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連載
待望のお米
(忙しいとはいえ、この扱いはちょっとなぁ……)
現在愛馬を二頭持っており、元騎獣屋アルバイターだったシン。馬の削蹄くらいなら余裕だ。
グラスゴーとピコはこまめに手入れをしているので、こんなに豪快に削ったことはない。形を整えた後は歩きやすくなったのか、馬も嬉しそうだ。
その後は飼葉を与えながら、ブラッシング開始だ。石のように固い毛玉と埃の塊は鋏やナイフで切り落とす。ここまでガチガチに固まっていると、ブラシが通らない。強引に梳かそうとすると、ごっそりと脱毛されてしまう。力尽くだと皮膚ごと千切れるので、切るか剃るかがいい。
無心で毛並みを整えていると、オッサン店員が戻ってきた。その手には、籾摺り済みらしき米が入った袋を持っている。
「……うちの馬か、そいつ」
「そーですよ。綺麗になってでしょう。大事にしてあげてくださいよ」
ボロ馬がサラブレットのようにぴっかぴかだ。
馬なので当然喋りはしないが『こんなに大事にされたの初めてで嬉しいです』と、はつらつとした表情が語っている。
「……こいつ、こんなに若かったっけ?」
オッサンが別馬並みに変わった姿に、しげしげと馬を眺めながら呟く。
当たり前であるが、シンはすり替えなどしていない。
「酷使しすぎですよ。あと世話をさぼると病気や怪我のもとですから」
あの足の怪我だって、放っておけば命にかかわっていただろう。雑すぎる世話では、感染症などを起こしかねない。
シンはグラスゴーたちを飼うようになってから、馬好きというか、贔屓があるのは自分でも理解している。余計な忠告だと思いつつ、この馬がまた粗雑に扱われるのは避けたかった。
渋るオッサン店員は「でもなぁ」とぶつくさ言っている。
ふと、厩舎を見ると三頭分はある。本来は複数で運搬していたのを、ケチったのだろう。
「馬は高いんだよ」
「ロバでも牛でも荷は曳けますよ」
運ぶ速度と量はその個体による。馬よりペースダウンするかもしれないが、馬より安価な荷物運び用の騎獣はいる。
シンとしてはお得意様への配達に穴をあけるほうが、商売の上であってはならないと思う。信用にかかわる問題だ。
そもそも、馬を飼うのはオッサンのポケットマネーじゃなくてお店のお金のはずだ。
(でも、外野がこれ以上言うのは営業妨害かな)
籾摺りの終わった袋を見ると、玄米ではなく白い米が見えた。ぬかもないとなると、精米済みということだろうか。
「精米までしてくれたんですか?」
「そーいうもんだろ?」
シンが喜びに顔を上げるが、オッサン店員は良く分かっていないらしい。
人が食べる分は、それ用の道具の中にぶち込んで終わりらしい。中がどうなっているかは、メンテナンス業者しか知らず、店員すらどうやってこの状態で出てくるか不明だそうだ。
とりあえず、すぐ食べられる状態に仕上げてもらったのでよしとする。
シンは期待に胸を膨らませ、寮に戻る。あとは米を炊くだけだ。
そこでふと気づく。飯盒、土鍋、圧力釜など、一般的に米を炊く道具がない。普通の鍋はあるが、それだと圧力が足らずでちゃんと炊けるか分からない。炊飯器なんて当然ない。
シンはスマホを取り出し、米の炊き方を検索する。普通の鍋でも炊けるようで、これならシンでもできそうだ。
ついに念願のお米が食べられるのだ。
現在愛馬を二頭持っており、元騎獣屋アルバイターだったシン。馬の削蹄くらいなら余裕だ。
グラスゴーとピコはこまめに手入れをしているので、こんなに豪快に削ったことはない。形を整えた後は歩きやすくなったのか、馬も嬉しそうだ。
その後は飼葉を与えながら、ブラッシング開始だ。石のように固い毛玉と埃の塊は鋏やナイフで切り落とす。ここまでガチガチに固まっていると、ブラシが通らない。強引に梳かそうとすると、ごっそりと脱毛されてしまう。力尽くだと皮膚ごと千切れるので、切るか剃るかがいい。
無心で毛並みを整えていると、オッサン店員が戻ってきた。その手には、籾摺り済みらしき米が入った袋を持っている。
「……うちの馬か、そいつ」
「そーですよ。綺麗になってでしょう。大事にしてあげてくださいよ」
ボロ馬がサラブレットのようにぴっかぴかだ。
馬なので当然喋りはしないが『こんなに大事にされたの初めてで嬉しいです』と、はつらつとした表情が語っている。
「……こいつ、こんなに若かったっけ?」
オッサンが別馬並みに変わった姿に、しげしげと馬を眺めながら呟く。
当たり前であるが、シンはすり替えなどしていない。
「酷使しすぎですよ。あと世話をさぼると病気や怪我のもとですから」
あの足の怪我だって、放っておけば命にかかわっていただろう。雑すぎる世話では、感染症などを起こしかねない。
シンはグラスゴーたちを飼うようになってから、馬好きというか、贔屓があるのは自分でも理解している。余計な忠告だと思いつつ、この馬がまた粗雑に扱われるのは避けたかった。
渋るオッサン店員は「でもなぁ」とぶつくさ言っている。
ふと、厩舎を見ると三頭分はある。本来は複数で運搬していたのを、ケチったのだろう。
「馬は高いんだよ」
「ロバでも牛でも荷は曳けますよ」
運ぶ速度と量はその個体による。馬よりペースダウンするかもしれないが、馬より安価な荷物運び用の騎獣はいる。
シンとしてはお得意様への配達に穴をあけるほうが、商売の上であってはならないと思う。信用にかかわる問題だ。
そもそも、馬を飼うのはオッサンのポケットマネーじゃなくてお店のお金のはずだ。
(でも、外野がこれ以上言うのは営業妨害かな)
籾摺りの終わった袋を見ると、玄米ではなく白い米が見えた。ぬかもないとなると、精米済みということだろうか。
「精米までしてくれたんですか?」
「そーいうもんだろ?」
シンが喜びに顔を上げるが、オッサン店員は良く分かっていないらしい。
人が食べる分は、それ用の道具の中にぶち込んで終わりらしい。中がどうなっているかは、メンテナンス業者しか知らず、店員すらどうやってこの状態で出てくるか不明だそうだ。
とりあえず、すぐ食べられる状態に仕上げてもらったのでよしとする。
シンは期待に胸を膨らませ、寮に戻る。あとは米を炊くだけだ。
そこでふと気づく。飯盒、土鍋、圧力釜など、一般的に米を炊く道具がない。普通の鍋はあるが、それだと圧力が足らずでちゃんと炊けるか分からない。炊飯器なんて当然ない。
シンはスマホを取り出し、米の炊き方を検索する。普通の鍋でも炊けるようで、これならシンでもできそうだ。
ついに念願のお米が食べられるのだ。
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