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36 クビ
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「ウィル様。今日はなにをしますか? せっかく人間に戻ったんですから。部屋に閉じこもってたらもったいないですよ」
「うるせぇ」
俺のことが好きだと意味のわからない宣言をしたロッドは、あれから俺の周りをうろうろしている。非常に目障りだ。
朝食も済んで本当にやる事がなくなった俺は、椅子に座ったままティーカップを傾けていた。立ち上がる様子のない俺に、ロッドがしきりにどこかへ行こうと声をかけてくる。
てか人間に戻ったからって、なんで外に出なければならないのだ。俺はこの先ずっと人間なんだぞ。一日くらい閉じこもっていたって構わないだろう。
「おい、ロッド」
とりあえず口うるさいこいつを黙らせなければ。俺の記憶では無気力な男だったはずだが、今日はよく喋る。俺に告白紛いの事をしてテンションがおかしくなっているのかもしれない。ちょっと落ち着くべきだと思う。
素直に寄ってきたロッドは、のんびりした表情で「なんですか」と小首を傾げる。
騎士服に身を包んだ彼を上から下までまじまじと観察して、追い出すようにひらひらと手を振った。
「おまえはもういいや。王宮に戻れ」
「王宮に? なぜですか」
とぼけた顔のロッドに、思わず舌打ちがこぼれる。いちいち言わなきゃわかんねぇのかよ。
「クビだって言ってんだよ。さっさと王立騎士団に戻れ」
「嫌です」
「いや、おまえの意見とか聞いてないから」
そもそもロッドがうちに来たのは、俺が聖女の魔法で犬になったと知ってしまったからである。だが俺はもう人間に戻った。戻った以上、別にロッドを手元において口止めしておく必要はない。
たとえロッドが犬の件を言いふらしたとしても、俺が人間姿である以上、誰も本気にはしないだろう。おまけにロッドはぼんやりしているので、余計に誰も本気にはしないはず。
だからおまえは必要ないと告げるが、ロッドは「嫌です」と繰り返す。いや、だから。おまえの意見なんて知らねぇよ。そもそも所属は王立騎士団だろうが。さっさと己の勤務地に戻れや。
苛立った俺は、荒々しい動作でカップを置く。ちょっとこぼれた紅茶に、ロッドが眉を寄せた。しかし特になにもすることなく、俺の手元を凝視している。
「ウィル様。そんなことしたら割れちゃいますよ」
「割れてない。てか早く出ていけ」
「無理です。僕はウィル様の護衛ってことになっているので」
「だからクビだって言ってんだろが!」
思わず大声を出すが、ロッドは動じない。それどころか仕方がないなぁみたいな顔で俺を見つめてくる。クソ腹立つな。なにその顔。おかしいのはロッドだからな? なんで主人である俺の言うことに従わないんだよ。あふれそうになる不満を必死に押し込めていれば、扉が開いた。
「なんですか、大声出して」
ふらっと部屋に戻ってきたフロイドが、怪訝な顔で俺とロッドを見比べる。喧嘩でもしたんですかと不愉快な質問をしてくるフロイドのことは無視しておく。これは断じて喧嘩ではない。ロッドが一方的に我儘言っているだけだ。
「あ! ちょっと」
目を見開いたフロイドは、テーブルにこぼれた紅茶を見て駆け寄ってくる。
「なんで拭かないんですか!?」
ロッドを振り返って強めに抗議するフロイド。ぼんやりした顔で「すみません」と謝罪するロッドは、到底真面目に聞いているようには見えない。
手際よく片付けしていくフロイドは、大袈裟にため息を吐いている。なんだか気分が悪いので、散歩にでも出よう。少し庭を歩こうと立ち上がれば、ロッドが当然のような顔でついてこようとする。
「おい。おまえはついてくるな」
「……」
「黙るな」
都合が悪くなると途端に口を閉ざすロッド。睨みつければ、困ったように眉尻を下げてしまう。
冷えた空気に、フロイドが不思議そうに首を傾げている。
「本当に喧嘩したんですか?」
ぱちぱちと目を瞬くフロイドの言葉に、「してない!」と反射的に返してしまう。ちょっと強めに言葉が出てしまった。なにをムキになっているんだ、俺。しんと静まり返る室内に、思わず後退る。
びっくりしたように固まるフロイド。居た堪れなさを感じて、部屋を飛び出す。ロッドが「ウィル様」と言いながら追いかけてくるけど、律儀に待ってやるつもりはない。
そうして庭に飛び出して、そのままの勢いで屋敷を出る。門衛たちが困惑したような声をあげたが構うものか。どこか遠くへ逃げようと、漠然と考える。とりあえずは、なぜか俺を追ってくるロッドのことを撒かなければならない。
「うるせぇ」
俺のことが好きだと意味のわからない宣言をしたロッドは、あれから俺の周りをうろうろしている。非常に目障りだ。
朝食も済んで本当にやる事がなくなった俺は、椅子に座ったままティーカップを傾けていた。立ち上がる様子のない俺に、ロッドがしきりにどこかへ行こうと声をかけてくる。
てか人間に戻ったからって、なんで外に出なければならないのだ。俺はこの先ずっと人間なんだぞ。一日くらい閉じこもっていたって構わないだろう。
「おい、ロッド」
とりあえず口うるさいこいつを黙らせなければ。俺の記憶では無気力な男だったはずだが、今日はよく喋る。俺に告白紛いの事をしてテンションがおかしくなっているのかもしれない。ちょっと落ち着くべきだと思う。
素直に寄ってきたロッドは、のんびりした表情で「なんですか」と小首を傾げる。
騎士服に身を包んだ彼を上から下までまじまじと観察して、追い出すようにひらひらと手を振った。
「おまえはもういいや。王宮に戻れ」
「王宮に? なぜですか」
とぼけた顔のロッドに、思わず舌打ちがこぼれる。いちいち言わなきゃわかんねぇのかよ。
「クビだって言ってんだよ。さっさと王立騎士団に戻れ」
「嫌です」
「いや、おまえの意見とか聞いてないから」
そもそもロッドがうちに来たのは、俺が聖女の魔法で犬になったと知ってしまったからである。だが俺はもう人間に戻った。戻った以上、別にロッドを手元において口止めしておく必要はない。
たとえロッドが犬の件を言いふらしたとしても、俺が人間姿である以上、誰も本気にはしないだろう。おまけにロッドはぼんやりしているので、余計に誰も本気にはしないはず。
だからおまえは必要ないと告げるが、ロッドは「嫌です」と繰り返す。いや、だから。おまえの意見なんて知らねぇよ。そもそも所属は王立騎士団だろうが。さっさと己の勤務地に戻れや。
苛立った俺は、荒々しい動作でカップを置く。ちょっとこぼれた紅茶に、ロッドが眉を寄せた。しかし特になにもすることなく、俺の手元を凝視している。
「ウィル様。そんなことしたら割れちゃいますよ」
「割れてない。てか早く出ていけ」
「無理です。僕はウィル様の護衛ってことになっているので」
「だからクビだって言ってんだろが!」
思わず大声を出すが、ロッドは動じない。それどころか仕方がないなぁみたいな顔で俺を見つめてくる。クソ腹立つな。なにその顔。おかしいのはロッドだからな? なんで主人である俺の言うことに従わないんだよ。あふれそうになる不満を必死に押し込めていれば、扉が開いた。
「なんですか、大声出して」
ふらっと部屋に戻ってきたフロイドが、怪訝な顔で俺とロッドを見比べる。喧嘩でもしたんですかと不愉快な質問をしてくるフロイドのことは無視しておく。これは断じて喧嘩ではない。ロッドが一方的に我儘言っているだけだ。
「あ! ちょっと」
目を見開いたフロイドは、テーブルにこぼれた紅茶を見て駆け寄ってくる。
「なんで拭かないんですか!?」
ロッドを振り返って強めに抗議するフロイド。ぼんやりした顔で「すみません」と謝罪するロッドは、到底真面目に聞いているようには見えない。
手際よく片付けしていくフロイドは、大袈裟にため息を吐いている。なんだか気分が悪いので、散歩にでも出よう。少し庭を歩こうと立ち上がれば、ロッドが当然のような顔でついてこようとする。
「おい。おまえはついてくるな」
「……」
「黙るな」
都合が悪くなると途端に口を閉ざすロッド。睨みつければ、困ったように眉尻を下げてしまう。
冷えた空気に、フロイドが不思議そうに首を傾げている。
「本当に喧嘩したんですか?」
ぱちぱちと目を瞬くフロイドの言葉に、「してない!」と反射的に返してしまう。ちょっと強めに言葉が出てしまった。なにをムキになっているんだ、俺。しんと静まり返る室内に、思わず後退る。
びっくりしたように固まるフロイド。居た堪れなさを感じて、部屋を飛び出す。ロッドが「ウィル様」と言いながら追いかけてくるけど、律儀に待ってやるつもりはない。
そうして庭に飛び出して、そのままの勢いで屋敷を出る。門衛たちが困惑したような声をあげたが構うものか。どこか遠くへ逃げようと、漠然と考える。とりあえずは、なぜか俺を追ってくるロッドのことを撒かなければならない。
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