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夢を見るし、紅茶も飲む
しおりを挟むエマの夢は、ルソーネ領の田舎町での出来事、あの日をきっかけに明確に決まっていた。
『魔力がなくても使える魔法』を作ることがエマの夢である。
厳密にいうと、『魔力がなくても使える魔道具』作りなのだが、エマとしては『道具』というより『魔法』そのものを保存する術を見つけ出したいのだ。
魔力と等価交換で生み出される魔法の発動時間は瞬間的なもので、永続させる場合はまた相応の魔力が必要となる。
魔法には魔力が必要不可欠。そのため持たざる者は扱えないもの、とされているのだが──エマは相応の器と素材があれば変わるのではないかと考えていた。
魔石や魔草などのように生物以外にも魔力を持つ存在はある。
そんな無機物に、魔法自体を保存する。
そうすれば、魔力を持たない人にも魔法を届けられるのではないか。
(今思えば、あの超高難易度ミニゲームって、奇跡だったんだよね……)
エマの夢のルーツとなった『小瓶の中の魔法イベント』だが、あの成功率が0.03%──実質無理ゲーという事実は製作側にしか知られていないことである。
それはさておき。
前世風にいえば、現存する魔道具は電池の抜かれたおもちゃである。
当然動力が無ければウンともスンとも言わない。
そして肝心の電池に相当するものは、この世界には出回っていない。
あったとしても、以前飾られているのを見掛けた高額な魔石くらいで、簡単に手を出せる代物ではなく、大方国が回収してしまうような、とっておきである。
同時にそれらは、一般的には必要のないものでもある。
魔力保有者は、自身が自家発電する動力となれる。
己が電池なのであれば、わざわざ他に求める必要もない。
そして皆が一様に思うのは、魔法という神秘は、選ばれた者にだけ許された特権であるということ。
平民の魔力持ちが嫌われるのは、貴族たちにその考えが強く根付いているからである。
同種でさえ別物に扱う人間を、エマは時々恐ろしく思う。
そして、腹の底から咽せ返ってくる心当たりのない憎悪を、奥へ奥へとしまいこんでいる。
「魔法がもっと、みんなの身近なものになればいいなって思う」
また、にょき、と生まれた謎の感情を誤魔化すように笑って、エマは言った。
「なんか語ってしまってお恥ずかしい」と照れながら頬を掻く。
「不可能だって、笑われても仕方ない内容だしね……」
そんなエマの言葉に、リュカは「笑いませんよ」と直ぐに返答した。
「──なんつーか……俺は教養がないんで、上手いこと言えないですけど……立派だと思いましたよ。ていうかちょっと驚きです。思ってた以上にちゃんとした研究者ですね」
「リュカは私のことなんだと思ってたの……」
「んー…本食い虫?」
ブスッと不機嫌な視線を向ければ、リュカはへらりと笑った。
「真面目に答えると、最初はよくいる偉そうな貴族令嬢で、今は──」
トントン、とリュカが自身の左胸の辺りを指差した。
エマは意味が理解できず小首を傾げる。
「ユーリとアンタは、俺のここら辺ですかね」
大胸筋? と素っ頓狂なことを考えているエマに、リュカは生温い視線を向ける。
「まぁ、アンタは出会った時から俺の目、真っ直ぐ見てくるんで、色んな意味で印象的でしたよ」
「──出会った時から?」
「はい」
出会った時、ということは、前世の記憶が戻る前の険悪な関係の時だ。
嫌な意味で印象深かったんだろうとわかっている。わかっているが──何故かどうしようもなく胸が苦しくなった。
エマにとって自分とは、いつも朧げなものだった。
人間でもなく、魔女にもなりきれない、この世界のものなのか、そうでないのか。生きていていいのか、駄目なのか。
悪でありたくないが、皆の思う善を振舞えるのかも自信がなく、自分の根っこには不安ばかりが巣くっている。
そんな自分が、どんな感情であれ誰かの中で思われていることが、どうしようもなく嬉しい。
生きている心地がする。
自分では証明できない自分自身の存在を、確立させてもらえるような気さえするのだ。
「──エマ?」
名前を呼ばれて、伏せていた顔を上げた。
リュカに名前を呼ばれるのは珍しい。
動揺が表に出てしまっただろうかと、エマは誤魔化し笑いを浮かべた。
「ごめん、大胸筋が痛くて……」
「筋肉とは無縁のアンタが何言ってんですか」
呆れた息を吐くリュカ。
エマはいつもと変わらぬ調子で冷めた紅茶を飲み干した。
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