ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

文字の大きさ
16 / 42

父の動揺

しおりを挟む
 「前からきな臭い人物とは思っていましたが……む、どうしました?」

ディズモン伯爵の名前を出した途端に、父上が固まる。次第に額から汗が流れ始めて、明らかに動揺している。

「怪しい奴らを捕まえる用意は出来ております。命令さえもらえれば、すぐにでも処理できますが?」

「……めだ」

「なんと?」

「……だめだ。ジン、ディズモン伯爵関係には何もするな。いつも通り街の警備をするだけに留めておけ」

「は、本気ですか? 今ならまだ薬物が広まる前に取り締まれます。行動が遅れたら手遅れになりかねませんよ?」

「くっ……構わん。これは仕方がないことだ。その代わり、領民達には注意喚起をしてまわれ。なるべく被害者を減らすように動け」

「仰ってる意味が理解できません」

ディズモン伯爵を放置? なぜその必要があるのか。
この腐れ貴族は、あきらかに怪しい動きをしている。エンバース王国の法律でも、薬物の販売は厳しく取り締まりが行われる。それは相手が貴族であろうとも。

らしくない。あまりにらしくない。貴族として誇り高く、領民を守るために生きてきた父上の発言とは到底思えない。


「一体どうしたのです。被害者を減らしたいのなら、片っ端からひっ捕らえればすむ話でしょう。なにを躊躇っているので? 普段の父上なら今頃を剣を抱えて街に飛び出しているはずでは?」

「……言えない事情があるのだ」

「守るべき者を守らないで、なにが貴族か。それほどの事情があるなら、全員に相談して説明する義務があるはずだ」

しかし、それでも父上は黙ったままだった。

「ふざけないで頂きたい。ヴァリアンツ家に、領民を守る以上に大切なことなどあるわけがない。父上は貴族の誇りを失われたのではありませんか?」

「なんだと……俺のヴァリアンツ魂が腐っているとでも言いたいのかっ! 何様のつもりだ!」

誇りを馬鹿にされたのが気に食わないのか、立ち上がった父上にジンは服の襟をつかまれる。しかし、自身が間違っていないと確信しているジンは逆に睨み返す。

「私は、ヴァリアンツ家の人間として正しきことをしてるまでです。やましいことがあるのは父上の方では? その理由も言えませんか? まさか……汚職に身を染めたなんて言わないですよね?」

「貴様ぁ!」

固い拳がジンの頬を貫く。
幼少の頃より、何度も喰らった父の鉄拳。
じわりと頬から痛みが広がり、口に端から血が滴る。

「俺が汚職だと!? ふざけるな。父からこの領を託された時から、俺は謹厳実直に身を粉にして働いてきた。好き好んで領民を危険に追い込んでいると思っているのか!? なにも知らないくせに口をひらくな!」

ジンが口元の血をぬぐいながら言う。

「……真摯に民を想うならばその事情とやらも話せるはず。それも言わず、行動も起こさないから、領主失格であると言ってるだけです」

「この減らず口め!」

ルドルフの右手が再度振り上げる。しかし、ジンは怯むどころか怒りに身を任せて、怯むことなく胸倉を掴み返す。

「いくらでも殴ればいいっ。私は貴族として正しき提言をしているにすぎない。そして……私だって誇り高きヴァリアンツ家の人間だ。どれだけ殴られようとも、一歩たりとも引き下がるつもりはないっ!」

「く……」

古来より、民を愛し、勇猛果敢で誇り高いと知られるヴァリアンツ。
その血は、なにも父上だけに流れている訳ではない。私にもその真っ赤な激情の血が流れているんだとジンは心の中で叫ぶ。

正しきと思うことを成せ。
それがヴァリアンツの鉄の掟であり、たとえ相手が世界一尊敬する相手でも、ジンは意見を覆すつもりも、引き下がるつもりもない。

普段、冷静で静かなジンの抵抗に面を喰らったのか、父上は拳をさげる。

「ふん」

今のままでは話にならないと思ったジンは、父上の手を振り払い、踵を返してその場を後にするのだった。




ジンが殴られた傷を一人で手当てして考え込む。

―――やはり父の様子がおかしい

短気で猪突猛進なきらいがある父だが、一度たりともヴァリアンツ家を守る領主として、その芯がぶれたことはなかった。

明らかになにかを隠している。

その原因はなんだ?
最近やたらと気にしているハイネに関係するものか。
もしくは、唐突に呼び寄せたミラ・アンバーソンに関係が?

いやいや、そんなまさか。
だが……昔からヴァリアンツ家にはこんな格言がある。

『ヴァリアンツ家の男はいつも女で失敗をして、ヴァリンツ家の女は男選びで失敗する』と。

とはいえ、尊敬する父上のことだ。
いくら女絡みの事態になったとしても領民を危険に晒すような流石にしない。

多分……
頼むから若い女にうつつを抜かして、いい歳こいて仕事も手につかないなんてオチはやめてくれよ父上。

一抹の不安を感じながらも、きっと深い事情があるのだろうとジンは思いなおして、他の原因を探すべく、独自に調査して問題解決をしようと決意するのだった。

「あなたがなにをしているのか知りませんが、必ずこの私が見抜いてみせますよ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...