ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

文字の大きさ
23 / 42

今後の計画

しおりを挟む

執務室で、俺は仕事机の向かいに座るジェフに計画書を渡す。

「これは?」

「今後ヴァリアンツ領を守るために必要なものさ」

『聖者の冒険譚』において、勇者の最大の敵となるのは魔人達の存在だが、その下につく、カルト集団とそれを操る貴族達も厄介な敵だ。

魔人は特性上勇者でしかまともダメージをあたえることが出来ないが、その他の敵は基本的に普通の人間だ。

つまり、戦力を整えれば対策可能で、勇者以外の戦力でも十分に戦えるということ。そして、これはそのための計画書だ。

「これは、また大胆な計画ですね」

「そうだろう。なんせヴァリアンツ家が……いや、王国が建国以来、五百年間、誰も達成できなかった悲願でもあるからな」

「ふふふ、もし達成すればまさに偉業ですよ……しかし、まさかヴァリアンツ領を強化するための計画が獣深森じゅうしんりんの開拓とは!」

ジェフは嬉しそうに笑いながら、夢中になって計画書に目を通していく。

獣深森は長年ヴァリアンツを苦しめてきた魔獣の住まう危険な森だ。

かつて、何度もこの地を開拓しようと歴代当主が挑んできたがことごとく失敗に終わっている。それ以来、ヴァリアンツは獣深森じゅうしんりんから出てきた魔獣や、比較的浅い場所にいる魔獣を間引くだけに留めてきた。


「しかし、何故、今頃獣深森の開拓などを?」

「もちろん理由はあるぞ」

これは俺のゲーム知識になるが、実は獣深森じゅうしんりんは宝の宝庫だ。

ゲームであれば大量の魔獣とエンカウントするこの森は、勇者のレベルアップに最適な場所だ。しかし、それ以外にももうひとつ、大きな役割がある。

獣深森の奥には標高の高い山脈が広がり、その山麓には希少な金属が眠る鉱脈が存在する。なかでも、希少金属のミスリルは、魔力との相性も良く、破滅の剣を除けば最強の金属だ。(ちなみに、破滅の剣はどの金属できているかゲーム内でも不明だ)

ゲームではミスリルを求めて、獣深森の全ての鉱脈を調査したものだ。その経験から、俺はどこに何が眠っていて、どこが最も効率的に回収できるかを熟知している。

難易度が一番低い場所なら、まとまった戦力さえあれば攻略可能だと思っている。

もし、ミスリルを大量に採取できればヴァリアンツ兵の装備を大幅に強化できるし、そうすれば、魔人以外の敵はハイネでなくても戦えるようになる。

もし、シナリオ通りに進まず、ヴァリアンツ領が敵側に目をつけられて戦火に巻き込まれようとも、これなら追い返すことだって不可能じゃない。

さらに、ゲームとは違い現実にはステータスなどは無いが、魔獣を倒していけば訓練になり確実に兵士達は強くなる。今でも魔獣と戦っているが獣深森の開拓となれば、戦闘回数は比にならず、各段に戦力向上となり、まさに一石二鳥というわけだ。

「ミスリルで兵士の装備を整えるのは分かりましたが、戦力としては過剰すぎる気もしますね。こんな事をしたら王国に目をつけれてしまうのでは? ルドルフ様は一体なにと戦うつもりなので?」

「……それは言えない。しかし、このくらい必要な敵ということだ」

魔人のことはまだジェフに言うべきではないだろう。
もはや、どこに敵の耳があるか分かったものではないし、下手に騒いでシナリオに大きな齟齬が生まれるのは避けたい。

今更かもしれないが、せめてハイネが魔剣士学園に通い、勇者覚醒イベントにこぎつけるまでは、魔人と敵対する意思を公表するつもりはない。

「しかし、獣深森にミスリルが眠っているなんて、よく知っていましたね。こんな話は聞いたことないですが……ルドルフ様はどこでこんな話を?」

「……それは言えん」

「ふーむ、あやしい。ジン殿が疑う気持ちが少し分かってきたような」

「お、お前裏切るつもりか!」

「ふふふ、まさか。男は多少ミステリアスな方が魅力的といいますし、詮索はしませんよ。それより、これほど壮大な計画だと明日から忙しくなりそうですね」

「ああ、まずは兵の訓練の強化と、獣深森を切り開く場所に拠点をたてるためなどの下見が必要だろう」

「ええ、私はそれで構いませんよ……しかし、どうやらメンバーは追加になりそうですが」

「ん、どういうことだ?」

すると、執務室のドアの向こうから「おい、押さないでくれ」「いいえ、あたしにもルドルフ様のお姿を拝ませてください!」「ちょ、下敷きになってますいたたた」と聞こえてきて、ジェフがドアを開くと、ハイネ、ミラ、セレンが雪崩のように崩れ落ちて入室してきた。

「……お前等、何をしてる?」

「ち、てぃてぃうえぇ!」

ハイネが勢いよく起立して叫ぶ。

「話は全て聞かせて頂きました! このハイネ、不肖ながらも父上のお力になりたく思い、獣深森の視察へ同行させて頂きだあぶへ!?」

ミラが立ち上がり、ハイネを押しのけて目を輝かせながら口を開く。

「ルドルフ様! あたしも連れて行ってください! こう見えても腕は立つのでハイネなどよりもきっと役に立ちます!」

「お、おい! 話がちがうじゃないか、なんで邪魔するんだよ!」

「そっちこそ、応援してくれるって言ったじゃない!」

「そ、それはそうだけどさー」

「落ち着いて二人とも! ルドルフ様が困ってるよぉ」

ないやら言い争いをするミラとハイネを、メイドのセレンが慌てて落ち着かせる。

……んー、なんだろコレ。
うっ、またストレスが増える予感が。

というか、お前達いつの間のそんなに仲良くなったの?

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...