ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

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使者

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最悪だ。
状況の改善を試みるほど状況が悪化していく。なぜ?

自害をはかった馬鹿息子に鉄拳制裁を施したのち、疲労で倒れそうになりながら、這う這うの体で執務室へと逃げ帰ってきていた。

「あの馬鹿息子め常識ってもんが足りてないぞ!」

親よりはやく死ぬ子供などあってはらない。それは最悪の親不孝だ。死ぬためにナイフを取り出したハイネを見た瞬間、怒りで我を忘れて気が付けばハイネに何発も鉄拳をかましていた。

「あたた、キレすぎて頭が痛い」

もはや一日に何度怒っているかも分からない。このままでは心労でシナリオ展開よりも早く俺が逝く。

セレンもセレンだ。
アイツ、清楚キャラのくせに、ハイネが自決をしそうになったら、俺と一緒にハイネをタコ殴りにしていた。セレンは涙をボロボロ流しながら

「ハイネ様っ(ボコ!)、あなたという人はっ(ボコ!)、私というものがいるのにっ(ボコ!)、死のうなんて許しませんよ(バキ!)」

と、物理で説教をしていた。
セレンの華奢な手が血まみれになったのを見て、俺は冷静さを取り戻せた訳だが。

というか、ハイネもなんで無抵抗で殴られ続けられてんだ。ナメクジじゃあるまいし少しは抵抗しろよ。あのままでは勇者が魔人討伐に旅立つ前に天国へ旅立ちそうだったのでセレンは俺が止めた。

心なしかハイネはセレンに殴られて幸せそうな顔をしていた。息子の変な性癖なんて知りたくもなかった。

現状を知れば知るだけ、ゲームシナリオから離れているのを実感する。しかも、それら全てが俺のせいだというのだから、立つ瀬がない。

立派な貴族として恥じぬように行動してきたのに、どうしてこうなった。こんな醜態をさらしては、ご先祖様に合わす顔もない。せめて、俺のスペックがハイネのように高ければ、魔人などこの手で始末してやるのに。いや、どちらにせよ勇者のスキルがなければ太刀打ちできないのだから、無理な願いか。

―――コンコンコンコン。

執務室のドアがノックされる。なんだこんな忙しい時に。

「入れ」

姿を見せたのは執事のジェフだった。

「ルドルフ様、お客人がお見えです」

「客人? 今日は誰とも会う予定はなかったはずだが?」

正直、今はそれどころではない。出来ることなら面会は後日にまわしたいが……

「ディズモン伯爵様の使者でございます」

「……ちっ、あの性悪男か。構わん通せ」

次から次へと問題が波のように押し寄せてくる。
ディズモン伯爵―――こいつは『聖者の冒険譚』において、魔人側敵側の人間だ。

 ディズモン伯爵はゲームシナリオにおいて、そこそこ重要な役割を担っているキャラクターだ。

爵位は同じ伯爵でも、モブ寄りの俺とは大違いの大物である。

何を隠そうディズモン伯爵は、ハイネが勇者として覚醒するイベントの、最初のボスキャラだ。

きな臭い噂が絶えない男で、俺はあまり好きな人物ではない。なんというか、腹の探り合いばかりで、性格的に合わない奴だ。

そんなディズモン伯爵が寄こした使者との面会なんて、適当に誤魔化して追い返したいが、最悪なことに『聖者の冒険譚ホーリー・クエスト』でディズモン伯爵と俺は協力関係にある。一緒に魔人へ協力して勇者を妨害する仲間だ。

邪険な扱いで使者を追い返せば、関係に罅が入りシナリオと大きく外れてしまう可能性が高い。これ以上のシナリオブレイクは絶対に避けたいので追い返す訳にもいかない。


「ぐへへへ、どうもヴァリアンツ伯爵様」

スキンヘッドのガタイの良い男が、ジェフに案内されて執務室に入ってきた。

服装は寝起きで来たかのように乱れており、使者というより盗賊のみたいな男だ。

「ディズモン伯爵様の言伝を持ってきました」

スキンヘッドの男がそういうと、アルコール臭い息が漂ってくる。

こいつ……酒を飲んでやがる。仮にも俺は階級ではディズモン伯爵と同格だというのに、失礼な態度だ。喧嘩でも売りにきたのか?

ああ駄目だ。
つい先ほど、友好的にすると決意したばかりじゃないか。
こんなことで、いちいち目くじらをたてていたらキリがない。ここは、我慢だ。

「げっぷ、がははすいません。どうも胃の調子がわるいみたいで」

「……ま、まあそういう日もあるな」

「へへへ、二日酔いなんでおおめにみてくだせぇ」

「ハハハ」

……いますぐにでも手が出そうになるのを必死に我慢して、とりあえず俺はコイツに耳を傾けるのだった。
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