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「まぁ、大変だったのね。でもあなたとても強いのね。わたくしなら耐えられそうにないわ」
「いえ、わたしは周りにすごく助けられているんです。わたし一人なら今ごろもっと大変な目にあっていると思います。たくさんの人に支えられて今ここにいます」
雰囲気というかお人柄というか思わず本音でペラペラ喋ってしまう。とても親しみやすい方だった。
「そうなのね。ところでノアとは婚約したのよね?好きなの?」
ーー思わず言葉に詰まってしまった。今まで考えたこともなかったもの。でも、わたしは彼のことどう思っているんだろう……
「あらあら。これはノアも苦戦するわね。じゃあ、質問を変えるわ」
王妃様の言葉に首を傾げていると、目を閉じるよう言われた。
「あなたの目の前で、ノアが綺麗な女性と寄り添って歩いているところを想像してみて。さて、どう思う?」
「……嫌だなって思います。お仕事かもしれないけれど、なんだか嫌だなって」
その返答に王妃様はくすくす笑っている。
「正直ね。わたくしあなた好きだわ。ぜひセリーヌと呼んでもいいかしら?」
「あ、ありがとうございます。ぜひ呼んでください」
「それとね、もう少しノアのことを考えてみてほしいの。ノアに対するあなたの気持ちに、向き合ってほしいのよ」
その言葉に頷くと、用事が入ったらしくお開きとなった。
屋敷に帰り自室へ向かう。ソファに腰掛けると深いため息をついた。
彼のことをどう思ってるか、なんて今まで考えたことなかったな。恋愛感情でってことだよね……
経験がないからわからない。
「ねぇソフィア。ソフィアは好きな人いるの?」
せっせと衣装整理しているソフィアは振り返って手を止める。
「好きな人ですか?いますよ。急にどうしたんです?」
「いや、あの……人を好きになるとどうなるのかなーって」
「まぁ!私でよければお話しいたしますよ。まずはセリーヌ様の好きな人を思い浮かべてくださいな」
好きな人。伯爵家の使用人やクレバー、この屋敷の使用人に王妃様、それにノア様。
「もしもその人が別の人と結婚したらどう思うか一人一人考えてみたらよろしいのです。好きな人なら、悲しかったり苦しかったり他の方とは違う感情が湧き上がるはずですよ。親愛と恋は違いますから」
なるほど。
彼が他の人と結婚したら。わたしはこの屋敷から出されてしまうだろう。優しい彼のことだからきっとその先の生活も保障してくれる。
けれど、それでも。
この胸の痛みがわたしの気持ちを教えてくれていた。
今日は孤児院へ行く日だ。たくさんの食べ物を積んで馬車は目的地まで走っていく。
すっかり顔見知りになった子供たちはわたしとノア様、クレバーの姿を確認すると元気に駆け寄ってくる。そんな中、一人の女の子が転んでしまって、慌てて駆け寄る。
「大丈夫?」
女の子は痛いのか泣きじゃくっている。いつまでたっても泣き止まない。とりあえず水場に連れて行き、傷口を洗い流す。ハンカチを当てて拭き取ろうとした時、手が淡く光った。
「あれ、痛くない!」
女の子はぴょんぴょん飛び跳ねる。念のため傷を見せてもらうも傷なんてなくてすっかり治っている様子だ。
もしかしたら異世界転生でお馴染みの聖女の力みたいなものがあるのかしら。
考え込むわたしの頭を撫でた彼は嬉しそうに目を細める。
「やっぱり俺を治してくれたのは君だったか。本当に不思議な力を持っているな」
ひたすら頭を撫でられて思わず俯いてしまう。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかるのだ。それを知られるのは恥ずかしい。
そんなわたしを見て彼はくすくす笑っていた。
彼は外で鬼ごっこを、わたしは室内で絵本を読み聞かせている。そんな時、先ほど怪我をした女の子が身を乗り出し、キラキラした目を向けてきた。
「お姉さんとお兄さんは恋人同士なの?」
思わずドキッとしてしまう。女の子というのはマセているというか精神の発達が早いというか。何気ない言葉に顔を真っ赤にしてしまう。
「恋人同士ではないのよ。わたしがお世話になっているだけ」
「そうなの?でもお姉さんはお兄さんのことが好きなんでしょう?告白はしないの?」
大きく心にダメージを受ける。
そう、一応契約上婚約しているけど好き合っているわけではない。いや、わたしは好きなんだけども。相手がどう思っているかはわからない。
優しくて誠実な人なんだろうと思うけれど、きっとそれだけだ。さっきまでの気持ちが一気に冷め、俯く。
「どうしたの?」
「あ、なんでもないの」
「お姉さん、自分の気持ちは言葉にしないと相手に伝わらないのよって先生が言ってたよ。言ってみたらどうかな」
自分よりも小さな女の子の言葉が胸に刺さる。思わず目から涙がこぼれ落ちてしまった。
小さな女の子は涙が止まるまでわたしの頭を撫でてくれた。
そうか、そうだよね。人の気持ちなんて言葉にしないとわからないものだといたいことはこの世の常で。
それに、彼に好きな人がいたら、身をひかないといけない。
好きな人には幸せになってもらいたい。自分がその足枷になってしまうのなら、喜んで消えよう。
「いえ、わたしは周りにすごく助けられているんです。わたし一人なら今ごろもっと大変な目にあっていると思います。たくさんの人に支えられて今ここにいます」
雰囲気というかお人柄というか思わず本音でペラペラ喋ってしまう。とても親しみやすい方だった。
「そうなのね。ところでノアとは婚約したのよね?好きなの?」
ーー思わず言葉に詰まってしまった。今まで考えたこともなかったもの。でも、わたしは彼のことどう思っているんだろう……
「あらあら。これはノアも苦戦するわね。じゃあ、質問を変えるわ」
王妃様の言葉に首を傾げていると、目を閉じるよう言われた。
「あなたの目の前で、ノアが綺麗な女性と寄り添って歩いているところを想像してみて。さて、どう思う?」
「……嫌だなって思います。お仕事かもしれないけれど、なんだか嫌だなって」
その返答に王妃様はくすくす笑っている。
「正直ね。わたくしあなた好きだわ。ぜひセリーヌと呼んでもいいかしら?」
「あ、ありがとうございます。ぜひ呼んでください」
「それとね、もう少しノアのことを考えてみてほしいの。ノアに対するあなたの気持ちに、向き合ってほしいのよ」
その言葉に頷くと、用事が入ったらしくお開きとなった。
屋敷に帰り自室へ向かう。ソファに腰掛けると深いため息をついた。
彼のことをどう思ってるか、なんて今まで考えたことなかったな。恋愛感情でってことだよね……
経験がないからわからない。
「ねぇソフィア。ソフィアは好きな人いるの?」
せっせと衣装整理しているソフィアは振り返って手を止める。
「好きな人ですか?いますよ。急にどうしたんです?」
「いや、あの……人を好きになるとどうなるのかなーって」
「まぁ!私でよければお話しいたしますよ。まずはセリーヌ様の好きな人を思い浮かべてくださいな」
好きな人。伯爵家の使用人やクレバー、この屋敷の使用人に王妃様、それにノア様。
「もしもその人が別の人と結婚したらどう思うか一人一人考えてみたらよろしいのです。好きな人なら、悲しかったり苦しかったり他の方とは違う感情が湧き上がるはずですよ。親愛と恋は違いますから」
なるほど。
彼が他の人と結婚したら。わたしはこの屋敷から出されてしまうだろう。優しい彼のことだからきっとその先の生活も保障してくれる。
けれど、それでも。
この胸の痛みがわたしの気持ちを教えてくれていた。
今日は孤児院へ行く日だ。たくさんの食べ物を積んで馬車は目的地まで走っていく。
すっかり顔見知りになった子供たちはわたしとノア様、クレバーの姿を確認すると元気に駆け寄ってくる。そんな中、一人の女の子が転んでしまって、慌てて駆け寄る。
「大丈夫?」
女の子は痛いのか泣きじゃくっている。いつまでたっても泣き止まない。とりあえず水場に連れて行き、傷口を洗い流す。ハンカチを当てて拭き取ろうとした時、手が淡く光った。
「あれ、痛くない!」
女の子はぴょんぴょん飛び跳ねる。念のため傷を見せてもらうも傷なんてなくてすっかり治っている様子だ。
もしかしたら異世界転生でお馴染みの聖女の力みたいなものがあるのかしら。
考え込むわたしの頭を撫でた彼は嬉しそうに目を細める。
「やっぱり俺を治してくれたのは君だったか。本当に不思議な力を持っているな」
ひたすら頭を撫でられて思わず俯いてしまう。顔が真っ赤になっているのが自分でもわかるのだ。それを知られるのは恥ずかしい。
そんなわたしを見て彼はくすくす笑っていた。
彼は外で鬼ごっこを、わたしは室内で絵本を読み聞かせている。そんな時、先ほど怪我をした女の子が身を乗り出し、キラキラした目を向けてきた。
「お姉さんとお兄さんは恋人同士なの?」
思わずドキッとしてしまう。女の子というのはマセているというか精神の発達が早いというか。何気ない言葉に顔を真っ赤にしてしまう。
「恋人同士ではないのよ。わたしがお世話になっているだけ」
「そうなの?でもお姉さんはお兄さんのことが好きなんでしょう?告白はしないの?」
大きく心にダメージを受ける。
そう、一応契約上婚約しているけど好き合っているわけではない。いや、わたしは好きなんだけども。相手がどう思っているかはわからない。
優しくて誠実な人なんだろうと思うけれど、きっとそれだけだ。さっきまでの気持ちが一気に冷め、俯く。
「どうしたの?」
「あ、なんでもないの」
「お姉さん、自分の気持ちは言葉にしないと相手に伝わらないのよって先生が言ってたよ。言ってみたらどうかな」
自分よりも小さな女の子の言葉が胸に刺さる。思わず目から涙がこぼれ落ちてしまった。
小さな女の子は涙が止まるまでわたしの頭を撫でてくれた。
そうか、そうだよね。人の気持ちなんて言葉にしないとわからないものだといたいことはこの世の常で。
それに、彼に好きな人がいたら、身をひかないといけない。
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