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35 好きとは
ベッドに片手をついた状態で俺と目を合わせるロッド。いつもぼんやりしているが、黙っていればそこそこ仕事ができそうな青年に見えないこともない。そもそも王立騎士団に入団できるくらいだから腕は確かなのだろう。こんなにぼんやりしているのに。
「ウィル様?」
黙り込んだ俺を不思議そうに見つめてくるロッドは、なんだか真剣な面持ちだ。
「聞こえてました? もう一度言いましょうか?」
緩く首を傾げるロッドは「つまりですね。両想いなんですから隠す必要なんてないですよ」と衝撃発言をしてくる。
ちょっと色々と待ってほしい。
「え、おまえって俺のこと好きなの?」
とりあえず一番気になったことを質問すれば、間髪入れずに「はい」という頼もしい頷きが返ってきた。それ本気で言ってんのか?
ロッドが今まで俺のことが好きという素振りを見せたことがあっただろうか。いやまぁね。なんだか触らせてほしいとか顔を踏んでほしいとか。意味不明なお願いをされたことは多々ある。けれどもそれは俺が犬姿だったゆえだ。ロッドは犬好きらしい。でも幼い頃からペットを飼えない生活を送ってきたので、犬姿の俺の世話を任されて妙に張り切っていた。
つまりロッドが犬姿の俺を好きというのは理解できる。ペットを飼うのが夢だったとも言っていた。俺はロッドのペットになった覚えはないけれども。
それがどうして人間姿の俺に対して「好き」という言葉を投げかけることになるのだ。もしや俺がもう一度犬になることを期待している? 悪いけど俺が今後犬姿になることはおそらくない。
「おまえが好きなのは犬だった俺だろ」
「そんなことありません。普通にウィル様のこと好きですよ」
「普通ってなんだよ。俺に対する愛ってその程度なのか?」
売り言葉に買い言葉。
俺が発した言葉に意味なんてない。なんかムカついて反射的に返しただけである。
けれどもロッドは真面目に受け取ったらしい。キリッとした表情を作ったロッドは「僕は真剣です」とどうでもいい申告をしてきた。
「ウィル様のことが好きです。ものすごく」
「……なんで?」
そう。気になるのは理由である。
自分で言うのもなんだが、これまでロッドをかなり雑に扱ってきた自覚があった。体当たりしたり噛みついたり。今から思い返しても好意を抱かれるような言動をした覚えはない。
「僕、犬が好きなので」
「俺は犬じゃないって言ってるだろうが!」
「つい先程まで犬でしたよ」
「もう違うだろ。俺が犬になることは二度とない」
きっぱり宣言すれば、ロッドが「はぁ。でしょうね」と非常に腹の立つ反応をしてきた。てかいまだにロッドの手は俺の頬に添えられている。
ガシッとその腕を掴んで、顔から引き剥がしておく。
「気安く触るな」
「触ってもいいですか?」
「ダメに決まっている。なんで騎士ごときが俺に馴れ馴れしい口をきくんだ。俺から離れろ」
キッと睨みつけるが、ロッドは目を瞬くだけで反省しない。この野郎。
「おまえは礼儀というものを知らないのか?」
「そこそこ知っています」
そこそこってなんだ。喧嘩売ってんのか?
ひくりと頬を引きつらせることを知ってか知らずか。ロッドは「入団した時にそれなりに教えてもらいました」と呑気に微笑む。おまえが教わった礼儀とやらは実行に移さなければ意味がないんだぞ。
ロッドの手を払ってベッドをおりる。「朝食を用意しますね」と何事もなかったかのように袖口を整えるロッドの背中を思い切り叩いてやった。
「痛いんですけど」
「うるさい! さっさと仕事しろ!」
何か言いたそうなロッドを部屋から追い出して、深く息を吐く。結局ロッドが俺を好きな理由は不明なままである。俺のことを本気でペットかなにかと勘違いしていそうではあった。一度殴りたい。
しばらく無意味に寝室をうろうろしていれば、外から「ウィル様? 食べないんですか?」とのロッドのおっとりした声が聞こえてきた。寝室を出れば、ロッドが用意された朝食を示してにこりと微笑む。
基本的に表情の動かない彼にしては、今日は笑顔が多い。
黙々と朝食を済ませる俺に、ロッドの遠慮ない視線が突き刺さる。気になって仕方がない。咳払いでロッドに注意するが、クソボケ野郎はなにも察しない。マジで殴りてぇ。
「じろじろ見るな。不愉快だ」
低い声を出せば、ロッドが小首を傾げてみせた。
「ウィル様の髪。ちょっと僕が結んでみてもいいですか? それなりに上手くできると思いますよ」
「会話をしろよ。まったく噛み合ってないぞ」
というか髪くらい自分で結べる。しかし興味津々らしいロッドは、俺の長い髪に熱い視線を送ってくる。余計に視線が気になって仕方がない。
「……あとでな」
根負けして渋々了承すれば、ロッドがぱっと表情を明るくした。俺の髪を触ったって何も楽しくないだろうに。いつになく締まりのない顔をするロッドからそっと視線を逸らして、ため息がこぼれる。
どちらかと言えばロッドの方が犬っぽい。
主人である俺の命令に従わない出来の悪い犬だけどな。
「ウィル様?」
黙り込んだ俺を不思議そうに見つめてくるロッドは、なんだか真剣な面持ちだ。
「聞こえてました? もう一度言いましょうか?」
緩く首を傾げるロッドは「つまりですね。両想いなんですから隠す必要なんてないですよ」と衝撃発言をしてくる。
ちょっと色々と待ってほしい。
「え、おまえって俺のこと好きなの?」
とりあえず一番気になったことを質問すれば、間髪入れずに「はい」という頼もしい頷きが返ってきた。それ本気で言ってんのか?
ロッドが今まで俺のことが好きという素振りを見せたことがあっただろうか。いやまぁね。なんだか触らせてほしいとか顔を踏んでほしいとか。意味不明なお願いをされたことは多々ある。けれどもそれは俺が犬姿だったゆえだ。ロッドは犬好きらしい。でも幼い頃からペットを飼えない生活を送ってきたので、犬姿の俺の世話を任されて妙に張り切っていた。
つまりロッドが犬姿の俺を好きというのは理解できる。ペットを飼うのが夢だったとも言っていた。俺はロッドのペットになった覚えはないけれども。
それがどうして人間姿の俺に対して「好き」という言葉を投げかけることになるのだ。もしや俺がもう一度犬になることを期待している? 悪いけど俺が今後犬姿になることはおそらくない。
「おまえが好きなのは犬だった俺だろ」
「そんなことありません。普通にウィル様のこと好きですよ」
「普通ってなんだよ。俺に対する愛ってその程度なのか?」
売り言葉に買い言葉。
俺が発した言葉に意味なんてない。なんかムカついて反射的に返しただけである。
けれどもロッドは真面目に受け取ったらしい。キリッとした表情を作ったロッドは「僕は真剣です」とどうでもいい申告をしてきた。
「ウィル様のことが好きです。ものすごく」
「……なんで?」
そう。気になるのは理由である。
自分で言うのもなんだが、これまでロッドをかなり雑に扱ってきた自覚があった。体当たりしたり噛みついたり。今から思い返しても好意を抱かれるような言動をした覚えはない。
「僕、犬が好きなので」
「俺は犬じゃないって言ってるだろうが!」
「つい先程まで犬でしたよ」
「もう違うだろ。俺が犬になることは二度とない」
きっぱり宣言すれば、ロッドが「はぁ。でしょうね」と非常に腹の立つ反応をしてきた。てかいまだにロッドの手は俺の頬に添えられている。
ガシッとその腕を掴んで、顔から引き剥がしておく。
「気安く触るな」
「触ってもいいですか?」
「ダメに決まっている。なんで騎士ごときが俺に馴れ馴れしい口をきくんだ。俺から離れろ」
キッと睨みつけるが、ロッドは目を瞬くだけで反省しない。この野郎。
「おまえは礼儀というものを知らないのか?」
「そこそこ知っています」
そこそこってなんだ。喧嘩売ってんのか?
ひくりと頬を引きつらせることを知ってか知らずか。ロッドは「入団した時にそれなりに教えてもらいました」と呑気に微笑む。おまえが教わった礼儀とやらは実行に移さなければ意味がないんだぞ。
ロッドの手を払ってベッドをおりる。「朝食を用意しますね」と何事もなかったかのように袖口を整えるロッドの背中を思い切り叩いてやった。
「痛いんですけど」
「うるさい! さっさと仕事しろ!」
何か言いたそうなロッドを部屋から追い出して、深く息を吐く。結局ロッドが俺を好きな理由は不明なままである。俺のことを本気でペットかなにかと勘違いしていそうではあった。一度殴りたい。
しばらく無意味に寝室をうろうろしていれば、外から「ウィル様? 食べないんですか?」とのロッドのおっとりした声が聞こえてきた。寝室を出れば、ロッドが用意された朝食を示してにこりと微笑む。
基本的に表情の動かない彼にしては、今日は笑顔が多い。
黙々と朝食を済ませる俺に、ロッドの遠慮ない視線が突き刺さる。気になって仕方がない。咳払いでロッドに注意するが、クソボケ野郎はなにも察しない。マジで殴りてぇ。
「じろじろ見るな。不愉快だ」
低い声を出せば、ロッドが小首を傾げてみせた。
「ウィル様の髪。ちょっと僕が結んでみてもいいですか? それなりに上手くできると思いますよ」
「会話をしろよ。まったく噛み合ってないぞ」
というか髪くらい自分で結べる。しかし興味津々らしいロッドは、俺の長い髪に熱い視線を送ってくる。余計に視線が気になって仕方がない。
「……あとでな」
根負けして渋々了承すれば、ロッドがぱっと表情を明るくした。俺の髪を触ったって何も楽しくないだろうに。いつになく締まりのない顔をするロッドからそっと視線を逸らして、ため息がこぼれる。
どちらかと言えばロッドの方が犬っぽい。
主人である俺の命令に従わない出来の悪い犬だけどな。
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