ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

文字の大きさ
12 / 42

ゲームクリア後のイベント

しおりを挟む
聖者の冒険譚ホーリー・クエスト』には、本編クリア後に発生する特別イベントがある。

ラスボスである魔人を討伐すると、エンディングが流れ、映像の最後に獣深森じゅうしんりんの最奥にダンジョンが登場するというイベントだ。

ダンジョンのモンスターは獣深森じゅうしんりんにいる魔獣達より遥かに強く、数体用意されている階層ボスの強さは、本編の魔人達を圧倒する強さである。

いわゆる、プレイヤー向けのクリア後のやりこみ要素というやつだ。ダンジョンの最奥に到達すると、初代勇者様が残したとされる『破滅の剣ブレイクソード』が入手できる。

この剣の能力は破格で、勇者のみ装備可能という縛りはあるが、魔人、魔獣に対する戦闘ダメージを200%上乗せ。

筋力、俊敏など各種ステータスを2倍に増加、さらに新属性『破滅』が付与される。無属性の勇者は、後に聖属性に覚醒して戦うのだが、この武器を手に入れることで、二つ目の属性を得る。

『破滅』の効果は、攻撃した相手に威力中の固定ダメージ与えるというもの。ダメージ強化やステータス強化に比べるとオマケみたいな能力だが、積み重ねれば馬鹿にならないダメージがでる。

クリア後の武器なだけあって、完全にチート武器だ。ゲーム制作会社もどうせクリア後だし悪ふざけで導入したと、なにかのゲーム雑誌のインタビューで答えていたのを読んだ覚えがある。

ただ、大きな問題が一つ。
それをどうやって取りにいくかだ。ダンジョンはクリア後にしか出現しない上に、たとえあったとしても、俺程度では当然ダンジョンの攻略なんて不可能だ。

そこで、バグ技の出番である。
実はこのダンジョンとある行動をすることで、クリア前に『破滅の剣ブレイクソード』が置いてあるダンジョン最奥まで行くことが出来る。

その行動とは……

「はあ、はあ、はあ。ようやくついた」

目の前にあるのは、成人の膝下くらいの大きさしかない小さな祠。

この祠は、ヴァリアンツ領と獣深森じゅうしんりんの境界にある山の頂上にポツンと存在する不思議な祠だ。

どのプレイヤーが発見したのか詳しく知らないが、この祠に攻撃を加えると、なんとバグで、ダンジョンの最奥までワープして行けてしまうのだ。

これはゲームが販売されて数年後に、マニアックなファンが発見したらしい。このバグはおそらくゲーム会社も想定してなかっただろう。わざわざこんな要素を取り入れる必要もないしな。

偶然のバグとはいえ、ゲームの世界が現実となった俺には、まさに天から降ってきた奇跡。もし、このバグが現実でも通用するのであれば、最強武器をゲーム本編が始まる前から入手できる。

「頼むから、成功してくれよ」

使い慣れた剣を上段に構える。

屋敷からここまでくるのに2日もかかった。ずっと運動してなかったせいで、体力的にきつく、登山の途中で何度も足が吊った。中年のおじさんには、死ぬほどきつい道のりだった。だから、なにも成果が得られずに解散なんて勘弁してくれよ……

そう願いながら、剣を振り下ろして、祠を斬った。




「う……」

周囲は薄暗い。
突然体が浮遊する感覚に襲われた後、気が付けば俺は暗いダンジョンの最奥で横たわっていた。

「せ、成功か?」

顔をあげれば、目の前に石の台座のようなものがある。立ち上がって確認するとそこには『破滅の剣ブレイクソード』が置いてあった。そのすぐ近くには脱出用の転移魔法陣が青白く輝いている。


「おお! 素晴らしい。本当に成功するなんて!」

きたぞ!
これさえあれば、どんな敵が来ても勝てる!

傷だらけだが、見事に美しい伝説の剣。
巨大な黒い宝石が、鍔と握りの境目に装飾としてあしらわれている。

そして、夜を連想させる漆黒の刃。その蠱惑的美しさは、一度視線を向けたら離せなくなってしまいそうな、魅力を放っている。

手に取ってみると、ずっしりと重い感触が腕に伝わる。

―――すると

コロンと石が転がるような音が背後でなった。

「誰だ!?」

慌てて振り返り、咄嗟に破滅の剣ブレイクソードを構える。

「ほっほっほ、誰だとは随分な物いいじゃないか」

その声は、ダンジョンの奥の方から聞こえてきた。暗闇でその姿は確認できない。

そんな馬鹿な。ここはクリア後のダンジョンだぞ!? 人なんて誰もいる筈がないのに。

「姿を見せろ。何者だ!」

そう叫ぶと、コツ、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。そして、ゆっくりと姿を見せた相手は……

「が、骸骨だとぉ!?」

完全に白骨化した、人間の骨だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...