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イミガワラナイ
しおりを挟む何言ってんだコイツ。
おい、原作にこんなシーンなかったぞ。どうなってやがる!?
袖を掴んでくるハイネの手を強引に振り払う。
「ちょ、ちょっと待て! 離れないってお前、自分の立場分かってる? 俺はお前を追放したんだぞ!?」
「もちろん、分かっておりますとも!」
「ではなぜ、そんな馬鹿げたことが言える?」
すると、ハイネは花の咲くような笑顔で言った。
「未熟ゆえに私は追い出されるんですよね? だからこそ、敬愛する父上の元で学び、どこへ出しても恥ずかしくない立派な息子に私はなるんですッ!」
「俺が追い出すって言ってんのに、なんで俺から学ぼうとしてんだよ!」
やばいコイツ、言ってること無茶苦茶じゃない?
ああ、あかん!
また頭に血がのぼってきた。キレて殴りそう。
最近歳をとったせいか、やけに怒りっぽくなっている。ルドルフの性格に引っ張られているのかもしれん。
胸の奥底から湧き上がってくるマグマのような熱を、鋼の精神で必死に堪える。
ふうー落ち着け。なるべく冷静な口調で、生まれたてのサルにでも分かるように、伝えるんだ。
「いいかっ、もう一度だけ言うぞ、よく聞けッ! 俺は、無能なお前を、視界に映すのも不快なんだっ! だから、追放する、分かったか!?」
ここまでハッキリ言えば、誰でも理解できるだろう。
ふう、今日はなんだか色々あって疲れたな。
すぐに帰宅してソファーで横になりたい。
宣言通り、飛ぶ鳥跡を濁さず。俺は優雅にこの場から去るとして……
「はい、委細承知いたしました! 目に入れても不快にならない有能な男になればいいでのしょう? では改めて、日々精進し、尊敬する父上のそばでこれからも学ばせて頂きます!押忍ッ!」
「話をきけクソガキゃぁぁぁぁ」
「ふばああ!」
喉元までため込んでいた怒りのマグマが爆発した。渾身の右ストレートがハイネの左頬にクリーンヒットする。
鼻血を吹き上げ空中で回転を描き、ハイネが面白いように吹き飛んでいく。
しかし、ハイネは地面に衝突して転がされても、一切の怯む様子もなく、鼻血をたらしながら満面の笑みで華麗に立ち上がってくる。
「ち、てぃてぃうえ! 流石ですッ! 素晴らしい拳ですッ! でもぉっ、私はぁ! 何度殴らても考えを改めるつもりはありませんっ! 心より貴方をお慕いしておりますゆえに!」
「ふっふっ、ふざけんなぁぁぁ!」
支離滅裂な発言を繰り返す愚息。
怒りで頭が焼けきれそうな父親。
果たして間違ってるのはどっちだろうか。
「その考え改めるまで、何発でも鉄拳をくれてやるぞ!」
すると、左右から突然、何者かによって身体を抑えつけられる。
「誰だ!?」
それは、ハイネの兄であるジンと、妹のリアであった。
ジンは目眼を掛けた長身で金髪碧眼のクール系男子。リアもジンと同じ金髪碧眼で、おさげ髪がチャームポイントの可愛いらしい愛娘だ。
「おお~お前達ぃ! 父を助けにきてくれたか!」
何を隠そうこの二人は原作では俺と一緒にハイネを痛めつけた挙句、他領まで攻め入り大戦乱を巻き起こした大悪党!
ならば、無属性で無能になったハイネを追い出すのに一役を買ってくれるはず。
ふふふ、さあ、ゆけ。愛しき我が子供達よ。頭の狂った兄弟を救うのだっ!
「やめてくれ父上! 私は可愛い弟がいじめられてるのを、これ以上見てれられない!」
「そうよっ、リアの大切なお兄ちゃんを殴らないでっ! ハイネお兄ちゃんは……リアと結婚して一生暮らすんだからね! 絶対家から追い出させやしないわ!」
「お、お前らもかぁぁぁぁぁぁ!」
世界平和のために原作を忠実に守りたい俺だったが、子供達の様子がおかしすぎて、最初からシナリオブレイクしている件について。
―――どうしてこうなった?
そして、その原因について考えてみる。
『ああ、そういえば。なるほど・・・・・・』
そう、俺にはこんなあり得ない展開に発展した理由に、大いに心当たりがあったのだった。
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