【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

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23 あなたに抱いてほしい ※

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 ほとんどことばを交わすことなくアレックスとふたりで夕食を終えて、部屋に戻って交互に風呂を済ませた。
 念入りに身体を洗いながら、大それたことを言ってしまったとリュカはひどく後悔した。
 きっと、アレックスはリュカのことを軽蔑しただろう。それはしかたのないことだが、アレックスの意思を無視するような卑怯なやり方を選ぶべきではなかった。

 寝室のドアノブを握る手が震えている。心臓が飛び出してしまいそうなほどにやかましい。
 そっと寝室のドアを開けると、アレックスはいつも座っている窓際の椅子ではなく、ベッドに腰を下ろしていた。部屋は暗く、枕元にあるランプの灯りはついているが、背中を向けているので本を読んでいるのか、ただ座っているだけなのかは判別できない。リュカが部屋に入ったことくらい気づいているだろうに、アレックスはなんの反応も示さなかった。

「アレックス隊長……」

 そばに行って声をかけると、アレックスはようやく顔を上げてこちらを見た。

「先ほどは、大変失礼いたしました。……あんなことを言いましたが、無理ならいつもの魔力供給でお願いいたします。……その、くちづけも無理をなさっているのなら、しなくても……」
「……オレが魔力を供給しなければ、おまえはウィルフリッドのところへ行くんだろう」
「そうなりますが、アレックス隊長が望まないのでしたら、俺は――」

 不機嫌そうにリュカのことばを遮り、アレックスが口を開く。

「おまえにウィルフリッドのところへ行かれては困るから、オレが抱くと言ったんだ。何度も同じことを言わせるな」

 逃がすまいとするように、強い力で腕をつかまれた。アレックスの手は、やけどしそうなほどに熱い。

「でも……アレックス隊長は、俺を抱けませんよね?」
「なにを言っている?」
「アレックス隊長は、男を抱けないと聞きました」

 リュカがいた娼館の客は貴族の男だけで、扱っているのは男娼だけだった。友人だった男娼の話によると、そもそも男娼だけの店はかなりめずらしいらしい。この国では圧倒的に娼婦しかいない娼館のほうが多いのだ。
 アレックスが通っていた娼館の詳細は知らないが、リュカへの魔力供給をくちづけだけで済ませていたことといい、最初の晩に手を出さなかったことといい、ハルネスのことばを肯定するだけの条件がそろっている。

「そんなこと、だれが――いや、ハルネスだな……あいつ」

 忌々しそうに低い声でつぶやき、アレックスが舌打ちする。

「娼館では、女性を抱いていたんですよね?」

 女だろうと男だろうと、アレックスが毎晩だれかを抱いていたのかと思うと、胸が軋んでじくじくと痛みを発した。

「おまえを抱けないとは言っていない」

 このうつくしい水色の瞳は、リュカの欲望など見透かしているのかもしれない。アレックスのやさしさがうれしいのに、すごく苦しい。

「……では、無理はしないと約束してください」
「それはオレが言うことだ」
「俺は、無理なんてしてません」
「そんなに身体を固くして言うことじゃない。……おまえは、本当はウィルフリッドの部屋に行きたいと思っているんじゃないのか? ――いまなら、逃がしてやってもいい」

 そう言いながらも、アレックスはリュカの腕をつかむ手の力を緩めなかった。

「たしかに、俺はウィルフリッド殿下のことを……」

 そこまで言いかけて、腕に痛みが走った。怒りに満ちた瞳がリュカをまっすぐに射抜く。

「でも……俺は、あなたに抱いてほしい」
「……っ、あまり、オレを煽るな。自制が利かなくなる」

 殴りかかってきそうな形相で言いながら、アレックスはリュカをベッドへ引きずり込んだ。ベッドに押し倒されて、アレックスを見上げる格好になる。

「あなたの好きに扱ってください。俺は、あなたのものですから」
「――黙れ」

 乱暴なことばを吐きながら押しつけられた唇は、ずいぶんとやさしかった。唇を伝って流れ込んでくる魔力の温かさに涙がこぼれそうになる。アレックスの魔力は、とてもやさしい。

 しばらくのあいだ唇を押し当ててから離し、アレックスがべつの角度から顔を寄せてくる。それが何度も繰り返されて、唇が触れ合う感触の気持ちよさにリュカの身体はみるみるとこわばりをほどいていった。

「ん……っ」

 ふいにくちづけが深くなって、口内にぬるりとしたものが入り込んでくる。リュカが驚きに身体を跳ねさせ、顔を背けても、アレックスの手が顔の向きを強引に変えて、またそれがなかに入ってくる。

「ふぁ……っ、んう……ッ!」

 それがアレックスの舌なのだと気づいて、かっと頭に血が上った。まるでリュカの弱点を探すかのように口内をあちこちつついて回った舌先は、やがてリュカが反応した場所を重点的に責め立てた。

 歯の付け根をくすぐられ、上顎を舐められ、舌先を吸われる。舌を絡めろとばかりに舌先を食まれ、おずおずと舌を突き出せばくちづけはいっそう濃厚になった。
 混ざり合ってどちらのものかわからない唾液を、何度も何度も嚥下した。快感にとろけたリュカの身体は、べつの生き物のようにやわらかくなっていく。呼吸が乱れ、火照っていく。

「……は、あ……っ」

 熱い。身体が熱い。自分の身体の一部が反応していることに気づいて身を捩ろうとしたが、アレックスの身体が上に乗っていて身動きが取れなかった。

「こっちも触ってほしいのか?」
「――んあ……ッ!」

 艶めいた声に耳元でささやかれ、脚の付け根を硬いもので擦られた。自由になった唇から自分のものとは思えないような声が漏れて、とっさに手のひらで口を覆ったが、すぐにアレックスの手に退けられる。

「唇を覆ってしまっては、魔力が供給できんだろうが」
「だっ、あ……こえ……ッ」
「余計な心配はするな。防音魔法をかけてある」
「そ、じゃな……っ、あっ」

 部屋の外に声が聞こえる可能性なんてまったく考えていなかった。むしろ室内の相手に聞かれたくなかったのだ。
 リュカの両腕をつかんだまま、アレックスが性器を圧迫してくる。

「なんだ、オレに聞かれたくなかったのか。なおさら、そんな心配は不要だ」

 どうして心配が不要になるのか、意味がわからない。男の声なんて不快でしかないだろうに。アレックスはずっと不機嫌そうな顔のままで、リュカがどんな反応をしても苛立っているようにしか見えなかった。

「や……っ、も、でちゃ……ああ……ッ!」

 このままでは下着や寝間着を汚してしまう。必死に手足を動かすと、両腕は解放されたが、代わりに寝間着のズボンを脱がされた。

「どうやら遅かったようだな。下穿きに染みができているぞ」
「……っ」

 下着の布地を持ち上げ、色が深くなったそこをアレックスにじっと見つめられて、あまりの羞恥に泣きたくなった。その上、アレックスの手に寝間着だけでなく精液で汚れた下着もすべて取り払われ、裸にされた。
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