ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

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団長と副団長

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―――翌日

俺は兵士達が集まる修練場へと足を運んでいた。

ここに来た理由は昨日ジェフと相談した計画を実行するためだ。兵士の訓練強化と獣深森じゅうしんりんの開拓に乗り出すのを、兵士や軍団長達に伝えるのが目的である。

そこまでは予定通りだったのだが……


「お前達本当についてくるつもりか?」

「はい! 父上の近くで色々と勉強させて頂きたく思います」

「あたしもルドルフ様のご雄姿をぜひこの目でみたいですわ!」

目を輝かせたハイネとミラが俺を見つめてくる。その後ろにはセレンが付き従っている。

この三人は昨日執務室に乗り込んできた後、しばらく俺と一緒に行動したいとお願いしてきた。

「まあ、見学くらいなら自由にすればいいが……」

それよりも、この二人はいつの間に仲良くなったんだ?
昨日まで初対面だったのに。

仲良くなって欲しいと願ったのは俺だが、まさか即日対応までしてくれるとは想像してなかったぞ。

しかし、これは良い吉兆かもしれない。あれほど武官に興味を示さなかったハイネが修練場の見学をしたいと言っているのだ。

もしや、これはミラの作戦なのでは?

魔剣士学園にハイネを誘って欲しいとお願いした翌日にこれだ。きっとミラがハイネに良い影響を与えてくれたに違いない。

ゲームの時とミラの性格が若干違うのは違和感あるが、まちがいなくこれはグッジョブだ。これからも彼女の活躍に期待したい。

お礼の意味を込めてミラに向けて親指を立てて笑うと、彼女は何故か興奮したように顔を赤らめて「ぐふふ」と怪しげに笑った。

なんだろう。とても不安になるリアクションだ。

本当にこの子に任せて大丈夫だったのだろうか。そんな不安が頭によぎる。

いやいや、俺は何を心配してるのだ。全然問題ないはずだ。成績優秀で、後に聖女と覚醒するミラに怪しい点などあるはずがない。どうも最近は、シナリオブレイクがおきないか四六時中ビクビクしているせいで心配性が加速しているな。


「ルドルフ様、既に全員揃っているみたいです」

修練場につくと、ジェフがそう伝えてくる。

修練場は広い訓練スペースがあり、隣には兵士の宿舎が隣接されている。訓練スペースには事前に召集をかけておいたので、大勢の兵士が一糸乱れぬ綺麗な列を組んで並んでいた。

修練場が見渡せる位置に置いてある朝礼台へ登ると、全兵士がこちらに視線を向けてくる。

俺が定位置につくと朝礼台の左隣に立っていた赤髪の屈強そうな男が叫んだ。

「おうおうオメーラ! ルドルフの旦那からすんげえお知らせがあるらしいから、耳の穴かっぽじってよくききやがれ!」

「「「「「はっ!」」」」

「さあさあ、旦那どうぞ好きに話をしてください」

兵士達の揃った返事を聞き届けると、赤髪の男が満足そうな笑顔で俺にそう言ってきた。

この男の名前はエドワード。

ヴァリアンツ家の兵士をまとめている軍団長だ。赤髪のマンバンヘアが特徴的で、戦闘の腕は非常に立つのだが、あまり育ちがよくないせいか、言葉遣いが非常に荒い。

「こら、馬鹿団長! ルドルフ様に失礼だから旦那呼びはやめなっていつもいってるでしょう!」

エドワードが能天気に笑っていると、朝礼台の右側にいたショートボブの女が咎める。

彼女の名前はキアン。軍の副団長を任されている。
全身スラっとした細身の体形で、髪色は明るいライトブルー。切れ目の一重で、クール系の美人。

そんな彼女が眉間に皺をよせて、団長を睨みつける。しかし、エドワードはあっけからんとした態度を崩さない。

「けっけっけ、けどよ別に旦那呼びで怒られたことないし構わねーだろ。ね、旦那?」

「いや、何度も注意したが、お前が忘れてるだけだぞ」

「ええ!? そうだっけ?」

エドワードはすっとぼけた表情でつぶやいた。

その間抜けな顔を指さしながら、キアンが腹を抱えて煽るように笑う。

「ぷぷぷ、ほら見なさい! いつもいい加減だからそんなことも忘れるのよ。あんたの脳みそヒヨコより小さいんじゃない? 馬鹿に団長は不相応だから、さっさと引退して私に席を譲れば?」

「おお、こわ。だから彼氏いない歴=年齢なんじゃね」

「おい、ぶっ殺すぞクソガキ。いますぐズボン脱げや、そぎ落としてやる」

「ああん? やれるもんならやってみろ性格不細工がぁ。あと俺の方が年上だかんな!」

「うっせえんだよ!」

「ぐああ!?」

そのまま二人を見守ってると、キアンが不意打ちでエドワードの顎にスーパーマンパンチをお見舞いする。合図もなく殴り合いの喧嘩がはじまってしまった。

「卑怯だぞてめえ!」

「喧嘩に卑怯も正義もあるか! さっさと私に団長の座をよこせええ!」

「いやだあ、俺は死ぬまで団長がいい! だって名前の響きがカッコいいから!」

二人の喧嘩に、真面目に整列していたはずの兵士たちが興奮した様子で「キアン様やっちまえ!」「団長をころせえ!」「団長骨は拾ってやるぞ!」と声援を送る。

……いや、どう考えてもいま俺が話をする流れだったろ。なんでコイツら俺を無視して喧嘩してんだよ。

しかも、誰も止めないし。
あと、エドワードお前団長のくせに人望なさすぎな。

うちの兵士達が脳筋なのは知っていたけれど、前世の記憶を思い出してから改めてみると、ひどいなんてもんじゃないな。

こんな団長と副団長で、今までよく組織として成立してきたなッ!


「うるさいぞ馬鹿者ぉぉ!」

「「痛い!?」」

一向に収拾がつかないので、とりあえずキアンとエドワードを殴っておく。馬鹿には言葉よりも拳で会話をした方が話がスムーズに進む場合がある。そのことを、俺は過去にこいつらを指導した経験から学んでいる。


「お前らもだ! 早くもとの場所に戻れアホ共!」

怒鳴りつけると兵士達は急いで「なんでぇ」「いいところだったのに」と不満げに定位置に戻った。エドワードとキアンも頭を押さえながら、しぶしぶ大人しくなる。

あらためて、俺は朝礼台に登り、限界まで声を張り上げる。

「聞けええ、お前達ぃ。いまから重要なことを伝える!」

そう宣言すると、兵士達は俺の言葉に耳を傾けるのだった。
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