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その者の名前は!
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「生きた人間をみるのは何年ぶりか」
肺も喉もないくせに流暢に喋る骨。
ダンジョンのモンスターが現れたかと思ったがゲームには、こんな奴はいなかった。『聖者の冒険譚』にはゾンビやゴブリン、スライムなどのファンタジーで定番のモンスターはいない。
出現するのは魔人と、魔獣とよばれる獣系のモンスターのみ。つまり、この骨の存在は全くの謎だ。
「そんなに警戒する必要はない。ワシはお前の敵ではない」
「……と、言われてもその見た目では信用できないが」
「ほっほっほ、まあそうなるわな。これでも生前は非常にモテたのだが、時がたつのは早いのう。それでも若い者には、まだまだ筋肉では負けんぞ」
そういって、骸骨は自分の二の腕を叩きマッスルポーズを決めながら
「って、ワシ骸骨じゃった。こりゃ一本とられたわい。あっはっはっは」
と笑った。
一人で爆笑しているが全然面白くない。
間抜けなギャグに思わず気が抜けてしまう。本当にコイツは何者なんだ?
「あの、失礼ですがあなたは一体……」
「ワシ? 初代勇者だけど?」
「ええ!?」
初代勇者様!?
こんな馬鹿っぽい骸骨がか!?
「嘘だと思ってるじゃろ。ほれこれが証拠だ」
そう言って、骸骨が右手の甲を掲げる。そこには、勇者が覚醒した時のみに現れる聖痕が青白く輝いていた。それは、俺がゲームで見た、ハイネの聖痕と全く同じであった。それが意味することはつまり本物の初代勇者様!?
「し、失礼致しました!」
俺はその場で即膝をついて頭を下げる。
初代勇者様といえば、五百年前にこの王国を救った英雄である。たとえ国王だろうとも、礼をもって接しなければいけないような存在。
そしてなによりも……
「カッカッカ、風情もなにもない薄暗いダンジョンでそのような堅苦しい態度は不要である。ところで、お主こそ何者じゃ?」
「はっ、私の名はルドルフ・ヴァリアンツ。ヴァリアンツ伯爵家、現当主でございます」
「おおヴァリアンツかっ! なるほど、なるほど。では、その名の誇りと宿命の灯はまだ途絶えておらぬな?」
「はい、これも、貴方様の多大な功績のおかげでございます。初代勇者様……いえ今はこうお呼びましょう。初代当主、シーロン・ヴァリアンツ様」
「……久しき呼び名だ。まさか、こうして時を超えて子孫に出会えるとはな」
そう、この初代勇者様こそ、王国を救い、その功績でもって我らがヴァリアンツ家を誇りある貴族へと昇格させた、初代ご先祖様であった。
「積る話もあるだろう。ゆっくり聞かせてくれ」
◇
俺はシーロン様にダンジョンに来た経緯を説明した。
もちろん、ゲーム云々の事情は全部誤魔化した。ただ、山の上の祠は訪れたら、いつの間にかこの場所にたどり着いたと言った。正直、シーロン様が生きている(いや死んでるけど)なら、事情を説明してハイネの代わりに全ての問題を解決してもらおうかと考えたが
「ああ、ワシ聖痕は残ってるけど、勇者の力は全部失っているぞ」
と笑いながら言ってたので諦めた。
「しかし、何故シーロン様は、骸骨になってこんな場所にいるのです?」
「こんな場所とはひどいな。ここはワシの墓だぞ」
「ええっ!? そうだったんですか!?」
「おほほほ、本当だとも」
「でも、どうしてこんな場所に?」
「いやー、死ぬ間にどうせなら、未開の地をこの目で見たいと思い、獣深森の奥地まで足を運んだのだが迷子になってしまってな。で、謎のダンジョンを発見してとりあえず飛び込んでみたら、いつのまにか入り口が塞がって出られなくなったのじゃ。がははは」
なにその破天荒エピソード。ヤンチャすぎやしないか。
というか迷子になってる奴は、何故さらに奥へ進むんだ。だから迷子になるんだろ。典型的な方向音痴。まさか、こんな人がヴァリアンツ家の初代様だったとは。
「ワシも流石に死を覚悟したぞ。というか実際に一度空腹で死んだのだが、なぜか白骨した状態で生き返ってな。それ以来、ダンジョンを彷徨う亡霊として生きてきた訳だ」
「な、なるほど。まあ、そういうこともあるか? というかそこの転移魔法陣で脱出出来なかったのですか?」
「それはお主が現れてから出現したものじゃ」
「それは災難でしたね」
普通だったら到底信用できないけど、俺なんて前世でプレイしたゲームの中に転生してるしな。もはや、何が起きても不思議ではない。
「しかし、まさか山の祠がここに繋がっているとは、これも運命。愛の力じゃな」
「えっ、あの祠とシーロン様となにか関係があるのですか?」
「関係もなにも、あれは死んだ妻に遺言で頼まれてワシが建てた妻の墓じゃ。いやー、死後も繋がって、こうして子孫を連れてきたのだから、死んでも感謝しきれんのう。って、ワシもう死んでたわ。ガハハハ」
額から滝の様な汗が流れる。
やばい。どうしよう。俺その墓真っ二つにしたんだけど。ご先祖様の墓を破壊するとか笑えんぞ。最悪縛り首になるのでは?
「どうした顔色が良くないぞ?」
「い、いえ! なんでもございません。貴重なお話が聞けて嬉しかったです。剣はありがたく貰っていきます。では、私はこの辺りで失礼します。急ぎの要件が色々控えておりますので」
急いでこの場を離れよう。目的の武器も手に入ったし、これ以上ここに留まる理由はない!
「待て待て、折角子孫に会えたと言うのに、置いていくのは酷かろうて。ワシも連れてけ」
「はい!? で、でも……流石に骸骨になられたシーロン様を屋敷に置くわけには。家族も使用人も驚いてしまいます」
「それはホラ、全身を隠せるフルプレートの鎧とか用意してくれればいいからさ。ワシだって五百年ぶりに外の世界みたいんじゃ。もちろん、すぐにとは言わない。鎧が完成するまでは獣深森で散歩でもしてるぞ」
「は、はあ」
「ああ、五百年で世界がどれだけ変わってるか楽しみじゃ。おっほっほっほ。時代も進んでるし骨フェチの女子とかもいたりして」
なにその多様性。骨に群がる雌犬で勘弁してくれませんか?
「では懐かしき故郷にいくとしようか」
そう言ったシーロン様の頭蓋骨は、表情なんてない筈なのにどこか笑ってるように感じた。
シナリオ修正が目的で、ハイネに強い武器を授けて自信をつけさせようとダンジョンに来たのに、結果としてまた新たなイレギュラーが増えてしまった。どうして俺の行動は全部裏目にでるのだろうか。
嬉しそうに笑うシーロン様を見て、俺は深いため息を吐いた。
(鍛冶師には、なるべく鎧をゆっくりつくるように言っておこう……)
肺も喉もないくせに流暢に喋る骨。
ダンジョンのモンスターが現れたかと思ったがゲームには、こんな奴はいなかった。『聖者の冒険譚』にはゾンビやゴブリン、スライムなどのファンタジーで定番のモンスターはいない。
出現するのは魔人と、魔獣とよばれる獣系のモンスターのみ。つまり、この骨の存在は全くの謎だ。
「そんなに警戒する必要はない。ワシはお前の敵ではない」
「……と、言われてもその見た目では信用できないが」
「ほっほっほ、まあそうなるわな。これでも生前は非常にモテたのだが、時がたつのは早いのう。それでも若い者には、まだまだ筋肉では負けんぞ」
そういって、骸骨は自分の二の腕を叩きマッスルポーズを決めながら
「って、ワシ骸骨じゃった。こりゃ一本とられたわい。あっはっはっは」
と笑った。
一人で爆笑しているが全然面白くない。
間抜けなギャグに思わず気が抜けてしまう。本当にコイツは何者なんだ?
「あの、失礼ですがあなたは一体……」
「ワシ? 初代勇者だけど?」
「ええ!?」
初代勇者様!?
こんな馬鹿っぽい骸骨がか!?
「嘘だと思ってるじゃろ。ほれこれが証拠だ」
そう言って、骸骨が右手の甲を掲げる。そこには、勇者が覚醒した時のみに現れる聖痕が青白く輝いていた。それは、俺がゲームで見た、ハイネの聖痕と全く同じであった。それが意味することはつまり本物の初代勇者様!?
「し、失礼致しました!」
俺はその場で即膝をついて頭を下げる。
初代勇者様といえば、五百年前にこの王国を救った英雄である。たとえ国王だろうとも、礼をもって接しなければいけないような存在。
そしてなによりも……
「カッカッカ、風情もなにもない薄暗いダンジョンでそのような堅苦しい態度は不要である。ところで、お主こそ何者じゃ?」
「はっ、私の名はルドルフ・ヴァリアンツ。ヴァリアンツ伯爵家、現当主でございます」
「おおヴァリアンツかっ! なるほど、なるほど。では、その名の誇りと宿命の灯はまだ途絶えておらぬな?」
「はい、これも、貴方様の多大な功績のおかげでございます。初代勇者様……いえ今はこうお呼びましょう。初代当主、シーロン・ヴァリアンツ様」
「……久しき呼び名だ。まさか、こうして時を超えて子孫に出会えるとはな」
そう、この初代勇者様こそ、王国を救い、その功績でもって我らがヴァリアンツ家を誇りある貴族へと昇格させた、初代ご先祖様であった。
「積る話もあるだろう。ゆっくり聞かせてくれ」
◇
俺はシーロン様にダンジョンに来た経緯を説明した。
もちろん、ゲーム云々の事情は全部誤魔化した。ただ、山の上の祠は訪れたら、いつの間にかこの場所にたどり着いたと言った。正直、シーロン様が生きている(いや死んでるけど)なら、事情を説明してハイネの代わりに全ての問題を解決してもらおうかと考えたが
「ああ、ワシ聖痕は残ってるけど、勇者の力は全部失っているぞ」
と笑いながら言ってたので諦めた。
「しかし、何故シーロン様は、骸骨になってこんな場所にいるのです?」
「こんな場所とはひどいな。ここはワシの墓だぞ」
「ええっ!? そうだったんですか!?」
「おほほほ、本当だとも」
「でも、どうしてこんな場所に?」
「いやー、死ぬ間にどうせなら、未開の地をこの目で見たいと思い、獣深森の奥地まで足を運んだのだが迷子になってしまってな。で、謎のダンジョンを発見してとりあえず飛び込んでみたら、いつのまにか入り口が塞がって出られなくなったのじゃ。がははは」
なにその破天荒エピソード。ヤンチャすぎやしないか。
というか迷子になってる奴は、何故さらに奥へ進むんだ。だから迷子になるんだろ。典型的な方向音痴。まさか、こんな人がヴァリアンツ家の初代様だったとは。
「ワシも流石に死を覚悟したぞ。というか実際に一度空腹で死んだのだが、なぜか白骨した状態で生き返ってな。それ以来、ダンジョンを彷徨う亡霊として生きてきた訳だ」
「な、なるほど。まあ、そういうこともあるか? というかそこの転移魔法陣で脱出出来なかったのですか?」
「それはお主が現れてから出現したものじゃ」
「それは災難でしたね」
普通だったら到底信用できないけど、俺なんて前世でプレイしたゲームの中に転生してるしな。もはや、何が起きても不思議ではない。
「しかし、まさか山の祠がここに繋がっているとは、これも運命。愛の力じゃな」
「えっ、あの祠とシーロン様となにか関係があるのですか?」
「関係もなにも、あれは死んだ妻に遺言で頼まれてワシが建てた妻の墓じゃ。いやー、死後も繋がって、こうして子孫を連れてきたのだから、死んでも感謝しきれんのう。って、ワシもう死んでたわ。ガハハハ」
額から滝の様な汗が流れる。
やばい。どうしよう。俺その墓真っ二つにしたんだけど。ご先祖様の墓を破壊するとか笑えんぞ。最悪縛り首になるのでは?
「どうした顔色が良くないぞ?」
「い、いえ! なんでもございません。貴重なお話が聞けて嬉しかったです。剣はありがたく貰っていきます。では、私はこの辺りで失礼します。急ぎの要件が色々控えておりますので」
急いでこの場を離れよう。目的の武器も手に入ったし、これ以上ここに留まる理由はない!
「待て待て、折角子孫に会えたと言うのに、置いていくのは酷かろうて。ワシも連れてけ」
「はい!? で、でも……流石に骸骨になられたシーロン様を屋敷に置くわけには。家族も使用人も驚いてしまいます」
「それはホラ、全身を隠せるフルプレートの鎧とか用意してくれればいいからさ。ワシだって五百年ぶりに外の世界みたいんじゃ。もちろん、すぐにとは言わない。鎧が完成するまでは獣深森で散歩でもしてるぞ」
「は、はあ」
「ああ、五百年で世界がどれだけ変わってるか楽しみじゃ。おっほっほっほ。時代も進んでるし骨フェチの女子とかもいたりして」
なにその多様性。骨に群がる雌犬で勘弁してくれませんか?
「では懐かしき故郷にいくとしようか」
そう言ったシーロン様の頭蓋骨は、表情なんてない筈なのにどこか笑ってるように感じた。
シナリオ修正が目的で、ハイネに強い武器を授けて自信をつけさせようとダンジョンに来たのに、結果としてまた新たなイレギュラーが増えてしまった。どうして俺の行動は全部裏目にでるのだろうか。
嬉しそうに笑うシーロン様を見て、俺は深いため息を吐いた。
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