余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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休日は脱穀日和

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「そういえば、テイランってかなりヤバイんだろう? 実家も残っているの?」

 シンの知ってる限り、テイランは国の存続も無理である。ヒノモト侯爵家は以前、カミーユを頼ってティンパインに亡命希望していると聞いた記憶がある。
 カミーユは断りを入れていたが、それから特に話に上がっただろうか。

「だいぶ前に手紙も途切れているでござるからなぁ。二度と顔を見たくないでござる」

 後半が本音だろう。心配しているというより、そのまま二度と人生に関わって欲しくない。出てこないでくれと思っていそうだ。
 いつになくブラックオーラを漂わせるカミーユに、ビャクヤとレニは苦笑している。エリシアだけが状況を察しつつも、完全には飲み込めていない。咄嗟に、隣のシンを指で突く。

「ね、ねえ。カミーユの実家ってその」

「ろくでなしが多いらしいから、突っ込んでやるな。母親はまともだけど、親父や長男兄貴とかは最低最悪みたいだし」

 シンが断言するので、エリシアは顔色を悪くさせながら頷いた。
 ござる喋りが独特な能天気な少年だと思っていたカミーユが、意外と苦労性だった。





 待ちに待った休日。
 シンは手早く用意を済ませ、マジックバッグに米を入れて出発する。
 レニたちが一緒についていくと言ったけれど、その後でグラスゴーのストレス発散に遠乗りをすると言ったら黙ってしまった。
 脅すつもりはなかったのだが、グラスゴーは車だとスポーツカーやレースカーの性能に、戦車の火力を足したような魔馬である。
 最近遠乗りができておらず、嬉しさ爆発してハッスルする可能性が高い。
 厨房の人に教えてもらった通り、目立つ看板があったので目的地はすぐに分かった。脱穀機の音なのが、外からでも音が響いている。扉を開けると、一段と大きく鳴り響いていた。
 年季の入った木製のカウンターがあるけれど、受付は不在だ。奥にある廊下では、忙しなく店員らしき人たちが行き来している。

「七丁目の騎獣屋に卸す分は脱穀できた!?」

「できたけど……袋に穴が空いてこぼれた! まだ時間がかかる!」

「貴族街行きの飼料のブレンドは!?」

「馬が動かないー! こんな重たいの、このボロ馬には無理だよ!」

 修羅場真っ最中だ。
 聞こえてくるだけで、トラブル発生と確認の声が飛び交う。

「やっぱり新しい騎獣を買ったほうがいいよ! こいつだけじゃ回らねえ!」

「なら騎獣屋行くついでに、良さげなの買ってこい! とにかく運べ!」

「大変! 動かないの、重さじゃなくて怪我だ! 蹄に釘が刺さってる!」

 店の奥からどよめきが広がり、次に怒号と悲鳴交じりの絶叫が響く。
 シンが待っていても仕方がないと、カウンターのベルを鳴らすが気づいていない。絶叫にかき消されている。絶叫の原因である馬の怪我は致命的なアクシデントらしい。
 来客に気づく様子がないので、シンは静かに腹をくくった。不本意だが、首を突っ込むことにしたのだ。
 一度外に出て、店の横の道から奥に行く。多分、店の裏側に繋がっているはずだ。

「あのー」

「ん? 新しいの雇ってたか?」

 小太りのTheおっさんな中年男性が、シンの声に怪訝そうな顔を出し振り返る。

「客です。何かありましたか?」

 聞こえていたけれど、すらっとぼけて質問するシンである。

「客? 珍しいなぁ。大抵常連だから、すっかり店番を留守にしちまっていたな。悪い悪い。
 まあ、見ての通りだ。馬がケガしちまってな。治るのを待ってられねぇし、かといって神殿や医者は家畜や騎獣の治療は後回しにされるからなぁ」

 困ったもんだぜ、と肩をすくめるおっさんである。
 シンが彼の隣にいる馬を見ると、後ろ脚の蹄が一つ割れて、そこからじわじわと血が出ている。体重をかけると痛いのか、その足を浮かせていた。
 かなり手入れを怠っているのか、普通の馬の蹄の二倍くらいある。

(輸送中に、落ちた釘でも踏んだかな。そんなに重傷じゃないか?)

 馬は骨折だと殺処分にされやすい。シンはさっと馬に近づき魔法を使う。蹄を水で洗い流し、治癒をかける。泥はだいぶ落ちたけれど、削蹄されていない不格好な蹄が目立つようになった。
 無詠唱、そしてあまりに素早い処置だったのでおっさんはぽかんと口を開けていた。

「念のため、ポーションを飲ませても?」

「え? ああ……でも、高いだろ」

「自作なんで、そんなに気にしないでいいですよ」

 興味本位と趣味でポーションを作っているが、怪我を治すより、グラスゴーたちの機嫌を直すためのおやつに使われることが多い。
 蓋を外し、馬の口元にポーションを差し出す。馬はおずおずとこちらを見つつも、そっと瓶を咥えて飲み干した。

(毛艶もいまいちだし他の蹄もボロボロだよな)

 少しでもコスト削減をしようと、馬に掛ける費用をケチっているのかもしれない。
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