ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

文字の大きさ
6 / 42

我慢ってなんだっけ?

しおりを挟む
「げっぷ、がははすいません。どうも胃の調子がわるいみたいで」

「……ま、まあそういう日もあるな」

「へへへ、二日酔いなんでおおめにみてくだせぇ」

……いかん、いかん。気にしてたら負けだ。

「ああ、それより遠いところご苦労だったな。かけたまえ」

「じゃお構いなく。おっ伯爵様!? もしやそのワイン、ヴァリアンツで生産してるものでは? しかも、三十年物!」

「……そうだが?」

「ぐへへへ、よかったら俺も一杯頂きたいですねぇ」

……このスキンヘッド野郎、今すぐ殴って追い払ってやろうか。すぐに帰ると言っていたくせに、貴重なワインを見た途端にこれだ。卑しい奴め。

仕方なく新しいワイングラスにワインを注いでやると、ツルツルのスキンヘッドが美味そうに飲む。

「ぷへー、ヴァリアンツ領のワインは王国最高ですな~」

「お世辞はいらん。さっさと本題に入れ」

「まあまあ、せっかく来たんだし、色々、世間話でも、しましょうや。ぐ、へへへ」

話し方と言い、見た目と言い、いちいち神経を逆なでてくる。わざとやってるとしか思えない。

……だが、ここは我慢だ。今大切なのはシナリオブレイクを避けるために、協力関係を築くこと。

「そういえば、道中に聞きましたぜ。ハイネとかいう息子の話。なんでも、無属性の無能だったとか!」

「……」

「伯爵様も随分取り乱したらしい、じゃないですか。いやー、気持ちは分かりますよ? 俺もあんな息子にいたら即家を追い出しやすぜ。ガッハッハ」

「……ハハハ、まあ色々事情があるからな。けれど君には関係ない話だ。それより早く本題に……」

「まあまあ、そんな水臭いこと言わないでくだせぇ。俺と伯爵の仲じゃないっすか。相談にのりますよ? くっくっく、まさか名門ヴァリアンツからそんな穀潰しが生まれるとは、伯爵様も災難ですな」

「……あ、ああ」

……そういえば言い忘れていたことがあった。

俺がこの世で最も嫌いなものについてだ。
それは、自分の子供を他人に馬鹿にされること。

貴族なのに民を大切にしないクズとか、使者の分際で礼儀がまるでなってない奴とか、気に食わない奴は大勢いるが、子供を侮辱をする馬鹿が一番気に入らない。

それは前世を含めて俺の根底にある、絶対にブレない芯のようなもので、絶対に譲れない父親としてのプライド。

愛する息子をスキンヘッド野郎に侮辱されて、全身に電撃が駆け巡ったようにバチンとなにかが弾ける。比喩ではなく、僅かな電流が俺の身体に帯電して、パチパチと微かな音をたてる。

ルドルフの魔法属性は雷だ。
魔力制御が未熟なせいで、感情が高ぶると、こうして意図せずに電撃がでてしまう。

拳を固く握りしめてスキンヘッドに近寄って殴ろうとするが、寸前で踏みとどまる。

(馬鹿たれが、今ここで暴れたら全部おしまいだろ)

もし、ディズモン伯爵と関係が悪化したら、取り返しのつかない事態になる。民を守るべき立場にある俺がこれ以上世界を崩壊へと導く訳にはいかない。

胸糞悪いが耐えろ、耐えるんだルドルフ・ヴァリアンツ!

お前陰謀蠢く貴族社会で生き残り、前世を含めれば四人の子供を育てた父親だ。この程度の理不尽いつだって乗り越えてきたじゃないか……

無理矢理自分を納得させて、全身から漏れ出そうになる電流を根性で押さえつける。

そんな俺の気も知れずスキンヘッドはワインで気分をよくしたのか、断りもなくグラスに追加のワインを注いで懲りずに上機嫌でしゃべり続ける。

「しかも、ハイネとかいうガキ、追放されたのに拒否したらしいじゃないですかw、全く無能ってのは敵より厄介とは良くいったもんですな! おっ、そうだ。どうせなら俺が帰りに連れてって、やりましょうか? 肥溜めに捨てて馬鹿な息子に身の程を知らせてやりますぜ?」

「……俺の問題だ。君が関わる必要はない」

「まあそう言わずに。折角のご縁だ。俺だって伯爵様の役に立ちたいってもんさ。どうせなら奴隷に売るのもありですな。顔だけは良いらしいじゃないですか。年増の女貴族共もきっと気に入りますぜぇ」

スキンヘッドが卑しく笑う。
だがシナリオは絶対である。だから我慢だ。我慢、我慢。
無理矢理笑顔を取り作って、我慢するのだ。


「伯爵様の手を煩わせるなんて、とんだ親不孝な息子ですな。そんな奴《《最初から生まれてこなければ良かった》のに。ね? はくしゃ……」

我慢我慢……ん?
コイツ今なんて言った?

「ハイネが生まれなければ良かっただと?」

……あれ、我慢ってなんだっけ?

「そんな子供いるわけねえだろぶち殺すぞハゲ野郎ぉぉぉ!」

「ぶびらいっっ!?」

バチンと雷撃が弾ける音が響き、閃光が一瞬で広がり視界が白く染まる。

渾身の右を振りぬくと、スキンヘッドがはじけ飛んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。 「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!  人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。  魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」 どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。 人生は楽しまないと勿体ない!! ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

処理中です...