向けてくる。到底俺を信じてなどいなかった。クソが。
「ロッドがそんなこと言うわけないでしょ! また意味のわからない言い訳して。人のせいにしない」
頭ごなしに俺を叱るフロイドであったが、ここでようやく倒れていたロッドが片手をあげた。
「あ、フロイドさん。違うんです。僕が踏んでくれってお願いしたんです」
そうそう。その通りだ。うんうん頷いてロッドの言葉を肯定しておく。これにフロイドが驚愕した。
「え!? 言ったんですか? なんで、気持ち悪い」
後半本音だだ漏れのフロイドは、露骨にロッドから距離を取る。わかりやすく引いている。後輩だろうが。そんな目で見てやるなよ、可哀想に。
『ほら。俺の言った通りだろう』
ドヤ顔でフロイドを見上げれば、さっと寄ってきた彼が俺を簡単に持ち上げてしまう。ジタバタ抵抗するが無意味。おのれ、フロイドめ。
「ウィル様に変なことさせないでくださいよ」
「はぁ」
俺をロッドから守るように再び距離をとったフロイドは、「ウィル様も。あんな馬鹿の言うこと聞かなくていいですから」とやんわり苦言を呈してきた。おまえの後輩だろうが。馬鹿とか言ってやるなよ。
ふんふん鼻息荒く前足を動かす。いつまでも俺を抱っこするんじゃない。おろせとアピールすれば、フロイドがようやく手を離してくれた。
『おい! クッキーはどこだ!』
お願いきいてやったんだから約束のものを渡してもらおうか。ゆっくりと体を起こすロッドは、「あぁ、はい。僕の部屋にありますけど」と立ち上がる。
『はやく持ってこい! 俺のクッキー』
「ちょっと待ってください」
クッキーってなんですか、と余計な首を突っ込んでくるフロイドを無視して、ロッドは走って部屋を出ていく。その慌ただしい背中を見送って、その場でくるくる回る。
『クッキー! クッキー!』
「暴れないでくださいよ」
俺を避けるように離れていくフロイドを追いかけてやる。楽しくなって足に体当たりすれば「ちょっと!」と怒ったような声が返ってきた。
それをへらへら笑って誤魔化して、再び『クッキー』と繰り返しておく。
「なんですか。クッキーって」
不思議そうな顔をするフロイドに、ロッドがお土産に美味しいクッキーを買ってきてくれたらしいと教えてやる。
「へぇ、それで帰りが遅かったんですか」
『あいつはおまえと違って気が利くな』
「悪かったですね。気が利かなくて」
そっぽを向くフロイドは、心が狭い。
フロイドはいつも文句ばかりで、俺の邪魔をしてくる。その点ロッドは非常にいい子分だ。最初は俺の正体を知ったという理由で渋々そばに置くことにしたが、意外と使える。
「お待たせしました」
『クッキー!』
戻ってきたロッドの手には紙袋。なんか美味しそうな匂いがする。はよ寄越せとロッドの足に飛びついて催促しておく。それを見ていたフロイドが「少しは落ち着いたらどうなんですか?」と苦笑をもらした。
早速テーブルの上でクッキーを取り出すロッド。俺もテーブルの上がみたい。椅子のあしを前足でカシャカシャしていれば、ロッドが抱えて椅子にのせてくれた。
「どうぞ、ウィル様」
さくさくクッキーだ。なんかジャムものっている。ひと口かじって『美味い』とにんまり笑えば、ロッドがくすりと微笑んだ。
「ウィル様なら絶対に好きだと思いました」
『……』
ぱちぱち目を瞬いて、ロッドの顔を凝視する。じっとこちらを凝視するロッドは、なんだか楽しそうな顔をしている。俺がクッキー食べる様子を見ているだけで何が楽しいんだ。
『……おまえも食べるか?』
そっと残りのクッキーを示せば「いいんですか!?」ときらきら目を輝かせる。いや、いいもなにも。買ってきたのはおまえだろ。
『遠慮せずに食べていいぞ』
尻尾を振ってどうぞどうぞと促せば、ロッドが早速クッキーに手を伸ばした。
『うるさいぞ』
俺の部屋に入ってくるなり大声を出すフロイドは相変わらず賑やかだ。こいつは普段から大声ばかり出してどういうつもりなのだろうか。もう少し静かに過ごせないのか。
くわぁと欠伸する俺は、緩く尻尾を振って抗議しておく。けれども俺の可愛さに見向きもしないフロイドは、「人の上にのらない!」と俺を持ち上げようとしてきた。なにすんだ、この野郎。邪魔をするんじゃない。俺がクッキー貰えなかったらどうしてくれる!
「なんでロッドの顔を踏んでるんですか! やめなさい!」
『俺が悪いみたいな言い方しやがる』
「どう見たってウィル様が悪いでしょうよ!」
頭の硬いフロイドは、目の前の光景だけを見て俺が悪いと決めつけている。そういう思い込みはよくないぞ。ペシペシと短い前足でロッドの頬を叩きながら『こいつに踏めと言われた』と真相を教えてやる。
俺は現在、部屋のど真ん中で仰向けに倒れるロッドの顔面に寝そべっていた。なんかロッドが踏んでほしいと言ってきたので。これは同意であって、俺が意地悪しているわけではない。そういうことを丁寧に説明するのだが、フロイドは疑いの目を向けてくる。到底俺を信じてなどいなかった。クソが。
「ロッドがそんなこと言うわけないでしょ! また意味のわからない言い訳して。人のせいにしない」
頭ごなしに俺を叱るフロイドであったが、ここでようやく倒れていたロッドが片手をあげた。
「あ、フロイドさん。違うんです。僕が踏んでくれってお願いしたんです」
そうそう。その通りだ。うんうん頷いてロッドの言葉を肯定しておく。これにフロイドが驚愕した。
「え!? 言ったんですか? なんで、気持ち悪い」
後半本音だだ漏れのフロイドは、露骨にロッドから距離を取る。わかりやすく引いている。後輩だろうが。そんな目で見てやるなよ、可哀想に。
『ほら。俺の言った通りだろう』
ドヤ顔でフロイドを見上げれば、さっと寄ってきた彼が俺を簡単に持ち上げてしまう。ジタバタ抵抗するが無意味。おのれ、フロイドめ。
「ウィル様に変なことさせないでくださいよ」
「はぁ」
俺をロッドから守るように再び距離をとったフロイドは、「ウィル様も。あんな馬鹿の言うこと聞かなくていいですから」とやんわり苦言を呈してきた。おまえの後輩だろうが。馬鹿とか言ってやるなよ。
ふんふん鼻息荒く前足を動かす。いつまでも俺を抱っこするんじゃない。おろせとアピールすれば、フロイドがようやく手を離してくれた。
『おい! クッキーはどこだ!』
お願いきいてやったんだから約束のものを渡してもらおうか。ゆっくりと体を起こすロッドは、「あぁ、はい。僕の部屋にありますけど」と立ち上がる。
『はやく持ってこい! 俺のクッキー』
「ちょっと待ってください」
クッキーってなんですか、と余計な首を突っ込んでくるフロイドを無視して、ロッドは走って部屋を出ていく。その慌ただしい背中を見送って、その場でくるくる回る。
『クッキー! クッキー!』
「暴れないでくださいよ」
俺を避けるように離れていくフロイドを追いかけてやる。楽しくなって足に体当たりすれば「ちょっと!」と怒ったような声が返ってきた。
それをへらへら笑って誤魔化して、再び『クッキー』と繰り返しておく。
「なんですか。クッキーって」
不思議そうな顔をするフロイドに、ロッドがお土産に美味しいクッキーを買ってきてくれたらしいと教えてやる。
「へぇ、それで帰りが遅かったんですか」
『あいつはおまえと違って気が利くな』
「悪かったですね。気が利かなくて」
そっぽを向くフロイドは、心が狭い。
フロイドはいつも文句ばかりで、俺の邪魔をしてくる。その点ロッドは非常にいい子分だ。最初は俺の正体を知ったという理由で渋々そばに置くことにしたが、意外と使える。
「お待たせしました」
『クッキー!』
戻ってきたロッドの手には紙袋。なんか美味しそうな匂いがする。はよ寄越せとロッドの足に飛びついて催促しておく。それを見ていたフロイドが「少しは落ち着いたらどうなんですか?」と苦笑をもらした。
早速テーブルの上でクッキーを取り出すロッド。俺もテーブルの上がみたい。椅子のあしを前足でカシャカシャしていれば、ロッドが抱えて椅子にのせてくれた。
「どうぞ、ウィル様」
さくさくクッキーだ。なんかジャムものっている。ひと口かじって『美味い』とにんまり笑えば、ロッドがくすりと微笑んだ。
「ウィル様なら絶対に好きだと思いました」
『……』
ぱちぱち目を瞬いて、ロッドの顔を凝視する。じっとこちらを凝視するロッドは、なんだか楽しそうな顔をしている。俺がクッキー食べる様子を見ているだけで何が楽しいんだ。
『……おまえも食べるか?』
そっと残りのクッキーを示せば「いいんですか!?」ときらきら目を輝かせる。いや、いいもなにも。買ってきたのはおまえだろ。
『遠慮せずに食べていいぞ』
尻尾を振ってどうぞどうぞと促せば、ロッドが早速クッキーに手を伸ばした。
284
あなたにおすすめの小説
どうも、卵から生まれた魔人です。
べす
BL
卵から生まれる瞬間、人間に召喚されてしまった魔人のレヴィウス。
太った小鳥にしか見えないせいで用無しと始末されそうになった所を、優しげな神官に救われるのだが…
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
見習い薬師は臆病者を抱いて眠る
XCX
BL
見習い薬師であるティオは、同期である兵士のソルダートに叶わぬ恋心を抱いていた。だが、生きて戻れる保証のない、未知未踏の深淵の森への探索隊の一員に選ばれたティオは、玉砕を知りつつも想いを告げる。
傷心のまま探索に出発した彼は、森の中で一人はぐれてしまう。身を守る術を持たないティオは——。
人嫌いな子持ち狐獣人×見習い薬師。
大好きな獅子様の番になりたい
あまさき
BL
獣人騎士×魔術学院生
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
カナリエ=リュードリアには夢があった。
それは〝王家の獅子〟レオス=シェルリオンの番になること。しかし臆病なカナリエは、自身がレオスの番でないことを知るのが怖くて距離を置いてきた。
そして特別な血を持つリュードリア家の人間であるカナリエは、レオスに番が見つからなかった場合彼の婚約者になることが決まっている。
望まれない婚姻への苦しみ、捨てきれない運命への期待。
「____僕は、貴方の番になれますか?」
臆病な魔術師と番を手に入れたい騎士の、すれ違いラブコメディ
※第1章完結しました
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
長編です。お付き合いくださると嬉しいです。
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる