3 / 42
世界がヤバイぃぃぃぃぃ!
しおりを挟む
教会を追い出された俺は、ヴァリアンツ家の屋敷に帰ってきた。乱暴に仕事用の椅子にドスンと座る。
「納得がいかないッ、ちくしょう、どうなってやがる!」
机を拳で叩き、あらん限りの声で叫ぶと、屋敷の管理を任せているメイド長のマーヤと、執事のジェフが慌てて顔を出してきた。
二人とも五十歳を過ぎた年齢で、長年この家に仕えてきた家族のような存在だ。
マーヤが恐る恐る声をかけてくる。
「ルドルフ様、ずいぶん苛立った様子ですが、なにかございましたか? 息子の晴れ舞台だとあんなに意気揚々とお出かけになられたのに」
「……くっ、まさに狐か狸に化かされた気分だよ。目を疑う理不尽の連続だった。酒でも飲まないとやってられん。ジェフ、30年もののワインがあっただろ。あけてくれ」
「よろしいので? あれらは『子供達が全員成人したときにプレゼントするんだ』とルドルフ様が大切に保管してる物ではありませんか? ずっと渡すのを楽しみにしていたのに」
「し、知るかそんなもん。一本くらい構わんだろ。それでこの気持ちが少しでも収まるのならなっ」
感情のままに、再度バンッバンッと仕事机を叩く。
その下品な行動にマーヤとジェフが眉を顰める。俺はすぐさま己の行動が恥ずかしくなった。
ああ、悪い癖だ。また頭に血がのぼってきた。いい歳をして、感情のコントロールもできない自分が情けない。
マーヤとジェフがお互いに目を合わせ、呆れたような顔で俺を眺める。それでも、二人は文句も言わずワインを用意をして執務室から去っていった。
俺はワインを飲みながら、祝福の儀で起きた異常事態について考える。
何度も「聖者の冒険譚」をクリアしたから断言できる。あれは絶対に原作にない展開だ。
ハイネの言動は改めて考察するまでもないほど狂っていた訳だが、兄ジン、妹リアも異常だった。
ゲームなら、アイツらはハイネを嫌い、追放後もわざわざハイネに会いにいって、嫌がらせをするほど性格のねじ曲がった奴らだったはずだ。
賄賂、私刑などは当たり前で、傍若無人で残忍なその性格はゲームでも相当なヘイトを買っていた。
なのに、ジンはハイネを庇い、リアにいたっては泣きながら「ハイネお兄ちゃんと結婚するんだもん!」と発言していた。
「いつからブラコンにジョブチェンジしたんだクソがッ! お前はヒロインじゃないだろッ、『聖者の冒険譚』は乙女ゲーじゃなくて本格ファンタジーRPGだぞ!? 何が「結婚するんだもん」だッ! ゲームでは冷酷なドS少女だったくせに!」
はあ、はあ、いかん。
思い出したらまた頭に血がのぼってきた。
どうしてこうなった。
しかし、残念ながら心当たりあった。
その答えは、三十九年間生きてきたルドルフの記憶にある。本来の設定なら、ハイネを除き、ヴァリアンツ家の家族は全員悪人だ。
金に汚いし、平民は見下す典型的な悪役貴族。
そしてハイネは特殊な出自の関係もあって、家族全員から目の敵にされるはずだった。
そう、そのはずだったのだ。
だが、どれだけルドルフの記憶を辿っても、そんな記憶は一切無い。何故か? 原因は間違いなく俺だ。俺が前世の記憶を持っているからだ。
前世の俺は、どこにでもいる四十歳の普通のサラリーマンだった。家族を持ち、子供も生まれて幸せな家庭を築いていた。妻の出産に立ち会って初めて息子を抱いたあの日、あれが前世の俺にとって人生最良の日だったといえよう。
俺は子供が好きだ。いや言いなおそう。俺は子供が大好きだ!
子供が優秀だろうが、なかろうが、そんなのどうでもいい。ただ幸せになってくれたら、それこそが最大の親孝行だと、親になって初めて知った。
だから前世の俺が死んだ日。
信号無視したトラックと息子がぶつかりそうになり、身代わりとなって身を投げ出したあの瞬間。怪我もなく生き延びた息子を見届けて瞼をおろしたあの時。我が人生で二番目に素晴らしい日だと思った。
そんな俺が転生したせいなのか、ルドルフの潜在意識には、前世の俺の良心が残っていた。無意識ではあるが、原作のルドルフよりもハイネ、ジン、リアの三人を大切に育てた。
ジンとリアが、ハイネを虐めようとしたら殴ってでも止めた記憶がある。
貴族たるもの清廉潔白であれ。子供達にはそう厳しく言い聞かせてきた。その成果もあって、子供達は皆、貴族として良き心を持ち立派に成長した。
つまり、なにが原因だったかと言えば全て俺の責任だ。
無意識で良かれとしてきた行動が、全部裏目にでていた。
シナリオブレイクさせたのは俺自身だった。
「ヤバイ……世界がヤバイ。どうしようぉぉぉぉぉ!? 我が子を大切に育てたら世界が崩壊しそうですとか冗談だろ!」
ハイネが魔剣士学園で覚醒して勇者になるシナリオなのに、魔剣士学園にすら行かず、実家で腑抜けたニートになっちまう!
このままでは、魔人が魔王を復活させて世界が終わる。
民の命を危険にさらして何が貴族か。
死んで詫びたい気持ちだが、それではなにも解決しない。むしろ余計にシナリオが悪化する。
こうなったら無理矢理でも軌道修正するしかない。ハイネには悪いが強引でも屋敷から追い出して魔剣士学園に通ってもらうぞ!
グラスを手に取り、飲みかけのワインを一気に飲み干す。
「ちくしょう、ストレス過多で貴重なワインの味がほとんどしなかった。次からは安酒を飲むことにしよう」
ハイネが覚醒するかどうかに世界の全てが掛かっている。
尻ぬぐいさせるようで、申し訳ないがハイネには一刻も早く屋敷から旅立ってもらう必要がある。
「待ってろハイネ。必ずお前に世界を救わしてやるからな!」
「納得がいかないッ、ちくしょう、どうなってやがる!」
机を拳で叩き、あらん限りの声で叫ぶと、屋敷の管理を任せているメイド長のマーヤと、執事のジェフが慌てて顔を出してきた。
二人とも五十歳を過ぎた年齢で、長年この家に仕えてきた家族のような存在だ。
マーヤが恐る恐る声をかけてくる。
「ルドルフ様、ずいぶん苛立った様子ですが、なにかございましたか? 息子の晴れ舞台だとあんなに意気揚々とお出かけになられたのに」
「……くっ、まさに狐か狸に化かされた気分だよ。目を疑う理不尽の連続だった。酒でも飲まないとやってられん。ジェフ、30年もののワインがあっただろ。あけてくれ」
「よろしいので? あれらは『子供達が全員成人したときにプレゼントするんだ』とルドルフ様が大切に保管してる物ではありませんか? ずっと渡すのを楽しみにしていたのに」
「し、知るかそんなもん。一本くらい構わんだろ。それでこの気持ちが少しでも収まるのならなっ」
感情のままに、再度バンッバンッと仕事机を叩く。
その下品な行動にマーヤとジェフが眉を顰める。俺はすぐさま己の行動が恥ずかしくなった。
ああ、悪い癖だ。また頭に血がのぼってきた。いい歳をして、感情のコントロールもできない自分が情けない。
マーヤとジェフがお互いに目を合わせ、呆れたような顔で俺を眺める。それでも、二人は文句も言わずワインを用意をして執務室から去っていった。
俺はワインを飲みながら、祝福の儀で起きた異常事態について考える。
何度も「聖者の冒険譚」をクリアしたから断言できる。あれは絶対に原作にない展開だ。
ハイネの言動は改めて考察するまでもないほど狂っていた訳だが、兄ジン、妹リアも異常だった。
ゲームなら、アイツらはハイネを嫌い、追放後もわざわざハイネに会いにいって、嫌がらせをするほど性格のねじ曲がった奴らだったはずだ。
賄賂、私刑などは当たり前で、傍若無人で残忍なその性格はゲームでも相当なヘイトを買っていた。
なのに、ジンはハイネを庇い、リアにいたっては泣きながら「ハイネお兄ちゃんと結婚するんだもん!」と発言していた。
「いつからブラコンにジョブチェンジしたんだクソがッ! お前はヒロインじゃないだろッ、『聖者の冒険譚』は乙女ゲーじゃなくて本格ファンタジーRPGだぞ!? 何が「結婚するんだもん」だッ! ゲームでは冷酷なドS少女だったくせに!」
はあ、はあ、いかん。
思い出したらまた頭に血がのぼってきた。
どうしてこうなった。
しかし、残念ながら心当たりあった。
その答えは、三十九年間生きてきたルドルフの記憶にある。本来の設定なら、ハイネを除き、ヴァリアンツ家の家族は全員悪人だ。
金に汚いし、平民は見下す典型的な悪役貴族。
そしてハイネは特殊な出自の関係もあって、家族全員から目の敵にされるはずだった。
そう、そのはずだったのだ。
だが、どれだけルドルフの記憶を辿っても、そんな記憶は一切無い。何故か? 原因は間違いなく俺だ。俺が前世の記憶を持っているからだ。
前世の俺は、どこにでもいる四十歳の普通のサラリーマンだった。家族を持ち、子供も生まれて幸せな家庭を築いていた。妻の出産に立ち会って初めて息子を抱いたあの日、あれが前世の俺にとって人生最良の日だったといえよう。
俺は子供が好きだ。いや言いなおそう。俺は子供が大好きだ!
子供が優秀だろうが、なかろうが、そんなのどうでもいい。ただ幸せになってくれたら、それこそが最大の親孝行だと、親になって初めて知った。
だから前世の俺が死んだ日。
信号無視したトラックと息子がぶつかりそうになり、身代わりとなって身を投げ出したあの瞬間。怪我もなく生き延びた息子を見届けて瞼をおろしたあの時。我が人生で二番目に素晴らしい日だと思った。
そんな俺が転生したせいなのか、ルドルフの潜在意識には、前世の俺の良心が残っていた。無意識ではあるが、原作のルドルフよりもハイネ、ジン、リアの三人を大切に育てた。
ジンとリアが、ハイネを虐めようとしたら殴ってでも止めた記憶がある。
貴族たるもの清廉潔白であれ。子供達にはそう厳しく言い聞かせてきた。その成果もあって、子供達は皆、貴族として良き心を持ち立派に成長した。
つまり、なにが原因だったかと言えば全て俺の責任だ。
無意識で良かれとしてきた行動が、全部裏目にでていた。
シナリオブレイクさせたのは俺自身だった。
「ヤバイ……世界がヤバイ。どうしようぉぉぉぉぉ!? 我が子を大切に育てたら世界が崩壊しそうですとか冗談だろ!」
ハイネが魔剣士学園で覚醒して勇者になるシナリオなのに、魔剣士学園にすら行かず、実家で腑抜けたニートになっちまう!
このままでは、魔人が魔王を復活させて世界が終わる。
民の命を危険にさらして何が貴族か。
死んで詫びたい気持ちだが、それではなにも解決しない。むしろ余計にシナリオが悪化する。
こうなったら無理矢理でも軌道修正するしかない。ハイネには悪いが強引でも屋敷から追い出して魔剣士学園に通ってもらうぞ!
グラスを手に取り、飲みかけのワインを一気に飲み干す。
「ちくしょう、ストレス過多で貴重なワインの味がほとんどしなかった。次からは安酒を飲むことにしよう」
ハイネが覚醒するかどうかに世界の全てが掛かっている。
尻ぬぐいさせるようで、申し訳ないがハイネには一刻も早く屋敷から旅立ってもらう必要がある。
「待ってろハイネ。必ずお前に世界を救わしてやるからな!」
365
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。
けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。
「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」
追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる