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連載
ボロ馬ビフォーアフター
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ボロ馬なんて呼ばれるのも納得してしまうくらいには、手入れがされていないのが分かる。
馬は自分に優しくしてくれたシンを、キラキラした目で見ている。ずっと痛くて辛い思いをしていたのがなくなり、嬉しいのだろう。
馬を見ていると嫌でも目に入る、繋がれた荷台。その上にうずたかく積まれた、重そうな麻袋。
「……これ、一頭の馬に運ばせる量じゃないですよ。ばんえいでもないのに」
こんな無茶をさせたら馬の体もボロボロになる訳だ。無茶をすれば疲労も大きいし、怪我のリスクも高まる。短期間で何度も馬を使い潰していたら、そのほうが無駄な出費になる気がする。
「だがなあ、馬は結構出費がデカいんだ」
先ほど騎獣屋に行けと指示が聞こえたのに。騎獣屋に行くのが面倒なのか、馬を見る目に自信がないのかは分からない。いずれにしろ、乗り気ではない。
「何度も買い直すほうが、お金がかかりますよ。それにこの子が病気や怪我で動けなくなったら、フォローが大変ですよ」
オッサン店員も分かっているのか、渋い顔した。もしかしたら、過去に似たような経験があるのかもしれない。
仕事の繁忙ぶりを見る限り、稼ぎがないわけではなさそうだ。学園に商品を卸しているくらいだから、信用された店で複数の太客がいるはずだ。
「しゃあねえな。新しいの仕入れるか。こいつはもう動かないみたいだし」
今日は特に言うことを聞かない。荷物を嫌がっていたし、ボロボロの蹄や毛並みは分っていた。数年前まで二、三頭で回していたが、一頭でも何とかできるのではと横着していたのである。
こいつ、と馬を見上げたオッサンは一瞬止まる。
気のせいか、馬が若返ったような顔つきになっている気がする。目に精気が戻っているからだろうか。滅多にもらえない果実を子供から貰っているから、元気に見えるだけかもしれない。
「馬の手入れ道具持っていますし、体とか蹄を綺麗にしてやっていいですか?」
「あ、ああ。そういや、坊主。ここに用があってきたんだろ?」
馬に気を取られていたところで声をかけられ、一瞬驚くオッサン店員。シンは不思議そうな顔をしたが、すぐに馬のほうを見た。
「はい、籾摺りを頼みたいです。米は持ち込みですけれど、大丈夫ですか?」
オッサンはこくりと頷く。さっきまで苛立っていた馬は、嘘のように上機嫌だ。顔を擦り付け、ブラシを選んでいるシンに擦り寄ってアピールをしている。
シンは米の入った袋を渡すと、すぐに馬の手入れにかかった。その辺にあった使い古した椅子の上に、道具を置いて世話を始める。
どうせ、籾摺り中は待ち時間だ。馬の姿は気になっていたし、暇を潰せる。
「これくらいの量なら、道具が空く時間も考えると……まあ、一時間ちょいだな」
「分かりました。ここで待っています」
とりあえず、怪我をしていた足から診ていこう。
怪我は治しても、長らく手入れを怠った蹄は酷いもの。泥と敷き藁が固まって張り付いているし、伸びきった蹄はひび入りの分厚いフリットの衣のような有様だ。一体どれくらい削蹄していないのだろうか。
これでは、いつまた怪我をするか分からない。
(忙しいとはいえ、この扱いはちょっとなぁ……)
現在愛馬を二頭持ちで、元騎獣屋アルバイターだったシン。馬の手入れくらいは余裕だ。
グラスゴーとピコはこまめに手入れをしているので、こんなに豪快に削ったことはない。形を整えた後は歩きやすくなったのか、馬も嬉しそうだ。
その後は飼葉を与えながら、ブラッシング開始だ。石のように固い毛玉と埃の塊は鋏やナイフで切り落とす。ここまでガチガチに固まっていると、ブラシが通らない。強引に梳かそうとすると、ごっそりと脱毛されてしまう。力づくだと皮膚ごと千切れるので、切るか剃るかがいい。
馬は自分に優しくしてくれたシンを、キラキラした目で見ている。ずっと痛くて辛い思いをしていたのがなくなり、嬉しいのだろう。
馬を見ていると嫌でも目に入る、繋がれた荷台。その上にうずたかく積まれた、重そうな麻袋。
「……これ、一頭の馬に運ばせる量じゃないですよ。ばんえいでもないのに」
こんな無茶をさせたら馬の体もボロボロになる訳だ。無茶をすれば疲労も大きいし、怪我のリスクも高まる。短期間で何度も馬を使い潰していたら、そのほうが無駄な出費になる気がする。
「だがなあ、馬は結構出費がデカいんだ」
先ほど騎獣屋に行けと指示が聞こえたのに。騎獣屋に行くのが面倒なのか、馬を見る目に自信がないのかは分からない。いずれにしろ、乗り気ではない。
「何度も買い直すほうが、お金がかかりますよ。それにこの子が病気や怪我で動けなくなったら、フォローが大変ですよ」
オッサン店員も分かっているのか、渋い顔した。もしかしたら、過去に似たような経験があるのかもしれない。
仕事の繁忙ぶりを見る限り、稼ぎがないわけではなさそうだ。学園に商品を卸しているくらいだから、信用された店で複数の太客がいるはずだ。
「しゃあねえな。新しいの仕入れるか。こいつはもう動かないみたいだし」
今日は特に言うことを聞かない。荷物を嫌がっていたし、ボロボロの蹄や毛並みは分っていた。数年前まで二、三頭で回していたが、一頭でも何とかできるのではと横着していたのである。
こいつ、と馬を見上げたオッサンは一瞬止まる。
気のせいか、馬が若返ったような顔つきになっている気がする。目に精気が戻っているからだろうか。滅多にもらえない果実を子供から貰っているから、元気に見えるだけかもしれない。
「馬の手入れ道具持っていますし、体とか蹄を綺麗にしてやっていいですか?」
「あ、ああ。そういや、坊主。ここに用があってきたんだろ?」
馬に気を取られていたところで声をかけられ、一瞬驚くオッサン店員。シンは不思議そうな顔をしたが、すぐに馬のほうを見た。
「はい、籾摺りを頼みたいです。米は持ち込みですけれど、大丈夫ですか?」
オッサンはこくりと頷く。さっきまで苛立っていた馬は、嘘のように上機嫌だ。顔を擦り付け、ブラシを選んでいるシンに擦り寄ってアピールをしている。
シンは米の入った袋を渡すと、すぐに馬の手入れにかかった。その辺にあった使い古した椅子の上に、道具を置いて世話を始める。
どうせ、籾摺り中は待ち時間だ。馬の姿は気になっていたし、暇を潰せる。
「これくらいの量なら、道具が空く時間も考えると……まあ、一時間ちょいだな」
「分かりました。ここで待っています」
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これでは、いつまた怪我をするか分からない。
(忙しいとはいえ、この扱いはちょっとなぁ……)
現在愛馬を二頭持ちで、元騎獣屋アルバイターだったシン。馬の手入れくらいは余裕だ。
グラスゴーとピコはこまめに手入れをしているので、こんなに豪快に削ったことはない。形を整えた後は歩きやすくなったのか、馬も嬉しそうだ。
その後は飼葉を与えながら、ブラッシング開始だ。石のように固い毛玉と埃の塊は鋏やナイフで切り落とす。ここまでガチガチに固まっていると、ブラシが通らない。強引に梳かそうとすると、ごっそりと脱毛されてしまう。力づくだと皮膚ごと千切れるので、切るか剃るかがいい。
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