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今後の計画
しおりを挟む執務室で、俺は仕事机の向かいに座るジェフに計画書を渡す。
「これは?」
「今後ヴァリアンツ領を守るために必要なものさ」
『聖者の冒険譚』において、勇者の最大の敵となるのは魔人達の存在だが、その下につく、カルト集団とそれを操る貴族達も厄介な敵だ。
魔人は特性上勇者でしかまともダメージをあたえることが出来ないが、その他の敵は基本的に普通の人間だ。
つまり、戦力を整えれば対策可能で、勇者以外の戦力でも十分に戦えるということ。そして、これはそのための計画書だ。
「これは、また大胆な計画ですね」
「そうだろう。なんせヴァリアンツ家が……いや、王国が建国以来、五百年間、誰も達成できなかった悲願でもあるからな」
「ふふふ、もし達成すればまさに偉業ですよ……しかし、まさかヴァリアンツ領を強化するための計画が獣深森の開拓とは!」
ジェフは嬉しそうに笑いながら、夢中になって計画書に目を通していく。
獣深森は長年ヴァリアンツを苦しめてきた魔獣の住まう危険な森だ。
かつて、何度もこの地を開拓しようと歴代当主が挑んできたがことごとく失敗に終わっている。それ以来、ヴァリアンツは獣深森から出てきた魔獣や、比較的浅い場所にいる魔獣を間引くだけに留めてきた。
「しかし、何故、今頃獣深森の開拓などを?」
「もちろん理由はあるぞ」
これは俺のゲーム知識になるが、実は獣深森は宝の宝庫だ。
ゲームであれば大量の魔獣とエンカウントするこの森は、勇者のレベルアップに最適な場所だ。しかし、それ以外にももうひとつ、大きな役割がある。
獣深森の奥には標高の高い山脈が広がり、その山麓には希少な金属が眠る鉱脈が存在する。なかでも、希少金属のミスリルは、魔力との相性も良く、破滅の剣を除けば最強の金属だ。(ちなみに、破滅の剣はどの金属できているかゲーム内でも不明だ)
ゲームではミスリルを求めて、獣深森の全ての鉱脈を調査したものだ。その経験から、俺はどこに何が眠っていて、どこが最も効率的に回収できるかを熟知している。
難易度が一番低い場所なら、まとまった戦力さえあれば攻略可能だと思っている。
もし、ミスリルを大量に採取できればヴァリアンツ兵の装備を大幅に強化できるし、そうすれば、魔人以外の敵はハイネでなくても戦えるようになる。
もし、シナリオ通りに進まず、ヴァリアンツ領が敵側に目をつけられて戦火に巻き込まれようとも、これなら追い返すことだって不可能じゃない。
さらに、ゲームとは違い現実にはステータスなどは無いが、魔獣を倒していけば訓練になり確実に兵士達は強くなる。今でも魔獣と戦っているが獣深森の開拓となれば、戦闘回数は比にならず、各段に戦力向上となり、まさに一石二鳥というわけだ。
「ミスリルで兵士の装備を整えるのは分かりましたが、戦力としては過剰すぎる気もしますね。こんな事をしたら王国に目をつけれてしまうのでは? ルドルフ様は一体なにと戦うつもりなので?」
「……それは言えない。しかし、このくらい必要な敵ということだ」
魔人のことはまだジェフに言うべきではないだろう。
もはや、どこに敵の耳があるか分かったものではないし、下手に騒いでシナリオに大きな齟齬が生まれるのは避けたい。
今更かもしれないが、せめてハイネが魔剣士学園に通い、勇者覚醒イベントにこぎつけるまでは、魔人と敵対する意思を公表するつもりはない。
「しかし、獣深森にミスリルが眠っているなんて、よく知っていましたね。こんな話は聞いたことないですが……ルドルフ様はどこでこんな話を?」
「……それは言えん」
「ふーむ、あやしい。ジン殿が疑う気持ちが少し分かってきたような」
「お、お前裏切るつもりか!」
「ふふふ、まさか。男は多少ミステリアスな方が魅力的といいますし、詮索はしませんよ。それより、これほど壮大な計画だと明日から忙しくなりそうですね」
「ああ、まずは兵の訓練の強化と、獣深森を切り開く場所に拠点をたてるためなどの下見が必要だろう」
「ええ、私はそれで構いませんよ……しかし、どうやらメンバーは追加になりそうですが」
「ん、どういうことだ?」
すると、執務室のドアの向こうから「おい、押さないでくれ」「いいえ、あたしにもルドルフ様のお姿を拝ませてください!」「ちょ、下敷きになってますいたたた」と聞こえてきて、ジェフがドアを開くと、ハイネ、ミラ、セレンが雪崩のように崩れ落ちて入室してきた。
「……お前等、何をしてる?」
「ち、てぃてぃうえぇ!」
ハイネが勢いよく起立して叫ぶ。
「話は全て聞かせて頂きました! このハイネ、不肖ながらも父上のお力になりたく思い、獣深森の視察へ同行させて頂きだあぶへ!?」
ミラが立ち上がり、ハイネを押しのけて目を輝かせながら口を開く。
「ルドルフ様! あたしも連れて行ってください! こう見えても腕は立つのでハイネなどよりもきっと役に立ちます!」
「お、おい! 話がちがうじゃないか、なんで邪魔するんだよ!」
「そっちこそ、応援してくれるって言ったじゃない!」
「そ、それはそうだけどさー」
「落ち着いて二人とも! ルドルフ様が困ってるよぉ」
ないやら言い争いをするミラとハイネを、メイドのセレンが慌てて落ち着かせる。
……んー、なんだろコレ。
うっ、またストレスが増える予感が。
というか、お前達いつの間のそんなに仲良くなったの?
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