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ゲームクリア後のイベント
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『聖者の冒険譚』には、本編クリア後に発生する特別イベントがある。
ラスボスである魔人を討伐すると、エンディングが流れ、映像の最後に獣深森の最奥にダンジョンが登場するというイベントだ。
ダンジョンのモンスターは獣深森にいる魔獣達より遥かに強く、数体用意されている階層ボスの強さは、本編の魔人達を圧倒する強さである。
いわゆる、プレイヤー向けのクリア後のやりこみ要素というやつだ。ダンジョンの最奥に到達すると、初代勇者様が残したとされる『破滅の剣』が入手できる。
この剣の能力は破格で、勇者のみ装備可能という縛りはあるが、魔人、魔獣に対する戦闘ダメージを200%上乗せ。
筋力、俊敏など各種ステータスを2倍に増加、さらに新属性『破滅』が付与される。無属性の勇者は、後に聖属性に覚醒して戦うのだが、この武器を手に入れることで、二つ目の属性を得る。
『破滅』の効果は、攻撃した相手に威力中の固定ダメージ与えるというもの。ダメージ強化やステータス強化に比べるとオマケみたいな能力だが、積み重ねれば馬鹿にならないダメージがでる。
クリア後の武器なだけあって、完全にチート武器だ。ゲーム制作会社もどうせクリア後だし悪ふざけで導入したと、なにかのゲーム雑誌のインタビューで答えていたのを読んだ覚えがある。
ただ、大きな問題が一つ。
それをどうやって取りにいくかだ。ダンジョンはクリア後にしか出現しない上に、たとえあったとしても、俺程度では当然ダンジョンの攻略なんて不可能だ。
そこで、バグ技の出番である。
実はこのダンジョンとある行動をすることで、クリア前に『破滅の剣』が置いてあるダンジョン最奥まで行くことが出来る。
その行動とは……
「はあ、はあ、はあ。ようやくついた」
目の前にあるのは、成人の膝下くらいの大きさしかない小さな祠。
この祠は、ヴァリアンツ領と獣深森の境界にある山の頂上にポツンと存在する不思議な祠だ。
どのプレイヤーが発見したのか詳しく知らないが、この祠に攻撃を加えると、なんとバグで、ダンジョンの最奥までワープして行けてしまうのだ。
これはゲームが販売されて数年後に、マニアックなファンが発見したらしい。このバグはおそらくゲーム会社も想定してなかっただろう。わざわざこんな要素を取り入れる必要もないしな。
偶然のバグとはいえ、ゲームの世界が現実となった俺には、まさに天から降ってきた奇跡。もし、このバグが現実でも通用するのであれば、最強武器をゲーム本編が始まる前から入手できる。
「頼むから、成功してくれよ」
使い慣れた剣を上段に構える。
屋敷からここまでくるのに2日もかかった。ずっと運動してなかったせいで、体力的にきつく、登山の途中で何度も足が吊った。中年のおじさんには、死ぬほどきつい道のりだった。だから、なにも成果が得られずに解散なんて勘弁してくれよ……
そう願いながら、剣を振り下ろして、祠を斬った。
◇
「う……」
周囲は薄暗い。
突然体が浮遊する感覚に襲われた後、気が付けば俺は暗いダンジョンの最奥で横たわっていた。
「せ、成功か?」
顔をあげれば、目の前に石の台座のようなものがある。立ち上がって確認するとそこには『破滅の剣』が置いてあった。そのすぐ近くには脱出用の転移魔法陣が青白く輝いている。
「おお! 素晴らしい。本当に成功するなんて!」
きたぞ!
これさえあれば、どんな敵が来ても勝てる!
傷だらけだが、見事に美しい伝説の剣。
巨大な黒い宝石が、鍔と握りの境目に装飾としてあしらわれている。
そして、夜を連想させる漆黒の刃。その蠱惑的美しさは、一度視線を向けたら離せなくなってしまいそうな、魅力を放っている。
手に取ってみると、ずっしりと重い感触が腕に伝わる。
―――すると
コロンと石が転がるような音が背後でなった。
「誰だ!?」
慌てて振り返り、咄嗟に破滅の剣を構える。
「ほっほっほ、誰だとは随分な物いいじゃないか」
その声は、ダンジョンの奥の方から聞こえてきた。暗闇でその姿は確認できない。
そんな馬鹿な。ここはクリア後のダンジョンだぞ!? 人なんて誰もいる筈がないのに。
「姿を見せろ。何者だ!」
そう叫ぶと、コツ、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。そして、ゆっくりと姿を見せた相手は……
「が、骸骨だとぉ!?」
完全に白骨化した、人間の骨だった。
ラスボスである魔人を討伐すると、エンディングが流れ、映像の最後に獣深森の最奥にダンジョンが登場するというイベントだ。
ダンジョンのモンスターは獣深森にいる魔獣達より遥かに強く、数体用意されている階層ボスの強さは、本編の魔人達を圧倒する強さである。
いわゆる、プレイヤー向けのクリア後のやりこみ要素というやつだ。ダンジョンの最奥に到達すると、初代勇者様が残したとされる『破滅の剣』が入手できる。
この剣の能力は破格で、勇者のみ装備可能という縛りはあるが、魔人、魔獣に対する戦闘ダメージを200%上乗せ。
筋力、俊敏など各種ステータスを2倍に増加、さらに新属性『破滅』が付与される。無属性の勇者は、後に聖属性に覚醒して戦うのだが、この武器を手に入れることで、二つ目の属性を得る。
『破滅』の効果は、攻撃した相手に威力中の固定ダメージ与えるというもの。ダメージ強化やステータス強化に比べるとオマケみたいな能力だが、積み重ねれば馬鹿にならないダメージがでる。
クリア後の武器なだけあって、完全にチート武器だ。ゲーム制作会社もどうせクリア後だし悪ふざけで導入したと、なにかのゲーム雑誌のインタビューで答えていたのを読んだ覚えがある。
ただ、大きな問題が一つ。
それをどうやって取りにいくかだ。ダンジョンはクリア後にしか出現しない上に、たとえあったとしても、俺程度では当然ダンジョンの攻略なんて不可能だ。
そこで、バグ技の出番である。
実はこのダンジョンとある行動をすることで、クリア前に『破滅の剣』が置いてあるダンジョン最奥まで行くことが出来る。
その行動とは……
「はあ、はあ、はあ。ようやくついた」
目の前にあるのは、成人の膝下くらいの大きさしかない小さな祠。
この祠は、ヴァリアンツ領と獣深森の境界にある山の頂上にポツンと存在する不思議な祠だ。
どのプレイヤーが発見したのか詳しく知らないが、この祠に攻撃を加えると、なんとバグで、ダンジョンの最奥までワープして行けてしまうのだ。
これはゲームが販売されて数年後に、マニアックなファンが発見したらしい。このバグはおそらくゲーム会社も想定してなかっただろう。わざわざこんな要素を取り入れる必要もないしな。
偶然のバグとはいえ、ゲームの世界が現実となった俺には、まさに天から降ってきた奇跡。もし、このバグが現実でも通用するのであれば、最強武器をゲーム本編が始まる前から入手できる。
「頼むから、成功してくれよ」
使い慣れた剣を上段に構える。
屋敷からここまでくるのに2日もかかった。ずっと運動してなかったせいで、体力的にきつく、登山の途中で何度も足が吊った。中年のおじさんには、死ぬほどきつい道のりだった。だから、なにも成果が得られずに解散なんて勘弁してくれよ……
そう願いながら、剣を振り下ろして、祠を斬った。
◇
「う……」
周囲は薄暗い。
突然体が浮遊する感覚に襲われた後、気が付けば俺は暗いダンジョンの最奥で横たわっていた。
「せ、成功か?」
顔をあげれば、目の前に石の台座のようなものがある。立ち上がって確認するとそこには『破滅の剣』が置いてあった。そのすぐ近くには脱出用の転移魔法陣が青白く輝いている。
「おお! 素晴らしい。本当に成功するなんて!」
きたぞ!
これさえあれば、どんな敵が来ても勝てる!
傷だらけだが、見事に美しい伝説の剣。
巨大な黒い宝石が、鍔と握りの境目に装飾としてあしらわれている。
そして、夜を連想させる漆黒の刃。その蠱惑的美しさは、一度視線を向けたら離せなくなってしまいそうな、魅力を放っている。
手に取ってみると、ずっしりと重い感触が腕に伝わる。
―――すると
コロンと石が転がるような音が背後でなった。
「誰だ!?」
慌てて振り返り、咄嗟に破滅の剣を構える。
「ほっほっほ、誰だとは随分な物いいじゃないか」
その声は、ダンジョンの奥の方から聞こえてきた。暗闇でその姿は確認できない。
そんな馬鹿な。ここはクリア後のダンジョンだぞ!? 人なんて誰もいる筈がないのに。
「姿を見せろ。何者だ!」
そう叫ぶと、コツ、コツ、コツ、と足音が近づいてくる。そして、ゆっくりと姿を見せた相手は……
「が、骸骨だとぉ!?」
完全に白骨化した、人間の骨だった。
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